6話
あれから二人とも出発と同じペースで変わらず、進み、私も変わらず後ろでついて行く。
ユウも昨日?時間間隔分からないからあれだけど眠る前のことについては触れず、それでいて私とあまり会話が少なくなった気がする。
私が気にしすぎなだけなのかもしれないけど、笑顔の数が減った気がするし、いつもならもっと心配の数が多いような気がする‥‥
もやもやする
暇だったのでナイフを抜いて、触り心地を確かめているとユウがこちらをちらちら見て来る。言いたいことがあるなら言ってほしい。
「何か‥?」
「危ないだろ‥それ」
「ユウも同じでしょ‥」
そう言うと何も言い返さずにまた進んでいく、青い子はユウに小さくなにか話しているし、なんというかのけ者にされてるようである。
「トウカ、ナイフ抜いたままだとこけたりしたら危ないってユウは言いたいみたいよ」
「‥ならそういえばいいじゃん‥」
「本音は違うだろうしねぇ‥」
さっきから青い子が私とユウを行き来しながら小声で話してる、私に言ったことをユウと話し合ってるのかもしれない
しかしこうして戦闘を見ていると二人に対して私ができることと言えば例えば弓とかどうだろうか、青い子とは二人で後衛で攻撃できるし、ユウに当たるかもしれないから私が弓で牽制とか‥いや、また戦うことを考えてしまってた‥
回復職みたいに何か癒しの力でもあればいいけどそれもない
魔法私も使いたいけどそれに関しては今回の冒険で使えるか分からないし、使えても弓のことも含めて今回では使えない
考えれば考えるほど深みにハマってしまって、戦うことばかりしか思いつかない
「まだ何か考えてるみたいね」
ユウとの小声話が終わったのか、また戻ってきたらしい
「今考えることなんてどうしようもないでしょ、この冒険が終わったら家でできることしたらいいんじゃないかしら?それじゃだめ?」
家に帰ったらユウは冒険に行って私を見る機会なんてそもそもなくなる気がするし、だめ‥だと思う
私が何も言わないからか、青い子はそのまま前の方に戻っていく
だめだな、心配かけられてばかりだ、もう早くダンジョンから出ないかな‥どうせ役に立たないなら家で大人しくしていたい。
思考が段々重く感じられたころに二人が目的の場所に着いたのか「トウカはここで待っていてほしい」と言い、そのあと打ち合わせを始めた。
青い子が先に攻撃を仕掛けたのち、ユウが突っ込むという至ってシンプルなものだけどタイミングがどうこうと話しているみたい
あれだろう、いわゆるボス戦みたいなものなのだろう、相手が何かは分からないけど、緊張してるのか二人とも少し顔が固いように見える。
そのあとは広間らしきところに二人が向かい、青い子が放ったであろう戦闘音が聞こえる。
少しだけ除いてみると、石の巨人と戦っているようだ。いわゆる自動人形であるゴーレムというやつなのだろう。ユウが剣を振りかぶり相手にぶつけるが弾かれている
「かってぇ!」
「だから安物買うなっていつも言ってるのよ!」
トレント‥木の化け物を両断してたりしたから石も両断できると思ったけどそうではないのか、あの石がただの石ではないのか、どちらかなのだろう
会話的には剣さえ良い物なら斬れるみたいに言っている‥私なら剣が吹き飛びそうだ
「詠唱するからしばらく任せるわ」
「早めに頼んだ!」
その戦闘は危なげなように見えて、慣れてるようで、ゴーレムからの攻撃を器用に避けては剣でいなして、青い子が準備ができると同時にユウが離れて魔法を当てる。それを数度繰り返していくにつれてゴーレムの体が段々と壊れていき動かなくなる。
「終わったぁ‥疲れた」
「お疲れ様」
「アリーもお疲れ様」
「ええ」
「大丈夫か?大分辛そうだな」
「久しぶりだったかしらね、さすがに連発は少し堪えるわ」
もう大丈夫かなと、私も広間に入ろうと思ったけど二人が労いあっているのにどうも入りづらくて入れない
しばらくしてからユウが私を呼びに来て、また後ろについて行く
「どうだ?アリー目標の物見つかったか?」
「あと一個足りないわ」
「ん~、じゃあまだ奥に潜るか?
「そうね‥少し奥に行って見つからないようなら商人から流れてくるのを待つのもありね」
二人の会話が私の頭にいまいち入ってこないけど、どうやら商人からでも買えるものが足りないらしい
二人ともそろそろ終わるというような雰囲気になっているし、もう少し頑張れば帰宅できる。集中しよう‥
歩いていると前方から”パタパタ”という音が聞こえてくる。
「お?アリー魔物だ、打てるか?」
「次行くから今回はユウお願い」
「コウモリ系は苦手なんだけどな」
そう言って、羽ばたきの音と一緒に魔物が現れると同時にユウが斬り捨てる。
またしばらく歩いてると、ひたひたと足音が聞こえる。この音聞いたことがある気がする。たしかユウが何度か倒していた‥二足歩行の子豚、オークの子供なのかもしれないけどイメージが豚なだけで醜悪な顔の魔物だった気がする。
「ユウ、いるわ」
「それじゃあアリー任せた」
「行ってくるわ」
少しずつだけど、音だけで相手が何者か分かってきてる気がする。私が相手の正体を分かっても仕方ないけど、自衛の役には立つかもしれないし魔物の音頑張って覚えてみようかな
することもないというのもあって、クイズゲームみたいに少し楽しくなってきた。
子オーク、子オーク、コウモリ、大ネズミ、犬猫モドキ‥これは2匹、よし全問正解
「そろそろ休みましょ?さすがに体力がなくなってきたわ」
「分かった、えと‥トウカ休もう」
”ひたひた”という音‥けどどちらかと言えば控えめな足音、これは犬猫モドキの足音だ。
「トウカ?」
「え‥?なに?」
「大丈夫か?ごめんな疲れて――」
「敵‥倒さないの?」
「え?」
「ユウ、魔物近づいてるわ」
それを聞いてユウが足音のする方を向いて、魔物に気づいたのか突っ込んで行った。倒したのかすぐに戻ってくる
「ありがとうなトウカ、少し気が緩んでたのか気づくのが遅くなってたよ」
「‥うん」
その後は二人とも疲れてるだろうから、今回も私が最初に見張ることになり、二人とも仮眠をとる。
することがない‥というわけもなく、今は音を聞く‥”ぺたぺた”という音、これは遠くで聞こえるから私たちのところに来ることはないだろうけど‥軽すぎる足音だから子オークではない気がする。なんだろうか‥素足なのは間違いない、しかしもうすぐ別の足音と‥大ネズミとぺたぺたが対峙したのだろう、鈍い音がしたと思ったら何かを食べる音が聞こえる。
魔物同士争い合うらしい、
同じダンジョンで生まれたもの同士のはずなのに、野生でもダンジョンでも弱肉強食みたいだ。
それからも音を聞いて集中しすぎていたのか、ユウが起きていて、体を揺すられて驚いた。
「トウカ、大丈夫か?意識なかったみたいだけど」
「‥見張り、集中してて気づかなかった」
「お、おう?気絶してたわけじゃないのか‥」
眠っていたように見えてしまってたかもしれない、目は開いていたけど‥
「疲れてるんだろう?眠っていいよ」
「‥うん」
遠くの音ばかりに集中してしまうと近くの音に気づかなかったから近くの音にも注意しておかないといけない、魔物が来てないことが分かっても私の予想外の方法で急に音が出るなんてこともあるかもしれない
眠って起きてからは青い子が見張りをしていて
「今日から帰るために戻ることになるわ」
とのことで、潜っていた時と違って帰るときは魔物が少なく、そこそこ早いペースだ、幾度か小休憩を挟みながらも睡眠をとることなく地上には戻れるだろうと二人が話していた。
特に何かあったとかもなく、順調に進み、この旅も終盤に差し掛かっている。
何もできなかったけど、何かしなきゃと思うことを諦めてからは私の胸を締め付けていたような焦燥感もなくなり、帰ったら何をしようとそのことばかり思い浮かべていた。
そのことばかり考えていたら最初に降りた階段を見つけ、上に向かう。朝なのか夕方なのか、微妙に暗いような明るいような外の光が見える。
ようやく外だ、そう‥こんな陰気なダンジョンともこれでおさらばなのだ、少しテンションが上がるが、なぜだろうか旅が終わると思うとどうも寂しい気がする。
外に出ると新鮮な空気が肺の中に吸い込む。
気持ち良い
「んー!ダンジョンなんてあまり潜るものじゃねえなやっぱり」
「それなら外でもいいから依頼受けなさいよユウ」
「気が向いたらやるかなー?」
そしてダンジョンに来た時野宿した場所に一夜を過ごしてから戻ろうという話を二人が始めているとき森の奥の方で何か軋む音が聞こえた。
”ぎぎぎ”という擬音がする方向、なにか魔物でもいるのか、一応息遣いのようなものが聞こえはする、私は目で見えるかは分からないけどその方向を見るために青い子の近くに向かい
そこから私は特に何か考えていたわけではないけど”ビン”という音と共に急接近する音が聞こえて青い子を遠くへ突き飛ばす
「きゃっ、何するのよトウカ」
何が起こったのか私も分からない、分からないけど左腕に何か当たり感覚が鈍く感じるそして直後――
「あああぁあああ!」
痛い、痛い、あまりの痛さに目がチカチカしてしまう、
「トウカ!」
「アリー敵だ!警戒しろ!」
「トウカ、少しだけ待っていなさい、いいわね!」
何が起こっているのかいまいち理解できないけど、早く何とかしてほしい、痛いのだ、とても二の腕の方を見てみると矢が私の腕に突き刺さっていて、どうすればいいのか焦る。抜いたほうがいいのだろうか
そして焦ってはいるはずなのに、段々眠くなっていき、私は意識を失った。