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未知との出会い  作者: En
第二章
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「未知」の昔話③

「で、使えるようになった魔法でX04をやっつけた。世界の外に追放したんだ。で、そのX01が実はボク」

「やっぱりエックスじゃん」

「公平があんまり言うから予定より早くネタバラシすることになっちゃったんだけど!」


 エックスは少し腹を立てている様子だ。それが公平にはおかしかった。


「ゴメンゴメン。それよりなんだザクっとした説明は。急に面倒になったの?」

「いや本当にこれ以上話すことがないんだよね。この件に関しては」


 少し疲れたのかエックスはペットボトルのお茶を飲み始める。こくこくとかすかな音が公平の耳に届いた。口を離してほうと息を吐く。彼女はこの後の出来事を語り始めた。


 魔法が使えるようになって、巨人は魔女と呼ばれるようになった。X01は二人の妹と空で暮らし始めた。


「ずーっと裸だったのは不便だった。魔法が使えるようになってようやく服を着れたんだ」


 エックスはしみじみと言う。X04をやっつけるのに活躍したのに服を貰えなかったとのこと。結局魔法を使って自分で作ったらしい。


 最初の魔女であるエックスたちが空に上がってからも魔女は増えていった。新たな魔女には魔法を教え、空に連れていく。何度かそれを続けて百年くらい経った頃、雲の上に魔女の社会が出来上がった。人間と完全に袂を分かつことでエックスはずっと求めていた静かな暮らしを手に入れた。このまま静かにのんびりと仲間と暮らす。そういう未来が見えてきて、エックスの心は暖かくなった。


 だが、全ての魔女がそれをエックスと同じ考えではなかった。遥かに弱い人間という生き物に地上を明け渡し、自分たちは空に追いやられている。そんな現状は納得できない。人間から地上を奪い返そうと考える魔女の一団が出来上がった。そんな彼女たちのリーダーが、ワールドだった。


「地上にいればまた戦いに巻き込まれる。ボクは静かに暮らしたいだけなんだ」


 エックスが何を言おうとワールドたちの考えは変わらなかった。


「人間を滅ぼしつくして、地上で静かに暮らせばいいでしょう」


 ワールドは静かに、だがはっきりと言った。


「私たちは人間よりはるかに強くこの世界の支配者にふさわしい生き物に進化したのです。地上を下等な虫けらどもが跋扈し、私たちが空に追放された。この現状が正しいと言えますか」


 ワールドは多くの魔女を連れて地上に降りていく。エックスの胸の奥が悲しい気持ちでいっぱいになる。人間と争いたくはないから空に昇った。雲の上で生活することを選んだ。だけどそれはエックスの答えで、全ての魔女が自らそれを選んだわけではない。

 エックスはワールドの一団の前に回り込み、彼女たちの進む道を塞いだ。


「ダメだ。どうしても行くならボクはキミ達とも戦う」

「……どうして?貴女が人間だったのは百年も前じゃないですか。地上に守るものなんて何もないでしょう」

「ずっとずっと昔、ボクは人間を守るためにX04と戦った。ここでキミたちを素直に進ませたら、あの日のボクを否定することになる」


 人間を守る義理なんてない。だがそれでも彼らを守ると決めた自分がいた。その決断を守るためだけに、エックスは人間を守ることを選んだ。

 

 その日からワールドたちとエックスの戦いが始まった。


 X04の時と違い、エックスは魔女たちを大事に思っていた。共に暮らす仲間だった。どれだけ強い意志で立ち向かおうとも、戦いになればその気持ちが邪魔をする。一方でワールドたちには容赦がなかった。魔女の未来のために戦う覚悟ができていて、エックスが立ちはだかることも予想できていたのだ。

 精神的には不利な状況ではあったが、それでも最初の内は魔女に誰も殺させず防衛し続けることができていた。当時のエックスはそれだけ圧倒的に強かったのである。

 二人の妹や穏健派の魔女は戦いには参加しない。これは殆どエックスのエゴである。だからこそ戦うのは自分だけでいいというのがエックスの考えだった。


 エックスと魔女は戦い続けた。百年戦って、二百年戦って、やがて状況が変わった。エックスにとっては、最悪の方向に。

 魔女の戦いに人間の軍隊が参加するようになったのだ。技術力の進歩により開発された新兵器の数々は魔女を殺すに足ると判断した。実際には傷一つつけることも叶わなかったが、それでも魔女と見れば無駄でも攻撃してくる。それがエックスでもお構いなしだ。


 魔女からも人間からも敵と見なされ戦い続ける中で、エックスの身体は傷つかずともその心は傷付き続けた。少しずつ、その心は擦り減っていき、そして遂に、一つの街を壊滅させることを許してしまったのだった。



「……あとは、もう何もしなかった。もう疲れちゃったんだ。空にボクだけの家を作って、そこに引きこもっていた。暫くしてワールドたちがやってきた」


 エックスが居なければ人間の社会なんて容易く破壊される。何度も魔女と戦いその力を目の当たりにしている公平には分かった。すぐに決着はついたのだろう。。


「ボクに魔法を持たせてはおけないって、五人がかりで魔法を取られた。ワールド、ヴィクトリー、ソード、トリガー、そして……X04に」

「X04?ソイツ追放されたんだろ?」

「ワールドがどこかから見つけてきたんだ。魔法を取られた後、引きこもってた家ごとボクも追放されたわけだけど」


 それから千年。彼女は一人だった。公平たちの住む人間の世界が魔女に狙われていることをある魔女から聞いた。そしてふと、人間を利用しながら魔法を取り戻しつつその世界を守るのもいいかもという気分になった。


 この話は以前公平も聞いた。その時にも思った事だが、そういう気分になったからというのは理由になっていない。


「で、キミに出会った」

「……そうだな。踏みつぶされそうになった」

「ふふ……そうだったね」


 エックスは公平の肩に寄り掛かる。


「ボクを最初に見つけてくれたのが公平で良かったよ」


 そう言われると照れ臭い。「うん」というのが精いっぱいだ。




 駅の改札を出ると父が迎えに来ていた。一緒になって隣を歩くエックスを見てきょとんとしている。


「そのお嬢さんは?」

「俺の奥さんだけど」

「奥……?彼女を連れてきたの?お前そういうのは事前に言えよ!」

「いや彼女じゃなくて」

「彼女です!」


 エックスの方が割り込んでくる。公平は小声でエックスに耳打ちする。


「何でだよ。実際結婚してるだろ。精神的に」

「そんなこと言って誰が分かってくれるんだよ。彼女ってことにしておこうよ」


 エックスの方が常識的である。


「突然押しかけてごめんなさい」

「いやいやとんでもない」


 エックスは深々と頭を下げた。顔を上げると公平の父と大体同じ高さの目線である。彼女は人間大に直した身体でも背が高い。緋色の瞳の長身の美人。父は公平に聞いてくる。


「外国の人?」

「……ある意味」

「まあ、取りあえずお母さんに言っとけよ。彼女さん連れてくるって」

「あい」



「へーそんな国があるんですね。知らなかったよ」


 エックスの言った出身国名。こちらの世界にはない国だ。恐らく魔女の世界にあったエックスの本当の出身国だ。平然と言うから父はこの世界にそんな国は存在しないということを分かっていない。こういう事をエックスはやる。

 公平はその話を横で聞きながら母にエックスを連れていくことを連絡した。返事を待たずに携帯をしまう。


 車で十五分くらいで公平の家に着いた。公平が「ただいま」と言いながら玄関を開ければ母がやってくる。


「おかえり~!彼女さん連れてくるなら言ってよ!全然片付けられてないよ!」

「ごめんごめん。……一馬は?」

「今日も帰ってきてないのよ」

「そっか。ふうん」


 公平はエックスの手を引いて一緒に家に入る。手を繋いだまま居間に向かう。エックスは一般的な日本家屋が物珍しいのかあちこちきょろきょろしていた。


「ごめんなさい散らかってて」


 母はエックスに謝った。そこまで散らかっているわけではない。だが今この瞬間は初めて息子が彼女を連れてくるという状況である。

 そういう目線で見ればちゃんと掃除できなかったと言えるかもしれない。悪いことしたなと公平は思った。エックスはかぶりを振り笑顔で返す。


「そんなことないです。ボ……私こそごめんなさい急に押しかけて」

「私!?」


 エックスが表情を変えずに思い切り手を握った。骨が軋む音が聞こえる。危うく叫びそうになる。


「……猫被らなくてもいいのに」


明日も更新させていただきます。

思ったより長くなってしまいましたので今日明日で分割させていただきました。

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