人形作成
『武具制作室』を出てゼロワンさんに案内されながら『人形制作室』に向かってるんだけど、ゼロワンさんの後ろ姿からも嬉しそうな気配が漂ってるよ。
いつもより一歩が大きいし、早く連れて行きたいのかな。
「こちらが『人形制作室』になりますが、先ほどの2つの部屋と趣が異なるため注意してください」
「先ほどの2つというと『塗装室』と『武具制作室』ですか?」
「そうです」
どういうことだろう。
人形を作って、武具を持たせて塗装して、性能を評価するって順番だと思ってるんだけど、そうなると人形を作るのがメインだから、失敗作で散らかってるとか?
でも、ゼロワンさんが管理してるって言ってたから散らかしっぱなしは無いと思うんだよね。
メイドさんだし。
ゼロワンさんがドジっ娘属性を持ってたら別だけど、今の所そんな感じはないよね。
「見ていただいたほうが早いので、どうぞ」
ゼロワンさんが扉を開けてくれたので中に入った。
確かに趣は違うね。
『人形制作室』は20畳ほどの部屋で、中央に円卓と12脚の椅子があって、周囲にはガラスのような透明なケースに入れられた、人形のパーツがたくさん飾られていたよ。
腕だけ、足だけだったらまだいいんだけど、キラキラと輝く目玉が20個ほど入り口に向けられていたり、上半身しかない人形が壁に埋め込まれていたり、目は閉じてるんだけど頭だけで入り口のを向いていたりしてる。
完全にホラーだけど、不思議と怖くはないんだよね。
見た瞬間はゾクッとしたけど。
腕や足は宝石なのか色付きガラスなのかわからないけど、透き通っていて綺麗だし、たくさんある目玉も1つとして同じものがない。
壁から出てる上半身も、不気味さよりも下半身がないことで不完全な美しさがあるね。
両腕が後ろに引っ張られるように壁に埋められてるけど、着ている服が白いドレスだから囚われの聖女に見えなくもない。
1体だけなら聖女だったかもしれないけど、複数いるからね。
髪型が違うけど。
こっちを向いてる頭もとても綺麗な髪をしているし、見ようによっては眠りを楽しんでるような表情だ。
他にもトランクケースや衣装なんかが結構な数飾られてるね。
これは武器じゃなくて芸術だよ!
「オキナ様は驚かれないのですね」
「え?あー。入った瞬間は驚きました。ただ、綺麗な作品だったので、魅入ってしまっただけですよ」
一見おどろおどろしい絵でも不思議な魅力があったりもするし、ベクトルは違うけどのパーツもそれに近いと思う。
これを見ると、先代は人形が好きで、作ることが楽しかったのがわかる。
たぶん渾身の出来じゃなかったり、世に出すために作ってないからこそ、こんな感じなったんだと思う。
気分転換に作った物がすごくいい出来になることもあるからね。
むしろ気負わない分いいものが作れたりするするよ。
「あれ?人形を作る道具がありませんけど、どうやって作るんですか?」
この部屋にあるのは円卓とそれを囲む椅子。
ガラスのようなショーケースと、その中にあるパーツや衣装。
壁に埋め込まれた女性の人形ぐらいしかない。
さっきまでの部屋には、それぞれのスキルで使用すると思われる道具や設備があったけど、人形には不要ってこと?
そんなことないと思うんだけど……。
「人形はスキルを使用して作成します。もちろん木工や鋳造、鍛治などでも作成できますが、人形使いには人形作成用のスキルがあるので設備は不要なのです」
「なるほど」
確かに人形を作るだけなら他のスキルでもできるよね。
木を削り出したり、布を縫って綿を詰めたり、鉄なんかを使えば超合金ロボみたいなものも作れるかもしれない。
でも、その方法を使うとしたら生産系スキル成長度0.01倍に引っかかって思うように作れないよね。
「それでは、スキルを使ってパーツを作成していただきたいと思います。こちらにお掛けください」
「わかりました」
ゼロワンさんが円卓の周りにある豪華な椅子の1つを引いてくれたので座る。
大きな円卓だけど、他に誰も座ってないのは寂しいね。
机の上に何もないのもあるけど。
「それでは、スキルを使用してください」
「はい。人形作成」
スキル名を唱えるとウィンドウが4つ表示された。
左にどのパーツを作るか選択する小さなウィンドウ。
中央にキャラクタークリエイトでメイコさんがいたような線が引かれた空間が映し出されたウィンドウ。
右にアイテムバッグのウィンドウ。
そして、3つのウィンドウの前に、大きく人形作成の説明文が書かれたウィンドウが出てきた。
とりあえず説明文を読めもう。
『人形作成の使用方法
・大まかな手順
1.作成物選択ウィンドウで作りたいパーツを作成してください。
初期選択可能パーツは【右腕】のみとなりますが、スキルレベル上昇に伴い左腕、胴体、頭、右脚、左足の順で作成できるパーツが増えます。
また、人型以外のパーツはレシピを入手するか、後述のサイズ調整ウィンドウで自作してください。
自作した形状はレシピに登録することができます。
2.パーツを選択したら中央のサイズ調整ウィンドウでパーツのサイズを調整してください。
デフォルトは全長60cmの人型人形のサイズです。
中央の画面に映るパーツを伸ばしたり、縮めたりすることでサイズを変更できます。
また、人差し指のみ長くするなどの一部分だけ変更することも可能です。
3.サイズが決定したらアイテムバッグから使用する素材を選択してください。
素材を選択すると中央のウィンドウに表示されているパーツが埋まりますので、100%埋まるまで素材を選択してください。
※水などの液体や、砂などの固定されないものを使用する場合、周囲を覆う別素材を選択する必要があります。例:水90%モンスターの皮10%
4.素材選択率が100%になると中央のウィンドウに【作成】ボタンが表示されるので、ボタンを押せば作成されます。
・組み立てについて
アイテムバッグにある作成したパーツを選択すると中央の画面に配置できます。
その場合、組み立てモードになりますので、作成途中のパーツはキャンセルされます。
組み立てモードで、結合部を合わせて決定ボタンを押すと結合され、【右腕・左腕・胴体・頭・右脚・左脚】を結合すると名を刻むことができます。
・修復について
アイテムバッグから名を刻んだ人形を選択することで人形を修復することができます。
修復には選択した人形以上のスキルレベルと、人形を作成するときに使用した素材が必要になります。
以上』
思ったより簡単だった。
パーツと素材を選んで決定するだけだ。
しかも、修復することもできるらしい。
ただ、ハピネス達を修復するにはレベルが足りないけどね。
「オキナ様。問題なく作れそうでしょうか?」
「はい。大丈夫そうなので作ってみますね」
「よろしくお願いします」
左側の作成物選択ウィンドウを操作して右腕を選ぶ……というか右腕しか選べないけど。
右腕以外に【?????】が9個あった。
機巧以外に何かできるようになるんだろうけど想像つかないや。
右腕を選ぶと、真ん中のウィンドウに線だけで構成された右腕のモデルが表示された。
CGでいうワイヤーフレームだね。
僕の絵をベースにCGを作ってもらった時に見せてもらったから知ってるよ。
剣を持てるように僕の腕ぐらいまで大きくして、素材を選ぶ。
選べる素材はさっき貰った木材やインゴットだけでなく、鉄鉱石やモンスターの素材も含まれていたんだけど、その中に肉もあった。
肉でできた人形なんて、完全にモンスターだし、そんな物を操りたくないんだけど……。
見なかったことにしよう。
鉄鉱石を選ぶと個数の選択画面が表示されたので1個ずつ増やしてみた。
すると中央の腕がゴツゴツしつつも徐々に実体化されていき、作成率が増えていった。
そして、その下に消費MPが表示されていて、それも徐々に増えていってる。
試しに別の素材を増やしてみたら、消費MPの増え方が変わったから、作成率じゃなくて使用した素材で変わるみたいだね。
一度全ての素材を戻して、鉄のインゴットで100%になるように選択したら、7本で消費MPが350だった。
1本で50なんだけど、たぶん腕の形に成型するのに消費するんだと思う。
とりあえずこれで作ってみよう。
『作成』ボタンを押すと、中央の画面に映る鉄でできた黒い腕が光って消えて、アイテムバッグに追加されると共にMPが消費された。
これで完成みたいだね。
中央のウィンドウにある終了ボタンを押すと3つのウィンドウが消えたので、アイテムバッグを開いて右腕を取り出してみた。
「重っ!」
ガンッと音を立てて机の上に転がる鉄の腕。
ゼロワンさんはその様子を見ても笑顔のままだったけど、何か言ってほしいよ。