プロローグ
夜が明ける。
いつもと同じ朝が来る。
遮光カーテンから漏れる日の光とスズメたちが気忙しく鳴く声が、少しずつ脳内に浸透していきそれと引き換えにゆっくりと目が覚めていく。
目を覚まして一番最初に訪れる感情は、激しい絶望感。
それは今日も変わらない。
目覚まし時計に表示されているデジタルの日付が昨日よりも一日進んでいる事だけが唯一の救いともいえる。
清々しくない朝。
幾度となく繰り返してきた朝。
激しい絶望の後に湧き上がる感情は安堵。
今日もこうして生きて目を覚ますことができた。
それが良い事なのか、悪い事なのか、未だに判別がつかない。
しかし、目を覚ましてしまった以上は否が応にも今日一日を過ごさなくてはならない。
全身を蝕むかのようにかいた寝汗を振り解き新しい一日を始める準備をするべくシャワーを浴びる。
朝一番に浴びるこのシャワーは、絶望と安堵が混沌としている脳内を一掃してくれる、まるで砂漠のオアシスのような存在だ。
ボディソープで体を撫でると、一瞬刺すような痛みが走る。
痛みの箇所に目をやるとそこには一筋の傷があった。
左腕の外側についた、鋭利なもので引っ掻いたような切り傷。
一体どこでつけた傷なのか覚め切らない頭で考えてみるが、すぐには思い出せない。
傷は全体的にかさぶたになっており、他の部分より傷が深く回復が遅い部分にボディソープが沁みたようだ。
シャワーを終え自室に戻る。
入学したばかりの高校の制服に袖を通し、慣れない手つきでネクタイを締める。
荷物を取り階下のリビングに降りると既に朝食が用意してあった。
「あんた、昨日もうなされてたけど大丈夫?なんか悩み事でもあるんじゃないの?」
トーストに目玉焼きと言う実にシンプルな朝食の横に、淹れたての紅茶を差し出しながら母親が言う。
毎朝訪れる二つの大きな感情と共に、これもまた変わることのない定番のやり取りだ。
「んー、大丈夫。」
ぶっきらぼうに答えつつ食事を摂る。
忙しそうに片付けをする母親を横目に、紅茶でトーストを胃に流し込む。
胃に収まるか収まらないかの状態で、鞄に弁当を突っ込みながら玄関へ向かう。
「ごちそうさま。いってきます。」
玄関にはお気に入りの白のスニーカーがきちんと揃えておいてある。
これは母親がマメなのではない。各々が家に入るときに靴を揃えているだけで、要は我が家のルール・習慣なのだ。
いつも左側の壁に沿って置いてある靴に足を入れる。
なぜか左側だけ解けている靴紐もいつも通りだ。
しゃがんで靴紐を結ぶ。
たちあがり少し深く息を吐き
「・・・よし。」
こうして、今日も決まった時間に家を出る。
玄関の外は日の光に満ち溢れている。
眩しさに目を細めつつ、開けたドアから一歩足を踏み出す。
さぁ、今日はどんな一日になるのだろう。




