AWS小説“消えかけの黒霧領域”1
次回は来週と言いながらも時間があったのでその日のうちに続きあげちゃいます。
今回は作中のAWS小説、“消えかけの黒霧領域”のお話に入っていきます。
多分、次回辺りにエディターである立山が送り込んだ干渉者、ケイが登場します。
干渉者なのであまり影響を出さないようにほんのちょっと、脇役として出す感じですかね。
それでは、消えかけの黒霧領域(曖昧なパートナー(達)は今日も健在です)をお願いします!
「ゲルトさん、この辺り……においますね」
「あぁ、警戒を怠るな……」
空気が張り詰める。
とっくに避難勧告が済み、ガランとした街の真ん中をスーツ姿の三人がゆっくりと進む。辺りには薄く黒い霧が出ている。
それぞれ、長く気持ち太めな真っ黒な“モノ”、ひとりはそれを肩に担ぎ先頭を歩く。
名はゲルト、対黒霧チームの隊長である。身長は高く身体はゴツイ。赤髪をかきあげてがっちり固めている。辺りを窺いつつ歩みを進めていく毅然とした立ち姿からは落ち着きと冷静さを纏い、微塵の隙も感じさせない。
その後に続く、腰を落とし横目でメンバーとの距離を確認するカトウ、携えた“モノ”を強く握りしめ、ゲルトの死角をカバーする。黒色の頭髪をしており、その姿は鞘に納めた刀に手を添える侍そのもであった。
金髪の女性、ソニアは背中に“モノ”を背負っており、手に持った端末を眺め他のチームとの連絡、およびレーダーの確認を行っていた。
「警告! 黒霧濃度が上昇、間もなくリーパーが出現すると思われます!」
「カトウ! 黒扇子を展開、領域を作れ! ソニアはB班に連絡後すぐさま戦闘態勢に入れ!」
「「了解!」」
カトウが“モノ”を展開させ本来の姿をあらわにする。持ち手から放射線状に伸びる骨には薄く黒い特殊な素材でできた板が張られており、それはいわゆる扇子をかたどった武器であった。
黒扇子と呼ばれる扇子は黒霧と共に現れるリーパー(黒い布を纏いドクロの仮面をした姿からそう呼称される)と戦うために作られた武器だ。
カトウが大きく扇子を扇ぐ、すると周囲の霧が晴れる。黒霧は気圧変動や他の扇子などの起こす風で晴れることはないが、この黒扇子で扇ぐこと、もしくはリーパーの撃退により晴らすことができる。リーパーは黒霧の中でしか活動ができないため、黒扇子が標準装備として選ばれていた。
「数、二! 正面から来ます!」
「増援が来るまで時間を稼ぐ、カトウはそのまま扇ぎ続けろ! へばるんじゃねぇぞ!」
カトウは重量のある黒扇子を往復させ霧を押し返し続ける。リーパーの周囲は特に霧が濃く、その霧に飲まれると《向こう側》へと連れていかれてしまう。飲まれるのは人だけでなく銃弾やその他の物質全て、飲まれないのは黒扇子だけである。未だ飲まれた者は帰ってきておらず、《向こう側》についてはなにも解明されていない。
「二体なら私たちだけでもやれるのではないでしょうか!? リーパーが二体とは限りませんし少ないうちに仕留めることを提案します!」
「ならサポートは任せた!」
リーパーの動きはゆらゆらとゆっくりしたものだったが、周囲に発生している黒霧は凶悪でこれまで幾人もの被害者を出している。安全マージンはおおよそ2メートル。
ゲルトは一体のリーパーがギリギリまで接近するのを待つと、カトウが確保した領域から飛び出し、二体のリーパーの後方へぐるりと回り込むように駆け出す。
ソニアはゲルトに合わせて反対側から回り込み黒扇子を広げる。
カトウは大きく一歩踏み込み、これまでとは違う大きな風を起こす。
一瞬の出来事。一体のリーパーはカトウの一撃に怯み、後続のリーパーは回り込んでくる二人に気を取られ狼狽えている。
ゲルトは黒扇子を地面に打ち付け『ガシャン!』と大きな音を立て、狼狽えているリーパーの気をさらに引き、向き合った正面から突っ込んで手前2メートルで直角に飛び退き方向転換する。
それを追うように前のめったリーパーの向いた方向には黒扇子を大きく振りかぶったソニア、その強い風が直撃する。
黒扇子を振り、屈んだソニアの背後から先ほど距離を取ったゲルトが反転、助走をつけて跳躍し、飛び越え——閉じたままの黒扇子を真上からリーパーに撃ち落とす。
リーパーの纏っていた濃い黒霧はソニアの風により薄くなり、ゲルトの接近を可能にする。
黒扇子の一撃を受けるリーパーの身体はぬるりとほのかな抵抗をしつつも霧散、ドクロの仮面は割れ、そして身体全体が霧となって溶けていく。
リーパーが纏う濃い霧を払い、直接扇子で殴る。あらゆるものを吸い込んでしまう黒霧を纏うリーパーに対する基本の戦術であった。
三人は素早く後方へ飛び退いて距離を取り、それぞれがひと扇ぎ、領域を確保し、構えなおすと残りの一体のリーパーを三方向から囲んだ陣形を取った。
「カトウ、ソニア! 一気に行くぞォ!!」
「行きます!」
「タァアア!!」
三方向からの一斉攻撃、扇がれ徐々に絶対防御の霧を失っていくリーパー、徐々に距離を詰められやがて死角から打撃を加えられる。
わずか十秒足らずで残り一体のリーパーは完全に霧散した。
「どうやら二体だけだったみたいですね」
「増援が来る前に決着が着いてしまいました」
「あぁ、お前たちは少し休め。俺が辺りを警戒しておく」
辺りの黒霧は薄くなっていき、しかし完全には晴れず、まだリーパーが潜んでいることを意味していた。
このまま増援が来るのを待ち、残りのリーパーを片付け、帰りに飲みにでも行くかと考えた矢先……
「増援要請です、B班が交戦中のようです。どうやら残りのリーパーはあちらに出現したようですね」
「急ぐぞ、休憩は終わりだ」
「僕ずっと扇いでたからキツイですよ隊長~、領域確保するのって大変なんですよ?」
「何を言ってる、その程度で音を上げていたらまだまだだな。安全地帯を確保し続ける持久力は最優先だ。カトウにはもっと鍛えてもらわにゃならんなこれは」
ゲルトはそんな~、とだらしない声を上げるカトウを鼻で笑い、ソニアは含みのある咳払いで二人を急かす。
――一方、B班は
「マズい、散らばるな! 一か所に集まって領域を確保するんだ!」
「このままじゃ完全に包囲されます! 止まるのは得策ではないかと!」
「だがここまで濃くなった霧の中だ、扇がないと道は開けん、誰かがしんがりをやらんとな。もっともソイツは助かるかどうか知らんがな!」
三体のリーパーと対峙するB班のサエキ、クレア、ダイアン。A班の連絡に対し、増援に急行する道中、待ち伏せに会ったのだ。先手を取られ包囲寸前、完全に八方塞がりとなった三人は決断を迫られていた。
「増援は?こちらからの要請はしたのか!?」
「もう済んでる、けど向こうも戦闘中のはず、到着は遅れるかもしれない!」
このまま領域を確保しつつ増援を待つか一人が犠牲となって離脱するか。
「あっちにはゲルトが居るんだ、増援を待つ! ダイアン! クレア! 踏ん張れよ!?」
「「了解!」」
力の限り黒扇子を振り、領域を確保する。しかし、リーパーはじわりじわりとその包囲網を縮め、辺りの霧を一層濃くする。三人の視界は次第に暗闇へと落ち、恐怖心を煽る。
B班を任されているサエキは二人の背中に目をやり、――イチかバチか、やるしかない――迷ってはいられないと判断し、
「ダイアン、後方は任せた! ギリギリまで引き付けた後、前方のリーパーを撃破、突破口を開く!」
「マジですか姉さん? 俺この戦いが終わったr」
「余裕ありそうですね、任せましたよダイくん!サエちゃん、私が隙を作るからお願いね」
普段はおっとりしているクレアだが窮地に立たされ、その声には少し力が入っていた。互いにまだ希望を捨てていないことを確認し合い、気持ちを奮い立たせる。この逆境を覆そうとB班は動き出した――
あまり書き込むつもりはなかったのですが、好評なら“消えかけの黒霧領域”もひとつの小説として上げるのもありかなぁと。
次回は今度こそ来週……にしようと思います(笑