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未知との出会い  作者: En
第二章
47/109

「魔女」の世界④

 翌日、エックスはワールドに会いに来ていた。地下深くに軟禁されている。部屋にまで直接続く道を作って侵入している。サイレンが鳴っているが気にしない。


「あら。早速来たのですね」

「うん」


 思っていた以上に元気そうなワールドだ。


「決していい環境ではありませんが、最悪でもないですね。部屋は殺風景だけど綺麗ですし。着替えもお風呂もありますから」

「そうだね」


 その気になればこの部屋だってワールドは破壊できる。魔法が使えずとも脱出は容易い。それをしないのはエックスや人類との戦いの果てに敗北を認めたからである。

 だが、この部屋がお気に召さなければ何もかも破壊して外に出て行ったのかもしれない。これに関しては吾我たちが頑張ったと言える。人類は魔女を殺すことが出来ず、エックスやヴィクトリーにはその気がない。魔法を奪い、適当なところに閉じこもってもらうのが一番いいという判断だ。


「それで?」

「うん?」

「あら。何か用事があってきたと思いましたけど?」

「え?分かる?」

「もちろんですよ。敵対していたけれど、私たちは友達ですから」


 少しだけ胸が熱くなる。魔女に対してはとにかく優しいのがワールドだ。その優しさを人間にも向けてほしかった。


「実はね」


 ワールドにウィッチの事を話す。知りたかったのは彼女の情報。他に魔女に会った事があるようなことを言っていた。もしかしたら、以前魔女の世界に行った事があるのではないかと。だがワールドの首を縦には振らなかった。


「残念ながら会ったことはないですね。私が知らない魔女なら、他の子が知っているとも思えません」


 ワールドは魔女の世界の秩序だった。他所の世界から魔女が現れたとなればその情報は必ず届く。逆に言えば、彼女が知らない以上誰も知らないのだ。


「ああ。でも……」

「でも?」

「もしかしたらローズは知っているかもしれません」

「……ローズかあ」


 エックスの反応にワールドはいたずらっ子の様に笑っている。


「よく知っているでしょう?もしかしたら私以上に」

「うん。まあ」


 エックスはローズという魔女をよく知っている。ローズこそエックスの協力者。というよりエックスがローズに協力しているのだ。


「なあんだ。知ってたんだ」

「そんな事するのはローズくらいです」


 人間世界を最初に見つけたのはアクア、ということになっているが、実際は違う。本当に一番最初に見つけたのはローズだった。

 彼女は小さな生き物が好きな魔女である。かつての戦いでは人間と戦いたくなくて、かと言って魔女と敵対するのも嫌だったので結果的に中立に立ち、何もしなかった魔女だ。

 戦いが終わってからあらゆる世界を渡り、人間が住む世界を見つけたらしい。他の魔女には見つからないようにして、自分の部屋からその世界の様子がのぞき込めるように仕掛けを作り、それを眺めるのが趣味だった。

 人間が頑張るのを見るのが好きで、人間が争うのを見ると悲しくなって、そこから立ち上がるのを見て応援していた。だがその世界をアクアが見つけてしまった。自分たちの玩具にしようとする彼女に困り果て、追放されたエックスを見つけ出し、助けを求めたのである。


「夢は人間の子供と日向ぼっこすることなんだってさ」

「そんな事初めて聞きましたけど」

「ワールドは人間嫌いだからね。言うわけないよ」


 ローズの事を談笑して思う。確かにウィッチが会ったことのある魔女とはローズのことかもしれない。人間世界をずっと見てきたのだ。もしかしたら彼女の情報を持っているかもしれない。


「ローズがどこにいるか知ってる?」

「いいえ」

「だよね」


 彼女はエックスに助けを求めてすぐに魔女の世界を離れた。万が一にでもワールドに知られたくないかららしい。人間の事に関してのみ、ローズとワールドの意見は合わないのだが、基本的には友人なので嫌われたくないのである。


「まああの子がいなくなってすぐに貴女が現れたので何か関係していると思いましたが」

「あの子クールっぽいのにちょっと抜けてるよね」


 それがローズらしさだ。彼女のそういうところがエックスもワールドも好きだった。もしかしたら公平に似ているかもとエックスは思う。


「……魔女の世界はどうなっていますか」


 ワールドの言葉が空気を少し重たくする。それはエックスも気になっていたところだ。ヴィクトリーは自分に任せてほしいと言っていたが。


「ソードが何かしていないか、心配です」

「ソード?何で?仲いいんじゃないの?」


 エックスから魔法を奪った魔女の一人。ソード。彼女はワールドと近い性格である印象がある。秩序を重んじ、魔女の事を第一に考えている。

 だが、ワールドはそれを否定した。


「貴女が離れている間に、みんな少しずつ変わりました。ソードは特に顕著に」


 戦いが終わり、魔女による世界の統治が行われるようになった。それから暫くは、ワールドとソードは二人が中心となってルールを決めたり、他の魔女のために働いたりしていた。だがそれが100年、200年と続いて、退屈が魔女の世界を包み込んだころ、ソードはある提案をした。他の世界を侵略しないかと。


「……退屈なのは分かっていましたから、自由にさせていましたけど」


 当然のように、魔女の力はあらゆる世界を破壊した。侵略と言いながらも彼女がやったことは破壊と蹂躙だ。壊された後の世界には何も残らなかった。彼女の行為は侵略とすらいえないものだったのだ。


「そこから魔女の間で異世界を襲うのが流行しました。アクアもあの世界を攻めようとしたのですが。結果は貴女も知る通りです」

「……そうか。ソードは優しい子だと思っていたけど」

「魔女の身体はどれだけ時間が経っても全盛期のままです。ですが、心まではそうじゃあない。どうしたって劣化し摩耗する。一人で追放された貴女はどうしてちっとも変わらないのか教えてほしいくらいですね」


 まるで無神経だと言われているようで少しムッとする。そんな表情にワールドは微笑んだ。


「……とにかく。貴女がこれからも人間の世界を守るつもりなら忠告しておきます。ソードの動きには注意してください」


 エックスはその言葉に頷いた。



 ウィッチはある異世界に来ていた。これまで出会った二人の魔女。その力と似た気配を無数の世界の中から辿り、そして見つけ出した、二人の魔女のルーツとなる世界。即ち魔女の世界だ。


 彼女の到来は誰にも気が付かれなかった。姿や魔力の痕跡を隠すのは得意だった。


 大きな力を探る。この世界の支配者は誰か。そして簡単に見つけ出す。たどり着いたのは王宮の様な建物だった。堂々と中に入る。巨大で立派な玉座があり、そこに銀色の髪を揺らす屋敷の主が座っていた。ウィッチは笑顔で手を振る。


「ハロー。アタシはウィッチ。見ての通り貴女と同じ魔女だよ」

「見たことのない魔女だな」

「よその世界から来たからね」

「ほう」


 主の青みがかった目が輝いたように見えた。どうやら興味を持ったようである。玉座から降り、ウィッチの前に立つ。


「私はソードという。歓迎しようウィッチ殿」


 差し伸べられたその手をウィッチは握った。


「うん。よろしく。今日はお土産持ってきたんだー」

「土産?」


 ウィッチは黒いローブの胸元に手を突っ込み、皮の袋を取り出した。ひっくり返すと十人前後の人間たちが落ちてくる。エックスたちがやってくる前に捕まえておいた。後でおやつにしようと思っていたのだ。手の上で震えている彼らをソードはしげしげと見つめた。


「随分と怯えているな。まあ無理もないか」

「まあねー」


 言いながらウィッチは一人を摘まみ上げる。


「これ美味しいんだよねー」

 それを口に運び、その感触を楽しむ。暫くそれに夢中になっていた。だがソードの表情に気付くとその笑顔も曇った。


「あれ……?なんかマズかった?」

「……いいや。そういう趣味趣向があるのを否定するのはよくないが」


 ソードはの世界に住む魔女たちは人間を食べるということを忌避しているとウィッチに話した。


「ふうん。じゃあアイツもアタシのことおかしな奴みたいに思ってたのかな」

「アイツ?」

「なんて言ったっけ……。そういえば名前聞かなかったな。未知なる~とか言ってなんかの魔法使おうとしてた気がするけど」

「ああ。エックスか……」


 そんな魔法を使うのは彼女以外には存在しない。かつて自分が魔法を奪った魔女。ワールドから他所の世界で相変わらず人間を守っていると聞いてはいた。それがウィッチの出身の世界だとは思わなかったが。


「へえーそんな名前なんだ。アイツキモイよねー。魔女のくせに人間なんか守っちゃってさ。ムカついたから泣かせちゃった」

「ほう。ウィッチ殿は手練れなのだな。半分以上魔法を失っているとはいえ、あのエックス相手にそこまで」

「まあね」


 ウィッチは得意げに胸を張る。ソードはそんな彼女に微笑んだ。


「頼もしいな。アナタとは良い関係を築きたいと思う」

「まあそのつもりで来たんだけどねー。けどお土産は失敗したなー」


 彼らの乗せられた手が少しだけ握りしめられていく。殺すつもりはまだないが、彼らの悲鳴を楽しんでいた。


「いや……。せっかくの品だ。いただいてもいいだろうか。出来ればつがいで三組」


 その言葉にウィッチは少しだけ驚いた。


「別にいいけど……。こんなの何に使うの?玩具?」

「いいや。殖やそうと思ったのだ」


 人間を食べるのを嫌っているのは今の魔女の価値観だ。これもいずれは変わっていくかもしれない。ならば今の内から彼らを繁殖させるのも悪くはないのではないか。それがうまくいかずともよい。この世界において人間は絶滅危惧種。魔女の玩具として消費され、数を減らす一方。数は少しでも多い方がいいのだ。そういうことを話すとウィッチの目が輝いた。


「ウィッチ殿にもいつかはこの世界に住んでもらいたい。そのためにも人間は殖やしておかねば」

「へえ。うん良いよっ!元々あげるつもりだったしっ!」


 ウィッチは手を開いき男女三組を適当に選んでソードに渡す。それぞれ若く顔もいい三組だった。自分のおやつの中でも特に出来の良さそうなのだけを渡したつもりである。

 ソードは満足げに彼らを見つめた。


「うん。ありがとう友よ」

「いえいえー!じゃあ!今日は帰るし!また来るねー!」


 そう言ってウィッチは魔法陣を作る。笑顔で手を振りそれに入っていく。ソードは魔法陣が消えるまで手を振り返していた。その後彼女は玉座に戻る。


「ふんっ。野蛮な獣め……」


 吐き捨てるように言い、右手の中の六人に目を向け、優しい声のトーンで語り掛ける。


「すまないな。異世界の人間たちよ。あの場で全員を救うのは叶わなかった」


 ウィッチの恐怖から解放されてもまだ魔女の手の上。だが彼女の慈愛に満ちた表情と声に少しだけ安心した。


「できれば今すぐに元の世界に帰してやりたい。だが、その前に。図々しいとは思うがこの怪物の頼みを聞いてくれるだろうか」


 六人の間に一瞬困惑の空気が広がる。だがそれでも最後には話だけでも聞こうと彼らは決めた。命の恩人の頼みである。その返答にソードは微笑んだ。


「ありがとう。さっきも言ったが、この世界の人間はほぼ絶滅している。彼らとはどうしても相容れることのできない部分があった。命を賭けて戦い、勝利しなければならなかった」


 ソードは左手で苦悩するように顔を覆う。


「だがそれは間違いだった。人間がいなくなり、世界の文化は停滞した。私たちは退屈の中で彩りのない毎日を生きているのだ。……だが」


 指と指の隙間から、ソードは右手にいる人々を見つめる。


「私の仲間から聞いた。エックスという魔女はあなた方の世界で楽しそうにしていると。仲間はそれにいい顔はしていなかったが、私は寧ろ逆に思う。私たちが本当に必要にしているものは魔女と人間が共に生きていける世界なんだ」


 両手で彼らを包むようにして、顔を近づける。


「こんなことを言うのは最低だと思う。嫌なら断ってくれて構わない。……だがもし。私たち魔女と貴方たち人間が共に生きていける世界を創り出すのに協力してもいいと思ってくれるのなら。子供を産んでくれないだろうか。新しく、魔女の世界で生きる新しい子供を」


 ソードの言葉とその表情に、彼ら六人は決心した。

 その慈愛の表情の裏側にある真意には気が付かないままで。


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