釣太郎さんとの出会い
ナックル達と別れてから草原を歩いてるんだけど、ブラウンラビットに遭遇しない。
居たとしても他の人と戦闘中だったりする。
もしかして見つからないために背の高い草むらに生息してるとか?
僕が歩いてるのは寝転がれば気持ち良さそうな、背の低い草原だから居ないのかもしれない。
ナックルと同じように石を拾って背の高い草むらに投げてみると「きゅっ」って声がして、茶色い耳が立った。
ナックルはスキルで見つけてたんじゃなくて、習性を知ってただけか。
一度外してたし。
「繰り糸!」
草むらから飛び出して来たブラウンラビットに指を向けて糸を放つ。
相手が1匹なら問題なく当てるぐらいには慣れた。
といっても相手が一直線に迫って来るからだけどね。
そう言えば相手が生物だったら抵抗されるはずだけど、今のところ一度も失敗してない。
これはステータスの差なのかな?
相手がもっと強くなれば弾かれたりするかもしれないけど、しばらくは大丈夫そうだね。
とりあえず今繋がってるブラウンラビットを引きずって倒そう。
ナックル達と一緒に戦ってる時にいろいろ試したから、最初の頃よりやりやすくなった。
まず糸だけど、伸ばしたり縮めたりできる。
縮めた状態で素早く振り回して、地面にぶつける時に伸ばすことで、勢いよく地面にぶつけて大ダメージを与えることができた。
一緒に戦ってた3人から言わせると戦い方がエグいらしい。
僕もそう思うけど、武器を持てないし殴るより早いんだから仕方ないじゃん。
「ん?あの人何やってるんだろう」
ブラウンラビットを3匹倒したとところで、草むらに向かって竿を振っている変な人を見つけた。
もしかしてブラウンラビットを釣るつもり?
「よっし!ヒットだ!一本釣り!!!」
草むらで釣りをしている人が叫びながら竿を勢いよく引くと、ブラウンラビットが天高く釣り上げられた。
20mぐらい飛んでる気がするんだけど……。
そして地面に落ちるブラウンラビットと撒き散らされる赤いキラキラとしたエフェクト。
HPバーも砕け散り、ブラウンラビットも光となって消えた。
すごい!
陸上のモンスターを天高く釣り上げて落下ダメージで倒すなんて!
あれなら僕も繰り糸でできるかもしれない。
できれば大ダメージのチャンスだし、やってみる価値はある!
「繰り糸!」
というわけで早速ブラウンラビットを固定した。
ここからが問題なんだよね。
さっきの人は釣竿を勢いよく引っ張ることで釣り上げてたけど、僕の場合は右手の人差し指から糸が出てるんだよ。
離れた状態で勢いよく引っ張ってみても、浮かばなくなった風船が地面を引っ張られる程度の動きしかしない。
ちょっと怖いけど、糸を短くして近づいてみよう。
短かったら上に引っ張りやすいし、引っ張ってすぐに伸ばせばできそうだからね。
ブラウンラビットの前まで来たけど、何の反応もない。
操られた状態だからだと思うけど、それでもモンスターだから緊張する。
「よっ!」
上に引っ張ってブラウンラビットが浮いたら糸を伸ばしてみた。
確かに浮いたんだけど、距離にして3mぐらい?
落ちた時のダメージも1/4しか減ってない。
やり方を工夫しないとダメかな。
「ふっ!」
糸を握りこんで引っ張れば、5mほど飛んだ。
それでもダメージは1/3程度だった。
根本的に力が足りないのかもしれない。
ステータスを上げれば成功するかもしれないけど……。
「君!上に引っ張るのではなく斜めに引っ張ってみたらどうかな?」
「うぇ?!」
ブラウンラビットを倒した後そのまま考えていると、さっきの一本釣りの人が横から声をかけて来た。
服は甚平で、靴は下駄。
右肩に竿をかけて、左手には釣った魚を入れるための草で編んだ籠を持っているスマートなおじさんだった。
「ごめんごめん!驚かせてしまったね。俺は釣太郎、君の名前は?」
「えっと、オキナです」
「ふむ。オキナ君は糸使いか裁縫師だと思う。糸でモンスターの動きを阻害しているからね」
「はぁ……」
違うんだけど別に勘違いされても問題ないし訂正しないでおこう。
それに、職業を言おうとしたらいちいち許可しないとダメだし。
「それで、引っ張り方なんだけど上に引っ張るのではなく斜めに引っ張るといいよ。俺が竿で引っ張ってるのも斜めだから。踏ん張りやすさが違うんだ。
「はぁ。わかりました。とりあえずやってみますね」
「うん。やってみるといい」
釣太郎さんから少し離れてブラウンラビットが居そうな草むらに石を投げること3回目。
ようやくヒットした。
「繰り糸」
一応釣太郎さんに聞こえないように小声で使う。
問題なく付いたのでのけ反るように引っ張ってみると、ブラウンラビットが僕を越えて飛び、地面にぶつかる。
ダメージは1/2で今の所最高ダメージだった。
「もう少し糸をピンと張ってから引っ張るといいぞ。さっきのは少し弛んでいたからな!」
「わかりました」
残りHP半分のブラウンラビットを手早く転がして倒し、次のブラウンラビットを石を投げて誘き寄せた。
「繰り糸」
すかさず糸を繋いで短くする。
小刻みに引っ張って張り具合を確認した後一気に引っ張った。
引っ張られたブラウンラビットはさっきよりも遠くに飛び、残りHPも1/4ぐらいになってた。
ただ、これでも一撃で倒せないんだね。
とどめをさすために地面を転がして倒す。
「どうしたんだいオキナ君。今のはなかなか良かったと思うけど……」
「いえ。釣太郎さんみたいに一撃で倒したいんですが、うまくいかなかったんで」
「なるほど。俺のは【釣り】スキルのおかげだからちょっと難しいな。普通にやって仕留めるには勢いよく岩にぶつけたり、振り回しもありかもしれないね」
「振り回し……やってみます」
振り回すって事はハンマー投げみたいに自分を中心で回すやつ?
それとも鎖分銅みたいな頭上で回す?
思いついたのはこの2つだけど、相手が重かったら前者、軽かったら後者かな。
草むらに石を投げながら振り回し方を考えた結果、ブラウンラビットは軽いので鎖分銅式でやってみることにした。
「繰り糸」
一応小声で唱える。
糸の先にブラウンラビットがくっ付いたので、糸を短くして頭上で回転させる。
徐々に遠心力で回しやすくなり、最終的にはブラウンラビットの形がわからない速度になった。
これぐらいでいいかな。
指を前に振り下ろしながら糸を長くすると、勢いよく地面に叩きつけられたブラウンラビットのHPバーが砕け散った。
「やりました!」
「うん!しっかり見てたよ!すごい勢いだったね!」
嬉しくなってアドバイスをしてくれた釣太郎さんに報告したけど、この人はなんで助言してくれたんだろう。
「あの、何で僕に助言してくれたんですか?」
「ん?純粋な興味だよ。このゲームはスキルの組み合わせで変わった戦い方ができるからね。チラッと見えた戦い方が気になったから近づいたんだ。そうしたら糸使いのように糸を出して戦っているから助言したんだよ。迷惑だった?」
「いえいえ!助かりました!ありがとうございます!」
「こちらこそ。後は布教もあるんだ。スキルスロットに空きがあるなら【釣り】スキルを教えることができるけどどうする?」
「え?スキルって教えることができるんですか?」
「そうだけど……もしかしてチュートリアルを受けてないの?」
「はい。ログインしてすぐ友人と合流したので受けてないです」
「そうなんだ。チュートリアルメッセージが届いてるはずだから、それを開封して受けておくことをお勧めしておくよ」
そういえばずっとメールマークが出てるけど忘れてたな。
パーティを解散した時点で確認しておくべきだったかもしれない。
「メッセージからですね。後で確認しておきます」
「うん。それで【釣り】スキルはどうする?糸でモンスターを釣るぐらいだから好きでしょ?釣り」
「申し訳ないですけど今スキルスロットが埋まってるんですよ。増やすクエストも探してないし…」
それに、釣りはやったことがないから好きでも嫌いでもない。
ただ、スキルスロットが空いてたとしても欲しくはないかな……。
【釣り】スキルを取るくらいなら他のスキルを取ると思う。
「いやいや、無理にとは言わないさ。後、スキルスロットは職業クエストで貰えるから頑張ってみるといいよ」
「職業クエストですか?」
「うん。その辺もチュートリアルで説明してくれるよ」
「わかりました。わざわざありがとうございます」
「声をかけたのはこっちからだからね!ついでにフレンド登録もお願いしていいかな」
「えっと、別にいいですよ」
「ありがとう!」
釣太郎さんからフレンド申請をしてもらい、フレンド登録した。
知り合い以外の初めてのフレンドは釣太郎さんだ。
ミーシャちゃんはノーカンね。
「これからよろしくね!」
「はい。こちらこそよろしくお願いします!」
釣太郎さんはしばらくブラウンラビットを釣るらしい。
僕は街に戻ってチュートリアルを受けることにした。
早く職業クエストを受けたいし。
ステータス(戦闘後)
名前:オキナ
種族:人族
職業:人形使い☆5
Lv:1
HP:84/100
MP:244/500
ST:110/110
STR:10
VIT:10
DEF:10
MDF:100
DEX:300
AGI:10
INT:200
LUK:50
ステータスポイント:残り10
スキル
〔繰り糸Lv:1〕〔人形の館Lv:1〕〔同期操作Lv:1〕〔工房Lv:1〕〔人形作成Lv:1〕〔自動行動Lv:1〕〔能力入力Lv:1〕〔自爆操作Lv:1〕
スキルスロット:空き0
スキルポイント:残り10
職業特性
通常生産系スキル成長度0.01倍
通常魔法使用不可
武器装備不可
重量級防具装備不可