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未知との出会い  作者: En
第一章
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「未知」との時間③

「……ん」

 エックスが目を覚ますと口内に違和感があった。何かが口の中にある。あーと口を開けて取り出してみた。涎まみれで眠っている公平がそこにいる。そういえば昨日口の中に閉じ込めていたのだったと思い出した。しかしこの状況で熟睡できるとは。思っていた以上に公平という人物は大物なのかもしれない。

 エックスはベッドから抜け出してお風呂場へ向かった。蛇口をひねれば水もお湯も出てくる。公平に見せた時は「俺らの世界と同じか!」なんて驚いていた。同時にこの水が何処からきて、どんなエネルギーでお湯になるのか不思議がっていた。それら全部魔力を送って操作すれば出来る事だ。蛇口自体が水やお湯を出す魔法を使えるように作られており、魔力を送れば魔法が発動するのである。

お湯の蛇口をひねると出てくる。洗面器に適度に注いだ。服を着たまま口の中に入れたので、酷い事になっている。仕方がないので服を脱がせて浴槽のふちに置いた。これは後で洗うことにする。

 公平をお湯の張った洗面器につけて洗う。ちゃぽちゃぽという音がして、べとべとだった公平の身体がキレイになっていく。

「……ぎゃあああああ!」

 公平は突然絶叫して目を覚ました。周囲を見回し、状況が分かっていない様子であった。

「おはよう公平。どったの大声上げて」

「……飲み込まれる夢見た。ああ、良かった」

「なにそれ。ボクが公平を食べちゃうわけないだろ」

 エックスが不機嫌そうに頬を膨らませる。公平は早口で反論した。

「いやけどさあ!お前口の中に入れられてよお!突然暖かいお湯の中に入れられたら胃の中に落ちたと思うじゃない!?」

「気持ちよさそうに寝てたくせに。こうなったら毎日口の中に入れてやる」

「いやだ!絶対ヤダ!お前昨日寝たの大分遅かったぞ!」

「まあいいじゃないの。ボクの口の中でぐっすり眠って、朝はボクに洗ってもらいながら目を覚ます。こんな贅沢出来るのキミくらいだぞ」

「いいって!というか風呂くらい自分で入るって!」

「まあまあ」

エックスは楽しげに公平の事を洗っている。公平も暫く抵抗していたのだが、やがて無駄だと悟り、されるがままになった。


「今日学校は?」

スマホで時間を確認する。既に10時を回っていた。本来なら一限・二限と授業があるのだがこの状態だと今から出たら二限の開始にも間に合わない。

「今日は自主休講。もう遅刻確定だわコレ」

「え……。ゴメンなんか……」

「いいよ別に。これでも普段まじめにやってるんだ。一日くらい休んだって問題ないって」

「そう……」

エックスがしゅんとしてしまった。大きな体が小さく見えたりはしないが落ち込んでいる姿を見るのは心苦しい。

「まあ、良いんだ!大学なんて適度にさぼるくらいでちょうどいいんだよ!」

おかしな励まし方になったなと思ったが、エックスが少しだけ笑ってくれたので安心できた。それから、今日はどこに行こうかと考えてみる。


考えてもいい案が出てこなかったので、取りあえずバスに乗って駅まで行くことにした。普段乗り物には乗らないからかそわそわしている。

「はあー。早いねえ。ねえねえ、これに乗って何処まで行くの?」

「それはナイショ」

考えていないだけである。とはいえ駅前まで行けば映画館もあるので最悪適当なものを観ようと思っていた。ただ、思いのほかバスが楽しいようなので電車に乗って遠くまで行くのもいいかなと思った。いっそ新潟にある実家まで行ってしまおうか。どうせ明日は授業はない。そこまで考えてからそんなにお金がない事を思い出した。実家に帰るだけなら魔法で、手軽にできるが、それではエックスが面白くないだろう。

「来月だな」

「何が?」

「こっちの話」

 駅に着くと人はまばらであった。バスから降りる時、エックスが五千円札を出してきたので「大丈夫」と言う。もとより払うつもりだったし、五千円札はきっと両替できない気がする。昼前のこの時間帯、車社会の田舎の都市では、メインの駅とはいえ利用者は少ない。

「バス面白かった?」

「うん。ああいうの初めて」

「映画と、バスより早い乗り物でもっと遠くに行くのとどっちがいい?」

「そんなのあるの!?」

「あるある。んじゃあ、電車乗ってもっと遠くに行こうか」

 目に見えてワクワクしている。今日も連れ出して良かったと思うが、同時に胸の奥がちくっとした。こんなデートでいいのか。もっとお金があって、もっと遊び慣れている男が、あの夜に彼女と出会っていたなら、もっともっと、エックスを幸せにできたんじゃないか。そんな思いが心の奥であった。

 エックスは切符を買うのにもお金を出そうとする。ただ、財布を持っていないので五千円札はいつも裸だ。それが何だかいたたまれない。

「今はいいよ。今それ使ったら小銭が返ってきて重たくなるからさ。着いた先にイオンがあるからそこで財布を買おう。それに入れよう」

「むー。公平ばっかり払ってさー」

 エックスは不満げであるが、公平は構わず2人分の切符を買い、一つをエックスに手渡す。ここは自動改札ではないので、初心者のエックスでも問題なく通過できる。駅員に見せて切符を切ってもらうだけでいいのだから。

 ホームで電車が来るのを待っている。時間を確認すると11時半。先に昼を食べておけば良かった。駅弁は美味しくない。行った先に何かあったかなと思った。

「今日のお昼何食べたい?」

「うどん!」

「うどんかあ」

 そう言えば学食でうどんを食べてたらじーっと見ていたことがあった。結局ハンバーグやらラーメンやらカレーに目移りして、そっちを食べる事はなかったが。

「うどんね。多分出してるとこあるだろうし、それにしようか」

「おー!」

 エックスの喜ぶ様を見ていると穏やかな気持ちになる。最近は魔女も襲ってこないし、このまま静かに時間が流れて行けばいい。エックスと二人で静かに──。

 はるか遠くで魔法が発動したのを感じたのは、その一秒後である。


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