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こいつのことを好きになるとは思えない  作者: メルメル
1章―ダンジョンと魔法
13/32

1話

 さすがに何十回と薬草採取の依頼を何度も受けていると、私でも薬草か雑草かくらいの区別がついてきて、ユウと採取するとき一緒に探せるようになって多少なりとも役に立ってる自覚が芽生え始めて日課も終わりギルドでユウが納品に向かう。


「もぉおおいい加減にしてください!」


 頭の中がキンと響く痛みで叫ぶのはやめてほしいと苛立ったけど、ユウが怒られてるみたいなのでどうしたんだろうと疑問の方が上回る。


「あ、アンナさん落ち着いて」

「落ち着いてられませんよ!ユウさんは高ランク冒険者として誇りはないんですか!?というかそろそろ降格だって考えられるんですよ!?」

「あはは」

「笑い事じゃないですよ!」


 遠くから聞く限りだとAランク冒険者であるユウがギルド入りたての初心者がやるような薬草採取ばかりしているために怒られているらしい。


「指名依頼だって何件も来てるんですからね?」

「危なくない仕事ならいいかなとは思ってるんだけど」

「危なくない!?ユウさんあんなに危ない仕事やってたじゃないですか、何も危ない目に合ってほしいわけじゃないですよ!?ただユウさんなら簡単にできる程度のものすら断られているからこそ言ってるんです!」


 すごい速さで捲し立てられて、さすがのユウも押され気味である。というか簡単な仕事すら断っていたのか、たまには薬草採取よりそっちでもいいんじゃないかなとも思うけど、何か考えでもあるのかもしれない


「いや、俺にとっては簡単でもさ、連れが困るんだよ」

「ん?ユウさん仲間なんていたんですか?」


 受付嬢が首を傾げている、ていうか私が原因なのか、悪い気分に‥はならないな、むしろあの受付嬢うるさいしちょっと良い気分になる。完全に虎の威を借る狐だけれど‥


「何言ってるんだよ、いつも一緒にいるだろ?」

「そんな方いましたっけ‥?」


 ユウよ‥奴隷は仲間と言えないんじゃないのだろうかと思うけど、まぁ普段から尽くされる側だし私は文句言えないけど


 というか受付嬢とユウが大きい声で話してるなか仲間という単語で周りの視線が私にちらちら向いてきてるので若干不愉快である、というか周りは分かっているのになぜあの受付嬢は分からないんだ‥‥


「アンナさん俺が依頼受けてたのは欲しいものがあったからで今は満足してるんだ」

「満足って‥それは冒険者にとって引退宣言みたいなものですよ!?」


 ん‥?なんか話がどんどん飛躍していってないだろうか


「引退でも俺は良いと思っ――」


 私はすぐにユウのところに行って服の掴んで止める。

 引退って、どうしてそんなに大きい話になってしまってるのか


「ユウ‥自棄になったらだめ‥」

「トウカ‥大丈夫だよ本心だから」

「一旦落ち着こう?」

「俺は落ち着いてるよ」


 おうふ、いけないこのままではユウが今まで積み上げたものが崩れてしまうかもしれない

 そこで急に現れた私とユウを交互に見ていた受付嬢が


「あの‥困ります」

「すみません‥すぐ説得しま――」

「大事な話をしているので奴隷の方は下がっていてもらえますか?」


 とても冷たい目で、ユウに話しかける時とは違って抑揚の消えた声で言われた。


「おい!トウカは大事な俺の――」

「所有物ですよね?ユウさんまさかですけど、その奴隷に騙されているなんてことありませんよね」


 それを聞いてユウが怒っているから私は比較的冷静でいられたけど、まさかこんな扱いされるとは思ってなかった。


 いや、元からいないような扱いされていたから、私に対してそういう認識だったんだろう。

「もういい!」

「あ、話はまだ終わってませんよ!」


 ユウが私の手を握ってそのままギルドから出る。

 相当怒っていたのか少し握る手が痛い


「トウカ、気にしなくていいからな?亜人を差別する人も中にはいるみたいだからアンナさんもその類の人なんだ」

「いや‥気にするとか以前にユウの方が落ち着かないと」

「俺は落ち着いてる」


 嘘こけ、いつもの笑顔が剥がれているからばればれだ。

 とはいえ、真面目な話ユウから冒険者という職業をとったらと考えたら結構何とかなる気がするので、問題自体はないのだろう。


 ただ原因が私というのが駄目なだけで


「トウカは嫌じゃないのか?あんなこと言われて」

「いや‥私は獣人だし‥奴隷も本当のことだから」

「トウカは人間だよ‥‥」


 私が納得してることが意外だったのか、少し落ち着いたみたいで手が痛くなくなった。


 人間扱いしてくれるのは嬉しいし、私も別に心から奴隷になってるわけではないのでユウの言いたいことも分かるのだけど、どうにも相容れないらしい


 まぁ未だに奴隷として見られるときや、周りからたまに性的に見られたりするから、ユウはその視線に気づいてなかったのかもしれない


「そういう目で‥私のこと見てる人多いよ?」

「そんなわけ!‥‥そうなのか?」

「うん‥」


 また苛立ったのか少し手が痛い、出来れば本気にならないでもらいたいところである。さすがに私の手だとユウが本気になったらきっと砕かれるに違いない。そんなことを思ってると「可愛いから見てるだけかと思った‥」とボソッと聞こえたので視線には気づいていたみたいだ。


 とりあえずここにいても仕方ないので、一旦家に戻ることにして、ユウが「あ、報酬もらうの忘れてた‥」と今更ながらに気づいたようである。あんなことがあった後では仕方ないとは思うが


「次行ったときは‥ムキになったらだめだよ?」

「俺はムキになってない」


 これは駄目かもしれない‥





 一日経てば少しはマシになるかなと思ったけど、そうでもなくユウは瞳をギラギラさせながら「今日はトウカ留守番しててくれる?」なんて言い始めた。


「いや‥ユウ落ち着い――」

「落ち着いてる」


 あぁ‥あぁ‥なぜこうなった‥


「ユウ、冒険者辞めたいの?」

「え?別に辞めたいわけじゃないけど、別に冒険者にこだわる必要もないかなって思ってね」

「じゃあなんで冒険者になったの?」

「それは‥」


 言えないような理由なのか少し目が泳いでいる。いや、そういえば受付嬢に欲しいものがあって今はもう満足しているとか言っていた気がする‥‥もう満足してる?手に入らなくてもよくなった?とかかもしれない、もしくは代わりの物を手に入れたとか


「トウカは俺にやめてほしくないの?」

「え‥別にユウがやめたいならそれもいいんだろうけど‥私のせいで‥あんな空気になっちゃってたし」

「別にあれはトウカのせいじゃないよ」

「けどそれなら‥どうしてやめるの?」

「それは‥」


 あれだ、明らかに私に遠慮して言ってるんだろう、体力的とか魔物に襲われた時のことを考えているのかもしれない、何気にユウはすごい心配症なのか、あの魔物に襲われてからの反省会以降魔物の話もしばらくしてこなかったくらいに変なことで気を使ったりしていたから


 まして私は今は男と言われても女と言われても仕方ないなぁくらいの認識だが、こいつは純然たる男だからプライド的なものがあるんだろう‥こいつも女になれば解決していたかもしれないな‥まぁとはいえ仕方ないのでこのプライドを守りながら助け船をだしてやらねば勢いで本当にやめるつもりだ。


「あぁ‥薬草採取ばっかりだと‥飽きちゃったなぁ」

「ん?どうしたトウカ急に」

「なんだか‥ほかの冒険者っぽい仕事‥ないかなぁ?」

「‥‥」


 何を言いたいのかわかってくれたのか目を開いた後、俯いてもう一度私の方を見て


「ごめん!気づかなくて!次はキノコ採取にするから!!」

「‥わざとかそれは」

「あ、ごめんわざとだよ」


 ここで急にボケるなよと思ったけど、朝の苛立ってた時と比べて今はいつもの笑顔で「ごめんごめん」と笑っているから、なんとかなったのかもしれない


 それでも私には留守番をしてほしいらしくユウは出かけて行った。

 私一人にされたらすることがないからそれはそれで困るのだが‥‥








 それからユウが帰ってきたのは夕方になり始めたころである。女を連れこんで


「えと、ただいま」

「お邪魔します」

「おかえり‥と、いらっしゃいませ?」


 青い髪に黒い無地のローブで率直な感想でいいなら野暮ったいというか田舎っぽいというか


「この子がユウの言ってたトウカって子?」

「そうだよアリ―、トウカこの子はアリ―って言って今日受けてきた仕事の依頼人だよ」


 胸が控えめでいて、それでいて背が小さい、私と比べてみても同じくらいというかぶっちゃけて言ってロリと言っていいんじゃないだろうか?


「トウカ?大丈夫聞いてる?」


 そういえばユウは私に発情してたわけだし、やはりロリコンなのは間違いないのだろう。


「トウカ!!」

「っ!‥なに?」

「ちゃんと聞いてた?」

「き、聞いてた、えと‥トウカって言います‥よろしくお願いします」


 青い子が多少不機嫌な顔をしている。何か怒らせることを言ってしまっただろうか

 それともこの子も奴隷と挨拶したくないって子なのかもしれない


「トウカね?よろしく」

「あ‥はいよろしくお願いします‥」


 凄い眼光で見られる‥やはり不機嫌だなぁと思っていたらユウが近づいて耳打ちしてきて


「なんだか噂で俺がトウカのせいで依頼を受けなかったみたいなことになっててさ、ずっと俺に指名依頼してたらしんだけどそれで勝手に怒ってるんだよ‥トウカのこと」


 それ私のせいじゃなくてユウのせいじゃないかと思ったら「ちゃんと弁明はしたんだけどな」と謝ってきた。

 あれだろうか我が強い人なのかな、ぱっと見お嬢様には見えないし、強いて言えば魔術師?


 とりあえず中で話そうかということで居間に集まり依頼の詳細について聞くことになった。




 




 元からコミュ力が高いわけではないからどう接していいのか分からないでいると「依頼について話すわ」と青い子が説明しだした。まぁ私が話しても理解できないだろうし二人の会話を聞くだけにしておこう


「ユウにはもう説明したのだけど、まずは名乗るわ、私の名前はアリー、アリー・フェルダムよ、アリーと呼んでもらって構わないわ」


 私に説明しても分かりませんとは言えないので、とりあえずわかったふりをして乗り切ってみようと思う。。


「ユウからトウカは何も分からないと聞いていたから、簡単にはなすけれど、私と一緒にダンジョンに潜ってほしいの」



 なんでもうユウがネタバレしてるのかと思ってしまう。そんな風に私が分からないとわかるなら今言われても分かるわけがないということくらいわかっていてほしい


「正直私は貴方がいなくていいんだけど、ユウがどうしても一緒じゃないと駄目っていうから仕方なくよ」

「アリー、そんな風に言わなくてもいいだろ」

「本当のことよ、というかユウだってトウカは戦えないし、冒険で役には立たないってさっき言ってたじゃない」

「あ!馬鹿お前!それは言わなくて‥‥トウカ!役に立たないとまでは言ってないぞ俺は!」


 ひどい言われようであるけど、事実でしかないので何も言い返せない‥悔しいわけではないが、そこまで戦力外通告するくらいなら別に説明しなくていいよ、もう私のHPはゼロだよ


「だから貴方は何も考えずに私たちの言うことを聞いてればいいわ」

「えと‥分かりました」


 下手にユウみたいにフォロー?のように気を遣われるより、青い子のようにあっさりしてるくらいがダメージが少ない気がする。


「トウカ‥怒ってる‥?」

「別に‥」


 ダンジョンがどういうものか分からないけど、私としては、付いて行くだけだし何も考えなくても大丈夫だろう。


「それでお二人はいつ行けそうかしら?旅の支度に関して私は散々一緒に行ってくれる人がいなかったから‥いつ依頼を受けてくれるかもわからない中準備だけはしてたからいつでも大丈夫なのだけれど」

「むしろずっと依頼を取り消さなかったアリーの我慢強さに驚いてるけどな」


 ユウと青い子はお互い呆れながらも、何かしら信頼してるのか軽い悪態をついて笑いあっている。


 こんな風にユウが話してるってことは青い子は良い子なのかもしれない、私のことも差別したり奴隷扱いしたりするわけでもないし、ユウのことだから前もって何か言った可能性も捨てきれないけれど


「俺の方も大丈夫だよ、今だと時間も遅いし泊っていくか?」

「そうね‥ユウが良いならそうしてもらえると助かるわ」


 そうしてユウが三人分の食事を用意し始めて、青い子と二人きりで無言で待機してとても気まずい思いをしながら、食事のときもユウと青い子が話してるのを横で聞きながら黙々と食べた。


「私はどこで寝ればいいのかしら?」

「あぁ、この前泊ってもらったときはトウカの部屋だったよな、今日はどうしようかな」


 青い子は私の方をみて怪しい笑みを浮かべて


「それならユウの部屋で一緒に寝たいわ」

「なっ!?それは駄目だろう?!」

「別にいいじゃない、何度も夜を一緒にしたでしょ?」

「そんなわけあるか!一回もなかったぞ、トウカが勘違いしたらどうするんだよ」

「勘違いも何も本当のことでしょ?よく冒険に行ってたのだから」

「へっ‥?」


 最近のロリコンはすぐに女の子に手を出すんだなぁとか思っていたら。どうやら一緒に冒険に出かけたときの野宿とかのことを言ってるらしい。

 ただからかわれていただけのユウは目を白黒させながら頭が追いついたのか「からかうなよ」と憤慨していた。


「顔真っ赤にしちゃって何を想像してたのかしらね、貴方もそう思わない?」

「ユウは‥ロリコンだから」

「俺はロリコンじゃない!」


 青い子はロリコンの意味を分かっていなかったのか、何それみたいな顔をしていたけど、ユウがムキになってるのを見て納得した顔になって「ロリコーン」と二人で言ってやった。


「お前ら結構仲良いな!?」

「別に私は仲悪くなったつもりはないのだけど?」

「いやだって最初――」

「それはギルドに指名依頼でわざわざ声をかけているのに、連絡の一つもよこさない上に理由がトウカがどうのとか意味わからないこと言われたらそうなるわよ」

「さっきも奴隷がどうのとか怒ってなかったっけ?」




 そういえば私に怒っているみたいなことをユウが耳打ちしていたなと思い出した。


「ユウ‥貴方ねぇ‥ギルドで今貴方の噂で持ち切りなの知らないの?」

「なんのことだ?」

「町にいるときは必ずギルドに顔を出して、高ランク依頼を数々とこなしていたAランク冒険者ユウは性奴隷に夢中で冒険者をやめるって話よ」


 性奴隷ではないけど、大体合ってるなと感心する。


「なんだ!その根も葉もないうわさは!」

「いや‥半分事実だったでしょ貴方‥」

「そんなことは――」

「性奴隷じゃないのは見てれば分かるわ、綺麗だし奴隷っていうには気心が触れてそうな感じだし、けどトウカがいるから危ないところはとかさっきもずっとずっとずーっと言ってたじゃない」

「うっ‥」


 まじで言っていたのかユウが顔を歪ませている。私がいないところでそんなに私の名前を連呼していたのかこいつは、というか最初の私に対してのとげとげしい雰囲気も青い子からはなくなっていて、むしろ今はなんというか接しやすい気がする。


 これってユウがここに来るときに何か言っていてそのせいで最初不機嫌になっていただけで私を見てから怒っていたわけじゃないのではないだろうか


「と、いうわけで一緒に寝ましょ?トウカ」


 ユウとの言い合いも終わったのか、私に笑顔を向けてきた。

 けれどどこか、怖い瞳な気がするのは気のせいだろうか‥





 そして私は部屋に戻ると早々にベッドの中に潜って寝ることにした。


「え?ちょっと、何か話したりとかしないの?ねえ?ねえ?」


 別にすごく眠たいわけでもないけれど、なんというか今日知り合ったばかりの子と一緒に寝るというのも気恥ずかしいので、眠ったふりでもしておけば大丈夫という算段もあり、眠ることに――

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