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未知との出会い  作者: En
第一章
35/109

魔女の「世界」⑯

 獣のように叫び続ける。公平は止まることなく走った。一秒立ち止まれば踏み潰される。離れれば攻撃が当たらない。足元を動き続け、同時に攻撃を放つ。顔に当たった炎の矢の連撃は煙を上げるも、それが晴れた先には無傷の笑顔があった。

「はは。ははははは!弱っ!ゴミみたいな攻撃!ざーこっ!お手本見せてあげますね!」

 朝倉は足を大きく上げる。瞬時に公平は彼女の意図に気付いた。エックスと対魔女の訓練を重ねている。魔女がやってきそうなことは何となくわかる。だが攻撃の手は休めない。──逃げることは出来たが、ギリギリまで、攻め続けるべきだと判断した。

 朝倉が思い切り地団駄を踏む。地面が大きく揺れる。動けない。

「あははは!」

 そんな公平めがけて朝倉は足を振り子のようにして蹴ってくる。即ち、今は片足立ち。

「『怒りの剛腕』!」

 巨大な腕を朝倉の顔目がけて撃つ。彼女は容易く受け止める。が、目的はダメージを与えることではない。

「ああっ!」

魔法に更に力を送る。速度を上げ、前進していく。その推進力でバランスを崩すことができれば。

「あら?」

 巨体が倒れ、ズズンと地面が響く。次はこちらの番だ。公平は思い切り飛び上がり、朝倉の真上に行く。同時に眼前にミライが現れた。彼女もまた、対魔女戦の訓練を積んでいるようだ。その身のこなしを見れば分かる。だからこそ、言葉を交わさずとも連携が取れる。

「『裁きの剣』!」

「『魔剣/五月雨』!」

 剣と刀が多重に展開される。二人はそれを同時に弾幕のごとく放った。朝倉は笑っている。両腕で容易くそれらを弾いた。公平はミライの手を握った。

「開け!」

 公平の開いた裂け目に二人で落ちながら飛び込み、再び朝倉から離れた。

「流石ですね。魔女との戦いに慣れている」

「お嫁さんに毎日殺されかけたおかげさ」

 遠くで立ち上がる朝倉を見つめる。今の攻防で一つ、敵の隙を見つけた。彼女は負けるなんて思っていない。完全にこちらを舐めている。本気で殺すつもりなら動けなくなった一瞬で踏みつぶせばいい。わざわざ大振りで蹴ってくるなんて遊んでいる証拠だ。これは朝倉だけに限った話じゃない。殆どの魔女には絶対的な強者であるが故の心の隙がある。これを起点に攻略法を探らなくては、勝機はない。

「どうするか……」

 その時後ろから声がした。公平は振り返った。



「撤退だ」

 吾我はミライが行ってからすぐに言った。魔女には勝てない。もともと魔女と戦うつもりはなかったのだ。これは想定外の事態であり、これを抜きにしても概ね仕事は果たした。少なくとも生徒の救出はクリアできている。十分だ。

「俺達にはまだやることがある。こんなところで死ぬわけにはいかない」

 吾我は人間世界へ通じる裂け目を開いた。だが、ジャックもキングも動こうとしない。

「どうした。早く」

「俺は残るぞ」

 ジャックは吾我に向かって言い放つ。戦っている公平を指さす。

「奴らは仕事でもないのに、まだ戦っているんだぞ?ここで俺たちが逃げていいのか!」

「戦っているのはアイツ等の勝手だ!俺たちは仕事だからこそ生き残るんだ!」

「仕事だからこそ僕らが逃げるわけにはいかないじゃないか。彼らを巻き込んだのはこちらだ」

 離れていく。キングもジャックも。どうして言う事を聞かない。奥歯を噛み締める。その時前触れなく地面が大きく揺れた。今までの揺れをはるかに上回る。見ると巨大な魔女の身体が倒れている。

「はは……。アイツらやるじゃないか!」

「面白い。戦うすべくらいはありそうだ」

 二人の話が耳の中を通り抜けてどこかに流れていく。目の前の光景だけが吾我の頭の中に残った。

「ジャックは前衛の支援を。僕は後ろからサポートする」

「おう!まかせとけ!」

「待て」

 二人が顔だけ後ろに向ける。吾我は裂け目を閉じていた。

「何だいエース」

「俺も前衛に入る」

 二人はニッと笑った。そして彼らもまた、嵐の中へと飛び込んでいく。


「ここから先は俺たちも支援する。魔女と戦えるお前ら二人を何とか守ってみせる」

「つーわけだ。少なくとも手数は多くなるぜ。あのデカ女の弱点を見つけ出すチャンスは増えるはずだ」

 吾我たち三人をミライは冷ややかに見つめる。

「構いませんが、邪魔はしないでくださいね」

「ははっ。厳しいな」

 キングが頭を掻いた。

「公平。エックス……魔女との付き合いが長いのはお前だろう。何か、魔女に攻撃を通す方法はないのか」

「ある」

 周囲の目が見開かれる。公平は朝倉の様子を見る。とっくに立ち上がっているが、こちらに向かってくる様子もない。やはり遊んでいる。話す余裕はありそうだ。

「魔女の身体は二つの要素で守られている。一つは身体自体の頑丈さ。こいつのせいであらゆる兵器・物理的な攻撃が効かない。だけど魔女の身体には魔法攻撃は通用する。そこをカバーするために魔女は無意識に自分の身体を魔力で作られた防御被膜で覆っているんだ。バリアみたいなもんかな」

「つまり、その防御を崩すことができれば……」

 公平は頷いた。絶え間のない連続攻撃。その果てに防御被膜は薄くなっていき、やがて消える。その一瞬にのみ、勝機はある。

「それであそこまで自分の身を顧みず連続攻撃を続けたわけか」

「うん。でも多分、俺一人でもそこにミライがいてもまだ足りない。だから、みんなが来てくれて助かった」

 ミライは何事かを考えていた。次に公平に視線を送ってくる。公平はそれに気づかないふりをした。

「ちょっといいかな」

そこでキングが反論してくる。

「僕はミライが魔女を倒すところに立ち会っている。そこまで激しい連続攻撃を要していなかったと思うが」

「……思うに、ソイツは魔法を使っていたんじゃないか」

 今度は逆に公平がミライを見つめた。彼女もまた、先ほど公平がそうしたように無言で受け流す。公平は更に続けた。

「魔法を使えば防御膜は薄くなる。アイツが不自然に魔法を使ってこないのは、多分遊んでいるからってだけじゃない。防御を崩したくないんだ」

「そうか!魔法に魔力を回せば、必然的に防御は薄くなる!」

 キングの言葉に公平は頷く。エックスやワールドのような一部の魔女は例外だ。いくら魔法を使っても防御が崩れることはない。だが、ついこの間魔女になったような朝倉ではそこまでの領域に達していないはずだ。

「よし!今はこの手に賭けるぞ!」

 皆が魔法により作られた武器を構える。眼前には巨大な影。

「作戦会議は終わりましたか?」

 巨大な声はこちらを嘲笑うかのようだった。ここで必ず倒す。公平は最後に一つ確認をした。

「お前ら魔力を奪えるか?」

「何……?」

 吾我たちの顔を見て納得した。最初から自前の魔力が使える彼らには敵の魔力を奪うという技術は必要なかったのだ。

「俺はそういう事もできる。ここからはそれ中心で動く」

 もしかしたらミライはできるかもしれない。だが彼女には別の仕事を任せたい。

「吾我とジャックは攻撃しまくって防御を崩してくれ」

「ああ」

「任せろ」

「キングは後方から威力の高い攻撃を撃ってくれ。さっき俺がやったみたいにバランス崩して転ばす感じで」

「やってみる」

 最後にミライを見つめる。

「魔女を倒したことがあるんだよな」

「ええ。それもついさっき」

「ならアンタが止めを刺せ」

「いいですね。それ。私が主役じゃないですか」

 刀を握る未来の手に力が籠められる。各々が各々の役割を頭の中で反芻する。公平は深く息を吸い、吐いた。ここから先は呼吸をしている時間だって惜しい。

「いくぞ!」

その声に合わせて地面を蹴る。


「あはははは!そんなんで私に勝てると思ってるんですかあ!?ムシケラさん!」

 愚問だ。勝たねばならないのだ。朝倉の足元にいる吾我からは、彼女の腕からはたき落される公平が見えた。もう何度目かも分からないが、それでも彼は再び朝倉の身体に向かっていく。少しでも多く魔力を奪うにはああして接触するのが一番いいらしい。何度も何度も踏みつけてくる巨大な脚はさながら爆撃のようである。ここから生き延びてかつ攻撃の手は休めない。やっかいな注文だ。

「『オレガフライ』!」

 吾我は蜻蛉を数十同時に発動さえ放つ。

「バラバラに攻撃するより、一点に集中させろ!」

公平の声を受けて、吾我の蜻蛉は朝倉の右足を集中して撃つ。朝倉はそれを気にせず歩いてくる。蜻蛉どころか羽虫のごとく巨大な脚に当たり墜落していく。まるで効いている気がしないがそれで再度展開し攻撃を続ける。蜻蛉と同時に斧を発動させ、跳びあがる。

「ジャーック!」

「来い、『クラッシュ』!」

 ジャックは巨大なハンマーを発動させ吾我に合わせた。狙うは朝倉の眼。防御されている可能性は高い。恐らく効果はないだろう。だが試したいことがあった。二人は同時に右目に攻撃を叩きこむ。しかし、攻撃は届かない。彼女は目を閉じていた。瞼に遮られ眼球には至らない。

「ふふふ……」

 二人を暗い影が覆う。巨大な手が迫る。死が近づいてくるのを感じる。

「させるかあ!」

 キングは大砲から弾丸を放つ。それは吾我のかけていた保険。弾丸は吾我とジャックに当たり、吹き飛ばす。ぺちんと朝倉の手が顔に叩きつけられた。それから掌を見て潰れた小人がいないことを確認する。

「……ふふふふふ。あがきますねえ」

 結果的に距離は取れた。深い痛みは残っている。キングが立ち上がれない二人に駆け寄った。

「大丈夫か!」

「来るな!」

 痛みを無視し、無理やり立ち上がり、吾我は叫んだ。

「攻撃の手を休めるな……!コイツは、ここで倒さなくてはならないッ!」

再度斧を発動させる。蜻蛉だけでは足りない。弓も多数発動させ後方攻撃用の砲台に使う。

「あ、ああ。まだ俺たちは戦える!」

 遅れて立ち上がるジャックに頷く。

「いくぞジャック。命がけで接近戦を挑んだかいがあった。俺も一つヤツの弱点を見つけたぞ」

 何とか吾我は動き出した。その様子に公平は一応安心はした。だが状況は好転していない。悪くなる一方である。

「『炎の雨』!」

 放つと同時に走りだし、朝倉の服を掴んだ。そして一気に登っていく。手が触れる一回ごとに魔力を奪っていく。『炎の雨』も、後方から放たれる吾我の矢も牽制にもならず、軽く払われてしまった。それでも意味はあったと信じて登っていく。

「いいかげん鬱陶しいですね」

 朝倉の手が公平に近づく、叩き潰されるギリギリまで逃げない。右手を上に伸ばして更に前へ──。その時ほんの少し、朝倉は身体を震わせた。それだけで、公平の手はどこも掴めなかった。

「はあい。サービスはお仕舞ですっ」

 空気を圧縮しながら彼女の手が近づいてくる。こんなところで終われない。公平は上から見下ろす彼女を睨んだ。

「『オレガブレイク』!」

 遠くで聞こえる吾我の声。同時に巨大な斧が朝倉の目の前を通過する。反射的に彼女は目を瞑り、手も少し持ち上がって固まった。再び公平は彼女の服を掴み登っていく。

「そうか……。それがあったか」

 魔女になった、と言ってもまだ日は浅い。体の大きさや魔法が使えること。それらを無視すれば、彼女はまだ人間なのだ。たとえそれが無害なものでも突然目の前を何かが通れば反射的に体は動く。

「やるな……吾我!」

 負けてはいられない。一気に彼女の身体を登っていき、魔力を奪い続ける。そして朝倉の肩まで着いたところで一気に跳びあがる。彼女を上から見下ろす。

「これでどうだあ!『裁きの剣』!」

 朝倉は上を見上げた。腕を前に突き出す公平が見えた。彼女は咄嗟に腕を顔の前で交差し防御する。同時に右足が地面から離れた。

「え?」

 剣は、彼女の脚を突いていた。発動場所をズラしただけのフェイク。それでも十分だった。まだ魔女になったばかりで、8割以上は遊んでいるだけの相手を騙すには。バランスが崩れた瞬間、吾我とキングは残る左脚に向かって攻撃を撃つ。朝倉の心を怒りが満たした。二度も。二度もこんな虫けらに転ばされるなんて!

「ミラーイ!」

 キングの声が響く。ミライの耳に声が届く。刀を構え、地を蹴り、倒れる朝倉の真上から魔法を唱える。

「『秘剣/天龍』!」

 炎の龍が回転しながら朝倉の身体にぶつかる。彼女が、小さく悲鳴を上げた。ゆっくりと震えながら両手を持ち上げ、龍を両手で叩き潰した。

 まだ足りない──。五人の心を一瞬絶望が包む。朝倉が上体を起こし、右手の掌を上に向けた。

「許さない……」

 魔法の準備。彼女の手に巨大な光球が発生する。公平は地面につながる裂け目に飛び込み、一気に駆け出した。彼女の後ろから、魔法を発動せんとする掌に向かって飛び出した。

「死ね……!」

 放たれる直前、公平は掌の上の光球に届く。それに触れた瞬間に一気に魔力に戻し奪った。発動した魔法が消えてしまい困惑する朝倉の両足の間に降り立ち見上げる。

「いい魔力だな。返すぜ」

 巨大な『裁きの剣』に変えて打ち出す。朝倉の胸に突き立てられる。巨人の悲鳴が響いた。

 貫いた。全員が同時に思う。

「いけ、『フライ』!『アロー』!狙うは一点!」

「『クラッシュ』!」

 吾我の蜻蛉と矢が、公平の剣の先、朝倉と接触している一点を打ち抜く。ジャックのハンマーが剣の柄を叩き、更に押し込んだ。朝倉の悲鳴が大きくなる。ミライが走り出す。公平は手を90度捻る。合わせて、剣の腹が上を向いた。それをミライは駆け抜けていく。刀を携え、一歩一歩前へ。

「この……!」

 朝倉が剣に手を伸ばす。手の平が切れようとこのまま倒されるよりはいいと。だがその時二つの大砲の球が彼女の手を弾いた。

「……よし。狙い通り」

 キングが呟く。小さくミライが笑った。その目は目指すべきただ一点だけを見つめている。

「『宝剣/鳥海』!」

 ミライは刀を突き立て飛び出した。彼女の身体が蒼い隼の形をした光に包まれた。そして──。

 背後には巨体の背がある。ミライは地面に降りたつ。地面を滑り、やがて止まる。

「いや……。私は、全部壊すんだ……。こんな……」

「貴女は自由を手にしたのかもしれない。だけど誇りがない。私の目指す魔女とかけ離れている。負けるわけにはいかないのです」

 チンと音を立てて、ミライは刀を鞘に納めた。

「あ……あ……!」

「とはいえご安心を。もちろんみねうちです」

「うああああああ!」

 朝倉の身体が悲鳴と共に爆発に包まれる。巨体が消え、人間の背丈の朝倉が地面に残った。

 一瞬理解が遅れたが、すぐに笑い声が上がる。歓声とまではいかない。喜びよりも疲労の方が大きかった。

個人的なこと


作者です。


今日初めて評価というものをいただきました。


書いてるものが書いてるものなので、今日まで自分が楽しければいいかなって気持ちで続けてきました。ですから、誰かから評価してもらえるとは思っていなかったですし、それがこんなに励みになるとも思っていませんでした。


パワーをくれてありがとうございます!頑張って完結目指しますのでよろしくお願いします!

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