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未知との出会い  作者: En
第二章
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Project "WW" ⑫

「……エックス、今のって!」

「吾我クンだ……」


 ダミーの明石四恩を無理やり消滅させ、本体の居所を探る選択肢はエックスにもあった。それが出来なかった理由は二つ。一つはダミーの身体に攻撃する事への躊躇いだった。

 強制的に意識を戻すとなればその身体を破壊する必要がある。ある程度は力を入れなければできないことだ。割り切ってしまえば簡単な話だが、エックスにはどうしてもそれが出来なかった。

 もう一つの理由は、現在交戦中の彼らである。


「……数が多い」


 80人前後。彼らは建物や人を無差別に攻撃している。授業開始直後ということもあり人通りが少ないのが幸いである。人命を守りつつ、彼らを鎮圧することの方が大事だとエックスは考えた。その為なら明石など後回しでも構わない。

 だがその結果として吾我を先に行かせてしまった。もうすぐに戦闘が始まるだろう。恐らく吾我の勝利で終わるだろうが、その場合明石を殺害する可能性がある。それは出来れば避けたい。しかしながら居場所を掴めてもそこへ行ける状況ではなかった。

 既に敵は何人かこの場を離脱しつつある。エックスや公平の相手などせずに、離れたところから破壊行為をしようしている。見逃すつもりはないのだが、周りの相手を放置することもできない。何人かは気絶させられているが、人や建物に対する攻撃への対処を優先しているがために上手く戦えない。


「今だ!『バレット』!」


 一人の魔法使いが銃の魔法を発動させた。その弾丸の狙いは公平でもエックスでもない。向かう先は全然違う方向。倒れている、味方だったはずの魔法使いだった。


「お、おいっ!」

「くっ!」


 咄嗟にエックスはその攻撃を魔力に還元しようとした。だがすぐにそれが上手くできないことに気付く。代わりに足を一気に強化し、地面を蹴りぬいて、その弾丸に追いつき蹴り飛ばす。


「……今の感じは」


 思い違いをしていた。先ほどの魔法には『還元』を防ぐ力があった。それはつまり──。

 公平はエックスの様子がおかしいことに気が付く。彼女に声をかけようとしたその一瞬、二人の意識が敵から離れてしまった。何人かの魔法使いが離れていく。ハッとして彼らに向き直る。


「ああもうっ!ズルい!」


 最早エックスが魔力操作を行える距離から逃げ出してしまった。追いかけようとするも他の魔法使いに阻まれる。離れつつある魔法使いたちを目で追う。このままいかせてはならない。心ばかりが焦る中で、遥か上空で何かが煌めいた。エックスはそれに気付いて天を見上げる。光り輝く『杭』。


「『ハリツケライト』!」


 その一撃が逃げる者たちの影を刺し、磔にする。上空から降りてきた杉本はそのまま顎のあたりを殴りつけ意識を失わせた。

 そして、更に二人が上空から降りてくる。


「『クラッシュ』!」

「『レーザー・シューター』!」


 キングとジャック。吾我の仲間たち。


「ハッ!待たせたな!」

「公平、エックス。ここは僕らに任せて!」


 ハンマーとレーザー。二つの攻撃が放たれる。


「……よしっ。これなら……!」

「あ、ダメだ!」

「エックス?」


 公平たちを阻む魔法使いたちは手を前に出す。直後、彼らに向かう攻撃は、幻想のように消えてしまった。


「ハア!?」

「何ィ!?」


 何もできずに二人は着地する。結局ジャックがそのフィジカルで何人か殴り飛ばしたくらいだった。

 そこで公平も気付いてしまった。敵は二人の魔法を『魔力』に還元したのである。その程度の魔力操作ならば扱えるという事だ。

 もっと言えば彼らに魔法を教えた人物も、そうである可能性が高い。


「吾我が危ない……」

「仕方ないな」


 キングとジャックに意識が向かったおかげで公平もエックスも敵から離れることができた。エックスは二人に近づくと掌底で突き飛ばした。杉本がそれを唖然とした表情で見ている。


「何を……」


 続けてエックスは手刀で地面に線を入れた。キングとジャック、二人のすぐ目の前に。


「そこから絶対前に進まないように」


 彼女の身体が消えていく。本体に戻ろうとしているのが公平には分かった。


「公平。少しだけこの場を任せる。すぐに戻ってくるから、それまで二人を守って。ボクが戻ってきたらバトンタッチ。吾我クンを追って」

「あ、うん」


 公平は線の前に立ち、構えた。




「うわああああ!」


 田中は叫んだ。安全だと思われていた部屋。その屋根が巨人の手によって取っ払われたからだ。ぬっと手が出てきて彼を摘まみ上げる。その手の主はエックスだった。


「え、エックスさん!?これは一体?」

「もうちょっとしたらここも危なくなるから」

「え?それってどういう」


 エックスはそれには答えずにツカツカと歩いて行く。ローズの部屋の前まで行き、その扉を開けた。


「あら?早いじゃない。もう解決したのかしら?」

「それはこれから。それより彼を守ってあげてほしい」


 そう言ってエックスはローズに田中を手渡す。さあっと血の気が引いて顔色が青くなった。


「いやだ!だってこの人あの吾我レイジもボロボロにしたし!」

「……と言っているけど?」


 ローズは戸惑いの表情でエックスを見つめる。


「いいから。時間ないから任せる。けど、絶対おかしなことはしないように。絶対だよ?ローズが田中クンを傷つけたら意味ないんだからね!?」

「ちょっと待っ!」

「じゃあ」


 そう言ってエックスは人間世界へと戻っていった。田中は恐る恐る上を見上げる。ローズの顔が視界一杯に映る。彼女は、田中を見て笑っていた。もう逃げられないと分かってしまった。




 言った通りエックスはすぐに戻ってきた。本体に意識を戻して、その巨体を見せつけて。地面には足を下ろさず、浮いたままではあるが、その威圧感に敵は動揺していた。公平は彼女を見上げて声をかける。


「一体どういうことだよ?さっきのままでも良かったんじゃないか?」

「うーん。そうでもない。今はこの身体の方が、都合がいいんだ。じゃあ公平。吾我クンの方は任せたよ」


 公平はコクリと頷いて裂け目を開く。既に明石四恩の潜んでいる大まかの位置は掴んでいた。向こう側は真っ白な部屋。公平は裂け目を潜っていった。


 彼を見送り、エックスは真下を見下ろした。この身体に戻ってハッキリと分かった。相手には何の魔法もかかっていない。そういう気配を一切感じない。様子がおかしいのには魔法以外の理由があるのだ。純粋に言葉で洗脳し、兵隊のように使っているのかもしれない。敵になったというのにいつまでも吾我に「さん」付けで呼ばれる程度にはカリスマもありそうであった。

 確証はないが、そういう事ならば洗脳を解除する手段を一つエックスは持っている。多少強引だがこの際手段を選んでいられない。少しだけ下りていき、地面スレスレまで近づく。


「さあ。第二ラウンドだ。二度と魔法を使おうなんて思えなくしてあげよう」


 誰かが、「怯むな」と叫んで魔法を打ち込んだ。それを皮切りに敵が一斉攻撃を仕掛けた。エックスは手を前に出した。直後、敵の魔法は消失する。敵はみな茫然と彼女を見上げた。エックスは手を開いて握って確認する。


「うん。やっぱりこっちならしっかり還元できる」


 魔法で作った身体では還元しきれない魔法も本体であれば容易く出来る。その為にこちらに戻った。

 ダミーの身体で魔法を還元しきれなかったのは事実だ。それほどの魔力操作スキルをこの短期間で教え込んだ明石四恩に、エックスはどこか恐怖に近い感情を覚えた。


「よし!アンタが奴らの魔法を打ち消してくれるなら!」


 ジャックはそう言って前に出ようとする。エックスは無言で足を踏み下ろした。ジャックの目の前に巨大な靴が降ってきて地面が踏み砕いた。

 彼女が引いた線をジャックがまたぐまさにその直前の事だった。あと少しに出れば踏みつぶされていた。キングとジャックと二人で恐る恐るエックスを見上げる。彼女は一言だけ言った。


「ちょろちょろ動くな」

 

 これで二人はもう動けない。出来ればこういうことはしたくなかった。だが、まともに魔力操作ができない二人を守りながら戦おうと思ったら、ちょっと脅かして前にでてこないようにしてやらないと却って危険だ。


「今日は特別だ。ボクがこの身体に戻った以上本当なら一秒未満で決着がつく。だけどキミたち二人は魔力操作がまるでなってない。だからその真髄を見せておく。帰ったら練習するように」


 杉本は本人が望んだわけではないとはいえワールドの弟子。魔力操作は、少なくとも『還元』、もしかしたら『掌握』が出来る程度には習得しているはずだ。

 だが、キングとジャックはそうではない。これからも彼らは魔女の戦い続けるのだろう。それを考えると最低限の魔力操作は覚えておかないと危険だった。

 エックスはこれまで何度か彼らの戦いを見てきた。二人とも素質があることは分かっている。一度見せて、感覚を掴むことが出来ればどうにかなるだろうと思えた。


 本当は公平以外に魔法やそれに付随する技術を教えるつもりはなかったのだがそういうことを言っていられる場合でもない。


 ついでに二人に魔力操作を見せながら明石の洗脳を解くつもりでいた。圧倒的な力の差を見せつけ恐怖を与え、二度と魔法で人を傷つけないように教え込むのである。要するに洗脳の上書きだ。

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