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未知との出会い  作者: En
第一章
6/109

「勝利」の戦場③

「解体工事?」

「そうだっ!このボクがお願いされたんだぞ!えっへん!」

 胸を叩いて得意げなエックスを見上げる。いつものようにエックスは小枝で公平を待っていた。その時に工事をお願いされたとのことである。

「前から思ってたんだけどさ。俺に魔力を分けてくれれば小枝で待っててもらう必要もないんだけど」

「魔力を渡してそのまま逃げられたら困る」

「今更逃げないって」

 エックスが帰って来てから二週間が経った。その後のエックスは戦闘機や戦車に攻撃されたり、懲りずに攻めてきた魔女をやっつけたりしていた。そんな毎日の中で改めてこの世界の人々に受け入れられつつある。エックスに仕事のお願いが来たのもそのおかげだろう。ここで公平を待っているのだって、本気で逃げると思っているからではない。ただ誰かと話すことや触れ合うことが楽しいからだ。

「まあやればいいじゃん。ちなみにどこを壊すの」

「えっとね、向こうの山にある廃病院だって」

「へえ……」

 エックスが指さす先と廃病院という単語。頭の中で記憶と情報が繋がって、一つの場所が思い当たる。

「そうか。うんじゃあ頑張って」

「何言ってんだ。公平も来るんだよ!何でも歩いていくわけにはいかないだろ。足元危ないじゃんか。魔法が使える君がいないと困る」

「いや、ちょっと今日調子悪くてさ。熱があるんだと思う」

「え?ほんと?じゃあ明日にしよっか」

「いやあこれちょっとヤバい。一週間は寝込みそうだ。相手も急いでるだろうしエックスだけでさ」

「大丈夫だよ。15年も工事がストップしてたらしくてさ、作業はいつでもいいって言われてるんだ」

「待って。本当に待ってよ。やっぱあそこの病院じゃんか」

 公平が頭を抱える。エックスは不信に思い公平を摘まみ上げた。

「ウソツキ!熱なんかないよ!公平なんか隠してるな」

 公平は諦めて白状した。自分が知っていることを。

「あそこな……幽霊が出るんだよ」

「ゆーれい?」

「おう。何でも、そこの医者が滅茶苦茶な奴でさ、患者を生きたまま解剖して自分の実験に使ってたって噂で……」

「ふうん。ゆーれいって何?」

「幽霊は幽霊だよ!死んだ人が化けて出てくるアレだよ!」

 エックスがきょとんとしている。「いや死んだら終わりでしょ」なんて不思議そうな顔で言った。食べ物飲み物長さの単位。ありとあらゆる物がエックスのいた世界と公平の世界とで名前も意味も一致していた。だが、不思議なことに幽霊の概念は無いようである。

「じゃ、じゃあちょうどいいな。エックス一人で行ってくれ。俺は怖いのはダメだから留守番してる」

「あのね公平。さっきも言ったけど、人は死んだらお仕舞なんだよ。おばけになって出てくるわけがないだろ」

「なんでおばけの概念はあるんだよ」

「それに怖いところにボク一人で行かせようとしたのも気に入らない。やっぱり君も連れていく。何なら中に入って調査してもらおう」

 公平の顔が青くなる。余計なことを言わず正直に話せばよかったと後悔した。

「そんな顔しなくても、大丈夫だって。何か居たって公平には魔法があるんだし、何ならボクだっているんだぞ?」

「幽霊に魔法が効くのかよお」

 公平は泣きそうになりながら答えた。




 岩波総合病院は30年前に閉鎖となった。当時、この街の住民の間で岩波病院では患者の肉体を使った実験が行われているという噂が流れていた。昨日まで元気にしていた患者が突然いなくなったとか、地下に実験用の手術室があるとか。当時の院長である岩波敦は、前触れもなく院長室で首を吊り、そのまま病院も潰れたという。

 それからしばらくの間、岩波病院は山の中で静かに聳えていた。時々肝試しで中に入る人もいた。帰っていたものはなかったらしいが。そして15年前の事、岩波病院を取り壊す計画が立った。しかし、作業中に頻発した機械の故障や作業員の不調のせいで工事は進まず、最終的に現場監督が行方不明になって計画は一時中止になったらしい。その後その間、一時中止のまま岩波病院はまだそこにあった。

「サークルの山本先輩もさ、肝試しに行ったらしいんだよ。でも先に入って行った友達が1時間たっても2時間たっても出てこなかったんだってよ。で、電話をかけたらその友達やけに明るい声で出たんだ。こっちには人がいっぱいいるし、かわいい女の子もいるから、山ちゃんもこいよってさ。電話の向こうで『おいでおいで』って声がして山本先輩怖くなって携帯捨てて逃げたらしい。その友達はまだ見つかってなくて」

「ああもう!うるさい!そんなのいるわけないだろ!ばかっ!」

 時間は深夜2時。場所は件の岩波病院。公平はここに来てまだ喚いている。エックスの髪の毛に縛られてネックレスのようにぶら下がっている。

「大体何でこんな夜中に来るんだよ……。昼間でいいじゃんか」

「公平が移動の魔法で連れてきてくれたらお昼に行ってたよ!キミが嫌がって魔法を使ってくれないから、結局夜中に歩いてここまで来なきゃいけなくなったんだろ!」

 エックスが中腰になって病院を観察する。ボロボロの外壁、割れた窓。不気味と言えば不気味だ。

「けどこんなの蹴っ飛ばしちゃえばお仕舞だ。問題は、まあ無いとは思うけど。こんなボロの中に人がいるわけないし……」

 エックスは病院の屋上に手を置き、目を閉じる。

「……うん?中で魔法の反応があるな。誰かいるの?あれえ結構いっぱいいる……」

「魔法じゃねえよ。幽霊だよそれえ……」

「けど不思議だ。キャンバスが見当たらないぞ?コレ中に誰も居ないんじゃないか?」

「キャンバスってなんだ。いきなり怖いこと言うなよ。憑りつかれたのか?憑りつかれたなら俺はどうしたらいいんだ」

「うるさいなさっきから……。キャンバスについては後で説明するよ。取りあえずこの中には誰も居ない。ただ、魔法の反応は気になる。悪いけどちょっと様子を見てきてくれ」

「嫌だ!絶対嫌だ!死ぬぞ!俺死んじゃうぞ!」

 エックスが呆れた顔で公平を見つめる。溜息を吐いて、ある提案をした。

「じゃあ、こうしよう。公平の様子がおかしくなったら、ボクがすぐに助け出す。魔法で通信して、なんか変だと思ったらすぐに外に出してあげる。絶対に死なせない」

「だ、大丈夫なの?ホントに?」

「ボクを信用しないのか?」

 公平は一瞬迷って、「信頼はしてる」と答えた。エックスがにっと笑う。

「よおし。じゃあ行っておいで」

 そう言ってエックスは公平を屋上に降ろした。内部へ続くドアはエックスが軽く引っ張ったら壊れた。

「地下は危ないらしいし、上から様子を見に行くといい。まあそんな地下室ホントにあるとは思えないけど」

「うわあ……怖えなあ……」

 公平はエックスと通信、と声に出した。頭の中でエックスの声がする。便利だ。

『これで様子を教えてほしい。変なことがあったらすぐ言うように。何があっても通信は切らないでね』

 公平は頭の中で『了解』と答え、真っ暗な廃病院に踏み込んだ。

 コツコツと、足音が響く、それ以外は静かであった。スマホのライトで足元を照らし、ゆっくりと階段を降りる。岩波病院は5階建てである。それぞれの階が何に使われているのか、公平は分からない。

 上から順に見ていくとのことなので、まずは5階の探検をする。おっかなびっくり足を進めていく。暗闇の向こうで何かが自分を見ている気がした。なるべくそちらには目を向けないことにする。暫く歩いて行くと部屋があった。入院患者の部屋のように思えた。

『どう?何かあった』

『何もないよ』

『嘘を吐くな。今のボクには君の考えが大体分かる。部屋があるんだろ?開けてみなさい』

『いやだよぉ……開けたくねえよお』

『い……ら……く』

 突然、エックスとの通信にノイズが走る。いつの間にか声に出して「エックス?エックス?」と呼びかける。

『ああ、ごめん電波が悪いみたいだね』

『電波あるの!?』

『しょうがないし、今から行くね』

『行く?ここに来るの?エックスが?どうやって?』

 その時、闇の向こうから何かが走ってくる音がした。ひいいと情けなく悲鳴を上げ、頭を隠してうずくまる。

「ごごごごめんなさいごめんなさい」

「いや、ボクだよボク」

 おそるおそる声の方に顔を向けると、緋色の瞳をしたエックスみたいな女の子。──というより普通の女の子の大きさになったエックスがにっこりしている。

「えええええ!なんで!?」

「魔力で身体をつくったのさ。それより……」

 エックスは勢いよく扉を開ける。その向こうには何もない。誰も居ない。

「ほら大丈夫。何もいないだろ。さっさと次の階に行くよ。向こうにエレベーターがあるから付いてきて」

「エレベーターあるのかあ。エックスもいるし、ちょっと怖くなくなってきたなあ」

 走っていくエックスを公平は追う。エックスはエレベーターの前で待っていた。下へ向かうことを示すランプがついている。

「1階から4階はもう見てきた。最後に地下だ」

「仕事が早いな!なんだよ楽勝じゃねえか!」

 チンと音が鳴ってエレベーターが開いた。エックスが先に乗る。公平に振り返り「オイデ」と手を振った。それに従い、彼も一歩前に踏み出した。外から巨大な手が突っ込んできて、公平を外に引っ張り出したのは、彼がエレベーターに乗り込む一瞬前である。




『いいから早く開けなさい』

 公平に対して言葉を送る。ざざざという音が頭の中で響いたのはその直後だ。それは、今まで体験したことのない現象であった。だがそれも一瞬で収まる。ノイズが消え、エックスは公平に確認の連絡を送る。

『公平?おーい?聞こえますかー』

『電波あるの!?』

『……はい?でんぱ?何言ってんの?』

『行く?ここに来るの?エックスが?どうやって?』

 会話がかみ合わない。何か嫌な予感がした。公平を助け出すべきだと判断し、慌てて彼の探知を開始する。だが。

「見つからない……。さっき感じた魔法が邪魔してるのか……?」

『ほら大丈夫。何もいないだろ。さっさと次の階に行くよ。向こうにエレベーターがあるから付いてきて』

『エレベーターあるのかあ。エックスもいるし、ちょっと怖くなくなってきたなあ』

 通信を通じて、公平の会話がエックスに聞こえた。冷静な判断が出来なくなっているのが分かる。電気が来ていないのにエレベーターが動くわけがないのに。

『1階から4階はもう見てきた。最後に地下だ』

『仕事が早いな!なんだよ楽勝じゃねえか!』

「待て!行くな!」

 もう一度、探知を行う。頭の中で耳障りな笑い声と『オイデエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエ』というかすれた声が響いた。それらがあまりに不愉快で、頭の中で何かが切れた

「あまりボクを怒らせるなよ」

 探知を邪魔されたことは事実だ。それに驚いて一瞬慌てたのも事実。だが、しっかり集中すれば──。

「この程度の魔法で、ボクを出し抜けるわけないだろ」

 誰を相手にしてると思ってる。エックスは病院内部に手を突っ込み、引っこ抜く。おそるおそる手を広げると、公平が目を回していた。

「……ごめんね」

 どうやらこの世界において幽霊なるものは存在するらしい。公平の気持ちを無視して無理やり行かせたことを後悔する。

「さて」

 エックスは病院に目を向けた。公平を探検に行かせたのはエックスだ。だが、それはそれ。

「ボクの大事な人をよくも怖がらせてくれたな」

 公平に危害を加えようとしたのはあくまで病院の中にいる何かである。エックスは建物に向けて手を伸ばした。

 公平が目を覚ますと、エックスの手の平の上だった。

「……あれえ?俺エレベーターに乗ったんじゃ……。てかエックスまた大きくなってる……」

「……魔法が使えないボクが小さな体を作れるわけないだろ」

 その声を聞いて、さあと血の気が引いた。言われてみればそうである。エレベーターだって動いてるわけがない。なのに一切気にせず乗り込み、あまつさえ地下に行こうとしていた自分が恐ろしい。

「ややややっぱり幽霊じゃねえか!いるじゃん!ほらいたじゃん」

「……うん。いたねえ。ごめん今回はボクが悪い」

 珍しくエックスがしおらしくしている。「ごめんなさい」ともう一度エックスが言った。そのしょんぼりした姿を見ていると、これ以上責めたてる気もなくなる。

「いや……まあ、俺は無事だし良いよ。それにエックスが助けてくれたんだろ?……いやそれよりこれじゃあここ壊せないんじゃ……」

「ううん。大丈夫。だってもう幽霊はいないから」

「はい?」

「あれは多分ね、ここで亡くなった人がその直前に無意識で出した魔法なんだよ」

 それから、エックスは自分の推察を語った。まず、この病院ではきっと沢山の人が亡くなった。それが公平の言っていた噂通りなのかどうかは分からない。まだ生きたかったのに死んでしまう事への怒りも恨みも憎しみもあったのだろう。その感情の爆発が、その人たちの魔力を使用可能の状態にしてしまったのではないか。そして死にゆく際にその暗い感情が魔法になった。そして──。

「幽霊として魔法が発動しちゃった」

「そう。それがボクの推察。で、もう魔力に戻しちゃったので幽霊は出てきません。この世界で言う幽霊ってのが本当に出てくるなら、多分亡くなる直前に発動した魔法だろうね。だから、ボクの世界には幽霊の概念はない。なぜなら」

「エックスの世界の人間は普通魔法を使えないからか」

「そういうこと。というわけで」

 エックスは病院に向き直り、足をぐわっと持ち上げる。

「もう安全なので解体しちゃいます」

 思い切り足を落とし、踏みつぶす。それから軽く蹴って破壊していった。

「そういえばここの地下って何があるんだろうな」

「さあ?キーック」

 エックスが蹴って病院を吹き飛ばすと、大きな穴が開いている。どうやら噂の地下室らしい。

「入ってみる?」

 公平はブンブンと首を左右に振った。仕方ないのでエックスがのぞき込む。中の様子に思わず「うわっ」と声を上げてしまう。

「ど、どうしたの?」

「いやあ……中入らなくて良かったねえ。ひっどいよコレ。取りあえずこのままにして明日警察呼ばないと」

「け、警察?いや何があるんだよ地下に?」

「いや……知らない方がいいとおもうけど……」

 そう言ってエックスは公平にこっそりと中の様子を教えた。話で聞いて、想像するだけで気持ちが悪くなってくる。

「聞かない方が良かったでしょ?」

「俺そんなとこに連れてかれそうになったんだな」

 生きている者への怒り・恨み・憎しみが全て侵入者にぶつけられた原因が岩波病院地下には広がっていた。これ以上の具体的な説明はここでは省く。




「いやあ丸1日かかっちゃったねえ。警察も大変だねえ」

「10年以上前の遺体もあったから時系列的には無関係だろうってことで解放されたけどさ、多分まだ犯人だって疑われてるぞ」

「第一発見者ってのは大変だ。かと言って犯人は魔法ですって言って分かってもらえるわけないしなあ。」

 エックスの部屋に戻り、二人は今日の出来事を話している。解体自体は終わったのだが、まだ警察が調べているし、何より地下の惨状を考えると、あの土地はもう使われることはないかもしれない。余りに気味が悪いし縁起もよくない。

「それじゃあ金ももらえないな。怖い思いしに行っただけだったな」

「そうだねえ。まあしょうがないか」

 エックスが公平をつんつんとつつく。細かいことは気にしていないようであった。

 ふと、昨日聞きそびれたことを思い出す。

「なあキャンバスって何?」

「大学」

「それはキャンパスだろ!」

 公平の突っ込みに、エックスは無言で嫌そうな顔を向ける。ちょっとショックを受ける。

「な、なんだよその顔。教えてくれるって言ってたじゃんか」

「聞く?本当に?割とめんどくさい概念だよ?」

「大丈夫だって。俺数学やってるからめんどくさい概念は得意だ」

「じゃあ……」

 ──キャンバスは、魔法使いが心の中にもっている、魔法を描く空間である。魔法領域、魔法空間と呼ぶ魔女もいて、それを持っていることが魔法を使うための必要条件である。

「ええとちょっと待って。必要条件ってどっちがどっちだっけ」

「もう数学止めちまえ」

 エックスは呆れ顔で続ける。「つまり、魔法が使えるなら、キャンバスを持ってるってこと」

 キャンバス内の魔法はそのままでは現実の世界に影響しない。その時点では心の中で描いた妄想と同じだ。現実に持ってくるにはそれ相応のエネルギーがいる。

「それが魔力だな」

「そういうこと」

 キャンバスが大きければ大きいほど強く大きい魔法が使える。小さい紙では小さく見えにくく分かりにくい絵しか描けないが、大きい紙の上になら好きな大きさで分かりやすい絵を描きやすい。イメージが具体的であればあるほど、魔法の力も強くなるが、具体的なイメージを描くためにはどうしても広いキャンバスが必要になるのだ。

「そういう意味もあってキャンバスって呼び方の方がボクは好きだ。魔法空間が広いほど魔法は強力になるって言っても意味分かんないだろ」

「うん。なるほど。何となくわかる」

 自分のキャンバスの大きさを広げるにはとにかく魔法を使って修練を積むしかない。それをすっ飛ばして強くなることは基本的にはできない。

「ボクが魔法を使えないのはキャンバスを持っていないから。公平のキャンバスをくれたらボクだって魔法が使えるんだけどなー」

「嫌だよ。仮に出来てもやらねえよ」

 キャンバスの面積と関連して、魔法使いや魔女の強さを測る数値としてランクというものがある。ランクは0から100の数で表され、キャンバスの面積から求めることが出来る。ランクをX、キャンバスの面積をSと置くと計算式はX=100S/(1+S)であり……。

「待った。ちょっと待て。紙が、紙が欲しい。口頭じゃ何も分からん」

「そんなものはない。まあこれ以上はただただめんどくさいだけだし、これくらいにしとこうか。要するに世界最強の魔法使いになりたかったら、ランク100を目指して頑張ろうってことだ」

 エックスの言っていた数式をスマホでメモする。理解できないことは多かったが、結論は分かりやすかった。特訓すればするだけ強くなるということだ。

「よおし。じゃあ特訓だな。今度はナイトに文句一つ付けられないくらいで完全勝利してやる」




 夜、エックスとの特訓を終えた公平は、彼女のベッドで彼女と一緒に眠っていた。すうすうという大きな寝息にもなれた。スマホを取り出して先ほどの数式を見直す。

「ランクXは100S/(1+S)だろ……。X=100を入れると……。あん?」

 数式がおかしなことになった。最終的に1=0という答えになる。何かの間違いだと思い、最初の式をSについて解いていく。

「S=X/(100-X)……。こりゃおかしくなるはずだ。Xが100だとSが無限大に発散するじゃないか。エックスの奴、人の事散々バカにしておきながら数式間違えたな」

 一つあくびをして、スマホの画面を閉じ、眠る。この数式に間違いはない。公平はランク100になるという意味を、無限大の広さを持つキャンバスを手に入れるという事の意味をまだ理解していなかった。


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