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未知との出会い  作者: En
第一章
32/109

魔女の「世界」⑬

 キングは深く息を吐いた。逃げられなかった。少なくとも捕まっている子を全員逃がすまでは。全員が脱出する前に現れた魔女。彼女から逃がすための道を守らなければならない。魔女が魔法で無理やり閉じようとする裂け目を何とか維持しているのが限界だった、自分が逃げる余裕はなかった。

分かっていたことだが、自分は戦いには向いていない。弱い魔法を一つ使うのにも1分程度時間がかかる。吾我たちのように強力のある魔法ではもっと時間がかかってしまう。事前の準備ができているならともかく、今回のように想定外の敵襲には対応できないのだ。だから彼は魔法の開発を極めることにした。この力で仲間も人質も助けられた。自分の道は間違ってはいない。後悔もない。それでもやっぱり、目の前に迫る魔女の銀色の目に覗きこまれると少し震えてしまう。

「『魔剣/五月雨』」

 その瞬間に聞こえてくる知らない声。同時に無数の剣の雨が降り、魔女を襲う。

「誰!?」

 魔女が声を上げる。机の下から何かが跳びあがってくる。手に握った日本刀を向け、魔女に向かって『彼女』は言った。

「人に名前を聞くときは自分から名乗るのが礼儀です。とは言え、聞かれたからには名乗りましょう」

 刀を天に掲げ、それから鞘に納める。右手を前に突き出して、名乗りを上げるセーラー服に黒髪の少女。

「私の名前はミライ!過去・現在・未来のミライです!いずれ魔女になる魔女見習い!母上から一番いいタイミングで助太刀に入るよう指示された通りすがりの助太刀です!以後、お見知りおきを!」

 空気が凍り付く。この女は何を言っているのだろうとキングは思った。

「なんて?」

魔女も困惑している。ミライと名乗る女は構わずに言った。

「私は名乗りました。そちらも名乗るのが礼儀でしょう」

魔女の眉間がほんの少しゆがんだ。明らかにイラっとしている。

「私はミラー。名前の通りこういう魔法が得意よ。『鏡の錘』!」

鏡のようにこちらを映す巨大な円錘が、いくつも生成される。

「ミラーとミライ。名前が似ていますね。いいことです」

ミライは余裕の表情である。

「何なのアンタ?」

ミラーの手の動きに合わせて、錘が放たれる。ミライは刀の鞘を握り唱えた。

「『魔剣/五月雨』」

刀を抜くと同時にいくつもの刀が放たれ円錐を迎撃する。ミラーは一瞬笑ったように見えた。円錘と刀がぶつかった瞬間、刀は鏡に吸い込まれ、攻撃を反射した。ミライはそれに反応し、キングを引っ張って机の下に飛び降りる。

ミラーはミライを見下ろしている。

「ワールドの玩具を逃がしてくれちゃって。せめてあんた等の首を引っこ抜いてもっていかないと怒られちゃう」

「君は逃げろ。これは僕の蒔いた種だ」

「ノープロブレムです。私負けませんので」

 ミライは刀を鞘に納める。ミラーは再び『錘』を展開した。

「これで終わりっ」

彼女は『錘』をミライに向かって放つ。ミライは刀を半分抜いた。

「『魔剣/響』」

 刀が光を放つ。それを再び鞘に納める。そこで生じた音は巨大な響きとなって、『錘』を全て破壊する。ミラーが目を見開く。キングはすぐに理解する。公平との練習試合で行った『刃』対策と同じだ。『錘』は魔法を反射させる。だが刀が放った『音波』は魔法で増幅されたただの物理現象だ。魔法ではない以上反射できないのである。

 ミライはミラーの次の行動を待たずに、鞘に納めた刀を握り、再び構える。

「『魔剣/雷』」

 ミライが刀を抜いた瞬間、隼のような速さで跳びあがり、ミラーの肩を縦一文字に切り抜ける。同時に彼女の電撃が包んだ。

ピリピリ痛む身体。ちょっとだけ流れた涙をぬぐって足元にいるであろうミライを探す。

「あ、あれ?」

既にミライは地面にはいない。上から魔法が発動した気配に気が付く。見上げて愕然とした。頭上で、すでに構えている。

「『魔剣』」

「くぅ!」

ミラーは咄嗟に魔法で迎撃しようとする。──が、もう遅かった。

「『/陽炎』!」

 炎に包まれて、ミライはミラーの胸を斬り、そのまま床に帰ってくる。刀を鞘に納めた瞬間、ミラーの身体が炎に包まれた。彼女の悲鳴が響く。

「──ご安心ください。みねうちです」

 燃えているのに意味があるのか。キングは思った。

「……魔女は燃えたくらいでは死なないので、そういう意味でもみねうちです」

 彼女も気になったのか、そう続けた。


 人質が逃げた。ワールドの表情がほんの少しだけ歪む。その一瞬の変化をエックスは見逃さなかった。彼女の腹部に鋭く蹴りこむ。受け止めたワールドは少し考えてから口を開く。

「……何です?他の人間を殺されたいのですか?」

「へー出来るんだ?てっきりみんな逃げちゃったんだと思ったけど」

 ワールドは小さく舌打ちした。後ろに下がり距離を取る。エックスはそれを追った。同時に手の中にいる少女に意識を向ける。彼女を魔法で逃がそうとすれば、その一瞬をワールドに刺される。空間の裂け目に細工をされ、逃がしたつもりが逆にワールドに奪われる危険もある。既に殆どの人質を逃がしているのだ。なりふり構わずそれくらいのことはやってくるはずだ。だがしかし、彼女を手に握ったまま戦うというのは、それはそれで危ない。

 エックスは考えた。そしてその結果、一つの結論に行きついた。──やりたくはないけど。口をぱかっと開け、その中に彼女を放り込む。ゴクリと飲み込んだ時、ワールドは目を丸くしていた。

「……え?」

 あっけにとられるその一瞬。ワールドの思考はフリーズする。そのチャンスにエックスは一気に距離を詰め、『裁きの剣』で切りつけた。その攻撃を躱しきることは出来なかった。剣の先はわずかに彼女の身体に届いていた。鮮血が宙を舞う。だがその怪我を庇うより先に言わなければならないことがワールドにはあった。

「貴女正気ですか!?そんなものを食べるなんて!」

「食べたんじゃないっ!一時的に避難させただけだ!」

エックスは赤面しながら言う。色々と考えたけど、自分のおなかの中が一番安全そうだったのだ。正直言えばやりたくなかったが緊急事態なので仕方がない。

消化しないように魔法で彼女を守り、光がないと怖いだろうから明かりもつけてあげた。おかげで身体の中は丸見えである。公平だって知らないところを知らない子に見られている。恥ずかしい。

「このっ……」

 ワールドが向かってくる。エックスはそれに合わせて前に出た。それだけで間合いに入ってしまえた。

「はっ」

その口から焦りの声がこぼれた。

「キミはこういう予想外の事態は苦手だろう?」

本来なら、こんな簡単に接近できない。それが出来たのは少女を飲み込むという行為のおかげだ。人間を食べるなんて、魔女に取っては非常識であり野蛮。そういうことをしようと考えること自体があり得ないこと。目の当たりにすれば少なからず動揺すると思っていた。ワールドの下腹部に右手を当てる

「『裁きの剣』」

 エックスの手から光の剣が伸びる。ワールドが悲鳴を上げて吹き飛んでいく。とは言え、ワールドもただで受けてはいない。攻撃より少し早く自ら後ろに下がり少しだが衝撃を受けないようにしていた。お陰で致命傷にはなっていないが、ダメージは大きい。痛みで閉じてしまった目を開く。そこに映る光景にハッと息が零れた。エックスは既に『暗闇の世界』を破壊している。そして、足元には──。

「こいつが」吾我という魔法使いが。

「ワールド……」見知らぬ魔法使いが。

 そして。

「ワールドォ!」飛び掛かってくる公平は巨大な『裁きの剣』をワールドに突き立てる。彼女は片手で受け止め、振り回して投げ捨てる。魔法とつながっている公平も一緒に吹っ飛んでいった。

「おっと」そんな彼をエックスは受け止める。

「あ、ありがとう」

「どうも」

 そんなエックスをワールドは睨む。

「こんなゴミどもを集めて、私をどうにかできるつもりですか」

「誰がゴミだ!」

 ワールドは公平には答えず、じりじりと後ずさる。エックスは目を離さない。

 足元には敗れた魔法使いたち5人が倒れている。勝ったと宣言したはずの一人も気を失っている。手塩にかけて育てたというのに使えない連中だ。殆ど無意識に舌打ちしていた。

「仕方がないですね」

地面を右足で踏む。それにより開いた裂け目に彼女は飛び込んだ。エックスはその様子に安堵の息を吐く。

「逃げた?」

「いいさ。今日やることはワールドを倒すことじゃない。まだ助けられていない子を助けるほうが先さ」

 残りは五人──。


 ワールドが去って。

 公平はあることに気が付いた。ヴィクトリーと戦った時にもワールドと向かい合った時にも薄々感じていたこと。足元からエックスを見上げてその気付きは確信に変わる。

「エックス……」

「うん?なに?」

 彼女は笑顔である。公平たちと合流出来て安心したのだろう。その顔を見ると急にこれから言う事が申し訳なくなった。だが気づいてしまったものは仕方がない。

「エックスは身体が大きいから何となく気が付かなかったけど」

「うん」

 そこで再び、公平は迷った。言っていいものだろうかと。エックスは急に心配になった。

「大丈夫?」

「うん。大丈夫」

 公平は意を決して口を開いた。

「エックスって実はあんまり胸大きくないよね」

 蹴られた。

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