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雑学百夜

雑学百夜 「ちやほや」という言葉の風流な語源

作者: taka

言葉や動作で相手をおだてたり甘やかしたりするさまを「ちやほや」と呼ぶが、その言葉の語源は平安時代の和歌から来ている。

一条天皇の后が詠んだ和歌「みな人の 花や蝶やといそぐ日も わが心をば 君ぞ知りける」(世間のみんなが花や蝶やと浮かれる日も、あなただけは私の気持ちを知ってくれているのですね)の『花や蝶や』の部分が「機嫌を取る」という意味になり、江戸時代には「蝶」や「花」の順番が入れ替わり、さらに略して言われるようになり「ちやほや」と言われるようになった。

「花や蝶や」→「蝶や花や」→「ちやほや」

 どうでもいいや。

 そんな事を思いながらさ迷い歩く夜、ぽっかりと浮かぶ月は皮肉な程綺麗だった。



 仕事でミスを犯し、上司にひどく怒られた。

「使えねぇなぁ」

 席に戻る途中、聞えよがしに言われた。

 うるせぇなぁ。

 喉元まで出かかった言葉を飲み込む。

 僕はふと思う。大人になってから一体どのくらいの言葉を飲み込んできたのだろう。それこそ一編の小説を書ける程にはあるんじゃないだろうか。



 会社からの帰り道、いつも通り繁華街を抜けていくと見慣れぬ建物があった。

 和造りの木造平家。屋根には小さく『ちやほ屋』という看板が掲げられている。

『ちやほ屋』?

 入社してから5年間毎日通勤で通ってきた道だが、今までこんなお店があったこと気付きもしなかった。

 そんな事を思っていると、店の中からゴミ袋を提げた初老の男性が出てきた。

 男性は店の前に佇む私に気付くと少し驚いた後「入りますか?」と声を掛けてきた。

「なんのお店ですか?」

 私がそう聞くと初老の男性はゴミをゴミ捨て場に出しながら答えた。

「そのものずばり、ちやほ屋ですよ?」

「ちやほ屋?」

「えぇ、ちやほ屋。ちやほやが好きな人の為のお店です」

 初老の男はそう言うとこちらを振り向きニヤリと笑った。

「お兄さんもちやほや好きでしょう? 嫌いな人なんていませんよ」

 初老の男はこちらににじり寄る。

「いや、ちやほやなんて……そんな……」

 僕は頭を横に振り応えるが、初老の男はそんなことお構いなしに私の背後に周り、少しずつ背中を押してくる。

「さぁ、遠慮せずに……素直になって……」

「いやっ、あの! 本当に!」

「……はぁ、全く強情な方だ。あのね、今夜は特別に可愛い子を揃えてあるんです。後悔はさせませんよ」

 またも初老の男は意味ありげに笑う。

「……可愛い子? じゃあやっぱりそういうお店なの?」

 僕がそう言うと初老の男は心底可笑しそうに「またまた! とぼけちゃって!!」と僕の背中を叩いてきた。

「そういうお店以外の何物でもないです。看板に偽りありません。正真正銘ちやほやに掛けちゃ右に出る他店はない事をお約束しましょう」

「…………本当に?」

「えぇ! もちろん! いいですか? ここの子たちはあなたが今まで見たこともないほど綺麗な子ばかりです」

「……ほぉ」

「出るとこ出てます」

「おっ?」

「粒ぞろいの夜の蝶が灯りの下、華麗に舞い踊る姿なんかこの世のものとは思えませんよ」

「ほうほうほう」

「希望とあらば好きな子を買ってお持ち帰り頂いても構いません」

「えぇ!? いいの!?」

「えぇ。但しあなたが折角買ったその子を大切にしてくれるなら。他の人に売ったりしないでいてくれるならですがね」

「そんなことしないよ!」

「ふふっそれならよかった。同好の士に会える。こんな嬉しいことはありませんな」

 そう言って初老の男は悪戯っぽく笑い続けてこう言った。

「ねぇ、あなた思いませんか? 最近の世の中、ちやほやが幾分と足りない」

 男に背中を押されながら僕はその言葉を噛み締めていた。

 ちやほやが足りない。本当にそうだ。

 誰も僕をちやほやしてくれやしない。生まれてこの方最後にちやほやされたのは一体幾つの時だっただろう。

 人は怒ってくるし、騙したり、裏切ったりしてくる。黙らせてきたり、断れなくしてきたり、見て見ぬふりをしてくる。

 色んな事をしてくる割にちやほやはしてくれない。

 この男の言うとおりだ。この世の中にはちやほやが足りない。ちっとも足りない。

「さぁ、いらっしゃいませ! ちやほ屋へようこそ!」

 男が僕を宝石のような光が煌めく店内に案内してくれた。



 夜の蝶が僕の目の前を舞い飛んだ。

「アナクシビアモルフォが迎えてくれましたよ! お兄さん! 運が良すぎぃ!!」

 男が興奮したように叫ぶ。


「おっ、見てくださいよ。ラナンキュラスの花にアミドンミイロタテハがとまってる。なんて綺麗なんだ~」


「お兄さん、そこのアカリスカザリシロチョウの口吻見てみて下さいよ。めちゃめちゃ出てるでしょ。これで花の蜜を吸い尽くすわけですよ」


「誰かお気に入りの子いました? 色んな子いますけど、なんだかんだ言って日本人ならナミアゲハに帰ってくる人多いんですよ。言って貰えば籠お付けしますからどうぞお持ち帰りくださいね」


 そんなことだと思っていたよ。嘘じゃない本当さ。

「ちやほ屋」とは「蝶と花」のお店だったらしい。

 別に僕は最初から分かっていたさ。落ちこんじゃいない。邪な事なんてこれっぽっちも考えていなかった。

 だけど僕のテンションの下がり具合に流石に色々な勘付くところがあったのだろうか男はお勧めの蝶をサービスでくれたり、別に興味はないのに貴重な蝶の標本を奥から取り出して見せてくれたりした。

 まぁ、そのつまり、僕は店長に滅茶苦茶ちやほやされた。

雑学を種に百篇の話を可能な限り一日一話ずつ投稿します。

3つだけルールがあります。

①質より量。絶対に毎日執筆、毎日投稿(二時間以内に書き上げるのがベスト)

②5分から10分以内で読める程度の短編

③差別を助長するような話は書かない


雑学百話シリーズURL

https://ncode.syosetu.com/s5776f/

なおこのシリーズで扱う雑学の信憑性は一切保証しておりません。ごめんなさい。


仕事が忙しくなり、毎日の投稿が難しくなってきました。

投稿頻度に変更あるかもしれません。

情けないなぁ。

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