第10夜 空中-前半-
耳元でなにかが聞こえる。
ノイズが混じる、ラジオの音声のような声が少しずつ大きく聞こえるようになる。
「・・・おい!」
はっと我に返った瞬間に聞こえてきた声にはどこか聞き覚えがあった。
「おい!大丈夫か?大丈夫なら返事しろ」
自分は、椅子に腰かけヘルメットのような物をかぶっているようだ。
ふと目をやるとツナギのようなものを身にまとっているのが解る。
大丈夫です、と覚めきらない意識で答える。
「お!大丈夫か。しかし、そのままだと危ないから、少し上昇しろ。」
続けて聞こえてきたセリフに答える前に、あまり可動域がない頭を上下左右に振りつつ自分が今置かれている状況の把握に努めた。
半円型のドームのようなガラスの中に腰かけている。
身動きが取れないくらいに狭く、窮屈な空間だ。心地良さを考慮しないのであれば全身にフィットすると言っても差支えはないかもしれない。
目の前には横長のモニターがあり、なにやら地図が大きく表示されている。
太ももの間に生えているスティック型のコントローラーを右手で握っていた。
「上昇しろって」
再度のセリフに絞り出すように返事をすると、そのコントローラーを少し手前に引いてみる。
その瞬間、ふわっと体が浮き上がったような感覚と共に、ディスプレイに表示されているft数が上昇する。
「よし、そのままで良い、いい感じだ。」
どうやら、今夜の自分はどうやら戦闘機に乗っているらしい。
飛行機に乗った事がない自分は、飛行機に乗るとこういう感覚なのかと、何故かその新鮮さを楽しむ余裕があった。
そのまま何事もなく数分が過ぎる。
夢の中とは言え、横から照りつける太陽がまぶしい。
「おい、ぼちぼち目が覚めたか?」
聞き覚えがあると思ったが、つい先日聞いた声にそっくりだという事に気が付く。
そう気が付いた瞬間に全身に悪寒が走った。
「そ・・・曹長どの・・・ですか?」
恐る恐るレシーバーに向かって問いかけてみる。
「おーおー覚えていてくれたか。しかしな、今日は曹長じゃないぞ、少佐だ少佐!がっはっは」
何が楽しいのか大声で笑う声が耳障りなノイズと共に聞こえた。
「ついでに言うとな、お前も2等兵ではなく中尉だ。出世したな。」
こんな事は初めてだ。
死ぬ事で決着がつく夢を、それと認識してから様々な夢を見てきた。
しかし、同じ登場人物がまた出てくるなんて言う事は無かった。
胸の中は何とも言えない気持ちの悪さが充満している。
なんと答えれば良いか、何か質問をしてみるべきなのか、そんな事をアレコレ考えていると続けて音声が入ってくる。
「お前さんはあまり覚えてないようだが、何度も顔を合わせているんだぞ?」
そう言われて、ここ最近夢で抱いた疑問に答えが見つかる。
夢の中では顔馴染みだという事か。
まぁ夢と言う物は結局個人の脳みその中で作られているものであるから、そういう事もあるのかもしれない。
気持ち悪さはぬぐえないものの、場合によっては魔法で魔物をやっつける夢を見る事だってあるのだ。
考えようによっては何があったって何ら不思議ではない。
しかし、そうなると途端に現実世界で聞いた既視感を覚えたセリフの事が気になり始めた。
あれは単なる偶然なのだろうか。それとも、テレビか何かで聞いたセリフが記憶の片隅にでもあったのかもしれない。
「おい、どうもゆっくり話をさせてはくれないようだぞ。」
レシーバーからの声で、脳内に向けられていた意識が夢の中の世界へ引き戻される。
モニターの中で3つ赤い点が点滅し、それが飛行機をかたどったマークに少しずつ近づいてきているようだった。
「2対3か、まぁこっちは偵察が目的だったからな。・・・えー本部、本部、コチラCC3」
曹長改め少佐がぼやくようにそう言いながら本部と呼ばれるところへ報告の無線を入れている。
「OK、CC3、交戦を許可する。幸運を。」
交信の内容はどれも理解できるような気もするし、全く意味が解らない気もする。
しかし、最後の一文だけはしっかり理解できた。
「曹長、戦えばいいんですね?」
「だから、今は少佐だって。そうだ、戦うんだ。」
覚悟を決めた自分の問いにそう答えると、大声で笑いながら続ける。
「まぁ途中でイヤになったら、わざと墜落させてしまえ。あっという間だぞ。」




