5話
路地裏に逃げれば大体ヤギさんの仲間だった人たちが現れて、通りを歩けばヤギさんの仲間か警備兵が現れて、どうしようもないからと勝手に家の中に入ろうという話になってどこに入ろうか悩んだ結果、民家に入ろうという話になった。
「けど‥ここのあたりなんか民家というより‥屋敷とかばかりなんだけど‥?」
「考えられるのは一つだな!貴族だろうな!」
このままヤギさんに任せてしまったらまた大変なことになるんじゃないかと不安で一杯だけど、私を抱えてあっさりと壁を乗り越えるから拒否するまでもなく侵入を始めてしまった。
しかし貴族というのを私は鉄格子越しにしか見たことないからいまいちどういう人達なのか分からないけど、どうなのだろう、見つかっても助けてくれると良いのだけど
「貴族は私兵を雇っているだろうから気を付けるんだぞトウカ」
なんで貴方は戦う前提で話してるんだ‥え、戦うの?まあ不法侵入してる時点で斬りかかれるのは仕方ないのかもしれないけど‥
「もっと‥他の家にした方が良かったんじゃ‥?」
「こういう広い屋敷の方が隠れるところが沢山あるからな、潜むならこういうところの方がマシな時がある‥マシじゃないときもあるけど‥」
最後の方声を小さくしても普通に聞こえてるからね!?
端の茂みのほうに二人で座ると、さすがにずっと逃げ回っていただけあって、急にどっと疲れが押し寄せてくる。
「いやぁ、災難だったな!」
誰のせいだ‥なんにしても朝日が出たら早々に自宅に向かわないと、このままじゃ延々と逃走劇のループだ‥
いつの間にか眠ってしまったのか、目を開けるとまだ暗いので朝にはなってないのだろうけど、ヤギさんが私の顔を覗き込んでいて、少し驚いてしまった。
「なんで‥見てるの‥?」
「いや、可愛いなと思ってさ!」
なんで私はこいつに急に褒められたんだ、ヤギさんに言われると寒気の方がするのだけど、なんだろう寝てる間になにかされてないだろうな‥
「ヤギさん‥寝てないの‥?」
「ある程度寝なくてもボクは大丈夫だよ」
ある程度ってどれくらいだよ
なんだろう、曖昧な表現が多すぎていまいちヤギさんが強かったりするのが違和感でしかない、というかヤギさんが殺されてしまったり、兵に捕まってしまったら私ってどうなるんだろうか、やはり殺されるのだろうか
休んでいると、朝になってきてるのか、太陽の明るさがほのかに照らし始めてきた。
「そろそろ行こうか、大丈夫?疲れてない?」
「うん‥」
また壁を乗り越えるつもりなのか外壁に向かって歩いてると、物凄い速さで屋敷の方から足音が聞こえてきた。
「ヤギさん‥!」
「あー、これは逃げるより、向かい合った方がいい手合いだね」
すると姿も視認出来て、想像してたよりいくらか華奢な男の人が歩いてくる。
「忍び込んで何をするかと思いきや‥茂みで逢瀬をして帰るだけとは思いませんでしたな」
「あはは!見ての通り逢瀬の続きをしたいから見逃してもらえるかい?」
冗談を言い合ってるのだろうけど、貴族の私兵であろう男も苦笑しながら腰に携えてる剣を手から離さないので、やる気満々なのだろう‥もう勘弁してもらいたい
「あー‥トウカごめん、ちょっとこれは勝てない」
「え‥」
まさかの勝てない宣言に冷や汗をかいて、ヤギさんの方を見ると、ヤギさんは私兵ではなく上の方に視線を向けている。私も上を見るとなんか‥人が浮いていた
「ほう、力の差は分かるのか」
「坊ちゃま、ここは自分一人で問題ありませんので、どうかお下がりを」
凄い、魔法って空を飛べるようになるのか、というか私兵というかもしかしたら執事の類なのかもしれない物腰がやけに丁寧というか坊ちゃまとか言っちゃってるし
「ジーニアス、あれはお前一人では辛かろうよ?妙な身のこなしをしている」
「暗器、もしくは術士の類でしょうな、ああいう者には慣れてるのでご安心ください」
ヤギさんは上の方を見て勝てないと言ったから執事一人ならもしかしたら勝てるのだろうか、しかしあの坊ちゃま殺意が溢れ出てるし、一対一にはならないかもしれない
「ヤギさん‥どうする‥?」
「逃げたいけど、無理そうだしね‥」
音は聞くように気を付けていたのだけど、むしろ聞くべきじゃなかったのか、屋敷の方からまだこちらに向かっているのか複数の足音が迫ってきている。来るのに時間がかかるとはいえ、状況がどんどん悪くなっている。
ヤギさんは一矢報いるつもりなのか戦闘態勢が崩れないし、どうにか私から逃してもらうよう聞いてみるほかないだろうな‥嫌だなぁ話しかけるの雰囲気が威圧的な二人だから話しかけづらいのだけど‥
「あの‥見逃してもらえませんか‥?」
「なりませんね、この屋敷に踏み入れた時点で生きて返すことはありません」
「待てジーニアス、俺の判断を仰がずして勝手に決めるな、せめて見返りを聞くくらいはしてやろうじゃないか」
「これは失礼致しました」
「さて、娘‥ほう、獣人ではなくハーフの奴隷か、何か俺に貴様らを逃すことによって見返りがあるというのか?」
執事が殺意しかなくて焦ったけど、坊ちゃまの方は話し合いくらいはしてくれそうで助かった。とはいえどうしようか見返りとか何もないんだけど
何か考えないといけないのだけど、というか考えてから話しかければよかったかもしれない、返事を待たれてしまうとむしろ焦って考えがまとまらない
「わ‥私たちを逃すと一日ラッキーに‥なれます‥」
「道化の類であったか、ジーニアス殺るぞ」
「ごめん‥!まって、待って下さい‥!」
「次ふざければ問答無しに殺す」
ヤギさん‥は当てにならないし、いっそ殺されるくらいならあなたに仕えますとか言うのはどうだろう、ユウが帰ってきたら交渉してくれそうだし、他人任せにはなるけど‥あぁけどこれでまた『道化の類か』とか言って殺されそうな気もする。
そもそも貴族が欲しい見返りとか言われても困る、金品は駄目だし、何か情報みたいな‥
「い‥今王都で暗躍してる者がいる‥なんて情報とかどうでしょう‥?」
「ほう、どうでもよいな、この王都がどうなろうと俺の知ったことではない」
貴族のセリフなのか!?え、貴族って国に仕えてる人みたいなものじゃないの?
「トウカ‥恐らくこいつらは王都転覆を目論んでる貴族なのかもしれない‥」
この国なんか色々やばいな、ユウが冒険者ギルドとかが有能で平和だよーとか言ってたの嘘なんじゃないかと思うほど、盗賊はいるし、国は統率取れてないし‥
「勘違いをしているようだが、別に俺は転覆なぞ目論んでない、あの爺が俺に縋るのを待っているだけだ」
爺とは恐らくお偉いさん‥国王かなにかなのだろうけど、まさかの超自信過剰タイプだ‥まさかってか雰囲気がすでに自信過剰なのが溢れ出ているけど
「えと‥先んじて貸しを作っておいた方が‥?いいのではないでしょうか‥?」
「当然の義務と称してふんぞり返る爺の姿が目に浮かぶわ」
坊ちゃまも大概だけど、ここの国王も大概偉そうな人のようだ。
「坊ちゃま、見返りを求めてもこの賊が何かを渡せるほどの者と思えません、そろそろ戯れはお止めにお願いいたします」
なんてこと言いやがるこの執事、執事なんだからもう少し控えめに主人の判断を仰いでいればいいものを‥事実何も見返りなんかないのを見透かしてる時点で有能なのだろう
「そんなこと分かっておる、暇つぶしにはなるだろう?」
ですよね、分かりますよね‥私が何も言えないとヤギさんも分かったのか、腰を低くして迎撃に備えている。
こういう時こそ、ユウが急に現れてくれたら助かるのに‥まだ帰ってきてはないだろうし、仮に帰ってきてもこの屋敷にいるなんてユウが分かるわけもないので期待できない‥ユウ‥
「ぼ、冒険者Aランクに貸しを作る‥なんてどうでしょう‥?」
「ほう‥」
先ほどまでのように一蹴するではなく、まるで話の続きを促すかのように坊ちゃまが反応を示してくれた。
「ユウ‥と言う冒険者を知ってますか‥?」
「話には聞いておる、若くして破竹の勢いでAランクに昇格したらしいな」
「噂ではSランクも夢ではないと噂されていた男でもございますね」
執事がまさかの補足して手助けしてくれるとは思わなかったけど、先ほどまでと比べてかなりの好印象を与えているのは間違いない、これならなんとかなるだろうか‥
「ふむ。どう思うジーニアス?」
「嘘でございましょうな、第一に奴隷が主人に対し自分の命で貸しを作れるなどと、ここまで強気でいる時点で明白かと」
「だろうな、俺もそう思う」
まさかのどんでん返しに、もうこれ以上交渉に持っていけるようなものなんて私は何も持ち合わせてない、さすがに逃げるかどうにかしなけれ――
「その話が、嘘であった場合貴様はどう責任を取る?」
‥‥ん?
「まぁ、仮に嘘であっても貴様の命でしか責任は取れようもないだろうがな、嘘であった場合俺の愛玩となれ」
「坊ちゃま、信じるのですか?」
「Aランクの冒険者から貸しを作れるなどと嘘をつくなら、先ほどまでの道化を演じる前に真っ先に言うであろうからな、多少は信じるに値するであろうよ」
まさかの最初のラッキーになれますとかがここで効いてくるとは思わなかった。まさかの生還にほっとしてしまって腰が抜けて座り込んでしまった。
「と、トウカ、これはボクたちは助かったってことでいいんだよな?」
「た‥多分‥?」
そして坊ちゃまの私兵であろう複数の兵がこちらにたどり着くと早々に執事の人が「この者たちは客人となった解散せよ」よあっさりと返していった。
「さて、賊改め客人よ、俺の屋敷へ入ると良い、もてなしてやる」
こんな高圧的なもてなしかた初めて見るので逆にへこへこしてしまう‥
屋敷は広く、中に入ると「汚いから風呂に入れ」とメイドたちに風呂場に連行されてしまった。ヤギさんも先ほどまでの緊張が解れて、何が何だか分からないといった様子で一緒に風呂場に連行され予期しない混浴と言う形になった。とは言っても私もヤギさんも何をするでもなく手慣れたメイドさんにささっと現れて湯船に浸かってようやく思考回復した。
「助かったああああああああああ」
「死ぬかと思った‥」
「というかトウカの主人てAランクだったのか!知らなかったぞ!」
そう言えば言うの忘れてたっけ?てかわざわざ言うものでもないし、まさかAランクがあの坊ちゃま相手に通用するとは思ってなかったので、最後の駄目押しでしかなかった。
「しかし、冒険者として出払ってるならまだ帰ってこないだろうな、王都へ引き戻ろうとしても盗賊ギルドの連中が妨害する手はずになっているからな!」
なんでちょっと誇らしげに言ってるんだ‥今はそのせいで私の助けもこないし散々でしかない
けれど、あの坊ちゃまヤギさん曰く相当な使い手のようだし思わぬ味方ができて一安心である。
「ヤギさん‥強いのに、あの人たちの方が強い?んだね」
「あぁ、強いな、というかあのジーニアスとか言う奴‥あの細い男と一対一でも負けていたろうな」
「まじか‥」
ここまでヤギさんが無双していたように見えていたけど、あっさり負けを認めるくらいに強いとか、皆の強さがいまいち分かりきってないから判断に困るけどあの坊ちゃまがユウに貸しを作りたいくらいだから同じくらいの強さなのだろうか?
ユウ達が帰ってきたら是非そのあたりのこと聞いておきたい、あ、そういえば勝手に貸し作るとか言っちゃったけど、帰ってきたらそのことも話さないとな‥早く帰ってきてほしいな




