AWS小説“消えかけの黒霧領域”3
“消えかけの黒霧領域”。その結末はゲルトが隊員を率いて《向こう側》へと行き、黒扇子を設置していく事で黒霧の浄化を図るというものであった。
「炭を使って冷蔵庫の中を脱臭するみたいだな……」
AWS社、オフィスの一角で立山はその物語を構成する元になったプロットを眺めながら思案する。
起こってしまった変調をどうするのか、これから原作者との打ち合わせに向けて状況を整理しておく必要があった。
結末へのキーパーソンとなるゲルトが最終局面の直前、《向こう側》へと行ってしまう。原因となる二次創作物は判明せず。
AWS小説が自立的に行う補完のログを漁ってみたがあまりの量に気が引けてしまった。
キーワード検索による抽出も試してみたがそれらしいものはない。
なら、干渉に専念するべきだと判断した立山は原作者をあたることにした。
立山は受話器を取ると連絡先一覧からその名前を見つけ出し、電話をかける。
スーッと一呼吸をし、コール音が途切れるのを待つ。
「もしもしー、山本ですー」
「あっ、担当エディターの立山です、いつもお世話になっております」
「あー立山くん? アニメどうだった? 俺スゲー興奮しちゃってさぁ——」
調子の良い声はいつにもまして上機嫌だった。
はぁはぁ、と受話器を相手に愛想笑いをしながらうなずく立山を気にも留めず、自分の小説のアニメの話を続ける山本。
喋りだしたら止まらない山本に対して、なかなか本題を切り出せずにいた立山はひとつ咳払いをすると、
「実は変調が見られまして」
無理やり話を進める。
先ほどまとめた話を簡潔に伝える。結末へのキーパーソンであるゲルトが居なくなってしまったこと、変調の可能性があり、その原因は未だ分かっていないこと。これからの方針について。
「そうか、うーむ……俺的にはさ、あまり干渉はして欲しくないんだよな。かといって結末が変わってしまう? それもなぁ」
「アニメ化もされてますしここで結末を変えるのは難しいかと……」
「アニメの放送が原因で変調が起きたって線は? ほら、タイミング的にもよ?」
「いいえ、原作に準拠して制作されたのでその可能性は低いかと考えられます」
「ログは? 確かAWSには執筆する際の補完時にログが残ると聞いたが」
「はい。ですが、膨大な量でして、特定が困難でした。一刻も早く干渉して変調を正すのが先決かと思いまして……」
干渉、立山にはまだ干渉することに対して抵抗があった。セカンドワールドの変調を正すとはいえあまり気持ちがいいものには感じなかった。
「なら、干渉するとしてだ。具体的にどういった干渉をしていくつもりなんだ?」
「考えられるものとしてはゲルトの救出ですかね、想定された結末にたどり着くうえで欠かせない存在であるのでこれは大前提になるかと思います」
「なるほどな……可能なのか?」
「いえ、それが……気になる点がひとつございまして。今回はその件について話を伺いたくて」
気になる点。立山はひとつ、ひっかかっていた事があった。
黒扇子。
すべてを飲み込む黒霧に対して唯一対応できる武器であった。
しかし、その飲まれない特性上、《向こう側》へと持っていく事ができない。
なら、結末での、黒扇子を《向こう側》に設置して、黒霧の浄化をするというのは矛盾しているのではないか。
持っていけないものを持っていく。そんな水と油を混ぜるような状況で結末に向かうことができるのか。
「ゲルトが黒扇子を《向こう側》に持っていくという展開につきまして。黒扇子は黒霧に飲まれない唯一の武器であるという特性と矛盾してしまっているのではないかと」
「確かに、最新話でも隊員が霧に飲まれた後、黒扇子だけが飲まれずにその場に残っているな」
山本は最新話を確認しながら答えている様子だった。
「はい。そこで、ひとつ思ったのですが、変調は二次創作が原因ではないのかもしれません」
「ふむ、AWSが勝手に結末を変えたと?」
「そうです。もしかしたら、変調ではなくあらかじめ指定した結末に向かう途中、この矛盾に突き当たってしまったAWSがキーパーソンであるゲルトを除外して違う結末へと向かっているという可能性です」
「なるほどな。補完でも解決できない矛盾点を回避するために違う結末を用意したという事か」
「なので、今回は二次創作による矛盾点の解決を行おうかと」
「それはつまり……補完できるようにするってことか? ないなら作ろうってか」
「そうなります。なのでもっと詳しく話をしたいのですが……今はお忙しいですか?」
「いやぁ別に、今からでも来てくれ」
「はい、それならすぐに伺います」
立山はペコペコしながら電話を切ると早速準備をし始めた。