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未知との出会い  作者: En
第二章
59/109

Project "WW" ②

 周囲の揺れに公平は目を覚ます。


「……あれ?俺どうしたんだ」


 立ち上がろうとしても身体が動かせなかった。そこで手や足が拘束されていることに気が付く。辺りは真っ暗で灯りはない。


「何だこれ!?てかここどこだよ!?エックス?おーいっ!エックスー!?」


 公平の呼びかけに彼女の返答はない。代わりに二人の男のうめき声が聞こえてくる。


「卓也?それに勇人か?お前らここにいるのか!?」

「えー……?え?ええ!?これなに!?」

「え?なにこの状況!?ええ!?」


 二人の困惑の声が聞こえる。公平は何だか安心した。最悪エックスはどうとでもなる。本体に戻ればいいだけの話だ。勇人と卓也が無事を確認できればそれでいい。。


「よし。いるな!二人ともいるな!ちょ、ちょっと待ってろ!今この手錠ぶっ壊すから!」

「できるわけねえだろ!」

「この状況でまだ酔ってんのかテメエは!」


 なんとでも言え。魔法の事をこれ以上隠している場合ではない。公平は魔力で身体を強化する。そして腕で思い切り手錠を引きちぎ──。


「痛っ!あれ?」


 ちぎれない。手錠を強引に引っ張ったせいで腕が痛んだだけだ。もう一度魔力を全身に送る。だが身体が強化されない。嫌な予感がした。


「あれ?裁きの剣!炎の雨!おい!」

「こ、公平が狂っちまった……」

「違う!怒りの剛腕!おい、なんでだよ!」

「もうだめだあ……」


 公平は背筋が凍るのを感じた。まさか──。


「酔っ払っていると魔法も魔力も使えないのか?」



 突然周囲の空間の動きが止まった。慣性の法則にしたがい、公平たちの身体が前に転がる。壁が割れて微かな光が漏れた。自分たちが今いるのがトラックの荷台である事は薄々分かっていた。向こう側は立派な日本家屋。黒服の男たちが入ってきて三人を無理やり起こした。


「出ろっ!」

「馬鹿野郎っ!動けねえんだよ!」


 公平は黒服に文句を言う。勇人は掠れた声で彼の名前を呼んだ。


「こーへー。よせー。しげきするなー。ころされるぞー」

「ぐぬぬぬ」

「立てっ!」


 結局三人は黒服に運び出され、屋敷の中に連れていかれた。その中の一室に投げ込まれる。部屋の奥に金髪の若い男が座っている。コイツが黒幕。にしては何だか三下臭い。


「おっつかれちゃーん。へー。どいつが公平クーン?」

「俺だけど」


 公平は無理やり身体を起こす。後頭部に何かが当たった。「うそお」と声が漏れる。「じゅう」と後ろで勇人が言った。多分十ではない。

 冗談ではない。魔法が使えない状況でこんなもの相手にはできない。


「動くなよー。動いたら頭に穴が開くぜ」

「まじか……」

「俺こんなところで死ぬんか……」


 汗が流れるのを感じる。どうにか魔法が使えれば。せめて魔力強化でもいいから使う事が出来れば、この場を切り抜けることができるのに。


「……用があるのは俺ですよね?他の二人は関係ないんで帰して──」


 金髪の男が手で公平の言葉を遮る。


「おっと!その手には乗らないぜ!お前も。そこの二人も。大事な人質だ。あのバケモンを支配するためのなあ!」

「……あ?バケモン?」

「苦労してあんな芝居までやってよーやくお前とあの女を引き離したんだ。この機会を逃すかよ」


 引き離した。そこで公平は理解する。


「ああ。ひかりでエックスにカシスオレンジをかけたのはお前らだったのか」

「ビンゴっ!まあ。アイツに関わったのが運の尽きってことさ。残念だったな!」

「……運の尽きねえ。アイツに関わったら運の尽き、か。確かにそうかもな」


 その時天井と部屋の間を、高速で何かが通りぬけた。金髪の男が反射的に見上げる。ずずっと音がして、部屋の柱がズレた。


「え?」

「エックスを呼んじまったんだ。おしまいだよお前ら」


 天井を巨大な手が掴んで持ち上げる。日本庭園に手に持ったそれを投げ捨てた。金髪の男が天を見上げる。剣を構える魔女の巨体。その緋色の瞳がのぞき込んでいた。



「……何してんのこんなところで」


 勇人と卓也も上を見上げる。恐怖で大人しくしていた二人はより大きな恐怖で悲鳴を上げ、そしてそのまま意識を失った。


「な、なんでここが分かった!?」

「んー?愛とか絆とかの力かな?」


 公平はそれで合点がいった。今現在自分のいるところに直接裂け目を開いたのだろう。エックスが身体を落とす。


「う、動くな!人質!人質が見えないのか!?」

「人質?ああ」


 エックスが黒服に目を向ける。すると三人に突き付けられていた銃が全て潰れた。茫然として、自分の持っている銃を見つめている黒服を三人とも摘まみ上げる。そのまま屋根の残っている部分に降ろした。これで黒服は無力化された。


「で?」

「こ、こ、こうなったら……」


 金髪は右手をエックスに向ける。公平の目が見開かれる。


「『バレット』!」


 魔法。黒色の銃が現れる。


「くたばれバケモノ!」


 その引き金に指をかけ、引かれる──、直前に銃が消えた。空っぽになった手に金髪は困惑している。「あれあれ」と間抜けな声で言っていた。


「な、なにを……」

「なにって……。魔法を魔力に還元しただけだけど」


 言いながらエックスは金髪に手を伸ばす。きゃあきゃあ叫ぶ彼を前に複雑な心境になった。何だか弱いもの虐めしているみたいだ。こっちは別に悪くないのに。人間を相手にするとこっちが悪者みたいになってしまう。

 大きな音が響いた。エックスの手と金髪の間に、成人男性と同じくらいの大きさの十字架が落ちてきた。思わず手を止める。彼女も気が付かないうちに、屋敷の屋根の上に、その女性は立っていた。天井に開いた大穴から飛び降りてくる。その姿に思わず公平は叫んでいた。


「アンタ……明石四恩!?」


 白衣を纏った彼女がニっと笑っている。金髪の男に振り返って言った。


「ハア。困るよ東サン。こんなことをさせるために魔法を教えたのではないのだけど?」


 魔法を教えた。知り合いのような口ぶり。ここに現れた以上何か事情を知っているはずだ。目的は一体何なのか。公平はゴクリと唾を飲んだ。




「……なんだっただろうね。アノ人」

「さあ……。吾我は何も言ってこないし」


 公平とエックスは再び明石四恩と対峙した。だがその場で特に何かすることもなく帰ってきたのである。何か知っていそうなのは吾我とその仲間たち。連絡先を知っているはずの吾我にはウィッチとの戦い以降電話が繋がらないので結局何も分からないままだった。明石の情報が欲しくないかと言われれば、それは嘘になる。


 それでも何もしなかった理由は一つ。公平の友人二人。予定では楽しいこと三昧だったはずなのに、酷い目に遭わせてしまった。四の五の言わずに彼らを逃がす方が大事だと判断したのだ。手がかりが途絶えることになるが仕方がない。


「そういうワケだからボクは帰る。この場は見逃してもいい。でも次はないよ」


 エックスは最後だけわざと少し低く言った。ちょっと驚かしてやるつもりである。明石はにっこりと笑って受け流した。


「キモに命じておくよ」


 その悪びれない態度に若干ムッとしながらも知らんぷりする。これ以上彼女に構っていても仕方ない。公平と、恐怖のあまり気絶してしまった二人を摘まみ上げ、空に上がり、一度自分の部屋に帰ってきたのである。眠る二人を机の上に下ろし、じいっと見つめる。


「どうしよ……」

「うーん。まあ時間がこんなじゃなかったら送って行っても良かったんだけど」


 既に日付が変わっていた。流石にこの状態で彼らの家に押し入って置いていくには時間が遅すぎる。酔っ払ったふりでもしていけばその時は誤魔化せるかもしれないが今後の付き合いに関わってくるだろう。


「まあ手段は二つだな。一つは俺の実家に行って泊めてやること。もしかしたらワンチャン悪い夢だと思ってくれるかも」

「ああ……。うーん。うまくいくかなあ……。もう一つは?」

「全部バラしちゃう」

「……うーん。それは嫌だけど。けどなあ……」


 エックスは少し考えた。机の上の二人を、もう一度見つめてみる。




「う、ん……。ここは?」


 優しい香りに卓也は目覚めた。身体を起こすと公平が、机の前に座ってお椀で何かを飲んでいた。


「ああ起きたか。味噌汁飲む?」

「え?ここどこ?」

「今俺が住んでるトコ」

「は?じゃあ新潟じゃねえのかよ。え?何で……」


 段々と、昨日のことが思い出されていく。攫われたこと。銃を突き付けられたこと。それから……。


「わーっ!」

「うおお。びっくりした」

「だってお前昨日、あー!えー!?あっ夢!?夢だったのアレ?」

「うーん……うるさいなあ」


 勇人も目を擦らせながら起き上がる。卓也はその肩を掴み、ぶんぶんと揺すった。


「おい!昨日!昨日!」

「昨日?昨日って……。きのう……。きのー!」


 二人して昨日昨日と騒いでいる。完全に錯乱状態だ。やっぱり実家に連れて行った方がよかったかなと思う。気持ちは分からないでもないが。次に卓也は公平に掴みかかってきた。思わず逃げ出しそうになるが間に合わない。


「こ、こここ公平?昨日。昨日?昨日!」

「う、うん。うん!分かった分かった!取り敢えず落ち着こう。朝ごはん食べよう?なっ?」


 公平はそう言って彼を振りほどくと、小鍋から味噌汁を二杯お椀に掬い、机の上に置く。ほかほかのご飯と納豆も一緒だ。卓也と勇人は言われるままに机の前に座り、震える手で味噌汁を飲んだ。


「……あ。うまい」

「ああ……。ちょっと落ち着いたかも。俺ちゃんと生きてる」


 公平はほっと胸をなでおろした。何とか。少し落ち着いたようである。


「ところで昨日の事だけど……」

「いやよく考えたらあんなん夢に決まってんだろ」


 卓也が納豆をかき混ぜながら言った。勇人は味噌汁を静かに飲んだ。ほうと息を漏らす。


「そーそー。銃突きつけられるとか。巨人とか。あんなおっかないこと現実にあるもんか」

「そーそ。あるわけないあるわけない」


 卓也と勇人はないないと可笑しそうに笑っていた。おかしいと思わないのだろうか。公平は疑問に思った。二人してまるで同じ夢でも見たかのように話しているのに何も違和感がなさそうである。だが公平はそれについては話さない。食べている最中にまた騒がれたら危ない気がした。


「あー美味かった」

「なんか久々にちゃんとした朝ごはん食べたかも」

「よかったよかった。じゃあ家まで送るよ」


 公平は立ち上がって玄関に向かう。卓也と勇人はそれについていく。


「そういえばここドコ?」

「公平の家だって」

「え?アイツの実家こんなんだっけ?」

「今住んでるところって言ってたけど」

「え?じゃあ新潟じゃないの?」


 玄関のドアノブを公平は捻り、外に出る。卓也と勇人はあーだこーだ話しながら外に出た。

 外に出たら。また家の中だった。ただし、全ての家具が巨大で。まるで小人になって人の家に迷い込んだか、あるいは巨人の家にいるかのようで。そして実際に。


「ど、どーもぉ……。ご飯、美味しかった?」


 巨人が。いた。


「うわーっ!出たーっ!」

「いやあああ!食べられるぅ!」

「た、た、食べないよ!」


 エックスは二人の様子にあわあわしている。公平は逃げ出そうとする彼らを何とかその場にとどめた。


「落ち着けって!昨日一緒に酒飲んだだろ!?」

「はっ?昨日?昨日!?え?」

「なにいってんだ!?巨人と酒飲んだ記憶ねえよ!?」

「いいからよく見ろ!さっきのご飯だってアイツが作ったんだぞ!?」


 無理やり二人の顔をエックスの方に向ける。彼らの怯えた顔が自分に向けられ、一瞬エックスはたじろいだ。それでも何とかにっこりと微笑んでみせる。まじまじと。二人は巨人の顔を見つめる。緋色の目。愛らしい笑顔。一回一緒に飲み会しただけでも、その顔を覚えていた。


「え。ええ……?」

「え?エックスさん……?」

「ハイ……。エックスさんでした……」


 エックスは、ばつが悪そうに手を挙げて言った。公平は深く息を吐いた。朝からどっと疲れた。




 公平はそれからエックスとのことを改めて話した。初めて彼女に会った時。告白した時。一緒に魔女の世界に行った時。色々。


「……お前いつの間にそんなことになってたの?」

「えーっと。いつの間にか」

「夫婦って冗談じゃなかったのか……」

「エックスには戸籍無いから法的には違うけどね」

「精神的には夫婦ですケド!」


 よく分からない。よく分からないけれど。二人はそういうものだと思うことにした。どこかで自分の思考と現実に折り合いをつけないと何かに置いて行かれそうだった。


「えーっと取り敢えず」

「エックスさんは、昨日見たままのエックスさんってこと?」


 エックスは顔を赤らめて、くすぐったそうに笑った。巨大なままの自分をそれでも受け入れている気がした。


「えへへ。そう言ってもらえると嬉しいなあ」


 その姿に。何だかよく分からないけれど、公平に対する殺意が湧いた二人であった。




「あー疲れた……」


 二人を送り届け、ようやく落ち着いた公平である。エックスはそんな姿をニコニコと見つめる。


「ふふふ。公平の作戦成功だねえ」

「朝ごはん作戦だいせーこー」


 公平は力なく手を振る。美味しいご飯を食べれば人間落ち着くものだし、美味しいご飯の作り手の事はそれだけで少し信頼できるというものだ。出来れば優しい味がいい。日本人なら味噌汁かなと考えた。卓也と勇人が眠っている間にエックスに作り方を教え込み、何とか美味しいものを用意した。自分で作ってもよかったが、あまり彼女に嘘をつかせたくなかった。本当のことを話そうとしたのだから。

 ずうんとほっぺたを机につけて、疲労困憊といった様子の公平に巨大な緋色の目が近づいてくる。

そんなエックスを少し見上げた。


「うん。本当によかった。ありがとね」

「ああ。でも俺疲れたな。気分転換に遊びに行きたいな。どっか行きたいところない?」

「ふふ。そうだなー。じゃあボク本屋さん行きたい。あっ!そうそう。この前読ませてもらった漫画だけどさ。何であんな中途半端なところで止まってんのさ」


 公平の実家でエックスが読んでいたのは料理漫画。その18巻まで。コンテストの最終戦。敵の料理が絶賛される中、主人公の料理が満を持して姿を現す──。というところで終わっている。新潟から引っ越して来て以降、何となく買うのを止めていた。


「あっ。もしかしてまだ新巻出てないの?」

「いや……?とっくの昔に完結してたと思う」

「先が気にならないの?結局どんなのが出てくるのかも書いてないんだよ?」

「いやあ。なんかどーでもよくなっちゃって」

「むー。どういう神経してるんだ」

今日はちょこちょこ書いたものを直しました。

読み直したら誤字脱字が酷いんだコレ。

なにか問題あったら報告いただけるとありがたいです。

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