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Day Dream  作者: ユ・サド・クアザ
30/52

第17夜 再会-後半-

 30分の距離をのんびりと45分かけて目的地へたどり着く。

 汗ばむという状態を通り越し、汗でびちゃびちゃになったシャツが肌にまとわりついてとても気持ちが悪い。

 全員がタオルと着替えを持ってきていたが、口うるさい程に「着替えを持って行け」と言ってくれた母親には感謝しかない。


 5分前までは人っ子一人いなかったのに、駐屯地が近づくにつれどんどんと人が増えていた。

 到着する頃には自転車を降りて歩かねばならぬ程で、ごった返すという表現がぴったりな様相だ。

 駐輪場へ到着すると早速蕪木がきょろきょろと浴衣姿や薄着の女性を目で追っている。

 学校以外の場所で同年代の女子とすれ違う事もままならない片田舎では、蕪木のこの行動も納得できなくはないが、少々みっともない気もして自分は真似できなかった。


 「いいか、駐屯地についたらな、入口で学校名と名前を名乗ってまず営舎にいけ。入口にお化け屋敷の模擬店があるから、なに、行けば解る。」

 まつりへ行く事を三浦に伝えた際に言われた言葉を頼りに、まずは先程通り過ぎてきた入口ゲートで営舎の場所を聞こうと立っていた自衛官に声を掛ける。

 通う高校の何倍も大きな敷地の中に、目当ての建物がどこにあるのかさっぱり見当もつかない。

 

 「営舎・・・営舎か。いや、一口に営舎と言ってもたくさんあるからなぁ・・・」

 あまりの人の多さに辟易してますと言う表情をしつつ丁寧に答えてくれた自衛官も、漠然と営舎はどこですか?との問いに答えに窮していた。

 「あ、あの!お化け屋敷があるところへ行きたいんですが」

 営舎と呼ばれるところがたくさんあるとは思わなかった自分は、改めて質問をし直した。すると、その出で立ちには似つかわしくない笑顔で

 「あー!それなら、その角を曲がったところにあるから!行けば解るよ。今年も気合が入ってるから楽しんできてくれな!」 

 日焼けした肌に目立つ白い歯を見せながらさわやかに答えてくれた。


 自衛隊反対!

 そう書かれた政治家のポスターを街中でよく見かける。

 高校生である自分には、なぜ反対する人が居るのかその理由は解らない。

 正確には、そこに深く思いをはせた事が無いのだから、解りようもないのだが。

 少なくとも、今こうして目の前に居る隊員は、我々と同じ普通の人間だ。


 「ありがとうございます!暑いですけど頑張って下さい!」

 一礼し仲間が待っている駐輪場へ戻ると、先ほどまで目を輝かせていた蕪木がどんよりとうなだれている。

 対照的にその周囲に居る人間はニヤニヤと笑っており、サトスにいたっては腹を抱えて笑っていた。

 

 「・・・なになに?どうしたの?」

 「えー、いや、蕪木くんがかわいい子がいるから声かけてくる!って言って声かけたら」

 「『え?なに!?え??え、イヤ、変態!?』って言われて、あっという間に振られて」

 自分の問いに、サトスと女性の声色を真似た貝塚が順番に答える。


 続けてサトスがゲラゲラ笑いながら続け

 「どんな顔した子に声かけるのかって興味津々に見てたら」

 「「「・・・ゴリラ!」」」

 一瞬間を置いて、その場に居た蕪木以外の面々が声を揃えて笑う。

 

 「あ、ほらほら、國井くんあそこのピンクの浴衣の子」

 青柳が指をさす方向には、確かに綺麗とは表現しにくい容姿の子が男性と手をつないで歩いている。

 「・・・なんだよ、男連れだったのかよ」

 落胆に拍車がかかり、消え入るような声で蕪木が呟いた。


 自分達の顔も大概のような気もするし、人は見た目で判断するものではない。

 「あはは・・・まぁ、でもほら、あの子には恋人がいるみたいだから、ウチらの負けじゃね?」

 青柳は「僕たちはゴリラにも負けたんだね」と、面白おかしく蕪木に追い打ちをかける。

 勝ち負けで表現するような事でもないが、青春の1ページもこうした些細な出来事で埋まっていくのも悪くはない。

 

 「お前ら・・・笑いすぎだよぉ・・・」

 ひきつった顔をした蕪木の背中を叩きつつ、案内された建物の方へ向かう。

 角を曲がると、営舎の入口の横には明らかに急造の黒いビニールハウスが立っている。

 脇には「駐屯地名物!本気で怖いお化け屋敷」と手製の看板が掲げてあった。


 「・・・で。これからどうするんだっけ?」

 蕪木ほどではないが、道行く女性陣を目で追いつつ生井が自分に聞く。

 そこへ行けば解る、と三浦は言っていたが・・・


 「おー!お前ら!来たか!」

 聞き慣れたくないがすっかり聞き慣れてしまってしまった声が耳に入る。

 声の方へ目を向けるとそこには三浦が立っていた。


 挨拶もそこそこに、ちょっと待ってろと言われその場でしばらく待つ。

 自分は、殺伐とした建物が立ち並ぶこの場所がお祭り騒ぎなのは、なんとも非日常的だなと思いつつ辺りを見回す。

 程なく、建物から手にジュースの束を抱えた一人の男性を連れて戻ってきた。

 

 「あー、三浦くんの柔道仲間の渡辺だ、よろしくな。今日は来てくれてありがとう。」

 手元のパンフレットに視線を落としていた自分は、どこかで聞いたような気がした声を聞き、ぎょっとした。

 「渡辺は2佐って言ってな、軍隊で言えば中佐みたいなもんだ!どうだすごいだろう!」

 相も変わらず豪快な口調で言ってのけると、いやいや自衛隊と軍隊は違うからと苦笑いを浮かべつつ渡辺は答える。

 

 自分の耳に、そのやり取りはもう届いていない。

 幾度となく、夢の中で会っている人物が今目の前にいる。

 これは偶然なのか。

 当然すぐに答えなど出るわけもないが、一瞬の間に様々な考えが頭の中を逡巡していった。

 

 抱えたジュースを一人一人に丁寧に渡していく渡辺。

 最後に自分に手渡した時に目が会い、驚いた顔をする。

 「あ・・・君は・・・」

 40歳前後の男性と男子高校である自分が、ペットボトルを受け渡しつつ視線を合わせて固まっている。


 「お、どうしたんだ?渡辺、國井。二人とも知り合いか?・・・あ!國井お前やっぱり柔道やってただろう!」

 不自然に固まるこの奇妙な組み合わせの二人を見て三浦が茶々を入れる。


 「あーいやいや、甥っ子に似ていたもんでつい、ね。ささ、君たち中を案内しよう。」

 なんだ違うのか、と残念がる三浦を横目に、渡辺は6名の高校生を中に招き入れる。

 

 相手も自分に気が付いたのにごまかした、その行動の真意を測りかねぬまま自分も後ろから着いて行く。

 建物の中はひんやりと涼しく、まとわりついた汗がすっと冷えていくのが解った。


 しかし、この後の一言で疑念が確信に変わり、自分は背筋にさらに冷たい物を感じる。


 後ろ手に入口のドアを丁寧に閉めると、渡辺は自分にだけ聞こえるトーンでこう言った。

 「さっきの反応を見ると、君も私の事が解るんだろう?後で少しゆっくり話をしようじゃないか。」

 ぎょっとした表情のまま返答をあぐねていると

 「なぁに、選択肢は二つしかないじゃないか。『はい』か『イエス』か、だ。」

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