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未知との出会い  作者: En
第三章
91/109

「剣」と魔人⑬

「それで。魔女の世界を攻めるのはいつになるんだ」

「さあ。取り敢えず今日は準備があるとかで出かけているけど」

「準備……あんなに魔女が出かけて?」

「一体何をやっているんですかねえ」

「ふふふ。なんでしょーか?」


 エックスは机の上で雑談している四人の魔法使いをにこにこ顔で見下ろしている。


「エックスは行かなくていいの?」

「ボクはいいんだ。というか、誰か残っていないと危ないからね」


 万が一拠点であるこの部屋を攻撃されたとき、魔女が一人もいなかったら全滅する可能性がある。それを考慮して常に誰かが残ることにしている。今日はエックスの番だ。


「上手くいけば明日にもソードを攻撃するよ。あの日から三週間と四日たった。そろそろ痺れを切らしてくるころだね」

「随分気が長いヤツだな」


 吾我は呟いた。言いながらもソードがひと月以内で期限を切ってきた理由も理解できていた。こちらに『乖離の世界』を使わせないためだ。時間を引き延ばす世界。入ったらピッタリひと月出られない代わりに年単位の特訓をその期間で行うことができる。


「敵はどう少なく見積もっても十年以上魔法の特訓を積んでいる。その辺で言えばアドバンテージは向こうにあるわけですね」

「うーん。どうかな」


 杉本の言葉にエックスは独り言のように呟いた。


「どういうことです?」

「どういうことでしょう?」


 質問に質問で返してはぐらかすエックスの態度に杉本は少しイラッとした。恐らく話したくないのだろうが。


「エックス。一つだけ確認したい」

「うん?なに?」

「敵は恐らく『心を操る魔法』を使ってくる。それの対処はあるのか?」

「勿論」


 『心を操る魔法』。魔女を洗脳できる性能であれば警戒の必要はある。


「以前の戦闘から今日まで、釈然としない点が一つある」

「それは?」

「どうしてあの時に使わなかったのか」


 あ、と公平は思わず声を上げる。あの時点でエックスとローズ相手に使われたらその時点でおしまいだったはずだ。


「使わなかったのではなく使えなかった、ボクはそう考えている。だったら何かしらの制限は絶対にある。これは仮説だけど……例えば二人までしか操れない、とか。あの時ボクたちを洗脳できなかったのなら、次に戦った時にもできるとは思えない。未知の部分は多いけど、やりようはある」

「それは一体?」


 吾我の質問にエックスの目が泳いだ。杉本は自分が見つめられていることに気が付く。


「……ナイショ」

「秘密主義もいい加減にしろ!」

「うう……怒んないでよ」


 エックスは吾我の勢いに怯んだがそれでも詳細については口を割らない。


「いいじゃないですか。何かあるって言うんなら」


 杉本が言った。彼はエックスの意図を気付いていた。気付いた結果黙っておくことを選んだ。


「何も無いってわけじゃあない。それでも話さないってことはそれにも理由があるんですよ」

「お前はそれでいいのか優。詳細もよく分からない作戦を信頼できるか。俺たちは絶対に負けるわけにはいかないんだ」

「僕はそれでも負けませんから」


 杉本は少し笑って言った。それを見た吾我は「そうだな」と返し矛を収める。

 公平にも杉本がどれくらい強くなっているのかはよく分かっていない。特訓の時以外は高野の所にいることが多いので彼の実力を知る機会がなかった。ただこのやり取りを見るに、相当成長したことが伺える。

 エックスはシュンとした顔で一言「ごめん」と言った。




 高野は一人布団の中で天井を見上げていた。外からは騒がしい声が聞こえてくる。明日にでもソードに戦いを挑む、らしい。彼女の元にいる弟の事を想う。二人を守らなくてはならない。同時に迷ってもいた。自分ではソードは倒せない。あの魔女には絶対に勝てない。はっきり分かるだけの力の差があった。だからこそエックスたちに倒してもらうのが、両親の仇を討つ唯一の道だった。


「どうしたら……」


 高野は小さく呟いて目を閉じる。もっと自分が強ければ自分でソードとも戦えただろうに。


「高野さん」


 声が聞こえる。杉本の声だった。


「作戦会議はおしまいですか」

「ええまあ。公平さんと吾我さんは魔女になったミライさん相手に対魔女戦の調整をしています」


 つまりエックスはまだ部屋にいるという事だ。ここで下手なことは出来ない。


「アナタは行かないんですか」

「ええ。いいんです」

「……そうですか。それでアナタは何を?」

「暇なのでちょっとお話を。明日の計画について、とか」

「そんな重要な事、私に話していいんですか」

「いいよー」


 外からエックスの声がした。聞き耳立てられている。


「だ、そうなので」


 杉本はその場に座り込んで淡々と話しはじめた。エックスが隠している部分を予想したうえで。魔人を如何にして攻略し、黒幕であるソードを如何にして仕留めるか。


「問題なのは『洗脳』の魔法です。アレだけは詳細が分からない。だから術者に解いてもらう必要がある」

「……なるほど。そのやり方ならかなりの確率でソードを追い詰めることができる。彼女も洗脳を解くよりほかない。私もあの魔法については詳しく知らないですが、それでもきっと」


 外で杉本と高野の会話を聞いていたエックスはその言葉で確信する。やはり『洗脳』の魔法は存在する。魔女を操るほどの強力な物。高野にも詳細は分からないらしいが、それでもヴィクトリーやトリガーの異変は魔法によるものだった。

 彼女の言葉は自然なものだった。恐らく嘘はない。こちらが当然のように情報を開示すれば無意識的に向こうも話してくると思っていた。その辺、杉本は上手である。お願いしてよかったとエックスは思った。


「けどいいんですか。その作戦、アナタにとって……」

「いいんですよ。どんな手段を使ったって、僕たちは勝つんです。……止めたければどうぞ」


 そう言って笑いかけた。高野にはもう杉本たちと戦う選択肢はなかった。もう彼女では止められない。先ほどの話が全部正しければ、四人の魔法使いの誰を相手にしても勝ち筋がないのが分かったからだ。ファルコたちに情報を流そうにもここにはエックスがいる。魔女の世界に戻ろうとするのを絶対に止めてくる。何をしようと無意味だ。

 せめて、と思う。せめてソードを倒してほしい。あの悪魔に一泡吹かせてほしい。そう願う事しか出来なかった。




やがてローズとナイト、それから朝倉が帰ってくる。

開口一番にエックスは尋ねた。


「どうだった?」

「上手くいったわ。言われた通りに試してみたけど問題はなさそう。……でも。本当にこれでいいの?みんな怒るんじゃあ……」


ローズの言葉に、どこか気まずそうに笑った。


「だよね。ボクもそう思う。きっとみんな怒るよ」


分かっていたことだった。彼女の計画を話して、手放しで賛同する人間は殆どいない。


「でもやらないといけない。次の戦いで勝つためには絶対に必要なんだ」


敵は強力な魔女が三人。それから二人の魔人たち。公平たちは強くなったが、それでもまだ足りない。勝利の確率を少しでも高めるためには普通のやり方では駄目だ。前回の二の舞にならないためにも奇策を撃つ必要があった。他の誰に反対されようと、である。


「だから誰にも話さない。最後の最後。その時までみんなには秘密にする」


秘密にしておけば反対のしようもない。今この場に公平たちはいない。彼らに聞かれずに作戦内容を確認できるのは今だけだ。


「それじゃあみんな。明日の予定を話すよ」

「ちょっと」


 ローズが手を挙げる。


「弟子二号がそこにいるみたいだけど?」

「……ああ。確かに。杉本クンがそこにいますね」


ローズと朝倉はそれぞれ杉本の気配を察知した。


「いいんだ。彼はきっと了承してる」


その言葉にローズは立ち上がった。ずんずん進んで彼がいる公平の部屋の窓を覗き込む。カーテンで閉ざされているところを、指でとんとん叩く。窓を開けて杉本が顔を出した。


「なんです?」

「いいの?」

「はい」


 杉本はそれだけ言うと、窓を閉じてカーテンで中を隠した。


「コラっ!二号!」

「僕は仮面ライダーじゃないので」

「訳の分からないことをいうんじゃありません!」


きぃーと唸りながら杉本のいる部屋を揺する。彼は自分の魔法で自分自身を固定して涼しい顔をしていた。中にいるもう一人の高野はきゃあと悲鳴を上げて転ばないようにする。


「過保護ですねえ。ワールドとは大違い」


 朝倉の言葉にローズは手を止めた。視線だけ彼女に向ける。


「……アナタが構わなさすぎなのよ。仮にもこの子の先生だったって言うのに」

「杉本クンは……あんまり印象ないんですよねえ。確かいい子だったと思いますよ。よく覚えてないので」


 ローズは口をきゅっと結んで朝倉を睨んだ。彼のいる小屋をぎゅっと抱きしめる。


「なんて酷いことを言うのアナタ……」

「別にいいです。ところで。その年頃の子はあんまり構われるのは好まないですよ。多分嫌われると思います」

「……」


 パッとローズは手を離した。一応アドバイスには従う子である。


「そろそろいいですかー?公平たちが帰ってくる前に話したいんだけどー?」


ローズはエックスの言葉に従い彼女のもとへ戻ってくる。

杉本は今いる部屋の温度が少し上がった気がした。ローズがワールドと同じ魔女とは思えないくらいに優しいのは分かる。それは本当に心の底から。ただ、朝倉の言った通りで構われすぎて少しうっとおしいと思うのも事実だった。




 魔女たちは翌日の行動を再確認した。

 ナイト・朝倉はこちらに待機。万が一人間世界が攻撃されたときに備える。朝倉はイヤそうな顔をしたが懇願してどうにか説得した。魔女の世界に乗り込むのはエックスとローズである。


「だけど。ボクはきっと戦わせてもらえない」


恐らくワールドの時と同じく分断されるはずだ。ソードはワールドほどではないにせよ空間操作型の魔法が使える。屋敷を異界化しこちらを分断させるとエックスは予想している。特に彼女は完全に孤立させられるはず。そうなれば誰とも戦えない。


「だからローズ。キミが今回のカギだ」


 紫の瞳を見つめる。ローズは小さく頷いた。きっとヴィクトリーはミライと戦わせるはずだ。相手がヴィクトリーでは100%の本気で戦う事が出来ない。ミライ自身も自覚出来ている。ソードはきっとその隙を突いてくるはずだと予想できた。

 必然的にローズの相手はトリガーかソードとなる。どちらにしても相当に不利な戦いになる。裏を返せば、この戦いこそが敵の戦略を覆す重要な部分になるはずだ。


「今日やったようにやればいい。きっとソードの意表を突けるはずだ」

「うん。分かったわ。絶対あの上から目線をビックリさせてやるんだから!」


 魔人は吾我と杉本が相手をすることになる。そうなるように敵の方から仕掛けてくるはずだ。そうなると公平の相手も決まってくる。ローズがトリガーかソードのいずれかを相手取るなら、彼の敵は残るもう一方だ。


「そこでエックス、お前が助けに入るというわけか」

「それは最終手段。基本的には公平一人に戦ってもらうよ」


 ナイトは目を丸くした。相手はいずれも魔女の世界における最強の一角。人間一人では勝ち目は薄い。

だが。そんな心配をするナイトにエックスは自信満々で返した。


「大丈夫。公平はきっと勝つ。ボクはそれだけは一切疑うことなく信じられるんだよね」


 公平には二人で作り上げた『レベル4』がある。だからきっと大丈夫。エックスは確信していた。自分の存在は万が一の時の保険でしかない。

 少しして公平と吾我、それからミライが帰ってくる。三人の姿を認めた朝倉は苦々しく顔を歪めると席を離れた。


「どうせ私は留守番係です。これ以上会話をする必要はないでしょう」


最後にそう言い残して。


「さて。どうだったかなミライちゃん?この二人と戦ってみて」

「……ええ。想定以上でした。思っていた以上に、相手になりませんでした」


 それはミライ「が」公平と吾我の相手「に」ならないという意味だった。それを聞いたローズは得意げな表情である。魔女となったミライを相手に有利に立ち回れたのならばまずまずの結果だ。エックスにとっても十分に満足の結果である。


「よろしい。それじゃあ、明日の計画を話すよ」


 エックスが言うと三人はその瞳を見上げた。公平の部屋にいた杉本も出てくる。これがきっと最後の作戦会議。それが終わればあとは身体を休めて、戦いに臨むだけ。気を引き締めて彼女の言葉を聞いた。


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