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未知との出会い  作者: En
第三章
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「最強」の刃⑤

 ずんと大地を揺らして、巨大な足が地面を踏みしめる。剣と剣がぶつかり合う。そのたびに『箱庭』は揺れ、模型のビルが崩れる。ヴィクトリーの闘志を秘めた眼差しにソードは気圧されつつあった。単純な剣術勝負であれば彼女の右に出る者はいない。キャンバスの広さの上では互角であっても倒すのは至難の業である。それでも、必ず勝利するという気迫がヴィクトリーの剣に力を与えていた。

 二つの刃が競り合った時、ソードの意識は目の前のヴィクトリーに集中した。今、この瞬間こそが勝機。


「今よミライ!」

「なにっ!?」


 服の中からミライが飛び出してくる。ソードがそれに視線を向けたのをヴィクトリーは見逃さない。相手を蹴り飛ばして距離を取る。入れ替わるようにミライは魔女の巨躯へと変化して、ソードを斬り裂いた。


「……くっ!」


 血が噴き出る。ソードはギュッと傷を抑えた。ウィッチのキャンバスを奪われた今、回復の魔法『ゲアリア』は使えない。


「さあ。ここから本当の勝負よ!」

「貴女が相手でも二人がかりならばどうとでもなる!」


 ソードの息が荒くなる。身体が小さく震えた。


「舐めるな!」


 彼女が叫ぶのと同時に、その全身から弾けるような魔力があふれ出した。ヴィクトリーは痺れるような波動を感じる。


「来るわよミライ」

「はい。分かってます」


 ソードは人間に、魔人に変身する魔法を教えていた。新しい魔法体系を作るのが不得手でも既存の魔法を習得する才はある。ユートピアの魔法を使えても不思議ではないのだ。


「『咆哮せよ。CHIMAIRA』!」


 魔力の渦がソードの姿形を変えていく。獅子の身体と二本の角、それから大きく羽ばたく鳥の翼。魔人たちの特徴を掛け合わせたような異容である。変身した瞬間に彼女の傷が癒える。


「ウオアアアアア!」


 魔人であり魔女。ソードの咆哮は『箱庭』全部に響いた。がらんどうのビルが震える。ここからが本当の勝負。


「『勝利の剣・完全開放』!」

「『聖剣/蒼龍』!」


 ヴィクトリーとミライは同時に魔法を発動させる。光を纏って巨大な魔人へと迫る。同時攻撃をソードは両腕で受け止めた。


「……っ!?」


 しかし。二人の剣はソードの防御を強引に弾いてしまう。無防備になった身体に、思い切り剣が振り下ろされる。


「ぐっ……がっ……!」

「まだまだっ!」


 二人の追撃は防御も回避も許さない。魔人の回復能力も矢継ぎ早の連続攻撃には追いつけない。波状攻撃の中で三人の戦いの場はいつしか空へと移っていた。


「くっ……そ!」


 ソードが翼を大きく羽ばたかせた。羽が二人の身体を切り裂いていく。いくつもの傷が出来て、流れる血が地面を赤く染める。だがしかし、そんなことには一切構わずにミライとヴィクトリーは斬り進んでいく。


「魔人の身体では強力な魔法は使えない!そうでしょ!」

「……くっ!」


 魔人の身体は強い。魔法そのものも強力である証拠だ。それは同時にキャンバスのリソースを大きく消費するという事である。発動中は強力な魔法は使えない可能性が高い。

 ファルコやスタッグ相手ならばあまり意味のない情報だ。二人とも魔人として戦う事を前提とした修業を積んでいる。それ故、他の魔法が使えないことは問題にはならない。

 ──だが。相手がソードならば話が変わる。彼女は基本的な戦法は『断罪の剣』による剣戟と『完全開放』を用いた一撃必殺。魔人に変身してしまえばその二つを同時に失う。結果的に有利に立ち回れるのだ。

 ソードは回復魔法を失っている。大きな傷を負えば、魔人の回復能力に頼らざるを得ない。そこまで追い詰め、魔人に変身させるところまでミライとヴィクトリーの作戦だったのだ。


「はああああ!」

「やああああ!」


 二人の斬撃が、ソードの胸を切り裂く。大きく吹き飛ばされながら、魔人化が解かれていく。その瞬間、彼女の瞳がギョロリと動いて、二人を睨んだ。


「『断罪の剣・完全開放』!」


 咄嗟にヴィクトリーはその場から離れる。しかし、ミライの反応が一瞬遅れた。13本の剣がネットワークを形成し、魔力の場が彼女を捉える。


「終わりだムシケラ!」

「ミライ!」


 ヴィクトリーの声が発せられたのと同時に、剣が一斉に動き出す。迫りくる剣先がまるでスローモーションのように見えた。しかし逃げることも動くことも出来ない。魔力の場による拘束は強力である。ミライ一人に集中している以上は脱出することは不可能。果たして、13本の剣が同時に突き立てられた。


「ハ、ハハハ!これでまず一人!次はキサマだヴィクトリー!ハハハハ!」


 かに思えた。


「……ハ?」


 ミライの姿が見えない。だが確かにそこにいる。気配が残っている。すぐに理由は分かった。剣が突き刺さる直前に魔女化を解いたのだ。巨大な魔女の身体から矮小な人間の身体へと変わること剣の同時攻撃を躱したのである。そして今、彼女は『断罪の剣』の刃の上に立っている。攻撃に転じたことで魔力場による拘束は弱くなり、13本が密集したことで魔力のネットワークは一気に小さくなった。思い切り刃の地面を蹴りながら再び魔女化する。


「……あ」


 身体が大きくなる勢いで、ミライはソードの魔力場から脱出した。手には既に『蒼龍』を携えている。


「しまっ……!」

「終わりですソード!」


 防御も躱すことも間に合わない。ミライの一撃がソードの身体を斬り裂いた。流れ込む『蒼龍』のエネルギーが全身を駆け巡り、炸裂する。


「く、あ、ああああああ!」


 巨大な爆発が彼女の身体を包んだ。その巨体が地面に落ちる。その向こう側で、滑るように着陸したミライ。摩擦熱が地面を焦がす。刀を鞘に収めて、言った。


「ご安心を。みねうちですので」


 崩れ落ちるソード。巻き上がる爆炎の中で巨人が倒れる。

 久々に言えたキメ台詞に、ミライは何だか嬉しくなって、地面に降りてきたヴィクトリーの元へと駆け寄っていった。




「始めようか。公平クン。交渉決裂なら仕方ない。力尽くでキミを奪うだけだ」


 公平は『レベル4』を構え、上空のユートピアを睨む。


「いくぞお!」


 叫びながら駆けだす。ユートピアは狂気的な笑顔で向かってくる。地面を大きく蹴って公平が跳びあがる。


「『切り裂け。BLADE』!」


 右手に冷たく輝く剣が武装される。二人がぶつかり合う直前。空間の裂け目がユートピアのすぐ目の前に開かれた。公平はそのままそこに飛び込んでいく。裂け目の向こう側は彼女の背後。その先にいるキサナドゥに向かっていく。


「なにっ!?」


 咄嗟に振り返るも公平は攻撃どころかこちらを見向きもしない。あの一瞬、『レベル4』で斬ることだって出来たはずだ。


「貴女の相手はこっちです!」

「はっ!?」


 突き立てられるワールドの槍を、右手の剣で受け止める。


「キサナドゥに邪魔されたら敵わないですからね。『レベル5』が使えなくなった時点であの人間は邪魔でしかないですから。あっちを足止めしてくれた方がいい」


 あの一瞬で裂け目を開いたのはトリガーであった。如何にしてユートピアを掻い潜りキサナドゥと戦うのかを打ち合わせていたのだ。


「バカな……!彼なしで『ボク』を倒せると!?」

「ええ。そういう事です!ローズ!」

「了解!」


 ローズは『薔薇園の鞭』でユートピアを拘束する。上下左右やたらめたらに振り回し、地面に叩きつけた。方向感覚を狂わされ、混乱している瞬間を更に追撃する。咄嗟の事に防戦一方である。隙をついて反撃しようと剣を振り上げるも、ローズの鞭に弾かれる。立ち並ぶいくつものビルの中を隠れながら進行していたのだ。

 ユートピアは思わず舌打ちした。油断していたとは言えこの二人にここまでしてやられるなんて。


「……二人?」


 ここにいるのは二人だけ。トリガーの姿が見当たらない。キサナドゥを追ったようにも見えなかった。咄嗟に空を見上げる。


「……そういう事か」


 『荒神の引き金・完全開放』は既に充填を完了している。ワールドとローズは着弾予定地点を離れた。ユートピアもそこから避けようとするが、ローズの鞭に縛り上げられ逃げられない。


「この……っ!」

「この前のお返し!」

「やりなさいトリガー!」


 ワールドの呼びかけにトリガーは深く静かに息を吐いた。


「オッケー!」


 極大の光線が放たれる。身体を縛られているユートピアは避けることも防御することも出来ない。無抵抗のまま光を受けとめる。声すらかき消す閃光に、『箱庭』の街が砕け、溶け、崩壊する。濛々と煙が上がった。そして──。

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