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未知との出会い  作者: En
第三章
79/109

「剣」と魔人①

「っ。……来たか」


 エックスはソードの出現を感知した。以前の宣戦布告から今まで常に意識をとがらせていた。ローズに視線を向けると彼女も頷く。


「いい加減、ソードに調子に乗せるのもおしまいにしようじゃないか」

「そうね」


 エックスはニッと笑った。ローズもいる。何より公平がいる。今なら十分に戦えるはずだ。

 人間世界に飛び出して、最初に彼に連絡をした。


『公平?感じているだろう?』

『……うん。ソードだな』

『ローズと一緒に向かっている。キミも……』

『悪い。ちょっと無理そうだ』

『ンなッ!?』


 エックスは即座に公平の位置を探索した。もうとっくに授業は終わっている。仮に授業中であってもソードの対処は最優先にするべき事項ではないのか。

 色々言いたかった文句は、彼のすぐ近くにあるもう一つの気配の前に吹き飛んだ。


『……高野さん?』

『ああ。やっばいぜ。殺気がびりびりくる。下手に逃げたら……周りの人が危ないかも』

『……分かった。そっちは任せる。……だけど』

『分かってるよ。すぐに、行く』

『うん。待ってる』


 そして、エックスは連絡を切った。その顔をローズが不思議そうに覗き込む。


「どうしたの?公平クンは?」

「来られない。あっちはあっちで取込み中だ。それより……」


 その言葉にローズも正面を向く。腕組みして天に立つソードがそこにいた。真下に異国の地を見下ろす彼女は宿敵の到来に顔を上げる。不敵に笑うその顔をエックスは強い視線で迎え撃つ。


「ソード……!」

「来たな。エックス」




「……これでいいか?このタイミングで仕掛けてきたってことはアンタ、ソードの刺客ってことかい?」

「ご想像にお任せします。何にせよ。私と貴方がぶつかり合うというのは変わりませんから」


 公平は背後に声を感じた。まだ大学からそう離れていない。人気の少ないところに向かって歩いてきたとはいえ、ここではまだ人目につく。


「まあ。どうでもいいけどさ。それより場所は変えようぜ。アンタはともかく俺は……」


 言いかけて言葉が止まった。

 高野は右手で顔を覆い隠す。強大な魔法の力が公平の身体をしびれさせる。


「ええ。貴方と私は違う。周りの有象無象は、立ち止まる理由にはならない」


 公平は思わず奥歯を噛んだ。ここで、始めるつもりなのか。


「魔人レオン。参る」

「魔人?」


 彼女は左腕を右腕に重ねた。


「『変われ』」


 その両腕が十字の形を作る。公平は『裁きの剣』を構えた。


「『LEON』!」


 次の瞬間。高野の姿が消えた。咄嗟に公平は刃を左手で支える。

 そして、『剣』と──


「なんだよソレ……!」


 『爪』とが──


「……驚きました。私のフルスピードの一撃を受け止めるとは」


 ぶつかり合う衝撃が公平の身体を駆け抜けた。

 その目に映るのは『獣』の姿。人とライオンが混じりあった異形。

 最初の一撃はまともに受ければ上半身と下半身が分かれていた破壊力である。エックスに日々殺されかけていなければ初撃で死んでいる。


「『最強の刃』!」


 この姿は明らかに魔法によって形作られている。だとしたら『刃』が有効である可能性は十分にあった。

 左手に握った『刃』を相手の腹に突き立てる。獣の顔が小さく笑った。

 獣の爪が首筋に伸びる。『刃』に頼った一瞬を狙っていた。その瞬間、間違いなく集中力が途切れると高野──魔人レオンは考えていた。

 だが。それでは甘い。

 公平は倒れるように爪の一撃を避ける。獣の瞳に驚愕の色が浮かんだのを見逃さない。左手の『刃』はすでに放棄している。


「『裁きの剣』!」


 代わりに発動させたもう一つの『剣』が、魔人の腹を切り裂いた。その衝撃にレオンは吹き飛んでいく。血が流れる傷口を押え公平を睨んだ。


「……悪いな。コイツが効かねえ相手がちょくちょくいるんで、ぶっちゃけあんま信用してないんだ」

「なるほど……。『刃』は囮ですか」


 彼女がソードの送り込んだ刺客であるならば、『刃』の対策はしてくると思った。囮に使えば間違いなく引っかかる。そう踏んだのだが思いのほか上手くいった。


(……けど)


 レオンは平然とたちあがってくる。その傷は既に塞がりつつあった。魔人の身体は回復能力まで高いらしい。本当は今の一撃で終わらせるつもりだったのだが。

 公平は両手の剣を再び構え、次の攻撃に備えた。


「そう上手くはいかないね」


 魔人の咆哮に、身体が震えた。




「……始まったようだな。エックス」


 エックスもその気配を感じ取っていた。公平とぶつかり合う強い力。その実力はほぼ拮抗している。


「そんな風には見えなかったけどなあ。高野サン。キミの差し金かい?」


 ソードは小さく笑ただけで答えない。回答がないのは肯定とみなすことにする。


「うん……。あっちはちょっと心配だ。最速でキミをやっつけて助けに行こうか」

「……ほう?随分と余裕じゃないか」

「ボクのキャンバスの1/5。ウィッチのキャンバス全部。それからキミ自身のキャンバス。確かに広いけど、それ以前に二対一だ」

「そういうこと。確かに貴女は強いけど、二人なら負ける気はしないわ」


 クククとソードが笑った。右手で顔を抑えている。


「ああ、そうだな。確かに数の上では不利だ。だが。こうしたらどうだろう?」


 ソードが手を上げる。同時に『二つ』の裂け目が開いた。そこから現れたのは『二人』。

 一人は翡翠色の瞳を持つ魔女。トリガー。エックスの魔法を奪った五人の一人。長い髪が風に揺れている。

 本来であればエックスはそこで違和感を抱いてもおかしくはなかった。トリガーとソードは犬猿の仲。例え千年の時が経っていようと手を組むのはあり得ない。

 それに思い至らなかった理由は、もう一人の魔女の姿を見たからだった。


「……ヴィクトリー?」


 金色の瞳が。虚ろにエックスたちを見つめている。




「っ!?」


 公平もよく知っている力。一度戦ったことのある魔女ヴィクトリー。エックスとローズを助けに来たかと思いきや、あろうことか二人に攻撃をしている。

 動揺が一瞬の隙を生んだ。爪がほんの少し公平の腕に傷を付けた。左の剣が手から離れていく。思わず舌打ちした。こうなってはこんなところで時間をかけていられない。


「……あちらも動きましたか。では。フェーズ2に入ります」


 レオンは公平を飛び越えてそのまま走っていく。その先には大学がある。


「……ざっけんな!」


 公平は咄嗟にその後を追った。『魔人』と称するその肉体は、人間を遥かに凌駕する身体能力を有している。魔力で強化した身体でも若干劣る。脚力を集中して強化して追い付くかどうか分からない。

 学生たちは突如現れた魔人の異形に悲鳴を上げた。レオンは吠えながら爪を立て、腕を振るう。公平はギリギリで間に入り、彼女の攻撃を受け止めた。


「逃げろ!」


 振り返らずに叫んだ。学生はコクリと頷いて走り去っていく。


「……俺だって勝つためなら手段は選ばないけどさあ。ここまでやるかよ?」


 レオンはそれには答えない。代わりにぐるるとその喉を鳴らしている。

 剣の刃に罅が入る。公平は脚力を強化し、魔人を蹴り飛ばした。くるくると回転しながらレオンは空中を蹴り、大学の敷地内に侵入する。慌てて公平は後を追った。

 違和感があった。本気で自分を倒そうという意志を感じない。周りの人間を襲う事を優先している気がした。その理由を公平はすぐに理解することになる。

 遥かに離れた地でまた二つ。異世界から魔法使いが侵入した気配を感じた。公平はレオンを。エックスとローズは三人の魔女を相手取り、そちらには行けない状況である。すなわちこれは。


「時間稼ぎかよクソッタレ!」




 一方で。公平が感じた二つの気配は某国の首都にいた。

 日本との時差の関係で既に夜である。暗いビル街に二人の男が立っている。

 背の低い男が、のっぽの方に声をかけた。


「分かっていますね。スタッグ。僕たちの目的」

「ああ。勿論だともファルコ。この街の連中を皆殺しにするんだろう?」

「違います。相変わらずアナタは愚鈍だなあ」


 ファルコと呼ばれた男は前方を指差した。その先に四人の魔法使いが立っている。


「標的はあっちです。彼らを仕留めてしまえば、人間世界の制圧は容易い」

「随分舐められたものだな。たった二人で。俺たち四人をどうにか出来ると?」

「当然でしょう?『吾我レイジさん』?」


 名前を呼ばれたことで吾我の表情が強張った。ヴィクトリーがエックスとローズを攻撃しているのは既に感じ取っていた。彼女からソードへと情報が漏れていた可能性がある。目の前の二人が自分の名前を知っているのならば、彼らもソードの仲間である可能性は高い。

 吾我は斧を構えた。


「なら。見せてもらおうか。お前らの力を」

「いいですよ。そして後悔するといい。僕たちと貴方たちとでは!生き物としての格が違い過ぎますからねえ!」


 ファルコが右手で顔を覆った。強大な力の波が吾我たちを襲う。


「さあ『羽ばたけ』!」


 次の瞬間、吾我は男の懐に入っていた。こんな隙だらけの相手を狙わない理由がない。ファルコの両目が一瞬大きく開かれた。


「死ね」


 その首筋に斧を振るう。──だが。


「……なっ!?」


 スタッグという大男が生身の腕で斧の一撃を受け止める。血がだらだらと流れ出し切断しかかっていた。そうまでして彼はファルコを守った。そこに吾我は何らかの異常性を感じた。


「今だ」


 スタッグの言葉にファルコの口元が歪む。更に詠唱を続ける。


「『FALCO』!」


 突風が襲った。辛うじて立ったまま後方へと吹き飛ばされる。吾我は顔を上げ、その姿を見る。


「今この瞬間。貴方たちの勝利の可能性は消え去った。さっきの一撃だけが。あの不意打ちだけが。僕を殺す最初で最後のチャンスだった」

「鳥人間……?」


 杉本が呟く。見た目をそのまま言葉にするのなら彼の表現が一番正しい。背中に生えた巨大な翼。鋭いくちばし。両手両足には獲物を抉るかぎ爪。まさしく鳥と人間のハイブリットである。


「語彙力がないですねえ。これは『魔人』というんですよ。『魔人ファルコ』、見参!」


 続けてスタッグも構える。ちぎれかけた腕は気にも留めない。

 敵の能力は不明である。だがこれ以上続けられてはまずい。吾我は直感的にそう考えた。


「キング!奴らの変身を止めるぞ!『ガガガ・オレガアロー』」

「ああっ!『レーザーシューター』!」


 遠距離からの攻撃。二人は同時に放ちスタッグを狙う。ファルコがくちばしで笑った。


「言ったでしょう。もう貴方たちに勝ち目はない」


 その翼の羽ばたきが、二人の攻撃を吹き飛ばした。スタッグは傷つくことなく魔法を発動させる。


「『切り裂け。STAG』」


  再び襲う衝撃。土煙の向こうに黒い怪人が立っている。両手に携える黒い武骨な刃は、さながらクワガタムシの大あごだった。


「今度はクワガタ男って感じだな」

「『魔人スタッグ』……というわけか」


 二人の『魔人』が背中合わせに並び立つ。


「では。狩りを始めましょうか」

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