10話
若い盗賊の話によると、似非紳士のおじさんがカシラ‥親分らしい、私を捕まえてる理由に関してはよくわからないと言って、そのことについてもカシラの言うことを聞いてれば食うものに困らないという理由で従ってるとか
「俺らのことばっか話してるし、お前の話もしてくれよ」
「実は‥」
「お?」
「奴隷なの‥」
「そうか‥‥」
可哀そうな物を見る目で見られてしまった。
「名前とかなんて言うんだ?」
「トウカ‥」
「そうか、まぁどれくらいお前が無事かはわかんねえけどそれまでの間はよろしくな」
たしかにあの親分がいつまで私に何もしないか分からないから、覚悟だけはしておかないといけない、殺されるにしても、犯されるにしても‥あまり考えたくはないな、できるならユウが助けに来てくれるといいけど、結構な日にちも経った気がするけど来る気配が全くないので心のどこかで諦めてもいいのではなんて考えも浮かんでくる。
「俺にはよお、昔お前みたいな妹がいたんだよ」
なんか急に語り始めたぞ‥そこまで親密度高くなかった気がするけど
「小さい村でな、なんもねえけど野菜とか作って何とか生きていたんだけどよ、ある日、その領地の貴族が兵を集めて俺たちの村焼き払っちまったんだよ」
「うん‥」
「俺は頭があまりよくねえからよ、なんでそうなったかわかんねえけど、お前なんか分かるか?」
なんでって、分かるわけがない、そもそもなんでこの人は急にこの話を私にしてきたのだろう‥あ、妹に似てるからかって似てても話さないだろう
「税‥とか?」
「ちゃんと税として村の食糧は渡していたはずだからそれはねえはずだ」
「気に入らなかった‥みたいな?」
「やっぱ、そうなのかなぁ」
あれだ、なんかこういう話を聞くとこの盗賊に幸せになってほしいとか思ってしまいそうになる。もしかしたらこれが親分の作戦だったり‥どうなんだろうか
「わりいな、関係ねえのにこんな話しちまって」
「別に‥」
そしてフラグと言うやつなのだろう、こういう気まずい話を聞いた時に事態は進展してしまうそうで、外の方で「敵襲だ!」と大声が聞こえた。
隣の盗賊は聞こえてなかったのか寝転がってダラダラしてるけど、間違いなく聞こえた。
「冒険者に‥どうしてならなかったの?」
「あー、無理だよ俺はなんだかんだあの村が好きだからよ、他の村出身なんて嘘つけねえし、けどあの村出身てばれたら殺されるかもだろ?さすがにそれくらいは俺でもわかるぜ」
悪い人には見えない気がする。というか仕方なく盗賊になった人なんだろう‥他の盗賊は知らないけど、少なくとももう一人の方は私のことを性対象としか見てなかったので大体がああいうタイプなのだと思うけど
「‥‥そっか」
「ま、気にするなよ今はカシラのところでなんだかんだ楽しくしてるぜ俺」
ユウかは分からないけど、今まで何の反応もしてなかった奥の方で音騒がしい音がしてるのだから、ギルドや依頼で来た冒険者と巡り合ったのかでこの人も死ぬかもしれないと思うと切ない思いがする。
そして牢屋を出るのか立ち上がったから思わず「待って」と引き留める
「んあ?どうした?」
「も、もう少し‥何か話さない?」
「別にいいけど、たまによくわからねえよなお前」
何をやっているのだろう私は、ここで引き留めてもこの人が殺されるのが早いか遅いかくらいしか変わらないのに
「そうだな、ありえねえとは思うがよ、もしお前が自由にしていいってなったら俺のところで働かせてやるよ」
それはご遠慮したいところではあるけど、なぜ急に優しい言葉をかけ始めるのか、困るのでやめていただきたい
「なんか外騒がしくねえか?ちょっと様子見てくるわ」
いや‥相手は盗賊なのだ、感情移入しては駄目なのだ、元々私とは無縁だった存在だからこの人が死んでも私には関係ない‥あぁ‥
「大人しくしてろよ、まぁそこから動けねえから無理か」
笑いかけて話すんじゃない、私と君は他人でお願いしたい、妹と似てるからって優しくしてほしくなかった‥
ここで引き留めるべきだろうか、私の自己満足ではあるかもしれないけどもしかしたら、ここに来るのが別のだれかではなくユウなら一緒に相談してなんとかなるかもしれない
「あの‥」
「ん?まだなにかあるのか?」
「もしよかったら――」
私が最後まで言い切る前にその人の体は二つに分かれた。
「いやーお嬢さん駄目だよ、うちの人間を誑かすなんて」
「え‥?」
そこには親分が剣を片手に携えていた、何故仲間を斬ってるんだとか、外で敵襲が来てるのに何故とか‥
「さて、付いてきてもらうよ」
「な、なんで仲間を――」
「仲間じゃないからさ、さ、そんなことより行くよ」
鎖は壁と同化してるはずなのに、繋がってるところを引きちぎり私を引っ張っていく足を止めると首が締まって苦しいから仕方なく付いて行くけど、少しは逆らった方がいいのだろうか‥
「時間を少しでも稼ぐとか考えない方がいいよ」
「どうして‥」
「君はとても初々しいよね、一緒にいて話をしたから、優しくされたから、相手は悪い人ではないんじゃないのかとか、生きていく上で仕方ないからとか、だからさっきの子も助けれるなら助けたいなんて思ったのかな?」
そ、そう思って何が悪いのだろうか、それに仕方ないから盗賊をやっているなら更生するかもしれないのだから、そうなるかもしれないのだから
「君にとってあの子よりユウ君の方が大切だよね?ユウ君が強いと信じてるからあの子を助けたいなんておこがましいことを考えたかもしれないけど、ユウ君があの子に殺されたら君はどうなるのかな」
どうなるのだろうか‥だからと言って‥
「悩んでるね、俺にとっては大事なものが一番なんだ、だから君は何も気にしなくていい、大人しく付いてきてね」
逆らうこともどうせできない‥私が何もできないのは今に始まったことじゃない
どこに向かっているのかこのダンジョンの構造が分からないから何とも言えないけど、牢屋から出されて歩いていて音を聞く限り、争ってる音が遠くから聞こえる。
これで私が抵抗しても無駄と言う理由が分かった気がする。聞こえる音からここまで結構な距離を感じるのでそれよりも私を引きずる方が早いのだ、とは言っても目的地がどこか分からないからこの親分が嘘をついてる可能性もあるので時間を稼げば少しは一矢報いることができるかもしれない‥
そう思って足を止めると、親分は足を止めることなく私を引きずる‥苦しいのを我慢して時間を稼ごうとしたけど、全く時間を稼げてない気がする。親分も私の抵抗なんて気にしてないかのように速度が変わらず歩いてる
「本当に君は純粋なんだね、俺が無駄と言ったのはお嬢さんの首がもげても構わないから言ったのであって命が惜しいなら黙ってついて行くことをおすすめするよ」
何故殺さないのと聞いてもどうせ答えてはくれないだろう、生きて歩いていた方が単純に歩きやすいだけなのかもしれない
とりあえず苦しいのも嫌なので、起き上がってついて行くけど、戦闘音が遠ざかっていくのが段々と不安を感じる。いや争ってる音に近づくのも嫌だけど
一緒について行くとダンジョンの最奥なのか行き止まりに着くと綺麗なクリスタルがある広間に来た。
「ダンジョンと言うのはこのコアと呼ばれるクリスタルがあって初めてダンジョンと言うのが形成されるのだけどね、これを壊すとどうなるかわかるかい?」
「‥ダンジョンじゃなくなる‥」
「ははは、間違いではないね、答えは崩れるだよ、たとえそれが人工ダンジョンであっても崩れてしまうんだ」
そんな話をしてどうしたいのか‥心中したいとか急に病んだことを言われても私は困るから言われたくないけど
「俺に一矢報いたいと考えてるなら壊すといいよ」
「‥できないから言ってるの?」
「当り前じゃないか」
ただ嫌がらせをしたかったらしい、お茶目のつもりなのかウィンク付きで言われて人をイラつかせることをして何が楽しいのか‥
「さて、ユウ君は来るかな」
「やっぱり‥ユウが目的なの?」
「以前言ったかもしれないけどどちらでもいいんだよ、ただお嬢さんはユウ君が助けに来てくれると思っているからね、来てくれなかったときお嬢さんはどんな顔を見せるのかなと」
必ず探してくれてると思っているから、もしかしたらこの争いに来てないとは考えてるけど、恐らくこいつの言いたいことは奴隷一人を助けに来てくれるなんて幻想を抱くな、みたいなことを言って私に嫌がらせをしたかったのだろう、残念ながらあのお人好しで過保護なユウが私を諦めるなんてあまり思えない
「ユウは‥来る」
「来なかったら?」
「来る‥」
私とこんな話をしてるのは余裕なのか分からないけど、音からするともう少しで何人かここに来るはずだ、複数の足音が迫っている
走ってここに来たのはいかにも冒険者という装いをしていた人たちで私たちを見るなり一人の大剣使いが親分に斬りかかるが、私には見えない速度で斬り殺され蹴飛ばされていた。
「ははは、血気盛んだね、少しは前口上くらい言わせてほしいな」
こ、こいつ強い‥というかさっきの大剣使い鉄の鎧着ていたはずなのに普通に斬ってる。
「前口上したいなら勝手にしてればいいさ、その間にぶちのめしてやる!」
なんだろうこのいかにもやられそうなセリフは‥止めたほうがいいのだろうか
その人が攻めると同時に、後ろにいた子が弓を使い親分に攻撃をするが、私の隣にいたはずの親分がもう一人の剣士を殺し、弓使いの目の前にいる
「な、なんなのよあんた!」
「それを言いたかったんだけどね、聞かないなら仕方ないさ」
「ふ、ふざけ――」
弓使いの首を掴んで、”ゴキリ”と嫌な音が聞こえる。
どれだけの握力があれば人の首を片手でへし折ることができるのかは知らないけど、ただの人間だと思っていたけど、もしかしたら魔物の一種なのかもしれない‥
「まだ来てないけど、どうかな?信じてるのかい?」
「来る‥」
いい加減しつこいな、別にユウが来なくてもいいって言ってもいいけど、なんというかそれはそれで負けた気がするので、言わない
「君は純情なのかな、ご主人様を待っている子犬のようだ」
「私を煽ってどうしたいの‥?」
「煽るか、ははは、面白いな、なんで君は普通の奴隷じゃないんだろうね」
普通の奴隷じゃないって、普通の奴隷なら逆にどうなのだろうか、ここでご主人様はこないって私以外の奴隷の子が聞いたらどういう反応を見せるかなんてわからない
「いい加減‥変な質問じゃなくて、真剣に話して‥意味が分からない」
「ふむ、じゃあ聞くがお嬢さんは奴隷じゃなくしてあげるから俺の仲間にならないか?と聞いたらなってくれるのかい?」
「なるわけがない」
「そうだよね」
本当のことを言ってるのかは分からないけど、少なくともユウが酷いご主人様だったとして‥というか私奴隷として扱われてないから奴隷じゃないのだけど‥仮に!酷いご主人様だったとしても、仲間を平然と殺したこの人の仲間になりたいだなんて思わないだろう
「ユウ君のことをそこまで信頼してるのは、彼の人徳だね」
「私を味方にしても‥ユウは倒せないと思うけど‥?」
「そういう解釈か、やはり純粋だなぁ」
まさか私に恋をしたから!?なんて考えたけど馬鹿なことを考えるのはそろそろやめておこう。
不安要素があるとしたら、ユウが‥凄腕の冒険者が来るというのにも関わらずこの余裕さだ、ユウが相手でも先ほどの冒険者のように斬り捨てる自信があるということなのだろうけど‥ユウ、大丈夫だろうか、むしろ殺されるかもしれないから来てほしくなくなってきた
「ユウ君より先に、君を見つけたかったな」
「悪いな、そいつのご主人様は俺なんだ」
あぁ‥やはりフラグと言うものはあるのかもしれない、来てほしくないと思い始めると来てしまう。
ユウがとてもどや顔で決めセリフを言ってくれるけど、ご主人らしいこと何もしてなかったじゃないか‥




