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未知との出会い  作者: En
第二章
54/109

「魔女」の世界⑪

「『ギラマ・ジ・メダヒード』!」


 ウィッチの炎がエックスの矢と直撃する。二つの力は拮抗していた。相殺した瞬間に生じる衝撃に乗じて逃げることができれば──。そこまで考えた瞬間、背後からの未知の一撃に打ち抜かれる。そのエネルギーはウィッチの身体を駆け巡り、炸裂した。

 公平は炎に包まれるウィッチを見つめて、思った事を口にする。


「ズル……」

「ズ、ズルくないよ」


 『未知なる一矢』は発動の瞬間に相手からその魔法に関する記憶を消し去る、不可避の矢。避けても追跡し、破壊しても破片が次の矢になって、対象を打ち抜くまで止まらない。『完全開放』になれば相手の死角から放たれる、より強力な『二の矢』が追加される。多くの魔女と戦い続けなければならなかったエックスが編み出した切り札の一つである。敵を倒すことしか考えていないのでちょっとズルイのだ。


 その手に構えた矢を離さず、ずんずんと地面を踏み砕きながら尻もちをついているウィッチに向かっていく。最早足元に人はいない。みんな逃げていったので気を遣う必要はなくなった。


「さあどうする?また傷を治す?」


 既に傷は治していた。だが反撃も逃走もできそうになかった。エックスの矢に対抗する術をウィッチは持っていない。仮にあったとしても、放たれた瞬間に記憶を失うので対処できないのだが。

 ウィッチは諦め顔で両手を上げた。


「こーさん。負けよ。アタシの負け。もう人間を食べたり殺したりしないからさ。見逃してくんない?」


 エックスは足を止めた。更にウィッチは続ける。


「なんなら、ホラ。さっきのアレも治してあげるし」


 右手に見えるビルの屋上から光があふれる。先ほど公平がミライを下したところだった。


「あれ?……あれー!?なんか治っちゃいました!?」


 エックスの耳にミライの声が聞こえてくる。元気で明るく、それでいて困惑している様子だ。エックスのそれと違い他人の傷まで治すことができる魔法らしい。ウィッチは嘘をついているわけではない。本当に敗北を認めたのだろう。だがそれでも野放しにはできない。


「見逃してやってもいいさ。……けど代わりに、キミの魔法を預からせてもらう」


 そうしてエックスは矢を解除し、魔法を奪う『悪魔の腕』を発動させようとする。その時ウィッチの背後から見知った声が聞こえた。


「相変わらずだなエックス」


 咄嗟にエックスは後ろに下がった。ウィッチは太陽みたいに明るい表情で振り返る。


「ソード!」


 裂け目を越えてソードが現れる。公平は初めて見る魔女だった。だが知らないわけではない。エックスの魔法を奪い、所持している一人だ。銀髪の女騎士、といった見た目。他の魔女と同様美しい顔立ちをしている。青みがかった瞳が映えて見えた。


「どうやら大変だったようだなソード殿」

「そう!そうなの!アイツ人間のくせに生意気でさ!」


 ウィッチはソードに駆け寄った。そんな二人の様子にエックスは合点がいった。


「ソードと組んでたのか……!通りで都合よくヴィクトリーが足止めされたわけだ」


 ウィッチは得意げにエックスの方に振り返った。


「そういうこと!ってなわけで形勢ぎゃくてーん!こっからはアタシらのター、グッ!?」


 そしてエックスも公平も、ウィッチも言葉を失った。ソードの手がウィッチを背後から貫いている。その手は輝く光の球を握っていた。


「あれはウィッチのキャンバス!?」


 ソードは腕を引き抜きウィッチを蹴り飛ばした。状況が理解しきれない彼女はソードに縋りつく。魔法を失った彼女にはこれ以上傷を治すことは出来ない。流れる血は止まらない。


「なに、を?なんでこんな」

「喋るな野蛮人」


 そう言ってソードは剣の魔法でウィッチを下から上へと切りつけた。その勢いで彼女の身体は血をまき散らしながら上昇していく。

 ソードはウィッチを視界に捕らえると右手を前にかざした。


「まずい!」


 エックスは慌てて飛び立ちウィッチの元へ向かおうとする。ソードはそんなエックスの目の前にいくつもの剣を落とし、足止めする。


「本当に相変わらずだな。千年前と何も変わっていない」

「……いいや!あの時とは違うっ!」


 エックスの思いは伝わっている。彼女の肩にさっきまでいた公平は、既にウィッチのところへ向かっていた。決着はついた。奪ったのが誰であっても、ウィッチは魔法を失っている。これ以上攻撃する必要はない。ましてや止めを刺すなんて──。


「なるほど。アレがお前のお気に入りか。これは困ったな」

「なに?」

「『断罪の剣・完全開放』」


 エックスはその魔法に愕然とし公平を見上げた。


「巻き込んでしまっても恨むなよ」


 ウィッチの周囲に巨大な剣が13本、彼女を取り囲むように生成される。剣と剣が光の線で結ばれて球体上の網を構築した。公平はその中心にいるウィッチを逃がすために、裂け目を開こうとした。だがどういうわけかそれが出来ない。


「なんだこれ……?」


 やむを得ず直接飛び込んでいく。加速していき上空のウィッチに向かう。『最強の刃』を先に放ち剣の一つに向かわせた。


「公平ダメだ!」


 いつの間にかエックスが背後に迫っていて彼を捕まえる。『刃』が一つの剣を消滅させた。自動攻撃機能により次の剣に向かっていく。


「む。それは困る」


 ソードは手をくるりと動かした。静止していた残りの剣たちは同時に動き出し、ウィッチの全身を貫いた。


「……あ、あ」


 弱々しいとぎれとぎれの声が公平の耳に届く。またその血が公平を赤く染める。咄嗟にエックスは彼を胸に抱え振り返った。次の光景を絶対に見せないようにぎゅっと身体に押し付ける。

 そして、公平の小さな鼓膜を突き破ってしまうような巨大な爆発音が響き渡った。



 地上に血の雨が降る。何らかの肉片と、それからウィッチの身体が、もぬけの殻となった建物をいくつも押しつぶした。地面が大きく揺れる。その巨体はもうピクリとも動かない。

 エックスと公平の鋭い視線をソードは涼しく見上げている。


「横から余計なことしやがって……!」


 ソードは困ったように銀色の髪をくるくると弄る。


「良かれと思ったのだが。怒らせてしまったな」


 魔女の世界へ通じる裂け目を開いて通っていく。


「待て!」


 エックスは彼女に向かって降下していく。だがしかし、ソードが魔女の世界へ戻るのには間に合わなかった。


「くっ」


 裂け目は消えて、もう何も残らない。血で赤く染まった地面に降りたつ。ソードの行先は魔女の世界。その気になれば追いかけていける。


「いい加減ボクも怒った!ソードを追うよ!」

「当ったり前だ!アイツ一体なんなんだよ!」


 自信はあった。今の公平と一緒ならばソードにだって負けはしないと。

 裂け目を開こうとする直前に思い出す。ヴィクトリーはどうしたのか。まだ通信は繋がっている。エックスは彼女に声をかけてみた。


『ヴィクトリー?今ソードが』

『エックス!?よかった無事だったんだ』

『……まあ。そんな事より、今からソードと戦いに』

『やめておいた方がいいわ』


 エックスの言葉をヴィクトリーは遮った。その後二人は少しの間話し合って、その結果として、エックスは魔女の世界に行くのをやめた。


「エックス?どうした?」

「……少し、作戦立てたほうがいいかも」

「いやいやどういう事だよ。エックスは2つ魔法を取り戻していて、俺も強くなった。そりゃ作戦はあった方がいいと思うけどさ、出たとこ勝負でも負けはしないって」


 エックスはかぶりを振った。


「今のソードは他の魔女のキャンバスを躊躇なく使っている。完全に使いこなせるわけじゃないだろうけど、それでもボクのキャンバスの一部とそれからウィッチのキャンバスを持ってる。下手に手を出せば、やられるのはこっちかもしれない」


 その表情は暗かった。そんな顔をされては、公平はそれ以上何も言えなかった。

 「ごめんね」とエックスは呟いた。

というわけでウィッチ編でした。

後はちょっとしたエピローグがあるだけでこのお話はここまでです。

ここまでお付き合いいただきありがとうございました。

また書き溜めストックが少なくなってきたのでしばらくはストックを書きながらちょっとずつ更新していく形になります。

物語としてはまだ暫く続く予定ですので今後ともよろしくお願いします。

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