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未知との出会い  作者: En
第一章
36/109

魔女の「世界」⑰

 ワールドの表情が変わる。エックスはそれを見逃さない。一気に近づき、槍と剣で競り合う。

「そんな顔を見るのは今日で二回目だ。予想外の事でも起きたのかな」

「あ、あり得ない。何かの間違いです。あんな虫けらに、あの子が?」

 ワールドは槍から衝撃を放ち、エックスを遠ざける。そして、走り去っていった。

「さて……」

 ここはワールドが歪めた空間。全ての魔法を取り戻した本調子ならともかく、今の自分では脱出にてこずる。

「仕方ない」

 エックスはその場に座り込んだ。後は信じるだけ。公平は必ず、最高のタイミングで自分を呼ぶはずだと。


「はっ!」

 感じる。公平は近づいてくるその気配に気が付いた。いや、公平だけではない。ミライも吾我も誰も彼も、魔女が近づいてくるのに気が付いた。来るとしたら一人しかいない。再び立ち上がり、武器を構える。さっきと同じことをするだけだ。

 ズンと巨大な足が踏みしめられる。見上げれば驚愕のワールドの表情。わなわなと身体が震えている。その視線の先には公平たちに敗れ、人間の身体に戻った朝倉がいた。

 ワールドは朝倉を含めてすべての魔法使いたちと感覚を共有させていた。彼女が見て聞いたことはワールドも知っているのだ。朝倉が敗れた瞬間に起きたことは見えていた。だが、それでもなお、今この目で見ていても信じられない、理解を拒む光景が広がっていた。

「バカな……。不完全とは言え、魔女の力を手にした彼女が敗れるなんて……」

「言っておきますが、私は今日既に一人魔女を倒しています。単独で」

ミライは自慢げに言った。

 ワールドが足元の敵を睨む。甘かった。エックスのお気に入り、公平とか言う名前の虫けら。その命をこの手に掴んだ一瞬があった。エックスとの交渉などに使わずに始末するべきだった。あの人間が起点なのだ。

すでに敵の攻撃手段は分かっている。万が一にも負ける要素はない。

「駆除する」

 足元の虫けらは、もはやただの虫ではない。魔女に危害を加え、あるいはその命を脅かす害虫。毒虫だ。何に変えても全身全霊でもって殺しつくさなくてはならない。魔女の世界のために。蒼い槍が光を放つ。それを前に突き出し唱えた。

「『世界の蒼槍──完全開放』」

 槍が光は大きくなる。ワールドの背には翼が生えた。真っ白な羽をまき散らしながら羽ばたいて、天井を突き抜けて飛んでいく。公平たちはそれを見送った。

「……追うぞ!ここまで来たんだ。行けるところまで行く!」

真っ先に吾我が言い放つ。各々無言で頷き、ワールドの開けた穴に向かって跳びあがり外に出た。一人を除いて。

「エックス……」

 分かっている。ワールドとの戦い、シミュレーションを二人は何度もしていた。こうして分断されることも想定していた。──その上で、ワールドの意表を突く手がいくつか残っている。全てを総動員して必ず勝利を掴む。天を仰ぎ、遅れて公平も飛び出した。


「遅い」

「悪い悪い。……うわあやべえな」

 ワールドの屋敷の屋根の上、遥か上空に彼女はいた。まばゆい光を放つ槍と巨体。その姿は、言いたくはないが、神々しいという表現が最適と言えた。

「あの神様気取りの魔女を堕とすぞ」

 吾我が弓を引いていく。幸いワールドは動いていない。目も閉じている。容易く攻撃を当てられるはずだ。一撃では意味がないかもしれない。だがそれも、何度も何度も繰り返していけば勝利に繋がる。既に経験したことだ。

 放たれる矢はまっすぐにワールドに向かっていく。その時槍の輝きが増したように見えた。同時に地面から木の根が伸びてきて、矢を防ぐ。一体何が起きたのか、公平たちは目を疑った。

「何だ。何が起きた」

 風が吹いてくる。風は竜巻となり、いつしか公平たちはその中にいた。巻き上げられ吹き飛ばされる。身体がバラバラになりそうな勢い。魔法で操ろうとしたが、風に嫌われたように操作ができない。

「……くっ!」

 公平は裂け目を開いた。何とか全員が飛び込んで脱出する。魔女の世界の暗い大地に降り立った。巨大なワールドの屋敷が見える。まだここはその敷地内。竜巻は公平たちに向かってくる。

「……逃げるぞ」

 明らかにワールドの『槍』の力だ。だとしても今は対策が見つからない。敵の魔力が尽きるまで逃げるしかない。

 一歩踏み出した瞬間に地面が柔らかくなった。そのまま身体が沈んでいく。

「自然現象……いいや、世界そのものを操っているのか……!」

キングの言葉。背筋が凍る。これでは本当に神だ。こちらの魔法による操作まで封じてられている。こちらの戦術は制限されている。風を操って飛ぶことは出来ない。

 半身が沈んだところで地面が硬化した。これも『槍』の力。近づいてくる竜巻から逃げられなくなる。

「……ジャック!キング!」

 吾我の声に二人は応える。

「ああ!『クラッシュ』!」

彼のハンマーが地面を叩き、砕く。五人の身体が外に露出した。続いてキングが唱える。「『ジェット・アーム』!これで飛ぶぞ!」

五人の背中にジェット機構の付いた機械の翼が装着される。炎が噴き出し空へと飛びあがる。

「便利ですねキングさん……。一家に一台って感じです」

「魔法って感じしないけどな」

 地面ですら安全とは言えない現状を把握したところでキングは準備をしていた。空を飛ぶための魔法。時間さえあればどんな魔法でも使える男。キングの名は伊達ではない。

「コイツはオマケだ!」

 ジャックが腕を振り回す。ハンマーが巨大化してワールドに向かっていく。先ほどと同じようにワールドは木の根や岩を使って防ぐ。が、ジャックのハンマーはそれらを砕きながら向かっていく。吾我の仲間の中でトップクラスの破壊力を誇るハンマーは全ての防御を突破して、槍を持つワールドの手に当たった。それと同時に竜巻が消える。

「あ……?」

 効いているようには見えなかった。だが結果的にワールドの攻撃を妨害できた。

「攻撃だ……」

 吾我が呟く。理屈は分からない。

「攻撃するんだ!」

 だが目の前で起きた現象をそのまま信じるなら、ワールドの攻撃を防ぐにはこちらが攻撃をし続ける以外にない。その中で勝機を手繰り寄せるのだ。

「なら一つ、頼みがある」

 公平の言葉に四人は顔を向ける。彼は覚悟を決めたように言った。

「五分でいい。とにかく攻撃し続けてワールドの邪魔をして、時間を稼いでくれ」


 『世界の蒼槍・完全開放』。ワールドの切り札にして、世界を操る槍。人間を滅ぼす戦いにも使った魔法だ。それは強力な力を秘めているが故に致命的な弱点を持っていた。発動中、ワールドは制御のためだけに意識を集中させなくてはならない。その為動くこともできないし、僅かな魔法攻撃でも受けてしまえば意識がそちらに向かう。痛みがなくても槍の操作に不具合が生じる。だが、関係ないはずだった。仮に魔女との戦いであっても弱点を考慮しても余りある絶大な力。ましてや相手は人間。戦おうなんて思えるような力の差ではないはずだった。

 なのにどうして。どうして向かってくる。どうしてまだ諦めないでいられる。

 人間の攻撃がワールドを襲う。どれもこれも弱すぎる。まるで痛みは感じない。だが意識はそちらにそれていく。

『ワールド!』

 彼女の頭の中で声がする。これは、アクアの声。

『手伝うよ!あんなのに好き勝手させることないって!』

 他にも友が呼び掛けてくる。思わず笑みがこぼれた。──いけない。集中しなくては。

『ありがとうみんな。だけど大丈夫です。いえ、むしろみんなは逃げて下さい。この人間が魔女をも殺せるのです。ここで、私が、必ず全部駆除します』

 そう言ってワールドの意識は魔法の制御に沈んでいく。これ以降、戦いが終わるまでは他の誰の声も届かないだろう。応援してくれているアクアたちの声も聞こえなくなる。だがそれでも良かった。全ては魔女の世界を守るために。


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