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Day Dream  作者: ユ・サド・クアザ
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第13夜 対決-前編-

 「なぁ、5組の直井っているじゃん?」

 唐突に、珍しく昼食を自分のクラスで摂っていた自分に蕪木が話しかけてきた。

 おう、と返事をすると珍しく嫌悪感をあらわにしたトーンで続ける。

 「4組の須田さんと付き合ってるらしいんだよなぁ・・・まぁ噂なんだけどさ、くそっ」


 ここ数日、昼休みには須田たちのグループと共に食事を摂っていた自分は、毎日直井に睨み続けられた理由を理解した。

 3人の女子に囲まれ、少々わちゃわちゃとした雰囲気であったが、数日も続けば4組の面々は気にもかけなくなっていた。

 そもそも、昼食を誰が誰と食べようと、そんなのは当人同士の勝手だ。

 

 「へぇそうなんだ。まぁ蕪木、お前もそうガッカリしないで大丈夫だと思うぞ。」

 蕪木に4組に通い続ける事情を打ち明けたら、蕪木がやたらに羨ましいから混ぜてくれと懇願してきた。それは何故かと問い質せば、自分が倉持に抱いている感情を須田に対して抱いていたからと言う事だった。

 ただ、蕪木の場合はそれが中学1年から続いている感情と言うだけあって少々根が深い。 


 「え、そうなの!?どうして?」

 バンドに協力すると言う事で話が決着すると、女性陣との昼休みの話題は様々なものに変化していった。年頃である事を考えれば、恋愛が話題の中心になる事も自然な事であり、その会話の中で須田には大学生の彼氏がいるという情報を掴んでいた。


 「や、まぁ、須田ちゃんが直井と付き合うってなんか考えにくいなって思ってさ。」

 適当にごまかしたのは、理由がある。

 学内で男子連中からどのような視線で見られているかを良く知っている須田は、基本的に彼氏の存在を明かしていない。

 明かしてしまえばちやほやされている現状が変化するのが解っているからなのか、茶目っ気たっぷりの顔で「ほら、男子の夢壊すのは良くないでしょ?だから内緒ね」としたたかに言ってのけたその姿はまるで小悪魔の様だった。

 

 それを証明するかのように、放課後は様々な場所で須田を見かける。

 所属している文芸部はもちろんだが、音楽室から外を見ればグラウンドや体育館への渡り廊下にその姿を確認出来る事がしばしばあった。

 文芸部の活動場所となっている図書室以外では、いつも上級生の男子が近くにいた。

 ブラスバンド部で日々垣間見えている女性の怖さを知っており、さらに倉持以外の女子に興味がない自分は、須田に心を奪われなくてよかったと心底ホッとしているものだった。


 「そいや、今日は4組いかないんだね。」

 少し嬉しそうに聞いてくる蕪木の顔をみると、須田をとりまく環境に一々嫉妬していたら疲れないものかと聞きたくなるが、ぐっとこらえる。

 「んーまぁたまにはね。」

 強がってうそぶいたが、実は自分の置かれている環境を良く知っている須田から、食事をするのは週に2回くらいで良いだろうと提案されたからであった。

 倉持との時間がなくなるのはかなり残念であったが、毎日直井に睨まれるのも気分が悪かったのでその提案にのったのだ。


 学年問わず学校中の男子にファンが多い須田の昼食時間を独占しているとあって、界隈から不興を買っていると知ったのは随分と後になってからの事だ。

 自分は倉持との時間が増えればそれで良いと周囲の視線を気にしていなかったのが、優越感に浸っているように見えて、その一因となっていたらしかった。

 オシャレにも気を使わず不細工代表のような顔をした自分が須田と男女関係になる事など万に一つもない事は少し考えれば解るだろうに、恋心と言うものは人の冷静な思考回路を麻痺させる効果もあるのかもしれない。

 

 週に2度の幸せな昼食タイムの打ち合わせの中で、そろそろバンドの練習を始めようかと言う具体的な話が決まった頃。

 打ち合わせが足りなければ放課後の図書室に顔を出せば良いとお互いに考えていたわけだが、部活動をおろそかにするわけにもいかずどうしても時間が足りなくなってしまい、とりあえずの策として一週間に限り毎日昼食を共にすると決まった。


 自分の欲を満たすのに精一杯で周囲の不興を買っている事など露程も知らない自分は、蕪木に睨まれながらも4組への毎日通いを再開した。

 倉持に会いに行く事が大前提なのだが、それを別にしても色々と検討する事も多く本題に絞った会話ばかり続いている。

 ただ、バンド練習の為の打ち合わせとあって決して暗い雰囲気ではない。それ故、周囲には相変わらず和気藹々とした風景に映っていたのかもしれない。


 週の頭、月曜日から再開したランチミーティングだが、再開早々直井が教室から中を覗き込み相も変わらないキツい視線を投げかけてきた。

 気が付けば4組で昼食を摂る度に毎回睨まれている訳だが、風の噂によれば直井は相当須田を気に入っているらしい。蕪木が妙な心配をしているのも納得だ。

 須田からすれば仲良くしている男子のうちの一人であるだけの話なのだろうが、確かにこの二人が話している姿を見かける事も多いのも事実だ。


 火曜、水曜とそれは続き、木曜日にいよいよ燻っていた火種が炎として燃え上がる。

 たまたま通りがかった野球部の先輩が、教室の中を覗き込んで妙な雰囲気で睨みつけている直井に声を掛けた。

 「おう、直井、怖い顔して何してるんだ。」

 先輩こんちゃっす!と野球部らしい元気な挨拶を交わしたのが聞こえ、こちらにも聞こえるような大声で続ける。

 「アイツ、中学一緒だったんスけど、いつもオンナと一緒に居て気に入らないんすよ、マジむかつくヤツなんです。」

 

 オンナと言う単語とその物言いから、先輩は直井の彼女にちょっかいを出している人間がいるという認識をしたようだ。

 「おまえ、そんなんで良いのか。自分のオンナが取られそうならキッチリしめてこい!わかったな!」

 気が付けば彼氏彼女の関係にされている須田もさすがにキョトンとしている。さぞかし良い迷惑だろう。

 

 須田の顔が普段見ない表情で固まっているのが少し面白く、クスクスと笑っていたら突然背中を叩かれた。

 「おい、一年、君は何部だ?」 

 気が付けば教室内に入ってきていた直井と話していた先輩が問うてくるので、吹奏楽部ですと素直に伝える。

 すると、途端にその先輩の表情が変わりトーンを低めて言葉を続けてきた

 「文化部が舐めた真似するんじゃねぇよ、放課後キッチリ話つけようや。」


 これは盛大な勘違いから始まった、完全な言いがかりである。

 いやいやいや、違うんですとその場に居た全員が否定しても聞く耳を持たない。

 直井に至っては、コイツのこういう所がむかつくんスよ、と要らぬ追撃までしている有り様だ。


 先輩が引き揚げると、珍しく怒りの感情を覗かせつつ須田が言う。

 「放課後行く必要なんかないよ、直井には私から話しておくから。」

 無駄なトラブルには巻き込まれたくない自分は、内心ホッとしていた。

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