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Day Dream  作者: ユ・サド・クアザ
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第11夜 因縁-前編-

 6月。

 梅雨の時期と言うのに、関東平野の中央に位置するこの土地はあまり長雨にならない。

 作物を育てている人間が多く住む土地にとっては恵みの雨は重要だろう。 

 10分の距離とは言え、徒歩で通学しているが故に雨があまり好きではない自分にとっては好都合だが。


 祝日が1日もないこの月は、ゴールデンウィークと夏休みの中間と言う事もあり、どことなく長く感じるものだ。

 登校・授業・部活動と、入学当初は新鮮で目まぐるしく、毎日が楽しかった高校生活のスケジュールも慣れるにつれマンネリ化していった。

 

 日々夢の中で死を経験している自分にとって、昨日と同じとは言わないまでも、似たような日々が続く事はどこか安心感がある。

 そう捉えるとマンネリと言うのも悪い言葉ではないな、などと考えながら午後の最後の授業を受けていた。


 「よーし、今日はここまでだ。」

 チャイムが鳴り、最後の授業が終わる。

 残すは意味があるのかないのか解らない程度のホームルームの時間があるだけだ。

 

 「生井ちゃん、俺放課後ちょっと図書室寄って行くから、部活遅れるね。」

 部活動仲間も増え、お互いを『ちゃん』付けで呼ぶ事もその対象も多くなった。

  「OK、んじゃのぐっちゃんと先に部活行ってるね。」

 中学の時の部活仲間だった野口も入部し、周囲からは『のぐっちゃん』と呼ばれている。


 いつもは目が覚めたら夢の中の出来事を思い出すことは少ないが、下半身をすべて失うという衝撃的なラストだった為か、夢の中で見た戦闘機について調べてみようと思った事までしっかり覚えていたのだ。

 

 ホームルームも終わり、図書室へと向かう。

 図書室は普段授業を受けている北館から渡り廊下をわたり、南館の3F東側にある。

 部活動で使っている音楽室は同じ南館の3F西側だ。

 南館まで3人で共に歩き、先に部室に向かう生井と野口を見送りながら、自分は図書室へと入室する。


 「失礼します・・・」

 あまりにも静かな空間に思わず声を潜めてしまう。

 入口のカウンターにいる司書教諭が顔をあげるが、小さな声でこんにちはと言われただけで入室を促すでも咎めるでもなかった。

 教科書以外の活字の本を読む習慣のない自分にとって、図書室と言う場所がなんとも場違いなように感じられた。


 音楽室と似たような広さだと思っていたが、立ち並ぶ本棚のせいかとても広く感じる。

 本の森とまでは言わないが、本の林程度には様々なジャンルの書籍が理路整然と収納されていた。

 学校の図書室に戦闘機に関する書籍があるのかどうか疑問ではあったが、端から順に見ていく。

 こうして見ていくと漫画もあり雑誌もあり、中にはアイドル誌やファッション誌、果てにはオカルトや疑似科学が中心の月刊誌まで並んでいる。

 

 奥から3番目の棚に差し掛かる。

 宇宙に関連するものが並び、次いで宇宙開発やスペースシャトルに関連するものと続いていく。

 まるで、宇宙から地上までグラデーションを描いていくかのようなジャンル偏移で、飛行機に関連する書籍が並んでいる一角が出現した。

 その先には自動車やバイク、鉄道から船舶とここまでと同様に順序よく内容が変わっているようだ。


 歩みを止め、飛行機の棚を順に追っていく。

 飛行機の歴史やドローンに関する書籍がいくつも並んでいる中で、戦闘機のコーナーとも言える空間がしっかりと確保されていた。

 その中の一冊を手に取る。

 表紙には、青い空をバックに戦闘機が1機写っており『歴戦の勇者 世界の名機 戦闘機-Vol.3』とオレンジ色の太いゴシック体で書かれている。

 パラパラとめくっていくと、そこには1980年代に生産された戦闘機が順に紹介されていた。

 

 雑誌を手に窓際の席に座る。

 建物の南側に広がる校庭が一望できるのは音楽室からの風景とあまり変わりはないが、雑誌とは言え本を片手にしているとなんだか優雅な気持ちになるから不思議だ。

 記憶を頼りに夢の中の戦闘機と一致するものを探していく。

 どんどんとページをめくっていくと、アメリカ製造の戦闘機が終わり、旧ソ連が製造していた戦闘機と内容が変化していった。

 とりわけ目につく形、戦闘機の先の部分をぶった切ってあとから三角錐を付けましたと言うような戦闘機の写真を眺めていたら、とんとん、と肩をつつかれた。


 これだけ静かな図書室にいて、誰かが近づいてくるのに気が付かないとは。

 そんなに集中していた自覚も無かったので純粋に驚いてしまったが、つついた主の顔を見た瞬間驚きとは違う理由から心拍数があがった。


 「國井くん、なにしてるの?」

 振り返るとそこには倉持が居る。

 倉持が相も変わらない小さな声を更に小さくした、図書室向けボリュームで問いかけてきた。

 「あ・・・いや、別に、ちょっと気になる本があったから」

 不意に訪れた幸運に、トキメキ過ぎて何を話しているのか自分でもわからない。


 順調な学校生活を送る中、クラスは異なれど同じ部活動に励む倉持を相手に恋に落ちた自分。

 部活内で受け持つパートが異なるが故にあいさつ程度の会話がせいぜいであったが、小さな恋心を育んでいくにはそれでも十分だった。

 ゆっくり話をするきっかけでもあれば良いのに、と考えていた自分にとってはこれ以上ないチャンスである。


 チャンスの神様には前髪しかないのはあまりにも有名な話だ。

 嬉しさのあまり声が大きくならないように細心の注意を払いながら、なんとか会話が続くように言葉をひねり出す。

 数分続いた会話は、傍から見れば小さい声で盛り上がっていたに違いないと思えるほど楽しいものだった。


 聞けば、漫画を描くのが好きな倉持は、中学時代の友人に懇願され文芸部と吹奏楽部を兼部しているそうだ。

 部活動に参加する理由の半分が倉持の存在と言っても良い程の自分は、彼女が部活動に出てこない日は当然ガッカリするわけだがその理由が判明しなんだか嬉しかった。

 

 「ちょっと、何静かに盛り上がってるの?」

 唐突に一人の女子生徒が会話に割り込んできた。

 見るからに真面目そうな倉持とは異なり、美脚とも言える長い足がバッチリと観察できる程度の長さのスカートと若干着崩したブレザーがその端正な顔立ちによく似合う。

 「あ、この人吹奏楽部の國井くん、こっちは同じ中学の須田さんね」

 はじめまして、とにこやかに挨拶を交わしたつもりだったが、楽しい時間が不意に中断されたのが顔にでていたのか「あら、お邪魔したみたいでごめんなさいね」と、ニヤニヤした顔で言われてしまった。


 「あ、いやいや、そろそろ部活に向かおうかと思ってたから。」

 別に後ろめたい訳ではないが、気持ちを見透かされたようで妙に恥ずかしい。

 本を元の位置に戻し「それじゃ、また」と逃げるように図書室を後にした。

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