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供え文  作者: 齋藤ごんきょう
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その手紙は重なることのない未来のあなたへの想い

 「はぁ…。」

 どれだけ声を挙げても六月の空はその全てをもってして俺の生きる気力、やる気を無効化する。そんな渇き切った空を見上げながら、空の色と似た鉛色の校舎へと重い足を進める平凡な今日。誰かが運んできたそんな今日に俺は生かされている。夢も希望もない典型的なさとり世代の一ピースを担う未来の社会の歯車、憂鬱しか人生は覆われていない。


 教室に着くなり、学年きってのお調子者の佐竹が俺の話を聞いてくれと言わんばかりの形相でこちらに向かってきた。

 「おい、田山っ!聞いたか?例のあの噂!

意中の人への想いを手紙に綴ってある特定の時間と場所に供えることで手紙に綴った想いが叶うっていうあの噂!どうやらほんとらしいぜ、なぁ、俺たちもやってみようぜ!」

 「ぐずついた天気と裏腹に今日も元気だな、佐竹は…。」

 「まぁな、俺の人生天気予報は常に晴れだ!快晴だっ!」

 「それはなによりだな…。例の噂話のことは俺も幼少期から何度も耳にしてきたし、所詮この地域に伝わる噂話の域だろ?そんな話に踊らされている暇あったら今日の英単語のテストでもしてろよ。」

 「はぁ~そうかい、そうかい!夢もへったくれもないということか田山は。俺は悲しいよ、アオハルを今謳歌せずしていつするのよ、今でしょ…、もういい、君を誘った俺が馬鹿でした、えぇ!」と言うなり佐竹は自分の席に戻って行った。三列前の席に座るや否や例の噂話を誰それ構わず周りの連中に言いふらしている姿からしてどうやら彼は心の底からそれを信じ切っているらしい。

 通称「供え文」、この地域に古くから伝わる噂話の一つで意中の人への想いを綴った恋文をある特定の時間かつ特定の場所に供えることで想いが叶う、とまぁどこにでもありそうな噂話。今のこの時代、そんな噂話を当てにしている人のほうがもちろん少ないわけで、とりわけ俺もそのうちの一人。まともな恋愛に期待を寄せるのであれば駅のホームでナンパをするか、マッチングアプリを活用する方が賢明に思える。無論手を出したこともなければ、彼女なんてできたこともない俺だが。

窓の向こうに視線を移すと相変わらずの鉛色がべったりと空一面にこびりついていた。


 「そういえば、午後から雨予報だったっけ。」


 先だって馬鹿にした噂話、「供え文」にこれからの人生を翻弄される日がくるなんて鉛色の空にぼやく俺はこのとき思ってもみなかった。


26歳、しがない会社員。

コンクリートジャングル東京で週五日揉まれ、ヒトと世に翻弄されながらも紡ぐ心の叫びを作品に。

ぜひ、お付き合いくださいませ。

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