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供え文  作者: 齋藤ごんきょう
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出逢い

明くる日、六月の天気には似つかわしくないくらいに晴れた日。自分の中の半分の意識が目を覚まし、ベッドから体を起こしカーテンを開けベランダに出る。陽の光を真正面から浴び、起きていないもう半分の自分を起こす。室外機の上に置かれた植物は、明け方まで降っていたのであろう雨粒を器用に自分の葉に載せている。

 ふと、そのうちの一粒が重力に身を預け葉からするりと滑り落ちる。葉から放たれたそれは途中、差し込んだ陽の光を吸収し、繊細な輝きを一瞬だけ放ち、地面へと降りていった。天候問わず、朝起きたらカーテンを開けてベランダに出て外の空気を吸う。これが自分の日課となってからもうどれくらい経つのだろう。

 そんなことを思いつつ着替えを済ませ、スクールバッグを片手にリビングへと降りた。

ラジオ感覚でつけられているテレビからは「今日の占い」が流れており最下位の星座の方々に対し、はつらつとした通る声で何を根拠にそれになったのか分からない「折り畳み傘」をラッキーアイテムと称して励ましのメッセージが送られていた。

 そんないつもと変わらない朝の風景をなぞるように、家を後にした。



 高校までは歩いて15分ほど、入学当初は自転車を使っていたが、ある時を境に歩き一択になった。行き帰りのこの時間にさえ何かを見つけ、見出したく、自転車に乗っていたら見えない目線の高さにあるモノを見たくなって歩きだしたのがキッカケなのかもしれない。キッカケなんてものは、それが習慣化しさえすれば自分の中に残っていることの方が少ない。持ち続けていることが難しいものである。

 大きく開かれた校門に吸い込まれ、自分の教室へと向かった。入るや否や、いつもとは違う教室の空気を感じた。案の定、お調子者の佐竹が聞いてもいないのに転校生が来ると浮き足立っていた。卒業半年前のこのタイミングでクラスの一員になる新しいクラスメイトに対する憶測は後を立たなかった。

 幸か不幸か、自分の左隣の席はクラスの人数の都合で空いていた。セオリー通りにいけば、その転校生は俺の隣にくるだろう。流石に自分の中のイメージが膨らむのも無理はなかった。


 8時50分のチャイムキッカリで担任の瀬野が教室に入ってきた。今日ばかりはクラスのみんなもいつまでも騒ぐことはやめ、瀬野から告げられる転校生が来るとの報告に期待を寄せていた。誰がどう広めたのか情報の伝達スピードに驚いた様子で瀬野は黒板に縦書きで転校生の名前をすらすらと書き示した。



相沢 絵里



 瀬野の合図で教室に入ってきた彼女は綺麗な長い黒髪と、今にも零れ落ちそうな大きな黒い瞳が印象的で、いわば古き良き時代の古風なつややかさを持っていた。


 この時の出会いが後の人生に大きな影響を及ぼすことをお互いはまだ知らない。

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