大空洞
右腕の練習として27体のリトルロックゴーレムを倒した後、モンスターが落としたツルハシを拾っていながら周囲を確認した。
採掘場なのか休憩所なのかわからないけど、採掘ポイントは無くて、奥への下り坂を含めて3本脇道があった。
その内の1つは崩落した岩で塞がれていたので通れそうになく、もう一本はさっきの採掘場にあった足場に続いていた。
探索を続けるなら下り坂しかないんだけど、この場所は奥へ行けば行くほど天井が狭くなるから、今は少し屈んでる。
これだと道なのか隙間なのかわからないね。
屈んだ状態でしばらく進んでいくと道が平坦になり、その先にはツルハシを持ったリトルロックゴーレムが4体がかりで壁を掘っていた。
しかも、掘っている範囲から考えると、この道を作っているのはリトルロックゴーレム達みたいだ。
精一杯腕を伸ばして正面の上と下を掘るのが1体ずつ、左右で1体ずつという編成で掘っていて、砕いた岩はこっちを見ずに蹴って転がしている。
さっきの場所で岩を運んでたリトルロックゴーレムがたくさん居たんだけど、この道を掘った時に出てくる岩を運んでたのかもしれない。
今は全員倒したせいで誰も運ばないから、道の端に岩が溜まり始めてるけど。
このリトルロックゴーレムが何で通路を掘ろうとしてるのかはわからないけど、とりあえず倒すつもりだ。
体を傾け、ギリギリの高さで鉄の腕を小さく振り回す。
そして、正面のリトルロックゴーレムに向けて放つように糸を伸ばす。
小さく回転させていたのでタイミングが難しかったので、斜めに飛ばしてしまった。
そのせいで正面を掘っているリトルロックゴーレムの左肩を砕き、さらに正面の壁を砕いてしまった。
ガラガラと崩れる壁と、それに巻き込まれたリトルロックゴーレム達。
攻撃が当たった1体は、残りのHPを瓦礫で削られて光になった。
残りの3体は岩に飲まれて動けなくなったのか、HPバーが表示されているだけになった。
鉄の腕も岩に飲まれたけど、糸で繋がっているので縮めながら引っ張ると、勢いよく飛び出してきたので回収できた。
生き埋めになったリトルロックゴーレムは放置して崩れた岩の隙間から奥を見ると、この先に空洞があることがわかった。
僕の方に岩が流れてこなかったのも、ほとんどの岩が空洞側に流れたせいだと思う。
リトルロックゴーレムはこの場所を目指して掘ってたんだろうね。
最後の仕上げは僕がやっちゃったけど、開通したんだから許してくれるよね。
リトルロックゴーレムを掘り出さないように気をつけながら山になった岩の天辺から順番にアイテムバッグに入れていく。
来た道に転がしても帰り道が塞がるわけじゃないんだけど、何となく抵抗があったのと、この岩も人形の素材に使えるんじゃないかと思ったからだ。
磨けばツルツルとした岩になるだろうし、それを使えばゴツゴツしてない石の人形ができそうな気がしたんだ。
ゴツゴツしたパーツだとゴーレムっぽいけど、綺麗に削り出せれば陶器のようにならないかな?
そんなことを考えながら岩をアイテムバッグに入れ続けていると、僕だと厳しいけどハピネス達なら通れそうな隙間ができた。
ひとまず偵察としてアザレアで奥を見ることにした。
いきなりアイアンゴーレムのようなモンスターと戦うことになったら嫌だし、見たことがないモンスターが居たとしてもアザレアなら遠距離攻撃で対応できるからね。
「人形の館。アザレア来い。同期操作」
一旦山岩山から降りてアザレアを取り出す。
リトルロックゴーレムのHPは減ってなかったけど、出てくる様子もないので、後ろが問題ないことを確認してからアザレアに意識を移した。
自分で登るには不安定な足場だったけど、足が小さいアザレアで登るには丁度いい感じだった。
杖を握った状態でも難なく登れたので、さっき開けた隙間を通って向こう側に出る。
崩れた岩を足場にしながら降りていくと、目の前には広大な地下空洞が広がっていた。
アザレアの目線で見てるせいかとてつもなく広く見えるけど、実際に広いんだと思う。
目の前にはいくつかの段があって、下に行けばいくほ足場が広くなっている。
しかも、その段の上にはリトルロックゴーレムを大きくしたようなモンスターがポツポツといて、ツルハシを使わず手で握って岩を砕いていた。
どう考えてもリトルロックゴーレムの上位種だね。
リトルじゃなくなったからロックゴーレムかな?
そのロックゴーレム達は砕いた岩を一箇所に集めていて、小さな岩山がいくつもある。
その岩山はアイアンゴーレムと戦う前に見たリトルロックゴーレムが生まれる岩山にそっくりだった。
リトルロックゴーレムが生まれる環境を上位種のロックゴーレムが整えてるのかな。
他の場所に目をやると、リトルロックゴーレムが通れそうな小さな道がいくつかと、念願の採掘ポイントが見つかったんだけど、そのどれもがロックゴーレムの近くだった。
掘るためには戦わないとダメそうだけど勝てるかな。
体長は150cmはありそうだからミヤビちゃんより大きいし、横幅もミヤビちゃん3人分ぐらいのずんぐりとした体型だけど、意外と動きは早い。
掴んで岩を砕くぐらいだから力もありそうだから接近戦はできるだけ避けたいね。
通ってきた岩山に登って、遠くから魔法で攻撃すればいいんじゃないかと考えたんだけど、ロックゴーレムは段を登ったりしてるので、ここまで来られる可能性がある。
そうなると、近接戦闘するしかなくなるし、場合によっては道を半分以上塞いでる岩山ごと吹き飛ばされそうだからこの戦法は取らない。
というか怖くて取れない。
普通に戦うのが良さそうだね。
一度アザレアを手元に戻して、岩の除去を再開する。
どちらにせよ進むなら退かさないとダメだからね。
アザレアだけで戦うよりもハピネスや鉄の腕を使えた方が勝率は上がるだろうし、何よりも状況が把握しやすい。
同期操作で戦うには目線の高さや人形の性能にもう少し慣れる必要がある。
必死に岩をアイテムバッグに入れること数分。
ようやく僕が通れるぐらいの隙間ができた。
鉄の腕をアイテムバッグに収納し、アザレアを抱えて空洞側に出る。
やっぱり僕の目で見てもとても広いし、天井も高くて鍾乳洞のような突起状のものがいくつも突き出ていた。
今いる場所から1番近いロックゴーレムでも3段は降りないとダメなんだけど、そこまで降りると他のロックゴーレムも近寄ってきそうだから、1段だけ降りて、そこから攻撃しようと思う。
もしも2体以上向かってきたら一旦逃げるつもりだ。
「人形の館。ハピネス来い。繰り糸」
アイテムバッグから鉄の腕とポーションとマナポーションを取り出し、人形の館からハピネスを取り出す。
そして、ハピネスとアザレアと鉄の腕に糸を繋げる。
今回、クローバーはロックゴーレム相手に有効な攻撃手段がないからお留守番。
ハピネスの両手を切り離してアイテムバッグに収納。
ポーションとマナポーションを飲んで採掘場っぽい場所で戦った時の消耗を回復する。
これで準備は整った。
アザレアで手前のロックゴーレムを狙いつつ、鉄の腕を振り回す。
腕とランスで同時攻撃するつもりだけど、練習してないから自信がない。
堅実に1発ずつやるべきかもしれないけど、一気に倒せるなら今後が楽だから試しておきたいんだ。
「ランス!」
右腕に繋がった糸を伸ばしながら炎の槍を放つ。
槍よりも腕の方が早かったので、先に当たったのは鉄の腕だったんだけど……計算外のことが起きた。
鉄の腕が当たったロックゴーレムが吹っ飛んで、下の段に居た別のロックゴーレムに当たり、ロックゴーレムが居なくなったことで炎の槍はそのまま直進した。
炎の槍は別のロックゴーレムに当たらず、だいぶ先で何かに当たった。
モンスターじゃなくて壁に当たってることを祈ろう……。
鉄の腕をぶつけたロックゴーレムのHPは半分近く減ってたけど、吹っ飛ばされたロックゴーレムが当たった方は1割も減ってなかった。
手応え的には2体なら戦えそうだから、逃げずに戦うことにする。
もう一回鉄の腕を当てて、ハピネスかアザレアで攻撃すれば倒せそうだし。
できれば近づかれるまでに1体倒せればいいんだけど……。