第8夜 遭遇-前半-
・・・おい!
・・・起きろ!
・・・誰か!水かけてやれ!
遠くから男たちが怒鳴る声が聞こえる。
意識がハッキリせず、何が起きているのか解らない。
自分のまわりを複数の足音がバタバタと行き交っているのが解る。
バシャっ!
突然冷たい物が顔にかけられ、目を開いた。
「おい!大丈夫か?おきろ!」
目を開けるとそこには迷彩服に身を包んだヒゲ面の男とその奥に広がる抜けるような青空が見えた。
ひたすらに声を掛けられて、段々と意識が戻ってくる。
水をかけられたのか、上半身がびちゃびちゃだ。
体を起き上がらせ周囲を見回すと、そこにはヒゲ面の男と同じ服装をした屈強そうに見える男たちが10名程いる。
意識がハッキリしたところで、何が起きているのかも、今がどのような状況かも、よく解らなかった。
芝生の上に呆然と座る自分を見て、ヒゲ面の男が話しかけてくる。
「おいおい!訓練で意識飛ばすヤツがあるか!まったくお前ってヤツは。こんな所で意地張ってどうするんだ!」
そうか、自分は気絶していたのか。
がっはっはーと解りやすい顔と大きな声で笑う。
周囲の男たちもそれに続いて笑いつつも、どこかホッとしたような表情が垣間見えた。
「まだイケるか?大丈夫なら再開しよう!」
こちらの返事を待つこともなく、周囲の男たちは芝生の一角に円を描くように並ぶ。
自分もそれに倣い、恐らくは自分のスペースであろう場所に立つ。
つぎ!と言う言葉と共に、輪の中から2名の男が中に入る。
よくよく見回すと屈強そうに見えた迷彩服の男たちは、全員もれなく筋肉モリモリで紛れもなく強そうだった。
芝生の周囲に目を向ける。
砂漠と言うほどでは無いが色の配分からすると、植物が極端に少ないのが解る。
あちゃー。また訓練か。
最近、やたらと似たようなシチュエーションの夢を見る。
体を鍛えてみよう、どうしたら鍛えられるだろう、なんてことを考えているからこんな夢を見るんだ。
今日も痛い思いをするのだろう。
そして、最後はやはり死ぬのだ。
死ななければ目が覚めない以上、死ぬ事が最重要課題でもあるわけだが、今日のような夢の場合、自然と死ねるような事はなかなか起こり得ない。
となると、いかにして死ぬかが問題でもある。
服装や周囲の様子から、軍隊内で訓練をしているのはおおよそ間違いない。
夢ならではの理不尽さで不思議と言葉が通じているが、全員日本人で無い事も確定だろう。
迷彩服にU.S.ARMYの文字が見えるあたり、アメリカの軍隊なのかもしれない。
現実世界でもこれくらい言葉が通じれば楽しいかもと思いつつ、身近にいる外国人は英語の授業に派遣されてくるアシスタントティーチャー位しか居ない事に気付き、心の中で小さくツッコミを入れる。
ふと中央に目を向ける。
輪の中央にいる2名の男たちは、両者ともボクシングスタイルで対峙していた。
筋骨隆々な二人からはパンチやキックも繰り出されるが、本気で打ち倒す打撃は少ない。
もしかしたら、相手を制圧する為の捕縛術のような訓練なのかもしれない。
いずれにせよ、こんな男たちを相手にまともにやりあえるわけもない。
どうしたものか・・・と組んでいた腕を解き、腰に手を当てる。
その時、ちょっとした違和感があった。
その違和感の正体に気付き、自分の左腕を右腕で撫でてみる。
次いで、首に手を当て、太もももさすってみる。
なんという事だろう。
周りの男たち程ではないが、現実世界では考えられないくらいの体つきをしているではないか。
どうもさっきから体が重いような気はしていたが、筋肉を身にまとっているからだったのか。
一人静かに驚きつつ目の前を見ていると、男の一人が鮮やかに組み伏せられた。
染めたかのような鮮やかな金髪をキレイに刈り込んでいる男が、組み伏せた相手のスキンヘッドの頭をペンペンとはたく。
「今回は俺の勝ちだな。」
組み伏せられた男が輪に戻ると、入れ替わるように別の男が輪に入ってきた。
「え゛!曹長どのがお相手でありますか!?」
本気とも冗談とも取れぬ若干おどけた口調で、金髪男が訪ねる。
「なんだ、たまにはいいだろう。ヒヨッコどもも少しは強くなっている事だろうし。」
そう言うと、曹長と呼ばれた男は迷彩服の袖をまくりはじめる。
周囲の人間と比較すると、おおよそ小柄なその男は日本人のような顔立ちをしていた。
「さぁ、始めようか」
金髪男は先ほどと同様にボクシングスタイルで構える。
対して曹長の方はがっちりとした構えではなく、自然と手をあげた空手のような構えだ。
ゴングなんてものは存在しないが、曹長が構えをとった事がまるでスタートの合図かのように金髪男が動き出す。
ジャブを放つ金髪男。
しかし曹長はそれを避けようともしない。
当たらない距離から放たれた事が解っているのだろう。
続けて繰り出される打撃系の攻撃にも軽やかに身をかわしつつ対処していく。
パチっという軽い音がする。
繰り出していたジャブの一つが曹長に当たったようだ。
しかし、曹長の方は顔色一つ変えることなく目にも止まらない速さで繰り出された手首を掴んだ。
周囲は驚きの表情をしていたが、自分はしっかりとそれを見ていた。
ジャブのタイミングに合わせ曹長は同時に自分の左手を動かしていたんだ。
物凄いスピードに見えたが、ただタイミングを合わせただけだ。
・・・もっとも、簡単そうに見えてとても技術が必要なのだろうが。
金髪男の左手首を自分の左手で掴む曹長。
そのまま相手の動きを殺す事無く、右手を左腕の肘にあてる。
スッと後ろに引いたかのように見えた体は、まるで円を描くように相手の側面へと動いている。
手首から肘までをしっかりと極められ、そのまま体重を乗せられては金髪男はたまらない。
上半身をくの字に折り曲げながら右手で膝をバンバン叩いてタップする。
「あだだだだだだ!まいっ・・・まいった!まいりました!」




