7話
昼食や夕食のために食堂によばれることはあったけど、そこでディル様やあの執事がいることがなく、案内してくれたメイドさんに二人のことを聞いてみると
「ご主人様やジーニアス様はお忙しい方なので」
としか答えてくれなくて、何をしているのか分からなかった。
しかしさすが、偉そうにしていただけあってかこの屋敷にいる間は外で騒ぎが起きているだなんて全く分からない‥いやそもそも私は町の中で串肉頬張ったりしてるくらいだったろうから正確に言えばヤギさんの厄災具合が封印されてると言った方が正しいのかもしれない
ヤギさんは用意されたベッドがふかふかで嬉しいのかゴロゴロしたりして昼食の時は私一人で食べた。
まぁ私は仮眠少しはできたけどヤギさんは寝ることなく見張っていたから疲れがたまっていたのだろう。
「トウカ!ここの飯は美味しいのか?」
「美味しいよ‥」
「楽しみだ!」
昼食のときはさすが貴族と言うべきなのか豪華な食事が出てきた。食べきれなかったけど美味しく、ユウやアリーが作ってくるご飯や出店のご飯も美味しいけど、優雅というべきなのか丁寧な食事と言う印象だ。
その後食事も終わり、風呂も済ませ、部屋でディル様たちの連絡を待つ。
ヤギさんの情報だけでいくなら、もう王都は騒ぎが起きているはずだけど、町の人たちとかは大丈夫だろうか、別に心配するほど仲良くなった人とかいないけど、串肉のおじさんくらいは無事を祈っておく。
結局何事もなく、眠ってしまい、次の日になるとヤギさんが「トウカ起きろ!」と起こしてきて、できればゆっくり起こしてほしいと思っていると急いでる様子なのが見て取れて、急いで頭を覚醒させる。
「どうしたの‥?」
「屋敷が襲撃を受けてる、というか魔物が王都へ襲撃してるらしい」
ちょっと意味が分からない、私の頭が追いつかない事態ばかりこないでほしい
起き上がって、外では戦闘しているのか屋敷の私兵であろう人たちの声が聞こえる。
”敷地には入れるな!”
”て言っても空飛んでるやつとかいますよ!”
”狙撃しろ、弓を持ってこい”
騒がしい中でもなんとか聞き取れた内容では決行やばいのかもしれない
「トウカ、これ渡しておくぞ」
屋敷で勝手に拝借したのか、ナイフを渡される。いくら寛大な対応されていたからって盗んだのがばれたらさすがに怒られそうな気がすると思いつつも非常事態なので仕方ないだろう
とにかくここに一人でいても危ないかもしれないので、ヤギさんについて行く
「どこ行くの‥?」
「もうあの貴族を待っていてもどうしようもないだろ、まさか魔物まで持ち込んでくるとは思ってなかったな!」
「魔物って盗賊ギルド‥?が持ち込んだの?」
「いや、あれは別の伝手だろうな、ボクたちに依頼持ってきたやつが他に用意してたんだろう」
こんな騒ぎを起こして一体どうしたいのか、依頼主に恨み言の一つでも言ってやりたいくらいだ。
その後ヤギさんは正面玄関から出ると、予想してたより魔物が空を飛んでいて焦った。
「あれって‥ガーゴイル‥?」
「おー、トウカは知ってるのか」
空を飛ぶ石の魔物、背中に翼があるけど、どうみても質量的に飛んでるのが違和感を覚えてしまう
とりあえずあんな魔物が空を蔓延ってるなら‥もう少し屋敷の中にいたほうが安全だと思ったので、私は一人で屋敷に戻る。
「トウカ行くぞ!」
ドアを閉じて、メイドさんでも探そうかなと思ったら、ドアが”バン”と開いて「トウカ!?行くぞ!!」 と叫んできた。
「嫌‥!中の方が絶対安全だよあれ‥!」
「いや、屋敷の中にいても魔物が来るかもしれないだろ!行こう!」
「なんで‥!そんなに行きたがるの‥!?」
「どうせなら行った方が楽しいだろ!!」
「馬鹿なの‥!?」
一体魔物になんの恨みがあるのか、いつも以上に元気になってる気がする。というか昨日一日何もせずに過ごしたからなにかしらの鬱憤でもたまっているのかもしれない
と、玄関で騒いでいたら、空にいたガーゴイルが一体下に降りてきた
「明らかに‥ナイフじゃ太刀打ちできそうにないんだけど‥!?」
「大丈夫だ!ボクがなんとかしてやる!」
それなら一人でなんとかしてほしい、私を戦闘に巻き込まないでほしい
ドアを思いっきり閉じて、すぐに後ろに下がるけど、ドアが簡単に壊されてガーゴイルが屋敷の中に侵入してきた。
「ほら‥ヤギさん行ってきて‥!」
「トウカ、大事なことを言ってもいいか?」
この襲われている状況で一体何を言うつもりなのかと思ってヤギさんを見ると良い笑顔で
「こいつ血が通ってないから倒せない!」
急いで逃げる。
そういえばヤギさんまともに戦闘で勝っているところ見たことがない、呪法とかで敵の血液奪ってなんとかするしかできないのだろう。
「なんで‥倒せると思っていたの‥?!」
「普通魔物でも血くらい通ってると思うじゃないか!」
たしかにその通りではあるけど、血の通ってない魔物くらいいくらでもいるだろうに、というかあのガーゴイルはどう見ても血が通ってる見た目とは思えないのに、なぜ血を奪えると思っていたんだ
お互いに言い合いながらも逃げると、途中メイドさんたちを見かけて、助けを仰ごうと声を掛けようと思ったけど、怯えてる姿からさすがにこの人に頼るのはできないと思い、後ろを振り返る。
ヤギさんも逃げるのをやめて、私と一緒にいてくれるけど、顔をしかめているので勝てる見込みはないのかもしれない
「どうするトウカ、あれの攻撃を避けるだけならできるかもしれないけど」
「私は‥避けることすらできそうにないよ‥」
のしのしと迫ってくるガーゴイルにヤギさんが突っ込むと、巨体とは思えないような速度で腕を振るい、それを綺麗に避けて見せる。
「ヤギさん‥!助けがくるまでそれやってて‥!」
「さすがにそれはボクでも無理だよ!?」
高望みはできなそうなので、メイドさんたち声をかける
「あの‥ディル様とか戦闘ができそうな人‥呼んでもらえますか?!」
「わ、分かりました!」
メイドさんが離れていくので、遠くに行ったら、再度屋敷の中を逃げ回れば時間は稼げるかもしれない、ヤギさんは近くにある壺とかをガーゴイルに投げたりしながら反撃しているけど全く通じてないのだから、できれば高そうなものを投げるのはやめてもらいたい‥
体力が尽きる前にヤギさんに「逃げよう」と声をかけて後ろに走る。そしてガーゴイルもまた迫ってくる。
「トウカ、あのガーゴイル恐らく、核がある!」
「つまりどういうこと‥?」
「魔物じゃなくて魔法生物ってこと!魔力を供給してる石が体のどこかに埋め込まれていてそれを壊せば倒せるはずだ!」
まず石の体がびくともしていないのに、どうやってその核を壊すというのか
とりあえず他の人がガーゴイルと相対するときには伝えようと思うけど、まずは私たちが助かるかどうかが問題だ
するとメイドさんがあの執事を連れて戻ってきてくれた。
「ジーニアス様あちらです!」
私は二人が走っているところを見ていたはずなのに次の瞬間には執事の姿が消えて、後ろで大きな音がしたので振り返ると執事がガーゴイルを縦に真っ二つにしていた。
ユウがゴーレムに苦戦していたし下手をしたらユウよりこの執事の方が強いのではと疑ってしまう。いや、あの時は剣がどうたらと言ってたので、実力は一緒くらいなのかもしれないけど‥
「まさか中に入り込まれているとは思いませんでした。大丈夫ですか?お二人共」
「た‥助かりました‥」
「助けに来るのが遅いぞ!もっと早く来てくれ!」
元は勝手に外に出たヤギさんのせいなのを是非自覚してほしい、そうすればあのガーゴイルがこの屋敷に入ってくることはなかっただろうに
「申し訳ありません、外で戦闘をしていたものでして、それでは急ぐので」
そう言うと、窓から外に出ていく、もしかしたらメイドさんが外にいる執事に声をかけてくれたのかもしれない
3人になったので、どうしたものかと思っていたら、ヤギさんがまた外に出ようとし始めるので、なんとか引き留める
「だから‥なんで行こうとするの‥!」
「いや、ボクも戦闘に参加しようかと思ってな!」
なんだ、もしかして戦闘狂だったのだろうかヤギさん
「あ、あのお客様、ここにいては危険ですので、どうか広間の方にお集まりください」
メイドさんがおろおろしながら私たちに避難場所であろう広間を勧めてきた、というかそんなところがあるなら最初に声をかけてほしかった。
「どこか‥案内してもらえますか‥?」
「はい!こちらです!」
ヤギさんを引っ張っていくけど、中々折れてくれない
「ヤギさん‥我儘言わないで‥!」
「しかし!予定にないことは弱いんだ!」
「そんなことないでしょ‥!」
「マスターが!」
マスター?盗賊ギルドのマスターのことだろうか、ヤギさん先日凄い自信満々にあの人は死なないとか言ってたじゃないか
「どうして‥その人が今出てくるの」
「トウカがどう思ってるのかは知らないけどマスターのところにボクは行かなければいけないから行ってくるよ」
なんと、元々ギルドマスターと話をしたがっていたから親密な関係なのかもしれないとは思っていたけど、この状況でそんなことを言い出すとは思ってなかったので、さすがに困惑してしまう。
すると掴んでいた手を捻られ外されるとヤギさんが外に走ろうとするから、私もメイドさんを置いて一緒に走る。
あぁ、なんで自分のことを殺そうとしているギルドのマスターがそんなに大切なのかいまいち分からないけど‥
「ん!?やはり一緒に行くんだな!トウカ!」
「行きたくないこと‥山の如し‥」
ここにいたほうが安全なのは間違いないし、ヤギさん一人の方が逃げるのも良いのだろうけど、ディル様がどこにいるのかもわからないし、せめて知っている人の傍にいたほうが安心できる
「お客様!?」
「主人に伝えろ!ボクたちは外に出るから早く騒ぎをおさめろと!」
明らかに行動が好き勝手しすぎているのに、さらに催促までするとはヤギさん肝が据わりすぎだろ。
私たちは正面玄関まで戻り、外に向かって一直線に走る。周りを見るとそこらかしこで戦闘が起こっている。
屋敷の敷地から、ヤギさんに抱えられて壁を乗り越え出ると、町はところどころ壊されたり、住民であろう人もちらほらと怪我をしているのを見かけるけど、貴族区ということだけあって、他の場所でも誰かの私兵であろう人たちが戦闘をしている。
「どこに向かえばいいの‥?」
「分からない!けどマスターなら酒が好きだから酒場のどこかにいるかもしれない!」
いや、予想外のことに弱いとはいえ酒は飲み始めないだろうさすがに、しかし何も当てがないのでは仕方ない
「酒場って‥商業区のところだよね」
「トウカ、すまないが道案内を頼む!」
私も知るわけがない、けど、ヤギさんに任せるよりは私が先導した方が良いと思ってとりあえず走る。
大通りに出れば戦闘や怪我をしてない人に聞けば多少は分かるだろうと思い、通りを目指して行くけど、ガーゴイル以外にも狼のような魔物がいてヤギさんが即座に飛び出して、剣で斬りつける。ユウのように確実に一太刀で倒すことはないけど、それでも十分に強い
恐らく呪法も使っているのだろう、一太刀で仕留めそこなっても途端に狼の動きが遅くなったりしている。
そして通りに出ると阿鼻叫喚と言うべきか、どこも戦闘をしている地獄絵図だ
「これは凄いな」
盗賊ギルドに依頼してた件とは別にって言っていたけど、こんな大量の魔物を連れ込めるような組織が他にあるとは思えないのだけど‥
どうしていいのか思わず棒立ちしてしまって「トウカ!」と呼びかけられて意識を戻したと同時に体が横に飛ばされる。
壁にぶつかり、痛いと自覚して、近くにいつの間にか現れていたガーゴイルに殴られたのだと気づく。
「トウカ大丈夫か!?」
ヤギさんに抱えられて、そのまま離脱するとガーゴイルは近くにいる他の人を襲い始めている。
「見ない方がいい、戦闘ができない人であるなら惨いものを見るだけになる」
「うん‥」
けど目が離せず見続けていたら、捕まれ潰される姿を見て、私も殴られずに掴まれていたらああなっていたのかもしれないと思うと、殴られてむしろラッキーなのかもしれないとどこか心が麻痺したかのような感想が出てくる。
「どこに向かえばいい?」
「話せそうな‥人がいるところに‥」
こんな乱闘騒ぎをしているのだからそういう人が早々見つかるとは思えないけど、これなら引き返してでもメイドさんたちに道を聞けばよかったかもしれない
なんとかヤギさんに走ってもらっていると、馬車が走っているのを見かけた。
「あの馬車‥乗っている人に話しかけれる‥?」
「飛び乗る!ボクに掴まっててくれ!」
ヤギさんの服を掴み馬車の上に飛ぶと、馬を走らせていた御者人が驚き「ひぃぃ」と声を出している。
「ちょっと‥聞いていいですか?」
「な、何も知らない!俺は何も知らないぞ!!」
な、なんだこのいかにも何か知っているかのような反応は、ちょっと道を聞こうと思って声をかけただけなのに
「トウカ、何も知らないらしいぞ!どうする?」
いや、信じなくていいよ、どうせなら知ってることを洗いざらい聞いた方が良いだろう
「ヤギさん‥この人嘘ついてる」
「そうなのか!?」
「ほ、本当に何も知らないんだ!!」
「私には‥分かる‥!」
これで本当に何も知らない人なら素直に謝れば許してくれるだろうし、大丈夫だろうここは強気で行こう
「トウカがここまで言ってるのだ、信じる‥けど何を聞こうとしていたんだ?」
「知ってること‥全部話してもらおう‥?」
そう言うとヤギさんが未だ馬を走らせてる御者人の首に剣を突き付けて「吐け」と言う。格好良すぎて驚く、私もこんなシチュエーションをしてみたいものである。
「わ、分かったから頼む!殺さないでくれ!」
「あ‥ついでに商業区の方まで‥連れてってください」
「分かったぁ!だから剣をおろしてくれ!」
ヤギさんには一旦剣をおさめてもらい、私のナイフをヤギさんに渡して御者人の体にナイフを突き立ててもらう。
小回りの利いた短剣の方が馬車の振動で間違えて刺したりしないだろうとの配慮だ、相手としてはたまったものではないだろうけど‥
あとは目的地に向かいながら知ってることを吐いてもらおう




