誘拐された時止まりの令嬢
人目を避けて屋敷を飛び出したメルディ。
今は手を拘束され、王都から離れた森の中で監禁されていた。
アランからの手紙を受け取った後、屋敷の者達の目を盗んで待ち合わせ場所まで一人向かった。
しかしそこにアランの姿はなかった。そしてまんまと別の人物に拐かされてしまったのだ。
「メルもこうやって誘拐されたのね」
偽の手紙で呼び出され、自らの足で犯人の罠にかかり誘拐された。
同じ手口を使うとは犯人は間抜けか。それに引っかかった自分はもっと間抜けだろう。
メルディは周囲を見回した。
今は使われていないどこかの別荘の様だ。
家具には白い布がかけられている。馬車で連れられた別荘は人里離れた森の中に佇んでいたので、犯人は大声を出されたところで助けが来るとは思わなかったのだろう、拳銃で脅し、拘束しただけで口を塞ぐことはしなかった。
犯人はメルディに無体なことはしなかった。目隠しや口を塞ぐこともせず、手だけを拘束した。
自身も顔を隠していないところをみると、これから待ち受ける未来は、服従か死かの二択だろう。
メルディは腕を見た。
拘束された時に傷口が開いたのか、うっすらと血が滲んでいた。
それから扉を見る。
今はここにいない犯人と、訪問者の話し声が外から聞こえていた。
屋敷に到着したメルディと犯人が話始めると、予定外の訪問客があった。
馬の近づく音で犯人はメルディを部屋に残し、銃を持って階下に降りて行った。
それが今から五分前のこと。
果たして訪問客は犯人の仲間か、メルディを助けに来た救世主か。後者ならば何かしらの物音があってもいいが、先程から耳を澄ませても何も聞こえない。
メルディは立ち上がり扉に近づいた。拘束された後ろ手でドアノブを回すと、鍵はかかっていなかった。
「あの人ったら、とことん間抜けね」
軽く犯人に悪態をついて廊下に出る。
このまま逃げてもいいのではないか? そう思ったが、階下から聞こえる聞き覚えのある声に、逃げる考えは一瞬で消え去った。
足は自然と早まり玄関ホールへと向かう。
そこには犯人と訪問客が睨み合い、対峙していた。
その緊迫した空気の中、メルディは二階から声をかけた。
「やめて、ラオネル」
男達はメルディの姿に驚いていた。
ラオネルは銃を構え、男に突きつけたままこちらを睨む。黒曜石の瞳と真っすぐに目が合った。




