11話
斬撃音が広間に幾度か響く、ユウと親分が剣を交じえ押され気味になっているのかユウの方が辛いのか汗を流しながら剣をさばいている。
「いや、強いねユウ君、ははは」
「はははじゃねえよ!」
余裕なのだろう、親分の方は汗を流すことなく平然とした顔で休むことなくユウに剣を振るい続ける。
現状私のことを言い合ってたくせに今じゃ空気に成り下がっているから、親分からしたら私は人質ですらなかったみたいだ。
「しかし自己紹介も無しに急に斬りかかるのは酷いんじゃないのかい?」
「これから死ぬ奴に聞く意味はねえ!」
駄目だユウも先ほど斬られた冒険者のように死亡フラグだったり雑魚敵が言いそうなセリフを言ってる。それに単純に力の差で負けているのだろうから何か後押しできる何かがなければやられてしまうだろう。
私に今できることがないか周りを見渡してもあるのはダンジョンコアというでかいクリスタルくらいで‥いや首に繋がってる鎖を相手にぶつければなんとかなるかも、そう思って近づこうと思って二人の戦闘を再度見ると、親分は私が何をしたいのか分かっているのかこちらを見て微笑んできた
「何よそ見してやがんだ!」
「お嬢さんに色目を使いたかったんだ、許しておくれ」
ふざけた発言は変わらないけど、今の笑ってきたのは私の行動を見越してなのだろう‥目の前に相手してるのはただでさえ私からしたら強いと思っていたユウを簡単に相手にできる実力者なのだから
打開策が何もない時点で見ることしかできないという歯がゆさを身に染みる。誰か助けにきてくれないだろうかと音を聞くと、一応こちらに向かってくる足音が聞こえるけどまだ遠い‥
そうだ、私が何か時間稼ぎさえできれば応援が来て優勢になるかもしれない!
「ふ‥二人とも!」
「「?」」
「私のために‥争わないでー」
‥‥駄目だ、声が聞こえてないのか戦闘が止まらない、もっと大きな声でなければだめかもしれない
「私の‥!ために‥!争わない‥!で!」
剣劇の音だけが悲しく鳴り響く‥親分の気をもっと何かしらで引けばいいのかもしれないがあの親分が嫌がりそうなことが思いつかない‥思いつく限り適当に試してみるか
「ハゲ‥!」
「ははは、ユウ君ハゲだったのかい?」
「お前に言ってるんだろうよ!」
二人とも‥今の聞こえたならさっきの私が言った争わないでも聞こえてただろうに無視してたのか、ショックなのだが‥
「健気じゃないか、君の気を惹こうと懸命に声を張り上げている姿が」
「だったらさっさと斬られて抱きしめに行かせてくれよ」
「できるならさっさとやればいいじゃないか?それともできないのかい?」
しまいには私なんて無視して二人で話し合いながら戦ってる。これなら何もしない方が良かったかもしれない。
足音は‥もう少しだけど、ユウの息が徐々に上がっていき腕や肩に切り傷が増えていってるので援軍が間に合うか不安が押し寄せてくる。
こうなれば手段は問わないので何かしらで親分には待ってもらうしかない、もとよりユウが負けてしまえばこの親分に殺されるか何かされて私には何も選べないのだから
「親分さん‥!もうちょっとまって‥!」
もちろんこんなことを言っても動きが止まるわけがないので、続きも考えてある。
「なんでもするから‥!」
「なに!?」
するとユウの方が動きを止めて右腕を斬られている。なんでお前が動きが止まるんだよ
「ははは、別に俺は何でもしてもらわなくても大丈夫だから安心していいよ」
「トウカ!こんな奴に冗談でもそんなこと言うんじゃない!」
安心できないし、ましてユウは私がせっかく時間を少しでも稼ごうとしてるのにどうして怒るのだ。
状況が相変わらず不利の中ユウは利き腕である右腕を斬られた為か、先ほどより更に動きが悪くなっている
「トウカ!むしろ俺が勝ったらなんでも言うこと聞いてくれ!」
「えぇ‥なんで」
「聞いてくれたら俺がパワーアップする!!」
「なんで‥!?べ、別に良いけど」
私たちの会話が楽しいのか親分は笑い声が絶えない中、ユウも「よっしゃあ!」と歓喜の声を上げながら奮闘してるけど、パワーアップしてる様子は特にない
けれど長引いた甲斐あってか、足音がようやくここまで着いて
「ユウ大丈夫か!?助けにきたぞ!」
複数の冒険者が現れて、そのまま走って親分に斬りかかるが軽くいなされている。最初の冒険者のよりは手練れなのか殺されることはなくても、数人がかりでも親分を倒せない
「すいませんアベルさん!こいつ普通に強いです!」
「みてえだな、なんだこのバケモンは!」
本当に人間なのかと疑うように背後の攻撃すら避けるだけではなく反撃すらしてる。後ろに目があるんじゃと思う光景は恐怖でしかない
勝てない――これ以上人が増えようと、優勢になることはないと思わせる親分の余裕な顔がもう作り物の笑顔と思えない、本当に余裕なのだろう‥
ここまでの力の差があってどうして戦い続けることができるのだろうと不思議に思うと同時に、ダンジョンで吹くはずのない風を感じて親分が初めて傷付いた。
「待たせたわね!みんな大丈夫!?」
アリー‥と複数人、魔法使いなのかローブを着た人たちが若干息を荒げながら広間に足を進めた。
「ははは、やっと盗賊たちを倒したんだね」
「てめえのその余裕も終わりなんだよ!」
好機と言うべきなのか、剣士たちの士気が上がったように思えるが、実際魔法使い達が来てからの戦闘は上手く連携が取れてないのか、ちぐはぐで攻めあぐねる現状が変わっていない‥
すると、親分が何を思ったのか私の方へ急に迫ってくる‥!
「魔法を中断してくれ!味方に当たる!」
ユウが叫んで魔法を止めてくれたおかげで私に魔法がくることはないけど、親分が私の隣へ来ると困った顔へと表情を変える
「いや、さすがの俺もこの人数を相手にするのは無理みたいだ、疲れちゃった」
さも本当に困ってますという雰囲気を作っているが、ここまで不意打ちでしか怪我をしてないやつがどの口で言ってるのか
「お嬢さん‥たしかトウカちゃんだね、俺は逃げるけどまたどこかで会えると嬉しいよ」
気安くちゃん付けしてくれるなと文句を言う前に「少し目をつぶってて」と急に耳元で囁かれ、何かされると思って目をつぶると同時に瞼の裏からでも伝わる光を感じる。
「ぬわ!」「目つぶしか!?」
光を感じなくなって、目を開けて周りを見渡してみると他の人たちは親分のことを見ていたのだろう、閃光を直視したためか蹲って呻いている。
私だけ忠告されたのは似非紳士なりの配慮なのかは知らないけど、その本人はどこへ消えたのか姿が見えなくなっていた。
と、とりあえず見逃してもらえたみたいだけど、この争いを何のためにしたのか余計に分からない謎だけが残った。
「トウカ!無事か?何もされてないか?」
「うん‥」
あれから目が回復したユウとアリーが私に駆けつけてくれて、他の冒険者は親分を探しに他のエリアに向かっていった。
「無事で良かったけど、なんだったのかしらね最後のあいつ」
「分からねえけど、俺らなんかいつでも殺せることはできたはずだろうな」
最終的に良かったとは言え、後味の悪さだけが残る。最初からどこまでが本気なのかとことんわからないやつだ
「ごめんなトウカ、俺が一人にさせてしまったばっかりに」
「別に‥」
私が残っていたらあの親分なら森にいた時点でユウを殺せていただろうし、むしろ良かったのではないだろうかと、何も被害を受けてない今なら言える。何事も結果オーライだ。
「来るのも遅れちまって本当にごめん」
「大丈夫‥」
「でもまさかダンジョンにアジトを作る盗賊がいるなんて思わなかったわね」
「あぁ、そのせいでかなり時間がかかっちまった‥」
私もそのことには驚いていたので、共感する‥とりあえずここから早く帰りたいので、ユウの袖を引っ張って帰りたいアピールをするが「悪い」と言って、ユウは他の冒険者と同じくまだ残党が残ってないか探しに行くそうだ。
「トウカは先にアリーと一緒に出口に向かっていていいから、疲れてるかもしれないけどもう少し頑張ってほしい」
「魔物はほとんど処理して来たから、戦闘もないはずよ、行きましょ」
戦闘がないなら歩くだけか‥しばらく鎖で繋がって食っちゃ寝ばかりしてたから、明日は筋肉痛かもしれないなと軽い気持ちでいたのだけど
「知ってるか分からないけど、出口まで二日掛かるから早く行きましょ」
ダンジョン‥奥の方にアジトを作っていたあの親分に怒りを覚えて二人で出口に向かう。
その途中、私が捕らえられていた牢屋を見て、切ない気持ちになる。彼は親分を少なからず信じていたし、境遇も‥仲間を平気で仲間じゃないと言い放つあの男を私は嫌悪感しか抱かないだろう。『俺の仲間にならないか?』あの顔を思い出して、それだけはないと言い切れる。
アリーと一緒に帰っていると急に私の顔を覗き込んできてじーっと見つめてきた。どうしたのだろうと思うけど、よくよく考えたら女の子の顔をこんな近くでみたことあったっけと思い少し恥ずかしい
「私ユウのこと好きなの」
さて、私は何も聞いてないのでハキハキ帰ろう‥とするけど、アリーが手を掴むので無視できない
「トウカが攫われたってユウ凄い慌ててギルドの人たちに盗賊討伐の依頼を出していたの、私にももちろん声を掛けられたし、ユウがあそこまで慌てふためくことなんて今までなかったのよ」
それを言われた私はどんな顔をすればいいのでしょう‥助けようと必死になってくれたことを喜べばいいのだろうか、だとしても唐突なさっきの告白はなに‥
「トウカは知らないだろうけど、彼人気なのよ?腕は立つし、女性冒険者に対しても紳士的で、失敗しても笑って許してくれるし、けれど交際をほとんど絶って誰とも付き合おうとはしなかったの」
モテモテなら奴隷買わずにそこでハーレム築けよと私は思うけど、なんだろう、獣人萌えとかそういうのじゃないかな、ケモミミがきっと好きなんだよ、付け耳でいいからアリーも頭に装着すれば悩殺できるんじゃないかな
「トウカもユウのこと好きなのよね‥」
「‥‥え?」
「同じ故郷で生き別れになっていて奴隷になってしまったのを助けられたのよね、そ、その二人はさ‥あれかしら‥と、当時から付き合ってたのかしら?もう付き合ってるなら私諦めるわよ‥トウカも今では友達と思ってるから」
待て、一体どういう飛躍した話なんだ、この話が始まったのが唐突でそもそも困っているところにとんでもないことを言い始めたのだけど
「付き合ってないけど‥」
「あ!まだ付き合ってないのね!それじゃあトウカ!どちらが選ばれても恨みっこなしってことにしないかしら!」
「その‥そもそも私はユウの――」
「大丈夫よ、今は奴隷だからって気にしてるのよね‥別の国に移住すれば大丈夫だから安心しなさい、これでお互い条件は同じよ」
やばい、色々どういう事態に陥ってるのか私の理解が追いついてない上にさらなる勘違いをアリーがしている気がする。
なんとか誤解を解こうとしても「奴隷なんて気にしないでいいの」と全部曲解されてしまう。
「今のところユウは貴方ばかりに夢中だけど、彼も今回の敗北をきっかけにきっと冒険に行くようになるから冒険に行くときは私にもチャンスがあると思うのよ」
「あぁ‥うん‥」
「トウカはどう思う?」
「どちらかと言うと‥アリーがユウと結ばれた方が‥いいと思う」
「もう!さっきから遠慮ばかりしなくていいのよ!」
なんでそうなる‥延々と出口に戻って、ユウが捜索が終わり帰ってくるまでアリーの恋愛トークが終わることはなかった‥




