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供え文  作者: 齋藤ごんきょう
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金木犀の便り


 

 


「あ、妖精たちがはしゃいでいる…。」

ふと、私はそう思う。


それはもう十年も前の話になるが高校からの帰り道、ふと友人から

 「このさ、秋になるとやってくる金木犀の香りってさ、絵里は例えるならどんな香りだと思う?」

途中の精肉店で買ったコロッケの匂いでそれどころではない私にとっては難しい質問だった。一度、嗅覚を落ち着かせるため握ったコロッケを離して金木犀に意識を集中させてみる。


 「うーん…」

 「なんか、パステルカラーの服を着た妖精たちがはしゃいでいる感じかな。」

 「なんか分からなくもないけど分かりにくい例えだね、妖精さんかぁ…。相変わらず絵里の感性には驚かされるばかりだわ…。」

 「てか、急になんでそんな質問してきたの、瑞希?」

 「とくに理由なんてないよーだっ、ねねっ、一口コロッケちょーだい!」

 


 それからというもの、私にとって金木犀の香りは秋の訪れを知らせるとともに他愛ない青春のあの一幕を想起させるスイッチにいつの間にかなっていた。


 「今日の夕飯はコロッケにしようかな。」

秋の夕暮れが地面に投影した疲れ切った自分の影を見つめながら家路につく。誰かが運んできた今日を穏便にやり過ごす代わり映えのない日常。今の生活や仕事、環境に対してこれといった不満もない私の人生は裏を返せば面白みのない平均的な生活、「可もなく不可もなし」といったラベルが貼られるのがオチだと思う。

 特に何が入っている訳でもないポストをいつもの惰性に任せて開けると宅配ピザのチラシや新しく開店する美容院のチラシに紛れ、一枚の封筒が目に入ってきた。


 「なにこれ…」

若干の生臭さが漂ってきそうなくらいしわくちゃに変色したその封筒には送り主の宛名や住所の記載も無ければ切手も貼られていない。唯一、確認できるのは擦れた文字で「0517」といった具合に4ケタの数字が封筒の裏面右下に書かれてあるだけだった。ますます不気味に感じた私は何かのいたずらだと思い、その封筒をそのままポストに戻し部屋に入った。


いったどこの誰が何のために。


私がこの封筒の意味を知るのはもう少し先の話…。


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