第16夜 空虚-前半-
・・・無音だ。
自分の吐息はおろか、鼓動音まで聞こえてくるのではないかと言う位、あまりにも無音だ。
瞼を透過して外の明るさが目に入る。
今日は一体どんな世界に誘われたのだろう。
瞼を開ければ絶望感に包まれることもしばしばあるが、最近では、こともあろうに毎夜どのような世界観に放り込まれるのかどこか楽しみにしている自分がいる。
ゆっくりと瞼を開く。
横たわった姿勢であろうことはわかったが、瞼を開いてもそこに映るものは何もない。
空一面真っ白であった。
「??」
何も見えない事に疑問を感じた自分はすぐさま体を起こす。
前を見る、後ろを見る。
もう一度視線を前に戻し、自分の体を中心にしてぐるっと一周視線をめぐらせた。
「なんにも・・・ないな。」
呟いた程度の自分の声が驚くほど大きく感じる。
見渡す限りの白。空と地面の境目も解らないくらいに白い。
地面は程よく固い。しかし、アスファルトでもなければプラスチックのようでもない。
一体なにで作られているのかは解らなかった。
自分以外に誰もいない空間。
人が居ないどころか、何もない。
あたりを見回してからそれが理解できるまでに長い時間を要さなかったが、孤独である事への不安が少しずつ大きくなっていく。
その場にいても埒があかないので、当てもなく歩きはじめる。
もっとも、歩いたからと言って事態が打開するとも思えないのだが、それでもじっとしているのは耐えられそうになかった。
歩く。歩く。
ただひたすらに。
しかし、どれだけ長い時間をかけて歩いても、見回す風景に変化があるわけでもなかった。
空は相変わらず白い。
建物の中のような感じもするが、目に見えているものが天井と言う感じもしない。
風もなく、気温も丁度良い。
歩けば汗ばむのかと思いきや、自分の体の体温にも然したる変化も無かった。
ぼやっと色々な事を考えながら歩いてみる。
どれだけ歩いても疲労を感じないのは、夢の中だからなのか。
・・・いや、今までは動けば動いた分だけ疲労が現れたし、喉も乾いていた。
歩けども歩けども、疲労を感じず喉の渇きもないのは、少々不思議な感じもする。
時折小走りもしてみるが、見える風景に変化がないのですぐにやめてしまった。
今歩いている事ですら意味があるのかどうか解らないのに、走る事に意味があるとは思えなかったからだ。
一体どれくらい歩いたのだろう。時間を指し示す物が何もない。
何時間も歩いたような気もするし、まだ数分のような気もする。
何かを目安にしようと思っても、景色に変化がないのだ。様々な感覚が狂い始めているのが自覚できた。
歩きながらふと思い出した。
「これは・・・どうやったら死ねるんだ?」
精神となんとかの部屋ってのはどういう構造になってるんでしょうね。




