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未知との出会い  作者: En
第一章
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「未知」との時間⑧

『キング』と呼ばれた男と対峙する。メガネの位置を直しながら戦いに向けて手中しているように見えた。

もう不意打ちは無意味だろうと思う。あれは最初の一回目だから上手くいくのだ。これ以降は相手も対策してくるはずである。真正面からぶつかっていった方がまだ勝算がある。

「そろそろ行こうか」キングが言う。

「ああ、いいぜ」公平が答える。

 そして、二人は同時に剣の魔法を握り締め、走り出した。

 刃と刃がぶつかり合い、金属音が響き渡る。公平は同時に空いた左手に新たな短剣を作り出す。対するキングは盾を生成し、短剣を受け止めるつもりである。だがそれは無意味なこと。この剣が持つのはただの刃ではない。全ての魔法を切り裂き、消滅させる『最強の刃』だ。キングの盾容易く切り裂いてしまう。手を離せば自動で動き出し、敵の剣も切って捨てた。公平の攻撃を防ぐものはもうない。

咄嗟にキングは後ろに下がる。公平は剣を振り下ろしたが、浅い。

「やるね」

 空間の裂け目を開いてキングは一気に距離をとった。彼は吾我からあらゆる魔法を破壊する魔法の存在を聞いていた。だがその性能は想定以上であった。あれだけ容易く自分の魔法を破壊出来る以上、接近戦は分が悪い。あの魔法の性質も見ておきたい。

「なら……こう行こうか。『レーザー・シューター』!」



 公平の上空に無数の球体が出現する。それら一つ一つがバラバラのタイミングで光線を撃ってくる。吾我の『オレガフライ』に似ている。だからこそ、公平の『刃』の前には無力だ。自動で魔法攻撃に反応し、切り裂き消滅させる。数は多いがそれでも吾我ほどではない。何より、『オレガフライ』と違って動いたりしない。刃が光線を受けている間に破壊することは容易い。公平は炎の矢で一つ一つ破壊し、最後の球は『刃』に任せることにする。接近戦が一番有利に立ち回れる、とキングを探す。

「いない……」

 後ろから足音が聞こえる。何かが走ってくる。咄嗟に振り返る。キングが殴り掛かってくる。

 少し想定外だった。向こうから接近戦を、しかも魔法を一切使わずに仕掛けてくるとは。魔力で強化されたキングのパンチを受け止める。

「……なるほど」

 キングが呟いた。その意図が分かってしまった。となればここで逃がすわけにはいかない。どうあれ接近戦に持ち込めたのならばここで仕留めるべきだ。

「『裁きの……』」

「おそい」

 『刃』が突然反応し右方からの光線を受け止める。それに一瞬気を取られてしまった。

キングの球体は破壊したもので全てではなかった。一つは離れた位置にあった。一瞬の時間を稼ぐために。一瞬だけで十分だった。

「……逃げられた」

 キングは再び距離を取った。次は『刃』攻略の情報を得た状態で。

「さて」

 キングの考えでは、恐らくあの『刃』は魔法を切ることしかできないものだ。それ故の破壊力・追尾性能なのだろう。そういうことなら攻略方法はいくらでもある。

「例えばこういうのはどうだ。『エアー・シューター』!」

 出現したのは大砲の魔法。ただし魔法で行う動作は空気を弾丸にし打ち出すことまでだ。

「空気は最初からそこにあったものだ。僕が魔法で作ったわけじゃない。こいつをキミの『刃』は壊せるかな」

 機械の動く音がして、空気が充填されていく。「シュート!」というキングの声に合わせて空気弾が放たれる。双眼鏡で様子を伺った。命中したようだ。『刃』は反応していない。魔力で体を強化しているからそこまで大きなダメージにはなっていないがそれでもいい。

「よし。いい感じだ」



「不思議だね。あんな魔法、公平の『刃』対策以外で用意している理由がわからないな」

 エックスが言った。破壊力もスピードも正確性も、ずべ手に置いて最初の光線の方がずっと強い。こんな空気弾を使うくらいなら光線の方を鍛えるのが普通に思える。

「まるで今この瞬間公平を倒すためだけに突然出てきたみたいだ

「その通りだよ」

 その言葉で理解できた。本当に今この瞬間新しく作った魔法なのである。だが理解は出来ても納得はできない。新しい魔法を作り出すことは決して簡単ではない。

「キングはそれが出来る。その場でいくらでも新しい魔法を思いついては使ってみせる」

「そんなことが出来るなら、とんでもない才能だ。魔法を生み出すだけならボクより上手かもしれないね」

「どんな状況にも対応できる汎用性。それがキングの強さ。さて、公平の奴はどう戦うかな」




 受けて分かったことがある。空気弾は痛いが大した威力はない。だが当然空気なので見えない。ならば安全に受け止めればいい。

「『勝利の鎧』」

 正直言えば大げさだ。だが今はこれでいい。一秒でも長く時間が欲しかった。エックスとの特訓で会得したある魔法を習得したが、相当集中できていないと使えないのである。

 両手を前にして構える。空気弾が何度か当たるが一切無視する。気を取られれば勝利を逃す。公平は目を閉じた。

 教えられたイメージを反芻した。まずは魔力を全身に流していく。両手が、両足が痺れる。来る。全身に魔力が満ち、あふれ出していく。来る。体と世界が魔力によって一つになっていく。来る。

 両腕を左右に開き、その呪文を唱える。作り方はエックスに教わった。そこから先は自分流。その名は──。

「来い!『確率空間』!」

 ようやく公平は目を開く。すぐ目の前に鉄の弾丸が迫ってきていた。



 空気弾では威力不足。キングはそれをすぐに理解した。まだ『刃』は生きている。となれば空気弾と同じく魔法ではない何かを打ち出す魔法が出ないと通らない。

 だがこの空間は公平が魔法で作ったもの。素材として使えるものはない。

「ならこうだ」

 元の世界につながる裂け目を開く。素材は砂鉄。大量に集めて固めればあの鎧を貫通して破壊するのに十分な勢いの射出にも耐えられるはずだ。

 空気弾は絶えず放つ。何かをしようとしているのは分かっていた。神経を集中させているのもそのため。だから少しでも邪魔をする。

「『アイアン・シューター』」

 発動したのは第二の大砲。後ろからパイプが伸びて地面に設置すると砂鉄を吸い上げてくれる。後は内部で弾になり撃つ。素材が素材だけに攻撃まで五分程度の時間がかかる。空気弾は時間稼ぎのためにも必要だった。予定どおりに五分後、弾丸の準備が完了した。その間に何度かシュミレーションした。ここからそのまま撃てば100%当たる。

「これでゲームセットだ。シュート!」

 同時に公平が動く。その瞬間世界全部を包み込む巨大な魔法が起動する。

 大きな破壊音が聞こえた。キングは双眼鏡で公平の様子を見る。

「……何故だ」

 100%当たるはずの弾丸は、公平の遥か後方に命中し、地面に大きなクレーターを作り出していた。肝心の公平は、『鎧』こそ消えてはいたが無傷でたたずんでいる。つかつかと歩き出した。

「空気弾!シュート!」

 砂鉄弾は準備に時間がかかる。空気弾の連射で少しでも足止めを狙う。が、それが無理だとすぐに分かった。双眼鏡で覗いてみれば空気弾はまるで公平を嫌うように通り抜けて行く。

「あり得ない。これだけ撃って一発も当たらないなんてことはない!」

 だが現実は違う。空気弾は信用できない。砂鉄弾の用意もしているが、これも当たる気がしなかった。

「接近戦をする気はなかったが、やむを得ない!」

 キングは一気に公平に向かって駆けていく。これだけ巨大な魔法を使っているのだ。『鎧』も『刃』ももはや維持は出来ないはず。もはや接近戦は不利ではない。

「来るかっ!」

 公平も走りだした。拳に魔力を流し強化する。

「はああああ!」

 キングは一瞬早く剣を横に振りぬく。公平からは避ける気配をまるで感じない。そして、不思議な話だが剣は当たらなかった。直前で地面に躓き、あらぬ方向に剣を振り虚空を切るだけに終わったのである。

「……何?」

「悪いな。この世界だと俺は負けないんだ」

 そう言うと公平はキングの腹部を思いきり殴った。「が」という音が漏れ出して、そのままキングの意識は薄れていく。



「……お前は、今何をした」

 吾我は公平に尋ねた。キングと一緒に消え、暫くしてから倒れたキングと共に戻ってくる公平。意味不明である。

「特殊な確率の入った空間を構築した。その中では俺にはどんな攻撃も当たる確率は0になる。一切合切攻撃が当たらなくなるんだ」

「ボクが教えたんだぞ」

 吾我はエックスを見る。得意げにしているが実際とんでもないものを教えてくれたと思う。

「けどまだまだだねえ。あんなに時間がかかってるんじゃあ」

「まあワールド相手には使えないだろうな……」

「うう……」

 吾我はキングの方に視線を向ける。気絶していたのはほんの五分ほど。だがそれでも勝敗ははっきりついた。公平を見て苦笑いした。

「完敗だったね」

「何があったかは後で説明するよ。コイツも俺の想定以上に強くなっていた」

「ああ……来てよかったな。ジャック」

「……ふん」

 公平はその会話をきょとんとして見つめていた。エックスが耳打ちしてくる。

「元々ボクと戦ってほしかったらしい。本当は昨日アリスちゃんと一緒に……。けど二人は来られなかったんだって」

「ふうん」

「公平」

 吾我は空間の裂け目を開きつつ呼び掛けてきた。

「ワールドとの戦い。一週間後に決まった。準備しておいてくれ」

「お、おう。ついにか」

 吾我の作った裂け目を、彼の仲間たちが通っていく。

「君と戦えてよかったよ。まだまだ僕も未熟だな」

「次はオレが勝つ!よおく覚えとけ!」

「じゃあね。エックス、コウヘイ」

 そして最後に、吾我が歩いて行った。

「じゃあまた。期待してるぞ」

吾我は裂け目の向こうへと消えていき、そして裂け目は閉じられた。

「だってさ」

「……お腹痛くなってきた」

「何で……?」

「何でだろう。あんまり期待されることってなかったからかな……」

「うーん」

 困った。せっかく公平も強くなってきたというのに今一つ自信とか度胸とかそういう物が足りない。これでは勝てる勝負にも負ける可能性がある。

「あ!そうだ!」

 エックスは頭の中で色々考えて一つの案を閃いた。ただ「そうだ」としか言わなかったので、公平には嫌な予感しかなかった。


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