アイアンゴーレムは強い
ゴーレム坑道出たところに居たのは、ローブを着た3人組だった。
赤、青、黄の色違いローブを着てるんだけど……戦隊モノにでもなるつもりなのかな。
ミヤビちゃんはシロツキ達を乗せて僕の後ろに隠れつつ、3人を観察していた。
PKプレイヤーじゃないか確認してるみたいだね。
「大丈夫です。問題ないです」
「わかった。でも、念のためゆっくり近くよ?」
「はぃ……」
ミヤビちゃんを後ろに庇いつつ、ゴーレム坑道に近づく。
すると黄色いローブの人がこっちに気づいたみたいで、小さく手を上げた。
無視するのは気がひけるから軽く手を上げて応える。
すると、黄色いローブの人が近づいて来た。
その人は細身のお兄さんだった。
「やぁ。ちょっと聞きたいことがあるんだけどいいかな?」
「はい。なんでしょうか」
「ありがとう。えっとね、この先の森にどんなモンスターが出たか教えて貰えてたりする?」
「別にいいですよ。僕たちはそんなに深く入ってないですけど」
そんなに深く入ってないからすぐにわかるからね。
秘密の場所があるわけでもないし、逆にトレントの樹液や芋虫の糸、吸血バタフライの鱗粉なんかは教えて上げたほうがいいよね。
知らなかったら負けるかもしれないし。
「出てきたのは甘い香りを放つ顔みたいなヒビの入ったトレント、糸を吐いてくる茶色い芋虫、白っぽい鳥、麻痺する鱗粉を持っていて触角がノコギリみたいにギザギザしている吸血バタフライ、灰色の狼ですね」
「状態異常が多そうだねぇ……」
状態異常は糸と麻痺と樹液だね。
樹液は重くなるのは状態異常だけど、モンスターを引き寄せるのも状態異常なのかな。
「糸と麻痺は厄介ですけど、トレントの樹液もなかなかですよ。芋虫と鳥が樹液を吸いに集まってくるんです。しかも、トレントは僕たちにも樹液を吐いてくるので、それを被ったら戦闘後も甘い匂いでモンスターを引き寄せますよ。あと、動きも遅くなります」
「樹液も状態異常なのか……。他には何かあるかな?」
そうなるよね。
僕も樹液って聞いたら食材とか、薬の材料だと思うよ。
樹液を使って攻撃されるイメージがないし。
「そうですね……。ダメージを受けていると吸血バタフライから狙われますね」
「ダメージイコール出血みたいな感じかな?」
「だと思います。HPが減ってない時は狙われなかったんで。これぐらいですね」
「ありがとう。俺にこれをあげるよ」
黄色いローブの人がアイテムバッグから、木皿に入ったカレーとナンを取り出して僕に渡してきた。
カレーは結構深い皿に入っていて、ナンは6枚。
6人分ってこと?
あと、なんで直接渡してきたんだろう。
取引でいい気がするんだけど、カレーの匂いを嗅がせて断りづらくさせるためかな。
だとしたら効果抜群だよ!
「ちょっと作りすぎたから貰ってくれると嬉し」
「わかりました。ありがたく頂きます」
「本当に助かった。またどこかで会ったらよろしくね」
「はい。こちらこそ」
「僕たちは基本的に色のついたローブを着てるからわかりやすいと思うよ。今は居ないけどピンクと緑と白もいるから」
「そうなんですか」
ますます戦隊モノっぽくなるね。
そのうち魔法で背後爆破して、ポーズをとったりしそうだよ。
是非とも見てみたい。
「それじゃあね!レッド!ブルー!行こう!」
「おう!」
「任せろ!」
黄色いローブの人が声をかけると、赤と青のローブの人が近づいて来て、僕の前を通る時にポーズを決めてから森へと入っていった。
動きがキレキレだった……。
そして、遠ざかりながらも聞こえて来る会話は、どんな食材が手に入るのかとか、樹液は食べられるのかみたいな食べ物の話ばかりだった。
僕にモンスターのことを聞いてきたのは、特性だけじゃなくて食材になりそうなモンスターがいるか確認したのかもしれないね。
黄色いローブの人はカレーを作りすぎたと言ってたから、料理系の職業だったのかな。
「か、変わった人たちですね」
「そうだね……」
ちょっといいなと思ったのはミヤビちゃんには内緒だ。
ああいうのはゲーム内だからこそできる楽しみ方だよね。
僕も何かできるかな。
「カレーをどうしようか。今食べる?」
「いえ。今はそんなにお腹が空いてないので、街に戻ってから食べるのはどうでしょうか?」
「そうしようか」
ミヤビちゃんの言う通り、そこまでお腹が空いてないんだよね。
なのでカレーとナンをアイテムバッグに入れ、ゴーレム坑道に入る。
そういえば、黄色いローブの人はアザレアを見ても何も聞いてこなかったけど、ただのアイテムかと思ったのかな。
あるいは勝手に納得しただけかもしれないけどね。
僕なら知らない人に尋ねることはできても、その人が抱えてる人形について聞くことはできないよ。
もしかしたら黄色いローブの人も同じ気持ちになってるのかもしれないけど、そうだとしたらただの痛いやつだよ。
そう思われてないことを祈っておこう。
「戦闘音がしますね」
「だね。アイアンゴーレムと戦ってるのかもね」
ゴーレム坑道進んでいると、前の方から音が聞こえてきた。
金属が何かに弾かれる音や、強い風の音に何かが爆発したような音だった。
もう少し進むとアイアンゴーレムを倒した後に現れた入り口だから、そこから聞こえてるんだね。
僕たちが倒したことで流れたアナウンスから、そんなに経ってないと思うんだけど、たまたま近くにいたのかな。
「おぉ!」
「すごいですね!」
アイアンゴーレムと戦った場所に出れるところまで来た。
すると、アイアンゴーレムと戦ってるパーティとは別に30人ぐらい居た。
アイアンゴーレムと戦ってるパーティを囲むように薄っすらと青い囲みができていて、その周りで観戦してるみたいだ。
テンペストバードと戦った時に現れた囲いの1パーティ版かな。
「あぁ〜。今回もダメだったか」
「全然ダメージが通らないよな」
「貫通スキルを使うと反撃で大ダメージだし」
「魔法も効きがイマイチよ」
「何か戦う方法がありそうだけど、それが何なのかわからないわね」
「HP1本どころか半分減らせればいい方だな」
戦っていたパーティが全滅して、観戦していた人たちが感想を言い合う。
まだ、戦っていたパーティは倒れたままになってるんだけど、誰も回復アイテムを使わないね。
タダじゃないから仕方ないのかな。
魔法で覚えていたら別なんだろうけど。
アイアンゴーレムは倒れてるパーティや、観戦していたパーティには興味がないのか、定位置に戻って鉄鉱石の山になった。
そして、倒されたパーティが光になって消えると、別のパーティが進み出て、アイアンゴーレムだった山に触れる。
すると、鉄鉱石がどんどん積み上がっていき、アイアンゴーレム完成した。
それを合図に戦闘が開始されたんだけど、全員とりあえず攻撃してるだけに見える。
もしかして攻撃を集中させると腕が取れることを知らないのかな。
南側からトンネルを通ってここまで来ただけだと、石の人形と戦うことはないから知らないんだろうね。
HP半分減らせたパーティもいるみたいだから、それ全部腕に集中して入れば落とせてるはずだし。
「腕を狙わないんですね」
「みたいだね」
ミヤビちゃんも気づいてる。
聞かれたら答えるけど、僕たちから教える義理はないからそろそろ行こうかな。
今戦ってる人たちも、貫通攻撃を放って硬直しているところを殴られてる。
そして、即座に飛んで来る回復魔法。
このパーティはダメージを受けること前提に戦ってるみたいだね。
「ミヤビちゃん。もう少し見とく?」
「いえ。大丈夫です。行きましょう」
アイアンゴーレム後にして、トンネルに入って左に進む。
ここを出たら草原に出るはずだから、少し山を登ってイタズラモンキーを倒してから街に帰ろう。
アイアンゴーレムの腕が取れることは、いつか誰かが気づくでしょう。
イエローは☆4職業の「宮廷料理人」です。
坑道の守護者ことアイアンゴーレムは、調理器具の素材になるかもしれませんが、食べれないのでスルーされています。
イエロー達はこの後トレントを倒して樹液を取りつつ、キノコや木の実を集めまくります。