AWS小説“消えかけの黒霧領域”5
二体のリーパーの元に一人の人影が近づく。
その人影は、なんのためらいもなくリーパーに近づいていき、そのまま霧に――《向こう側》へ吸い込まれていく。
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闇が広がる。
霧の中、《向こう側》へと踏み入れた先は静かで、光も色も温度も、そして時間までもが現実とは切り離され、別の法則や概念によって存在しているかのような空間。
真っ暗な空間に自分の足音だけを響かせて進む。その足取りには迷いがなく、既に目的地が定まっているかのようにただ歩き続ける。
やがて、一人の男と対峙する。二人が真っ黒な空間の中に身体が浮いているかのように、しかし、地に足は付いている。存在はしているのだ。
二人にはお互いの姿が実際に見えるわけではないが、そこに何者かが居ると、存在を感じることができた。
「お前、誰だ? まさか……リリア? お前なのか!?」
「これを」
声ではない、意識下でのやり取り、交信とでも言うべきか。
そんなやり取りが始まる。
「リリアか? 答えてくれ! 俺だ!」
「これを受け取ってください、それでは」
「おい、待てッ!」
一方的な交信が続く。
男の手に受け渡されたそれは手になじみ、すぐに何かわかった。しかし、どうしてこれがここにあるのか。本来ならばこの場所にあるはずのないものだ。
――あるはずのない――いや、何かが引っかかる。
「おい、……こいつは一体……?」
「これを使ってもう一度、元の場所へ戻るのです……」
「だが、どうやって? それにもう一度って……」
「あなたは知っているはずです、戻る方法を。そして、黒扇子をここへ持ってくる方法を」
交信が途切れる
やはり何かが引っかかる。そう思案しているうちに先ほどまで存在を感じた者は居なくなり、ただ佇む男とその手には黒扇子。
そして、あれは何者だったのか。
「短い間だったがいつまでもここには居られないし、ひとつ試してみようじゃないか」
どうせ何も見えないならと閉じていた目を片方だけ開く。そしてゲルトは黒扇子をひと薙ぎ、闇を切り裂く――