第18夜 戦争-前編-
「おい!あっちに味方がいるぞ!」
気が付けば左手には山、右手に海が見えるそんな場所に立っていた。
出で立ちはみすぼらしい軍服。手にはカービン銃を抱えている。
周囲、とりわけすぐ目につくところには人影はない。
しかし、目の前にある小さな拝み勾配の先からは人々の怒声や銃声、何かがひっきりなしに爆発する音が聞こえている。
戦争映画さながらの世界観だな、と頭の片隅で考えるが、夢の中にいるとは言えまさに戦闘の真っただ中にいる。
「よし行くぞ!着いて来い!」
仲間と思わしき男が一人いる。
男は、拝み勾配の頂上までゆっくりとだが着実に歩みを進めていく。
そこは頂上と呼ぶ程ではないが、てっぺんからこっちにいる分には向こう側が見えない程度には角度が付いていた。
男の後を着いて行き、頂上付近にある岩陰に身をひそめ向こう側の様子を窺う。
地面はアスファルトで舗装されており、坂を下って行った先は港湾のような形状をしている。
左手には倉庫・・・と呼ぶには少々貧相な作りをしている建物がいくつかならんでおり、右手にも左手ほどでは無いが同様の建物が点在していた。
小高い丘のような場所に居るのか、右手の建物の裏手は急斜面であり、海には小さなボートのような物がいくつも見える。
そしてそこから上がってきている迷彩服に身を包んだ一団は、こちらに向けて容赦のない発砲を繰り返していた。
左手の倉庫の先には舗装されてはいないが、港湾に伸びる道よりは遥かに広い別の道が伸びている。
そしてその方角には自分たちと同じ服装をした一団が、迷彩服の一団へ銃を撃ちつつ、少しずつ少しずつ道の先へ向かっている。
突然の不意な来客に、隊としての統率もままならないまま後退している、そんな風景だ。
迷彩服の一団からの攻撃は止む間がない。
しかし、人的な距離はまだ数百メートルはありそうだ。
自分が粗末な軍服を着ているという事は、銃撃の合間を縫って左手の仲間と思しき一団に合流せねばなるまい。
迫撃砲と言うのだろうか。
フォンっと言う若干間の抜けた音が遠くで聞こえる。
その気楽な音からは想像できない惨劇が数秒後に訪れる。
恐らくはほんの数分前から始まった出来事であるはずなのに、その数秒間の繰り返しは既に幾度も繰り返されていたようだ。
腕を無くした者、頭が無い物、足が無い者。
体に穿った穴から白い煙を出してもがいている者。
既に息絶えている者も多かったが、まだ息がある者にとっては安らかとは言い難い死が訪れるまで、まさに地獄のような時間であろう。
一瞬の銃撃が止んだ瞬間に、物陰から目の前の倉庫まで必死に走る。
建物に着くか着かないか位のタイミングで銃撃が再開し、耳元でヒュンと言う音が聞こえる。
ふと視界の端に動く物が見え、視線を向ける。
そこには、必死に体を丸め飛び出してしまったハラワタを自分の体に集めている仲間がいる。
声を掛けるも反応はない。顔を見るとその眼は虚ろであり、その動作にも意味があるようには思えなかった。
建物の山側、海からの一団には死角になっている方を抜け、次の建物までたどり着く。
この調子であと3棟抜ければ仲間のいる場所にたどり着けそうだ。
しかし、迷彩服の一団の動きもとても素早い。
丘の下からの無闇やたらな発砲だと思っていたが、段々と人影もはっきりしてきており、しっかりと仲間が居る方角へ狙いを定めている姿も捉える事が出来た。
こちらへの銃撃が無いうちに、次の棟まで走り抜ける。
続けて、死角になる山側を抜けようとするも、建物のすぐ後ろには山が迫っている。
上って逃げれば安全かもしれないが、ちょっとやそっとで登れるような角度ではない。
それならば、一瞬建物の海側へ回り込み、物陰に身を潜めつつ移動した方がリスクは少ないように思えた。
先に立つ男が振り返りこちらの顔を見る。
自分もその視線を見て声を出さずにうなずく。
お互いが一瞬のうちにすべてを理解し、建物の海側へ向かって走る。
舗装されたアスファルトを軍靴が捉えた時、斜面から迷彩服を着た男が数名見えた。
なにやら叫ぶような声が聞こえるがその言葉を理解する事は出来ない。
しかしながら、耳に届いた声の大きさから、至近距離である事は解った。
程なく、発砲音が聞こえる。
しかし、狙いが定まる前に建物の入口と建物の入口をふさぐように立ててある風除けのような壁の間に滑り込んだ。
全身から汗が噴出している。
目の前を見れば、先に立つ男は真っ赤に目を充血させぜぇぜぇと肩で息をしてながらこちらを見ていた。




