3話
あれから牢屋のようなところに閉じ込められてちゃんと食事を与えられて、多少寒いが薄い毛布もくれたりした。
髭親父がたまに現れた時に聞いた話だが、獣人は獣のときの部分を多く継承しているらしい、耳、口、牙、しっぽ
そしてそれらをある程度適切に継承した見栄えが良い獣人と人間とのハーフは奴隷としてそこそこ希少価値が高いらしい。
そういえば日本でも小型犬のミックスで見栄えのために親を選別したりするなぁと昔の記憶を掘り出してみたりした。
とはいえ今回は俺に当てはまっているらしい、獣人の象徴である耳を継承していてかつ尻尾がないというのは高額らしい、性奴隷においては尻尾が邪魔と思う人もいるらしく、そういう層がいないこともないらしいがそれでもない方が高いらしい
信用していた人に裏切られた、とは言っても俺が勝手に信用していただけなのだろうが
神様にもイライラしてしまった。死んでしまって生き返らせてくれたこととかの恩もあるかもしれないが、なんで獣人のハーフなんかにしたんだ?と思ってしまう。色んなことにイライラしたりやるせなさを覚えてしまう。
いや、本当はもっと早くに気付くべきだったのだ、おっさんとこの町へ向かう時も頭をさわることなんてしょっちゅうあったし、それで耳に気付いておけばとか
感覚もないのに気づくわけがないだろうと納得してしまいそうになるけど、自覚したうえで触るとだんだん感触が分かってきたりしたので、おそらく意識の問題だったんだと思うとさらにイライラしてしまう。
朝になると起床時間と言われて起こされて、食事をとり、それからはこの国?世界の文字と言われるものを教えられるがチンプンカンプンであり、一応言われた通りの文字を書いたりはしているが、学生の頃から英語とかできなかった俺が急に勉強ができるわけもなく教師役の人も頭を唸らせていた。
それからお昼になると運動と言われ室内の奥にある広場に行き、他の奴隷たち(女性が多い)と走りこんだりする。
中には急に監視役の人に殴り掛かる人もいるけれど首輪から電流が走ってすぐに動かなくなる。そのあとはどこかに連れられて犯行した人が戻ってくることはない
そして夜になると夕ご飯を食べたのちに水浴びを行う。ちなみに全員全裸になっていたりして、自分の体を嘗め回すような視線がたまにあったりするので恐怖でしかない‥‥
奴隷は教養があればその分値段が上がるためこういう風に教育し、適度な運動は健康のため(もしくは戦闘用の奴隷だったりは運動能力が低下しないため)にするらしい
反抗した奴隷については教えてはくれなかった。
なんだかんだ衣食住は保証されていて安心はしたが、性奴隷用と聞いていたので正直買われるのが逆に怖い、このままここに居続けれるなら買われないようにすべきなのではないだろうかと俺の直感が告げている‥!むしろそうすればいいんだ!と理解してからは勉強等はわからないと駄々をこねるようにした。
何日かして髭親父が表れて俺に困り顔で「勉強できないかい?」と聞いてきた。
「えと、すみません文字とか本当にわからなくて」
「君は数字等は強いと聞くけれど、文字が一番大切だからねぇ奴隷は‥‥」
「すみません‥‥」
やれやれと言わんばかりに頭を振ると、髭親父は怪しい笑みを浮かべて
「文字が分かるのなら多少は良い扱いのご主人に巡り合えるというのは知ってるかい?」
「え!?」
「基本的に役に立たない奴隷はそれこそ性専門の奴隷だったり、四肢がもげてでも戦闘を強要されたりするものなのだが、それは知ってるかい?」
もちろん知るわけがない、そもそも奴隷についてなんか詳しいわけがない
「どうするかね?君が頑張るのであれば我々もよほどのことがなければ君を長期に渡って使ってくれるお客様に言うのだが‥‥?」
「もっと!頑張ります!」
正直、人間不信極まりないけれどこの脅しが真実かもしれないと思うと怖いので従うしかないんだろうなとも思うので素直に従おうと思う‥‥本当に俺はどうなってしまうんだろうか‥‥
「そう言ってくれると思ったよ!君はやはり利口なようだね、あと今までの教育方法では君がはかどらないため多少厳しくしておくよ」
聞き捨てならない言葉を吐いて、髭親父はルンルンとどこかへ行った。
そして俺は次の日から涙を流しながら勉強することになった。
一度間違えたら頭を叩かれ、二度間違えたら鞭でたたかれるようになった。必死にやっても少しずつしかわからないし、午後の運動は継続してあるため、午後に体がずきずきと痛む。
それが約一週間近く続くと、また間違えてしまったときに「今日から間違えるたびに食事を減らす」と言われて、食事量も減っていった。
大切な商売道具じゃないんですか?と抗議しても、使えるようになったあと傷を癒すから今はただ文字を理解しろと言われて、俺はひたすら文字を書き続けた。
人間不思議なもので、とはいっても俺は人間じゃないらしいけど、恐怖も合わさってかだいぶ理解できたほうだと思う。
ただ目の下に隈ができたり、水浴びの時に自分でわかるほど痩せこけてきたなと、恐怖よりも体力のほうがとっくに限界であった‥‥
「おめでとう、これだけわかれば十分だよ」
その言葉が髭親父が久しぶりに表れての第一声だった。
もう暴力がなくなるのだと喜んだ時でもある。勉強自体は続けるがこれからは栄養をとり、奴隷売買のほうを本格的に行うらしい
せめて殴らないご主人が良いなと思う俺は末期なのか、脱走すればよかったのかと思っても外に出ても伝手の一つもないしまた捕まるのが目に見えてるしで、何もする気が起きない。
ふと、この世界に来た時のことを思い出したら、なんであんなに明るくできていたのか今では不思議だった。
もっと不安に思って警戒してればよかったな。
しばらく最初のルーチンワークに戻ってると、髭親父がもういいかなとか呟いて以降牢屋越しに人が見に来るようになった。
最初の人間は俺を見るなり「買うこの子!」とか言っていたのだが値段を聞いた瞬間別のところに行った。
次の人間は、貴族?みたいな人らしく髭親父もペコペコしながら俺を紹介していたが、その人も値段を聞いた瞬間首を横に振った。
一体俺にどんな値段を付けているのか‥‥と通りかかった監視役の男性に聞いてみたら
「お前の値段?たしか6000金貨だったか?」
この国では硬貨でやりとりされていて、銅貨、銀貨、金貨の順番で高くなる、またその値段以上のやりとりかつ、お金持ちの人は魔晶石という結晶で行うこともあるらしい
「たかが奴隷にその値段払う人も早々いねぇけどな」
なんて笑いながら教えてくれた。基本的にここの人たちは優しい人が多い、商品だから丁重に扱ってくれているだけなのかもしれないが
そうしてすぐに購入されるわけではなく暮らしていると
「この奴隷はいくらだ?」
「はい、金貨にして1万ほどになります」
髭親父が馬鹿みたいな値段をそいつに告げて、その時はよくやったと俺は思った。
見るからに巨体なその客は顔がカエルのような顔でデキモノだらけのやつだった。
「ぼったくっていないだろうな?この奴隷にそこまでの価値があるとは思えんが?」
「いえいえ何をおっしゃいますかヴァレスト公、貴方様が目を付けたこの奴隷は希少が高く、さらに他の奴隷と比べても優秀な教育が施されておりこれでも値段を下げたほうなのです」
そう言ってしばらく悩んだのちに舌打ちとともにカエル顔が去っていった。
安堵したが、あいつの性対象でしかない眼差しにその日は枕を濡らしながら震えた。まだ涙でるんだと安心もした。
しかし髭親父は約束を守っているのか、俺の紹介をするとき相手によって値段がたまに違うのだ。
6千を下回ることはないが7千のときもあれば8千のときもあり、大体は俺が一目見てこいつは駄目だと思ったときは値段を吊り上げている。一番高くて金貨1万と魔晶石をねだるときもあった。
その時は比較的好青年のような相手だったのだが、青年が帰ったあと、髭親父が俺のところに戻ってきて「先ほどのお客様ですが、買われたいと思いますか?」などと聞いてきた。
「先ほどの方は、笑顔とは裏腹に奴隷を食したりするそうですよ?」
なんて笑顔で言ってきて、怯えた。
「安心してください、さすがに摩耗するならまだしも、消費されるお客様には極力売りませんよ」
「‥‥」
「何故?という眼ですね、それはお客様が再度お売りになることもありますのでその時のため、未来への投資でもあるのですよ」
大抵は戻ってこないですけどね、なんて言ってそのままどこかへ行ったが、真意は分からない。
買われることはないのではないだろうか、そう思っていたら
「エクストラスキル?」
それは何か月も過ごしたある日のこと俺を見下ろす男がそう言った。
この世界では珍しい方ではないかと思う黒髪黒目の日本を思い出すような顔立ちの男は俺をじっと見つめていた。
「この奴隷はいくらなんですか?」
「こちらですか、こちらはとても希少価値が高いものでして‥‥」
「できればこの子を買いたいんです」
珍しく髭親父が悩んだ末に金貨6千枚と告げると、男はまじで高いなと一瞬しかめっ面になったが
「買います、この子を」
俺はこうして買われた。