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AWS小説“消えかけの黒霧領域”4

 玄関が開き、中から感じのよさそうな男が出てくる。

 どうぞ、と男――山本は立山を中へ促すと奥へと入っていく。


「すまんな、わざわざ来てもらって。あがってくれ」

「お邪魔します……」


 中は広々としており開放感があった。

 立山の偏見だが、山本の家は散らかっており狭苦しいイメージだった。


「こっちこっち」


 奥の部屋に通されると、そこには小さな机とその上にノートパソコンが置いてあった。


「すぐにお茶いれてくるから座っててくれ」

「いえ、お構いなく……」

「いいからいいから、せっかく来てもらったんだし」


 山本は愛想よく立山をもてなそうとした。

 まだ慣れておらず縮こまっている立山に対し、少しでも楽になってもらおうという気持ちの表れであった。


 両手にお茶の入ったグラスを持った山本が部屋に入り、よっこらせと腰を下ろすと、


「さて、早速だが補完をするための二次創作は俺が書いても問題ないのか?」

「問題はないと思います。が、干渉者に関しては原作者が生み出すオリジナルキャラとなってしまい、後々取り除くのが困難になります」

「なら、俺が黒扇子を霧の中に持っていくという矛盾をなんとか補完できるように小説を書き、必要ならお前が干渉をするってことか」


 山本はノートパソコンを開くと早速手を動かし始め、何かを打ち始める。


「うーん、黒扇子を霧の中へと持っていく方法かぁ」

「難しいですよね、なんか水と油を混ぜるような話だなって」

「だよなぁ、少し時間がかかるかもしれねぇ」

「僕の方でも考えておきます」

「ああ」


 立山は目の前でプロの小説家が執筆を行っているということへ興奮を覚えると同時に、どこか取り残されたような、そんな自分の才能のなさに改めて気づかされるような。

 ほんのわずか、心に影が広がり、なにかが傾く感覚を覚えた。


「僕は現在の状況をもっと確認しておきます」


 立山はポケットからスマホを取り出すとエディター専用のアプリを起動し呼びかける。


「ケイ、現在の状況は」


 音声認識によってテキストが自動入力され、本社のサーバーに送信される。

スマホを使ってエディターの干渉業務を行うときは独りである時がほとんどだっため、うっかり音声入力機能を使ってしまう


 チラと山本の方を見る。お構いなくとこちらに笑いかけているのが見えた。


『ゲルトが居なくなった後、特にこれと言って特筆すべきことは起こっていない』

「そうか、引き続き、調査を続けてくれ。何かあったらすぐに呼んでくれ」

『了解』


 ものの数秒で返ってくる返信を確認すると、自分も何かできないかとあれこれ思考を巡らす。


 持っていけない黒扇子を持っていく方法。なんでも飲み込んでしまう霧に対し、唯一飲まれない武器をその霧の中《向こう側》へと持っていく。


「扇子って確か贈り物にも使われませんか?」

「言われてみればそうだな、参考にさせてもらうぜ」

「こっちで詳しく調べてみます」

「頼む、なんかうまいこと書けそうだ」


 山本がこうして、急な執筆でも書けるのは素直にすごいと感じた。

 立山が執筆活動を行なっていた時はコンスタントに書けず日にちが空いてしまうことが多かった。

 これがプロとアマの違いなのだと、広がっていく心の影は、諦めとも言う安らぎによって食い止められる。


―――――――――――――――――――――――――――――――

―――――――――――――


「それでは、今日はお邪魔しました。失礼します」

「おう、助かったぜ。また完成したら送るからよ、その後は頼んだぜ」


 あの後、静かな作業時間が続き、ひと段落ついたところで立山は会社に戻ることにしたのだ。

 山本の見送りを後にして会社に戻る道中、今日一日の出来事を振り返る。

 自分が小説家でなくて、エディターとなり、干渉を行なっていることについて。

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