猿雪崩
せっかく同期操作のレベルが上がったけど、残念ながらこの後使う予定はない。
というか、そもそも同期操作の使い方がよくわからないんだけどね。
「ミヤビちゃんのおかげで職業クエストクリアできたよ。スキルレベルも上がったし。ありがとう」
「いえいえ。オキナさんが居なかったら、私は山頂にたどり着くこともできなかったはずです!むしろ、私の方が助かってます!」
「そんなことないと思うけど……じゃあ、お互い様ということで」
「はい!」
ミヤビちゃんはロックワームのことを言ってるんだと思うけど、シロツキに乗れば飛べるんだからショートカットできるよね。
MPを大量に消費するだろうけど、ブレスで戦えば一方的に倒せるだろうし。
1人で茶色い芋虫の相手をするのは難しそうだから、吸血バタフライのクエストは苦戦したかもしれないけど。
「それじゃあ残りのイタズラモンキー20匹。頑張って倒そうか」
「そうですね!」
「クローバーを使う前に、もう少し足場の広いところに行こうか。狭いところに大量に押し寄せたら落とされるかもしれないからね」
「私は飛べますし、オキナさんも糸でどうにかなるんじゃないですか?」
「どうにかできるかもしれないけど、落ちたくはないかな。紐なしバンジーなんて体験したくないよ」
「それはそうですね」
猿に突き落とされて山肌を転げ回るなんて嫌だよ。
岩もゴツゴツしてるからダメージも大きそうだし。
そもそも突き落とされた時点でパニックになるだろうから、糸を出す余裕なんてないよ。
ミヤビちゃんにはシロツキ達がいるけど、飛行するためのスキルを言う余裕はあるのかな。
ない気がするけど指摘しないでおこう。
ミヤビちゃんに言うことなく、山道を登る。
「あ。ここは開けてるね」
「ですね」
しばらく山道を登っていると、少し開けた場所に出た。
もっと上にあるロックワームがたくさん居たところよりも広いから、もしかしたら落とし穴が仕掛けてあるかもしれないけど、探すのも面倒だから、とりあえずとりあえず準備を進めよう。
「人形の館。ハピネス、クローバー来い。繰り糸」
集団戦になるかもしれないのでハピネスも取り出し、両手を切り離してアイテムバッグに回収する。
クローバーには、近場のちょうどいいサイズの石を3個拾わせた。
それ以上は持てそうにないんだよね。
僕の方で持ってもいいんだけど、回復のために走り回らせたら渡すタイミングがないから、最初に来たイタズラモンキーへの牽制程度で考えてる。
もちろん余裕があれば石を拾って撃たせるけど。
「ミヤビちゃんの準備はいい?」
「はい。大丈夫です」
ミヤビちゃんはマナポーションの空き瓶をアイテムバッグに入れるところだった。
僕のMPは半分より少し多い程度だから飲んでた方がいいかな……。
念のため飲んでおこう。
「じゃあやるね」
「はい……。うぅ……クローバーちゃんが怖くなるんですね……」
「そうだね。救済と安らぎの調べ」
「♪〜」
ミヤビちゃんは怖いと言いつつもクローバーを凝視している。
まぁ、気持ちはわかるよ。
機巧名を言ったので、クローバーの目の下から赤く光る線が走り、やがて服にも赤い線が浮かび上がる。
そして響き渡るクローバーの賛美歌。
シロツキとトバリがクローバーをジッと見てるけど、それ以外に変化はない……と思ったら、崖の上からパラパラと小石が落ちて来た。
上を見ると5匹のイタズラモンキーが飛び跳ねながら降りてきていて、その後ろには別のグループがいるみたいだ。
後ろの方はまだまだ崖から現れるので何体かわからないけど、少なくとも10匹はいるね。
「オキナさん!左右からも来ます!」
左右からイタズラモンキーが2頭ずつこっちに向かって来ていた。
登りはまだ行ってないからわかるんだけど、下りの方は生まれたのかな。
あるいは、別の場所から来たのかもしれないね。
上から来るのは範囲攻撃でどうにかするとして、左右はミヤビちゃん達に任せよう。
早めに倒したならシロツキ達に上から援護してもらおう。
「左右は任せる!僕は上から来る方を抑えるよ!」
「わかりました!シロツキちゃん!トバリちゃん!」
シロツキとトバリが左右に分かれ、ミヤビちゃんはイタズラモンキーが降りてきている壁に向けて盾と槍を構える。
左右はシロツキ達に任せて、ミヤビちゃんは僕を守るつもりらしい。
問題ないというより、むしろ心強いね。
シロツキ達からすればイタズラモンキーなんて余裕だろうし。
逆に遊んで長引かせないか心配なぐらいだよ。
「キィー!!」
「きゅー!!」
イタズラモンキーが近づいたシロツキに吠えた瞬間シロツキが飛び掛かり、喉に噛みついた。
そして、地面を蹴った勢いで噛みついたまま回転した。
バキボキとひどい音と共に真っ赤なエフェクトが勢いよく出た後、イタズラモンキーが光になって消えた。
消える前にシロツキが離れたから首が見えたんだけど、外傷はなかったし折れてもいなかった。
音的には折れてるんだけどね。
あんなに勢いのあるエフェクトはマサムネちゃんの攻撃ぐらいだね。
シロツキはもう1匹と睨み合い始めた。
警戒されたみたいだね
トバリは2頭を相手に避けながら爪や尻尾で攻撃していた。
堅実な戦い方だから安心して見てられるけど、そろそろ先頭の第1陣が降り切るところなので、ストームを放っておこう。
「ギィー!!」
「ウキャァッ!!」
「キッ?!」
先頭の5匹は、自ら炎の竜巻に飛び込んでいく。
少し高いところから飛び降りたせいで着地の隙が大きく、竜巻から出ることなく光になって消えた。
ちょっと可哀想な気がしないでもない……。
「オキナさん!いっぱい来ます!」
ミヤビちゃんに促されて後続を見ると、すでに20匹ぐらい押し寄せていたよ。
これ以上呼び込む必要はないから、クローバーを一旦収納するべきかな。
回復する時だけ出せば問題ないはずだし、ダメージによってはポーションでなんとかしよう。
「クローバーしゅもごっ?!」
「オキナさん?!」
口に何か入ってきた。
そのせいで収納が言えなかったよ。
慌てて吐き出すと木の実が出てきた。
降りて来る途中のイタズラモンキーが、頭の上で手を叩いて喜んでるのでそいつの仕業たと思う。
「ランス!!」
ちょっと怒りを込めて放った。
手を叩いて喜んでいたイタズラモンキーは、炎の槍を避けることができず、一撃で倒せたんだけどスッキリしない。
HPも20減ってるから、クリティカルだったのかもしれない。
あるいは口の中で守れないからダメージが大きいだけかもしれないけど。
「オキナさん!まだ増えます!」
さらに上を見ると、追加で12匹降り始めるところだった。
もしかして時間稼ぎだったのかもしれないね。
「クローバー収納!」
腕で口周りを防御しながら言ったんだけど、今度は何も飛んでこなかったので、無事にホラーモードのクローバーを収納できた。
後は上から雪崩のように降りて来るイタズラモンキー21匹を倒すだけだ。
「シロツキちゃん!トバリちゃん!上からお願い!」
「きゅー!」
「キュー!」
いつの間にか左右のイタズラモンキーを倒し終えていたシロツキ達。
ミヤビちゃんの指示で飛び上がり、最後尾のイタズラモンキー達を攻撃し始めた。
そのせいで、攻撃されたイタズラモンキーが前に転がり落ちて、さらに前のイタズラモンキーを巻き込んで落ちて来る。
どんどん転がり落ちる数が増え、突き出た岩にぶつかってエフェクトが発生してHPが減るんだけど、HPバーがどのイタズラモンキーの物なのかわからないぐらいにはひしめき合ってるよ。
「オキナさん。落ちてきたところに竜巻を出してもらってもいいですか?当たらなかったイタズラモンキーにはシロツキちゃんとトバリちゃんにブレスをしてもらいます」
「わかった!ストームは3発撃つね!」
「お願いします!」
ゴロゴロと雪崩のように落ちて来るイタズラモンキーを見て、どの辺に落ちて来るのかを予想する。
そして、その場所にアザレアの杖を向けて準備する。
「ストーム!ストーム!……ストーム!」
塊が2/3と1/3の2つに分かれたので、それぞれ目掛けてストーム放つ。
上には突き出た岩を掴めた奴や、引っかかった奴が4匹いたので、シロツキそこに向かった。
ミヤビちゃんとトバリは2/3の方でストームから逃れたイタズラモンキーを攻撃しに行った。
1/3の方が僕に任せるってことだね。
僕の担当の方には2匹しかいなかったので、1匹にボールを放ち、もう1匹にはハピネスを放った。
ハピネスはボールより早くイタズラモンキーの元に辿り着いたので、容赦無く右手で切り捨てた。
直後もう一匹に炎の玉が当たり、ハピネスの真っ赤な服を炎が照らしたよ。
綺麗だなぁ。
ハピネス手元に引っ張ると、すでに戦闘は終わっていたよ。
上にはシロツキが飛んでるだけで、追加のイタズラモンキーは居ないね。
ミヤビちゃんの方も問題なく倒せたみたいだし、これでクエスト完了だね。
視界の右下にもクエストクリアって流れてるし。
後は街に帰って報告するだけだ。
「ミヤビちゃんお疲れ様」
「はい。すごい数のイタズラモンキーが落ちて来ましたね」
「そうだね。さすがに集まりすぎだよね」
やっぱり、クローバーの賛美歌にはおびき寄せる効果もありそうだよね。
接続した時に流れ込んできた機能説明では『モンスターが寄って来るかも』みたいな感じだったのに、こんな効果なら『寄って来ます』でいいと思う。
レベル上げに使えそうだからいいんだけどね。
アイテムバッグからハピネスの両手を取り出して付ける。
帰りはブラウンラビットとかだからハピネス達はいらない気がするけど、念のためアザレアは持っておこう。
せめて北の鉄鉱山を出るまではね。
「ハピネス収納」
アザレアを抱いて下山だ。
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