第十五話 勝ちたきゃ振れ
「は~はっは」これぞうの話しを聞くとあかりは笑い始めた。
「あんたってばまたまた妙なことになってるのね。ぷぷっ、いや~本当に小説より奇なりな人生を歩んでいるのね。で、どうすんのよ、負けた時は?」
「姉さん、男が勝負するって時に負けることなんて考えると想うかい……とは言ったものの、その時にはどうしようか姉さん?」
強がったがやはり心配も残るこれぞうだった。
「あーまったくもう、これから結婚するって男が情けなく姉さん姉さん言ってんじゃないわよ。そんなオヤジにはガツーンとホームランでもピッチャー返しでもかましてあげればいいのよ」
「姉さん、ピッチャー返しは危ないし最速でアウトを取られるじゃないか」
あかりは野球にはあまり詳しくない。
「しかしあんたもあんただけど、向こうも向こうで吹っかけてきたものね。だったらもう勝つしかないじゃない?それともみすずちゃんをお嫁さんにもらう?……あぁ……それもまた良いわね。みすずちゃんも可愛いし」姉は脳内で義妹を取っ替え引っ替えして楽しんでいた。
「まぁ勝負する、賭けをするってなったならもうどうしようもない。あとは正々堂々と相手を叩き潰すまでよ。だいたい野球も色恋もそんなものよ。邪魔なものを叩き伏せて勝利を勝ち取るのは一緒」
「おかしいなぁ、僕の知る野球と色恋はそんなに野蛮なものじゃないのだけどなぁ」
あかりはその気質からやや強引な理論を説くが、結果的には彼女が言う通り相手を倒す他これぞうの未来を広く方法はなかった。
「よし!では素振りだ!姉さん、僕のバットはどこにしまったっけ?」
これぞうはやる気だ。
「何言ってんのよ。いつだかあんたが金属バットを持って警官とやりあった時に、お母さんが呪われたアイテムでも処分するようにしてゴミに出したじゃない?いい歳してまた親を泣かせる気?」
「アウチ!そういやそうだった。それからお母さんはあの時一滴だって涙を流しちゃいないよ。むしろ最初はちょっと笑ってたし」
これぞうがバットを持って警官とやりあった青春の出来事については前作参照。
「ああ、代わりにコレでも振るか」
これぞうは庭に出て久しぶりに素振りをしてみた。思えば高校一年生のあの時からバットを握ったことはなかった。かつてのスラッガーもすっかり勘が鈍ってしまっていた。
「あんたそれどこにあったの?」縁側から庭を覗いてあかりが言った。
「ああコレ?玄関の傘立てにささっていたからバットの代わりにしてる」
これぞうはバットの代わりにテニスラケットを振っていた。これは学生時代に彼の父ごうぞうが愛用していたものだ。ごうぞうはテニスサークルでそこそこ良い戦績を上げていたという。
「うん、うん、何か感覚を取り戻してきたぞ。思えば僕はあそこのバッティングセンターではホームラン賞の常連だったではないか」
本当のことである。
「あんたってやっぱりおかしな子ね。まぁ頑張りなさいよ。みさき先生を勝ち取るためにね」
「ああ、もちろんさ姉さん」
最近運動をしていなかったものだから、早くもこれぞうの息は乱れていた。




