表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
時止まりの令嬢と女嫌い侯爵  作者: 千山芽佳


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

11/33

疑惑の死

 

 警備隊の捜査が終了し、フレッドは自殺という結論が成された。

 アランが知った翌日には、フレッドの死は社交界に広く知れ渡った。

 若くして自らの命を絶ったフレッドに、皆が同情した。


 夜も九時を回ったころ、王都の高級サロンでは、フレッドを偲び友人らが集まっていた。

 この日はフレッド=ニーベルグの葬儀が教会で取り行われた。

 彼の死が父親であるモリソン=ニーベルグの凶行を悲観しての自殺と結論付けられた為、参列者は実に寂しいものだった。

 没落する伯爵家と関わっても損でしかない。それが社交界での共通の認識となっていた。

 ブライトン家では父は欠席、アランは旧友ということもあり葬儀に参列した。

 ブライトン家ほどの地位と家名があれば、葬儀に参列したからといって受ける影響は微塵もない。

 しかし他の友人達は世間の目もあり、参列したくても出来なかった者がほとんどで、彼らと共にフレッドの弔い酒に集まることにしたのだった。


「可哀そうな奴だった。あんな父親の元に生まれてこなければ、若くして死ぬこともなかっただろうに」

「運動は全然駄目だったが、頭は飛び抜けて良かったよな。惜しい奴を亡くしたよ」

「フレッドの死を受け入れられない。まだ生きている気がして……」

「フレッドに冥福を――」


 「冥福を――」という言葉と共に、何度目かの献杯を捧げる。そして皆でフレッドの思い出話に華を咲かせた。 

 すると、突然ドアが勢いよく開けられ、大男が姿を現した。

 遅れて登場したキース=レントンに、皆の視線が集まる。部屋はしんと静まり返っていた。

 キースは誰もかけていない椅子に座ると、持参した酒を煽るように飲んだ。


「随分酔っているな」


 心配して立ち上がろうとするアランに、友人が手で静止する。


「そりゃあ今レントン商会の信用は地に落ちているからな」

「酒も煽りたくなるだろうさ」


 そう小声で話すのは、アランのテーブルだけではない。そこかしこでキースの噂話をしていた。


「結構な数の偽物を売りまわっていたようだ。今国で一番忙しいのは鑑定師だろう」

「ご婦人方は怒り心頭さ。うちの妻の機嫌も最悪だ」

「レントンの爵位持ちを後押ししていたルワンダ公爵も『恩を仇で返された』と怒り心頭だという。爵位どころかこの国での商売もあやういだろう」

「ここ、いいか?」


 アランに声をかけたのは、噂のキース=レントン。

 友人達は気まずそうに視線を逸らしたが、キースは相手にせずアランの隣に座ると、自ら声をかけたにもかかわらず、一言も発さずに酒をあおっていた。

 同じテーブルに座っていた友人達が気を利かせて席を立つ。もしかしたらキースはアランと話があるのかもしれないと思ったのだろう。

 案の定、キースは二人きりになると、小さな声で話し始めた。


「フレッドは自殺じゃない」

「え?」


 キースはじっとグラスを見つめ、アランにだけ聞こえる声で続けた。


「父親が捕らえられた翌日、俺はフレッドに会いに行った。あいつ、拳銃を用意して自殺しようとしてた」

「!」

「だが思い止まったんだ。本当だ。あいつは俺に、『犠牲となった命に報いたい。命を無駄にできない』って。一度、あいつは死のうとした。それは本当だ。だが思い止まった! それも本当なんだ……!」

「キース……」


 キースは苦し気に唸ると、酒を一気に仰った。


「だっておかしいだろう? あいつは自殺に銃を用意していた。俺はしっかり見た。それなのに、わざわざ湖まで行ってボートを漕いで入水自殺? そんな面倒臭い事をする理由があるか? きっとあいつは殺されたんだ!」

「キース、落ち着け」


 徐々に声を荒げるキースに、周囲の視線が集まる。アランはとりあえずキースを立たせ、「酔いが回ったようだ」と言って外に連れ出した。

 実際キースは随分酒を飲んだようで、よろめきながら建物の壁に寄りかかった。


「……」


 もしもキースの言う通り、フレッドが拳銃を用意していたなら、たしかにパークでの自殺には違和感がある。


「教えてくれ。君は何を知っている? フレッドが殺されたと思う理由は何だ」

「分からない……。俺だって、分からないんだ!」


 キースは叫ぶとその場に蹲り、小さくなって泣いていた。

 フレッドとキースは学生時代から仲が良かった。この中の誰よりも、フレッドの死を悲しんでいるのはキースだろう。


「……今日はもう帰った方がいい。後でゆっくり話をしよう」


 キースはもう一言も発せられず、アランは馬車を呼んで乗せた。

 出発の間際、キースは酩酊状態で小さく呟いた。


「……時……の……」


 その後の言葉は、馬車の音に消されて聞き取れなかった。

 アランは既視感に襲われていた。

 たしかあれは、フレッドが夜会で体調を崩した時の言葉。


『……時……の……』


 あの時も二人は一緒で、彼らの様子はおかしかった。


「時、の……、『時、止まりの令嬢』?」


 まさかな……。

 頭を振って、アランは夜風を吸い込み、建物の中へと戻って行った。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ