地上人
雲を見上げると一本の梯子が下りてくるところだった。
下りて来たのは白い帽子を被った男だった。
帽子とお揃いの白い仕立ての良さそうなスーツを着ている。
男は地上に足を下ろすと、こちらに気づいて一つおじぎをした。
「こんにちは、地上の人ですか?」
地上の人かどうか聞かれたのは初めてだったから、少し戸惑ったが、私も一応丁寧におじぎを返した。
「はい。地上の人です。」
「はじめまして。」
男は手を差し出した。
おずおずと手を伸ばすと、男は指を指に重ねて、軽く押した。
何をしているのかと思ったが、男の顔は大真面目だった。
「私は空中都市、大気管理局から来ました橋田と申します。」
男は橋田と名乗ると名刺を取り出した。
受け取ると、普通の名刺サイズの紙に 「大気管理局橋田」とだけ書いてあった。
私も慌てて名刺を出した。
「ええと、この地区の役所で勤めております。開発推進課の間宮です。」
そう名乗った途端、橋田は眉をしかめた。
「それは話が早そうだ。ちょうどこちらの役所にうかがおうとしていたのです。」
「といいますと?」
「実は近々地上に下りようかと思っております。そこで、空いている土地の調査に参りました。」
「え?!地上にこれから土地を探すのですか?」
「ええ。実は最近空も騒がしく、大気汚染も著しくなかなか住み心地がよくありません。
もとはといえば地上人が我々の住む空中にまで上がってくるようになったのが原因ですし、汚染された大気の半分は地上人が作っているもののはずです。
その負担を分け合うのは当然ではないでしょうか。」
その時、激しい火花が弧を描きながらも一直線に宇宙に向かって飛んでいった。
「我々の領域ですよ?」
橋田はまた苛々したような口調でそれを見上げながら言った。
「ああ、あれは火星に旅立つロケットですよ。空なんてあっという間に抜けます。」
橋田は眉をひそめた。
「つまり?こちらも土地不足で?」
「まぁそんなところです。
そちらも空は得意分野のようですし、大気圏外に目を向けられては?」
その時、向こうからびしょ濡れの男が一人歩いてきた。
青い帽子も青いスーツもびしょ濡れだ。
男は名刺を取り出した。
「深海都市から参りました。
我が国の領域が近年たびたび侵されている件につきまして、窓口はどちらになるでしょう?」
3人は名刺を見比べると今度は顔を見比べた。
そして深いため息をついた。
「困ったことになりましたね。」
「いや、本当に。」
地面に目を落とした彼らの脳裏にこんな思いがよぎった。
もしかしたら地底人もいるのかもしれないな…と。
完。
拙い作品を読んでくださりありがとうございました。




