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未知との出会い  作者: En
第一章
33/109

魔女の「世界」⑭

 エックスの足音が屋敷に響く。彼女が連れてきた魔法使いたちは掌の上に載せていた。

 屋敷の中をあまり確認できていなかったが、内部は中世的であった。石造りの壁が視界の果てまでずっと続いている。

「いやあ楽ちんでいいねえ。こんな広い建物いちいち探索してたんじゃキリがない」

「ふふん。もっと褒めていいんだぞ」

 ジャックに得意げに返すエックスであった。彼も吾我も殆ど無傷である。公平だけが傷だらけだった。特に吾我は自分の相手だけじゃなく、キングが残した相手もワールドの作った世界から出た直後に仕留めたと言う。公平は自分の力不足を感じた。

「……あー!」

 突然のエックスの叫び。その大声に思わず掌の上の三人は耳をふさぐ。

「なんだいきなり!」

「わす、忘れてた!」

 エックスは何か魔法を使う。空間の裂け目を開き、手を突っ込む。表情をゆがませながら何かを取り出した。ぐったりとした少女がべとべとになって取り出された。

「え、誰これ。……て、なんか」

「臭いを嗅ぐな!」

エックスは水の魔法で彼女の身体を洗う。水をかけられたことで彼女は目を覚ます。最初にその目に飛び込んできたエックスの顔に悲鳴を上げて後ずさった。

 その姿にあわあわしているエックスを公平は見上げる。

「一体何をしたんだ」

「べべべ、別に?何もしてないけどぉ?」

 エックスは目をそらす。

「嘘!私コイツにた……ぎゅう!」

 エックスは反射的に手を握り黙らせる。「しまった!」慌てて手を開くと彼女は気絶していた。

「……何がしたいんだ?」

公平はエックスに言った。彼女は下を向いて黙ってしまった。


「ごめんなさい……。食べようとしたんじゃないんです」

 エックスは掌の上の少女に謝る。幸い彼女はすぐに目を覚ましてくれた。一安心である。

「だ、大丈夫です。助けてくれようとしたみたいですし」

 少女は白川ハルというらしい。食べられても許してくれるので優しい子である。

「白川さん。他に五人、まだ助けられていない子がいる。どこにいるか分からないか?」

 首を振り否定する。

「あの人たちとはあんまり関わらないようにしているんです。みんな、魔法で人を傷つけることを楽しんでいる。それに……」

 その時突然エックスが手で公平たちを覆う。外側から爆発音が聞こえた。公平は空間の裂け目を開き外側に出る。四人の魔法使いたちが宙に浮いていた。男が三人、女が一人。

「君たちの友達は助けたよ。これ以上戦わなくても……」

「だから?」

 その返答に、これ以上の会話に意味がないことを理解した。公平は『裁きの剣』を発動させ構える。

「公平。ボクも手伝うよ」

「うん」

 エックスが掌を広げる。吾我たちが上空の四人を睨む。白川が小さくヒッと悲鳴を上げた。ジャックが彼らを見て、眉間にしわを寄せる。

「あン?何で四人しかいねえんだ」

「もう一人はどこだ?」

 四人組の魔法使いの一人が答える。

「あの人は別格だよ。俺たちなんかとは次元が違う」

「答えになってねえ」

公平が呟いた。

「なんでもいい。とにかくさっさと終わらせよう」

「へえ……」

 直後、上空にいた魔法使いの少女の姿が消えた。いつの間にかエックスの掌の上に既にいる。

 早い──公平がそう思うよりも早く、彼女は首元に刃物を向けてくる。

「『魔剣/雷』!」

 同時に閃光が目の前を通り過ぎていき、その攻撃をはじいた。

「……何とか合流できました」

 その時敵も味方も関係なく、誰もが同じことを思った。エックスが代表して言う。

「誰?」

「よくぞ聞いてくれました!ですが人に名前を聞くときは先に名乗った方がより良いと考える私です!私の名前はミライ!過去・現在・未来のミライです!母上の指令で皆様方の支援に馳せ参じた魔女見習い!以後お見知りおきを!」

 疑問符は解消されなかった。困惑しているのは相手の魔法使いも同じである。公平を攻撃してきた少女は一度離れて仲間の元へと戻っていく。

「コイツを連れてきたのはお前か?キング」

 吾我が後から走ってくる彼の存在に気付いた。

「そ、そうだ……はあ……」

息切れしながら彼が走ってくる。公平はほっとした。死んではいないと思っていたが、ちゃんと姿が見られて安心である。

「全員集合か……よし!」

 エックスはそう言って足元のキングを拾い上げ、手に持っている全員を敵魔法使い目がけて投げ飛ばした。突然のことに思わず悲鳴を上げてしまう。

「お、おい!」

 公平はエックスに振り返りハッとした。背後では既にワールドとの戦闘が始まっている。

「いつの間に!?」

 エックスが振り向かずにこちらに手をかざすのが見えた。光が放たれ、一瞬視界が真っ白になる。次に見えた景色は先ほどとは全く異なるものだった。

 気持ちのいい風が吹き抜ける草原。そこに公平と吾我、それから白川がいた。

「他のみんなはどこに行ったんだ」

「恐らくは、エックスに全く別の空間に移動させられたんだろう。あの知らない女はともかくジャックとキングなら大丈夫だ。……それより」

 吾我の視線の向こうには、二人の魔法使い。一人はツンツン頭の男子。もう一人は坊主の男子。白川は吾我の後ろで怯えている。吾我はこそこそと尋ねた。

「アイツ等、どんな魔法を使うんだ」

「えっと……坊主の山本は……」

 その瞬間、ツンツン頭──山本ではないほうが白川の背後に回る。彼が持つ剣が白川に向けて振りぬかれる。

 金属音がして、ツンツン頭の表情がゆがむ。間に公平が入り込み、受け止めている。剣から煙が上がった。

「吾我。いいじゃんか別に。コイツ等がどんな魔法を使おうと」

「……そうだな」

 吾我が弓を出しながら言う。威嚇射撃として放った。

「……名前くらいは聞かせてくれ。山本と?」

「た、田村」

 公平は田村を押し返す。その勢いで彼は離れていった。改めて剣を見れば刃が傷ついている。あの剣の魔法の能力だろうか。

 吾我は白川に向き直った。

「キミは戦わなくていい。自分の身だけ守っていてくれ」

「は、はい」

「それでいいか」

吾我は確認した。答えは決まっている。

「当然」


──速い。キングは思った。敵の少女の高速攻撃に対し、ミライは真正面から対応できている。自分もジャックも目で追うのが精いっぱいだった。

 今二人は上空で空中戦を演じている。その様子を見上げていた。まるで二つの流星のように空を駆け、ぶつかり合う。

「あんなのどこから湧いて出てきたんだ」

「さあ。一応味方とのことだけど。100%の信用はできないな」

 何しろまだあと一人、姿の見えない魔法使いがいるのだ。それが彼女である可能性は否定できない。

 キングの視線は二人の高速戦闘から目を放し、もう一人の敵に向けられる。

「彼はなぜ動かないんだろう」

 ここまで彼は戦闘に関わってこない。『傍観者』である。だが何もできないただのカカシがワールドに特別に選ばれた魔法使いになれるだろうか。キングは脳内で否定する。彼には当然、ここにいる意味がある。

「ジャック。僕らは僕らのやるべきことをやろう」

 彼は無言で頷く。キングはニッと笑い、『傍観者』に向かって走り出す。


「妙だな」

 公平と吾我は防戦一方であった。敵の高速攻撃は一つ一つは直線的だ。それだけなら受けきれるが、二重になることで予測しにくくなる。公平と吾我は自然と固まり、互いの背中を守る形になる。そんな状況で吾我が小さく、公平にだけ聞こえるように言った。

 公平は答えない。ただ吾我の言葉を待つ。敵の魔法はそれぞれ違う性質を持っていた。一つは腐敗。もう一つは溶解。どちらにせよ敵の剣に触れたこちらの魔法は瞬時に劣化する。さび付くか溶けるかの違いはあるが受けたら使えなくなるので同じことだ。結果的に公平の剣や吾我の斧は使い捨てになる。身体に触れたらどうなるか想像したくない。

「彼らの魔法はそれぞれ性質が異なる。だが高速移動だけは共有している。それも二人だけじゃなかった」

「単純に同じ魔法を使っているだけじゃないか」

「それでも全く同じ質だろうか。二人いれば優劣が現れて当然だろうに」

 確かにそうだ。敵のスピードは全く同じ──だと思う。画一化され過ぎていて却って応用が利かない。スピードに差があればそれを絡めた戦略もできたはずだが、彼らのそれはアクセルが壊れて踏みっぱなしになったみたいに常に最高速だ。

「思うに、あのスピードは彼らの魔法によるものではないのかもしれない。敵は四人いた。高速移動してきたのは三人。もう一人が強化役ではないか」

敵の攻撃を弾き、次の斧を作り出す。

「で、それでどうする」

 もう一人はこの世界にはいない。倒すことはできない。エックスの魔法は切れているので連絡を取り合うこともできない。

「俺が気づいたことなら、キングはとっくに気づいてる。ジャックがいるならとっくに解決してる」

 その瞬間、敵二人の動きが止まった。ように見えたが実際は少し違う。スピードが落ちたのだ。咄嗟に公平と吾我は叫ぶ。

「『炎の一矢』!」

「『オレガアロー』!」

 同時に放たれる矢はそれぞれ敵を打ち抜いた。公平は感心しながら言う。

「ドンピシャかよ。すごいなお前ら」

「別に」


 『傍観者』に戦闘能力はなかった。ジャックとキングが近づいているのに気づいた彼は慌てて逃げだす。それに『攻撃役』の少女は気付いた。慌ててフォローに向かおうとするもそれを許すミライではない。刀を構え、魔力を集める。強力な魔法で一撃で終わらせるために。。

「『秘剣/天龍』!」

 突き出した刀から、巨大な東洋の龍の形をした青白い炎が現れ、『攻撃役』に向かっていく。大きく開いたその口にかみつかれ、彼女の身体は炎に包まれた。悲鳴が聞こえる中、龍は天へと昇っていき、やがて消える。気を失った少女はそのまま地面へと落ちていく。

「『魔剣/神風』」

 ミライの魔法で生じた風は少女を包み、優しく地面に下す。そしてミライは刀を鞘に納めた。

「──ご安心を。みねうちですので」

 誰が聞いているわけでもないがキメ台詞らしい。彼女は得意げな顔である。炎にみねうちなんてあるのだろうかとキングは思った。

 ミライの戦闘中に二人は仕事を終えていた。『傍観者』の魔法使いはジャックのパンチで気を失っている。

「さて、向こうはどうしたかな」

 あまり心配していないようにキングは言う。


「『最強の刃・レベル2』!」

 鎧を装備した公平は、レベル2の壁に向かって走っていく。刃のコーティングを受けた公平はそのまま山本に接近する。

「『梟』!」

 山本が多数に発動させたのは先ほどまで使っていた『腐敗』の力を持つ剣。それらが同時多発的に公平に向かって放たれる。が、『最強の刃』の性質を得た公平の鎧に対しては触れた瞬間消滅し、意味をなさない。

「くそっ!」

 山本は『梟』を二本取り、二刀流で向かっていく。彼が剣を振るのを一切無視して、公平は殴り掛かる。果たして、山本の『梟』は公平の鎧に触れた瞬間に消滅し、公平のパンチで山本は吹っ飛んでいった。

 数メートル先で地面に叩きつけられ、同時に地面にいくつも刺さっていた『梟』は消えた。山本が気絶したのがに分かった。

「──よしっ」

 吾我はどうしているか。魔法を解除して視線をそちらに向ける。問題はなさそうだ。吾我は田村の振る『腐敗』の剣を紙一重でかわし続けている。休みなしで攻撃しているのに、田村の方が焦っているみたいだ。

「うわああああ!」

 彼の表情も必死である。一方の吾我は涼しい顔だ。

「『オレガフライ』!」

 吾我の出した『蜻蛉』の光線で山本が怯んだすきに後方へ下がる。そして、新たな魔法を発動させる。

「『ガガガ・オレガ・ホイール』」

 その魔法で現れたのは──バイク。吾我はそれにまたがりエンジンをふかす。

「……あれ魔法のつもりかよ。気持ちわりい」

 公平は少し引いた。

「いくぞ」

唸り声をあげて、吾我のバイクは駆けぬける。

「な、なんだそれえ!」

 戸惑う田村に一切答えず、吾我は『蜻蛉』が変形した斧を取る。

「え、あ、『カラ──』」

「遅い!」

 田村の魔法よりも早くバイクで接近し、その腹部を斧で切りつけ、走りぬけた。田村は悲鳴と共に爆発に包まれ、倒れた。

「お、おい!生きてるよな!」

「当たり前だ」

 公平が駆け寄ると、なるほど目立った外傷はない。切りつけたように見えたが問題はなさそうである。

「どういう理屈で爆発したんだ」

「気にするな。そんな事より、外に出るぞ」

 吾我は斧で裂け目を開きその向こうに入っていく。エックスの作った世界なので裂け目を使って外に出ることを制限されていない。ワールドがしたようにこちらが一方的に有利になる世界というわけではないのがエックスらしくフェアだ。

 外に出ると既に他の三人がそこにいた。問題なく勝利したらしい。

「……あと一人か」

 吾我が呟く。そう。まだ一人いる。そして、白川の情報を信じるなら、その人物も恐らくこちらを攻撃してくるはずだ。人間世界を襲うことに抵抗がない、悪意を持った魔法使い。

「……まあ。どうにかなるでしょ。ここにいるメンバーが力を合わせれば」

「無理です」

 突然零れた声は、白川のもの。小さく震えた声はそれでもしっかりと響いた。無言の視線が彼女に注がれる。

「……あの人は、違う。もう、違うの」

「それは一体どういう……」

 キングが言い切るよりも前に、長い長い廊下のずっと向こう、暗闇から足音が聞こえる。人間の足音。すなわち最後の一人。白川が小さな悲鳴を上げ、震えだす。公平はエックスの部屋へ通じる裂け目を開いた。

「いままでありがとう。これ以上はもういいよ」

 白川は一瞬顔を上げ公平たちを見たが、すぐに裂け目に入っていく。先ほど倒した四人も向こう側へ送った。

「情報が取れなかったが」吾我は弓を。

「どうせ喋ってくれないだろ。……それに今があの子を逃がす最後のチャンスだったかもだし?」公平は剣を。

「まあいいじゃないか。過ぎたことだ」キングは銃を。

「次元の違う魔法使いね。何が出るやら」ジャックは槌を。

「何が来ようと関係ありません」ミライは刀を。

 一人一人がそれぞれの武器を構える。この戦いを終わらせるために。


「あら。アナタの連れてきた人間、四人を倒したようですね」

 ワールドは槍をエックスに向けて突く。躱して躱してそうしながら後ろへ後ろへ下がっていく。何しろ戦っているのはワールドの家の廊下だ。人間サイズなら広くても魔女の感覚では横に大きく避ける広さはない。

「ふふん。みんな優秀なのさ」

「ええ。なかなか出来のいい虫ですね」

 ワールドは槍を大きく横一文字に振る。すぐ横の扉が綺麗に真っ二つになった。エックスは大きく後ろに跳び跳ね避けていた。

「……けど、それでも最後の一人、彼女には勝てません」

「さあどうかな。最後の一人まで追い込まれているんだ。どれだけ優秀でも……」

 その瞬間、エックスは何か違和感を覚えた。何かワールドにおかしい点があったような。そして同時に既に起きていた異常事態にも気が付く。この廊下、いくらなんでも長すぎやしないか。

「空間を歪められている……。時間稼ぎか?」

 ワールドの意図が分からない。分からないが、それでも今は一刻も早く公平たちのもとへと行くべきだと判断した。目の前の強敵を出し抜いて。

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