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供え文  作者: 齋藤ごんきょう
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放課後

放課後、降りしきる雨音と体育館からのバスケ部員のシューズとワックスがけされた床がこすれる音に挟まれながら校門をくぐる。クラスメイトのほとんどはこの時間各々の部活に汗を流す。門を出ると一匹の野良猫と目が合った。そのつぶらなまなざしからは、

 「お前は青春に明け暮れないのか、夢は無いのか。」と問いかけられているようですぐさま目線を外し、カフェGLOSSグロスへと向かった。本来であればバイトは校則で禁止されている。ただ、俺の祖父が経営していることと、祖父一人で切り盛りしているため手が足らないこともあり暗黙の了解で俺はそこで土日含め週三日アルバイトをしている。幸いなことに友人や学校関係者が来るほどの繫盛店でもないため、これまでアルバイトが発覚することは無かった。無論、これからも。

 

 学校を後にして十分、閑静な住宅街の中を縫って歩いていくとカフェGLOSSはあった。カフェとはいえども控えめすぎる木目の看板が一枚郵便受けの下に掲げられており、知る人でなければここがカフェであることにすら気づかないだろう。クリーム色の壁をつたうツタは広がりをみせ、そのうち入口をも塞ぐのではないかと心配になる。年季の入った門を明け、祖父お手製のクリーム色と茶色のタイルが敷き詰められた道をたどると、年季の入った杉の木のドアがあり祖父のこだわりからかドアノブ部分まで木で作られている。こだわるところには一切の妥協をしないのが祖父だった。


ギィィィ


杉のドアノブから伝わる木の温もりを感じつつ、ずしっと重いドアを開けると、このカフェの歴史を物語っているかの様な哀愁漂う音が俺をいつも出迎える。どうやらお客はいないようだ。


 「おぉ、快か。お帰り。今日もありがとうな。腹空かしてんだろうからオムライス作ってあるぞ。それ食べてから手伝ってくれやい。」

 「ありがとう、じいちゃん。遠慮なくいただきます。」俺がなぜここでアルバイトをしているかと問われたら祖父が作るまかないが食べられるからという理由が八割で、残りの二割が稼ぎたいからといっても過言ではない。祖父が作る料理は何を食べても美味い。カウンターに腰掛け置かれていたオムライスのラップを取る。ケチャップの酸味に甘くコクのある卵とほんのり漂うバターの香りが俺の食欲を刺激した。


 「いただきますっ!」

カウンターを挟んで立ちながら新聞を読む祖父に向かって言ったが返事はなかった。

卵にスプーンを入れ、中から顔を出したチキンライスと一緒にすくい、頬張る。思わず悶絶しそうになるくらい美味かった。そんなことは気にする素振りすら見せない祖父は相変わらず新聞から顔を上げようとしない。

そして、不意に手にしている新聞に目をやると、ある一面の見出しが俺に飛び込んできた。



『供え文、今月に入り四件目の証言者か』


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