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未知との出会い  作者: En
第二章
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「魔女」の世界⑤

 公平はエックスと対峙していた。ウィッチに敗れてから初めての魔法の特訓である。自身のキャンバスをエックスに預け、ウィッチに対する恐怖から解放された公平はリベンジに燃えていた。

 エックスは腕組みして公平を見下ろす。


「今日はボクの指示通りに魔法を使ってみてほしい。他人のキャンバスを使うというのがどういうことか分かるはずだ」

「うん。分かった」

「まずは……『炎の一矢』を出してみて。ボクも一緒に同じ魔法を使うからね。合図を出すからぶつけてみよう。ただし魔女の魔力は使ってね」


 彼女の指示に従い魔法を発動させる。すぐに違和感に気が付いた。いつも以上に魔法が出しやすい。使われている魔力の量が普段に比べてはるかに少ないのだ。

 同じようにエックスも魔法の用意をしている。


「いくよー」


 彼女はそう言うと矢を射る。公平も殆ど同時に放った。二つの矢がぶつかり、そして相殺する。使われた魔女の魔力の量は普段よりずっと少なく済んだ。


「あれえ。俺パワーアップしてない?」

「ワールドのキャンバスを使っているからね」


 心の中にあるキャンバスに現象を描き、魔力によってそれを現実世界に出力する作業。それが魔法。魔女のキャンバスは魔女の魔法を描くのに適している。消費魔力もそれほど多くを必要としない。


「すごい!魔女のキャンバスってだけでか……」


 はしゃいでいる公平を見て、エックスは少し複雑な気持ちになる。彼女の顔は笑っているが、決して本心ではない。だが公平はその本心に気が付いていない。

 次のレッスンに進む。エックスは更に距離を取った。


「じゃあ次。ボクは『裁きの剣』でキミを攻撃するから、『最強の刃』で防いでね。一応言っておくけど絶対に動かないでね」

「オッケー!今なら何でもできる気がする」


  エックスは『裁きの剣』を発動させた。公平も右手を前に出す。全ての魔法を打ち消す刃のイメージ。


「……うん?」


 が、出ない。エックスは腕を引き、力を溜めている。今すぐにも投げつけられそうだ。公平は流石に慌てた。呪文を唱えずに使おうとしたからだろうか。


「ちょっと待って。『最強の刃』!『最強の刃・レベル1』!おい!出ろよ!」


 自分の手に向かって怒り出す公平。エックスは一言言った。


「そこから動いちゃダメだよー」


 へ、と声が漏れる。彼女に目を向けると、既に剣は投げつけられていた。公平は思わず悲鳴を上げていた。出ろ出ろと喚きながら近づいてくる剣に慌てる。反射的に身体は逃げ出そうとしていた。だがエックスの言葉に従い無理やりそこにとどまる。

 やがて、巨大な光の剣が、公平のすぐ目の前に突き刺さった。剣からほとばしる光のエネルギーが身体をしびれさせる。

 エックスがズンズン歩いてきた。


「おー偉い偉い。動いたら死んでいたかも」


 にこやかに言うエックス。公平はぺたんと腰が砕けてしまった。


「普通に死ぬかと思ったよお」

「あはは。それでどーだった?使えなかったでしょ」


 公平は彼女の言葉に頷く。分かっていてやらせた様子だ。公平のすぐ目の前にエックスの足が落ちてくる。見上げたところで彼女は口を開いた。


「『最強の刃』。ベースは魔女の魔法だけど、公平のオリジナルだ。そういう魔法はワールドのキャンバスでは使えない」


 言いながらしゃがみこみ公平を拾い上げる。


「……オリジナルの魔法が使えないってことは」


「うん。『勝利の鎧』だろ。『確率空間』だろ。あと『レベル2』か。ぜーんぶ使えない」


 戦いようがない。公平は頭を抱えた。そしてある事をひらめく。


「『世界の蒼槍』は?あれはワールドの魔法だから使えるんじゃ」

「ムリ。あんな魔法使ったら公平の魔力が一瞬で空っぽになるよ」

「えー。戦いようがないじゃん」

「そうだよ?」


 公平の言葉に、エックスは頷いて言った。思わず「え」と声が漏れる。


「だから今回は、公平は戦わない。ウィッチはボクが何とかする。今日はそれを確認するだけだったから、これでもう終わり」


 あっけらかんと言い放つエックスの顔。公平は暫くその手の中で茫然と見上げていた。


「……公平?おーい。いいね?」

「い、いや……。よくないよくない。俺だってウィッチと戦える!だって、自分の魔法が使えなくったってさ!ワールドのキャンバスの力で魔女の魔法は強くなっている!」

「でもそれだと公平の戦い方が出来ない」


 エックスは公平の言葉をあっさりと切って捨てた。公平が反論する前に彼女は更に続けた。


「魔女の魔力で強くなった魔法を頼りにどんどん前に出て行くのが今の公平の基本的な戦闘スタイルだ。それが出来るのはいざとなれば相手の魔法を一方的に打ち消すことができる『刃』があったからだよ」

「いや、『刃』がなくったって危なくなれば逃げるし!」

「激しい戦いの中では『刃』を使えないってことが抜けてしまうかもしれない」

「『刃』に頼らない戦い方を覚えれば……」

「そんな時間はないよ」

「ウィッチがいつ来るかなんて分からないだろ!」


 エックスはかぶりを振った。公平は心に冷たい風が吹き抜けたような気がした。


「分かる。というかおびき寄せる。これ以上時間をかけるつもりはない。決着は明日つけるからさ。今回はお留守番しててよ」


 公平は何も言えなくなって、ただ彼女の顔を見つめていた。エックスは慌てた様子で口を開く。


「そ、そんな捨てられた子犬みたいな目で見ないでよお!別に見捨てたわけじゃないから!」


 その後もエックスと話をしたが、その考えは変わらなかった。せめて魔法の特訓だけでもしたいと言ったのだが、それもは許可しなかった。他人のキャンバスはいくら鍛えても成長しない。今の状態では身体を痛めつけるだけだとエックスは考えている。


「そんなことをするくらいならウィッチを倒す準備をするよ」


 そう言いのこして、彼女は魔女の世界へ向かった。ヴィクトリーに協力を求めるという。

 公平はエックスの部屋で一人になった。彼女の使う巨大な家具に囲まれた部屋に一人ぼっちにされると何だか心細くなる。

 明日、エックスはウィッチに戦いを挑む。結局ウィッチに関する情報は殆ど集まらなかった。彼女の事を知っていそうなローズという魔女も行方不明。そんな状況で勝ち筋はあるのだろうか。


「こうなったら……」


 ワールドのキャンバスはまだ自分が持っている。戦おうと思えば戦えるのだ。エックスのいる場所には無条件で移動できる。その気になれば自分もウィッチとの戦いに参戦できるのだ。

 エックスが残してくれた作り置きのヤキソバとポテトサラダを食べ、公平は眠った。明日の戦いに備えて。



「どーせアイツ来るでしょう。どうするつもり?」

「そうだね。このままだとそうなると思う。帰ったら対処するよ」


 エックスはヴィクトリーの淹れたコーヒーを飲んでいる。公平の考えていることは大体分かる。

 既に打ち合わせは終わった。事前に連絡の準備をし、タイミングを見計らって呼び寄せる。

 エックスにはもう一つ確認しておくべきことがあった。


「朝倉ちゃん元気?」

「ええ。元気元気。いま連れてくるから」


 ヴィクトリーはそう言って席を外した。暫くして手のひらに乗るくらいの大きさの魔法の檻を持ってくる。中には朝倉がいた。鉄格子を押したり引いたりして何とか脱出しようと頑張っている。エックスがその中を覗き込んだ。巨大な緋色の瞳が朝倉の視界一杯に広がる。


「おー元気そう」

「元気じゃないです!早く出してください!」

「いいよ。明日出してあげる」

「え?」


 朝倉の顔がぱあっと明るくなる。彼女には明日頑張ってもらわなくてはならない。

 エックスは朝倉の入った檻をヴィクトリーから受け取り、自室に繋がる裂け目を作る。


「じゃあまた明日。よろしくね。ヴィクトリー」

「うん。また明日」


 部屋に戻ると公平が眠っていた。静かな寝息だった。


「……ごめんね」


 エックスは公平の胸に指を当てた。柔らかな光があふれる。魔法を返したのだ。その身体が少し震えたのが分かった。怖い夢を見ているのかもしれない。かわいそうだけど、それでもいいとエックスは思った。ウィッチへの恐怖を思い出してしまえば、戦場には来られないはずだから。

とある方が感想を書いていたのを拝見しました。


自分の文章を読んでいただき、うちの子をかわいいと言っていただいて素直に嬉しかったです。


お名前は控えさせていただきますが、本当にありがとうございました。


今後とも精進していきますので、またよろしくお願いします。

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