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未知との出会い  作者: En
第三章
103/109

「最強」の刃③

「お、おい美緒……。お前は人間の身体になれるんだからあっちに行ったらどうだ」

「イヤですよ。私アイツらキライなんですから」


 ナイトと朝倉が互いに押し合いながら言い合っている。

 エックスの部屋に六人の魔女が集まった。これだけの魔女が入ってくると流石に手狭である。机の上に座っている四人には関係ない話だが。

 ユートピアを倒す策を思いついた。公平がそう言うと魔女も魔法使いも素直に来てくれた。人間嫌いのワールドも文句一つ言わずにそこにいる。

 敵はユートピアだけではない。二人の魔人とソード、そしてキサナドゥ。五分も維持できない『レベル5』だけではどうにもならない。公平には協力者が必要だった。

 魔女たちは窮屈そうにしながらも公平の話を聞く体制を整えた。彼女たちの傷もすっかり癒えた。しっかり休めたということ以上にウィッチのキャンバスを手に入れたことが大きい。回復魔法がより強力になったおかげである。

 最初に公平は新しい魔法『レベル5』について話した。実際に発動して披露したりもした。


「……これが終わったら真っ先にお前を殺した方がよさそうですね」


 ワールドは苦々し気に言う。疑似的、時間制限ありとはいえ、ランク100が脅威であることには変わりない。どんなに強力な魔法でも魔力消費なしで自由に発動できる。そんなことが出来る人間を放置したくはない。


「まあ。それは後で話そうぜ。で、実際の作戦だけど」


 公平は、ユートピアはいずれ自分を殺しに現れると読んだ。その瞬間が決戦の時である。

 ワールドには事前に人間世界と魔女の世界を繋ぐ道を歪めてもらって、強制的に別の場所に行きつくようにしてもらう。人間世界では周りの被害が気になって本気で戦えないからだ。代わりの行先はエックスが特訓用に用意した『箱庭』である。万が一の時のことを考えて、ナイトと朝倉は人間世界に待機してもらう。


「ンで。実際にユートピアたちと戦う時の作戦だけど」


 魔人は吾我と杉本が倒す。一度倒したのだからどうとでもなる。魔人対策終わり。

 ソードはミライとヴィクトリーが倒す。二対一ならどうにかなる。ソード対策終わり。

 ユートピアはワールドとトリガーとローズが抑え込む。三対一なら多分何とかなる。その隙に公平がキサナドゥからキャンバスを奪い無力化する。その後ユートピアとの戦いに加わり、ワールドたちと協力して倒す。ユートピア対策終わり。

 ユートピアさえ倒せばエックスも元に戻る。ミッションクリア。


「以上です。質問ある方はどうぞ」


 一瞬空気が凍ったような雰囲気が漂う。トリガーがわなわなと震えた。


「アナタふざけ……」


「じゃあそれで」と吾我が言う。


「そうですね」後に続くようにワールドが。


「了解です!」ミライが元気に返事をして。


「じゃあ。解散」最後にヴィクトリーが締める。


「ちょ、ちょっと待ってよ!」


 トリガーが机をたたきながら立ち上がった。


「それじゃあまた特訓よ弟子!まだまだ強くしてあげるわ!いつ戦いになってもいいようにね!」

「ローズ!ちょっと待ちなさいって!いいのワールド!?こんなの作戦とは言えないわ!『どうにかなる』とか『多分』とかさ!無茶苦茶ふんわりしてるじゃない!?コレでどう動けって言うのよ!?絶対失敗するわよ!?」

「いいじゃないですか。失敗したって。いや、いっそ失敗すればいい」

「え?」


 想定外の言葉に戸惑う。


「最初から人間如きが小さな脳みそで考えた作戦に期待なんかしていません。派手に失敗してそのまま死んでもらえば、後は私たちの好きにやればいいじゃないですか」


 トリガーは全然納得できていない表情だ。はぐらかされた気分である。勿論のこと、納得できていないのはワールドも同じ。しかし、これ以上突っつく気もなかった。彼女は公平という人間を知っているからだ。

 勝つためなら手段を選ばない男。勝手に仲間の命を賭ける男。エックスのためなら何でもやる男。敵を騙すなら味方からを地でいく男。

 勝つための戦略が別にあるのだろうとは思うが、彼がそれを正直に話すとも思っていない。そしてワールドはそんな彼に一度敗れている。一応は信用する理由になる。人間は死ねばいいと思っているのも本心だが。


「私はユートピアが来た時の準備をしてきます。お前の作戦通りにやるなら、ここから先は敵が来るのを待つことになる。それまで精々死なないように鍛えておくんですね」


 そう言い残してワールドは部屋を出て行った。彼女であれば二つの世界を行き来する道を歪めることは容易いはず。ユートピアがすぐに攻めてきても問題はない。


「じゃあ、私もこれで。行くわよミライ」

「ハイ」


 ヴィクトリーは机の上のミライを拾い上げて、裂け目を開く。ナイトと朝倉を引き連れて、彼女たちが普段使っている修行用の世界へと移動していった。それを見送った吾我は公平に振り返る。


「俺と優もローズに鍛えてもらうつもりだが、お前はどうする」


 エックスがいないという事は修業を付けてくれる魔女がいないという事。ローズはちらちらと公平を見ている。一緒に特訓するのもやぶさかではないという顔だ。しかしローズという魔女はそういう事を素直に言う魔女ではない。


「わ、私は二人の弟子を育てるのに忙しいの!ダメよダメ!」

「ああ言ってるし。俺はいいや」

「でもまあ、どうしてもって言うなら……ええっ!?」


 ローズは唖然とした表情で公平を見下ろす。驚きのあまりどこかへ飛んでいった感情を取り戻すようにふるふると首を振って、机の上に顔を近づける。


「き、聞き間違いかしら?私との特訓は必要ないなんて言ってないわよね?」

「え?いや。そう言ったんだけど?」

「なんで!?」

「だって忙しいって……」

「忙しいけど余裕はあるわ!」

「ああ……。でもいいや」


 ローズのあまりの勢いにたじろぐ公平だが、それでも意見は変わらない。


「な、な、なんで……?」

「こっから先は『レベル5』の持続時間を長くするだけだから。やることは自分で分かっているから、師匠は必要ない」

「そ、それでも」

「それでも仮想敵は必要じゃない?」


 公平はその声に振り返る。トリガーが彼を摘まみ上げた。


「それくらいの相手なら誰だっていいでしょ。何ならアタシでも」

「あー。じゃあお願いしようかな」


 ローズは釈然としない顔で二人のやり取りを見つめている。誰でもいいなら自分でもいいのではないか。もしかしたら嫌われているんじゃなかろうか。落ち込みつつある表情に気付いたトリガーはため息を吐きながら向き直る。


「貴女はそのお弟子さんを育てるのに注力したら?この子が言いたいのは要するにそういう事でしょ」


 ローズは吾我と杉本に目を落とす。公平には自分のキャンバスを広げる『レベル5』がある。持続時間は五分足らずだが、たったそれだけの時間であのソードを追い詰めてしまったのだ。彼と戦ったら疲れ切ってしまって肝心の二人の特訓が出来なくなる。


「そ、そうね。うん。確かにそうだわ。よしっ!行くわよ弟子!もっともっと強くしてあげるんだから」

「はいはい」

「分かった分かった」


 彼女のハイテンションに対してどこか白けた雰囲気の二人。それでもしっかり付いていくのだから信頼しているのが伺える。

 トリガーはぼうっとそのやり取りを見つめていた。ローズは相変わらずだ。どこか抜けていて、魔女らしく自由で、それでいて魔女らしくないくらいに優しい魔女。

 しかし何も変わっていないわけでもなさそうだった。ほんの少しだけ積極的になったように見える。きっと気のせいではない。実際に人間と触れ合うことで何かが変わったのだろう。

 トリガーは指と指の間に視線を落とす。そこには最初に魔女と人間との関係性を築いた者がいる。全ての切っ掛けとなった二人の片割れだ。


「じゃあ。アタシたちも行こうかしら」

「ああ。お手柔らかに頼むよ」


 彼女は公平の策に納得しているわけではなかった。だがこれ以上問いただすつもりもない。ワールドたちがそれでいいというなら。他の者が納得できずとも受け入れたのなら、それを信頼してみることにする。




 一足先に修業を終えたローズが吾我と杉本を連れてエックスの部屋に戻ってきた。二人を机の上に降ろして言い聞かせるように言う。


「それじゃあ、今日はしっかり休むこと。いいわね?」

「分かってるよ」

「敬語……。まあもういいけど」


 ローズは自分の部屋に戻っていった。吾我と杉本は一度公平の部屋へと向かう。そこに置いてある荷物だけ回収して一度人間世界へ戻ろうとしていた。

 部屋に入ると、高野が神妙な面持ちで彼らを見つめていた。


「どうしたんですか高野サン。怖い顔して」

「まだ戦うんですか。ソードよりも強い魔女が現れたと聞きました。エックスも敵に回ったそうですね。それでもまだ」

「まだ諦めていない奴がいる。アイツが諦めていないのに、俺が諦めるわけにはいかない」

「僕たちの理由はそれだけですよ。まだ諦めてない人がいるのに、僕らが降りるわけにはいかない。どうしてまだ戦えるのか気になるなら、僕たちじゃなくてあの人に聞いてみたらどうですか。きっともうすぐに帰ってきますよ」


 それから二人は荷物を持って部屋を出て行く。ただ一人、高野だけが残された。

 暫く待っていると部屋の扉が再び開いた。げっそりした顔の公平が入ってくる。


「あー、疲れた……。うわっ!びっくりした!」


 恐い目でジトッと見つめられてドキッとしてしまった。高野が先ほどと同じように座りながら睨んでいる。


「た、高野サン?どうしたのそんな怖い顔で」

「どうして貴方はまだ戦うんですか」


 強大な敵が現れ、エックスも奪われて、切札の魔法は強力とは言え五分ももたない代物。不利な状況は決して変わらない。どうしてまだ戦おうとするのか高野には分からなかった。


「聞こえていましたよ。貴方の考えた作戦。何ですかアレは。行き当たりばったりの出たとこ勝負。それで本当に勝てるつもりでいるんですか」

「勝つよ。当然」

「……みんなどうしてアレで戦えるのか分からない」

「俺が失敗したら他のヤツが何とかするよ。負ける気はないけどね」

「どうしてなんですか。どうして諦めないんですか」

「エックスを取り戻さなきゃいけない。俺が決めたことだから、投げ出すわけにはいかない」


 投げ出すわけにはいかないから投げ出さない。諦めることは許されないから諦めない。戦い続ける理由はそれだけだった。公平は高野の顔を見つめる。


「ユートピアに負けて、エックスまで奪われて、俺は何も納得できていない。だから全部ひっくり返す。必ず勝つ」


 高野は彼の言葉を全部理解できたわけではない。これは彼の個人的な思いでしかないのだから当然だ。理解されなくてもいいとすら思っている。だが彼女には一つだけ、引っかかったことがある。


「……納得と言うのなら、他のみんなも貴方の作戦に納得できていないのでは?」


 あんな適当な作戦で誰が何を納得できたというのだろうか。公平は苦笑いしながら答える。


「トリガーは分からないけど、他のヤツは多分納得してるよ。俺が大事なことはちゃんと話さないヤツだって知っているから」


 トリガー以外はみんな、公平が本当の作戦を隠していることに気付いている。その上であの作戦に乗ってくれた。納得はしていなくても納得してくれている。それに甘えている自覚もあった。最低の男だと思うけれども、今はまだ本当のことを話すつもりもない。


「ま、他の連中が納得しているかどうかなんてどーでもいいよ。俺だけが納得できればそれでいいんだ」


 ふてぶてしく言い放つ公平の姿を見て、高野は押し黙ってしまった。自分は納得できているのだろうか。こんな中途半端な立場で。

 どうしたら納得できるのだろうか。心のどこかで考えている。

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